謎の数字が見える男が非日常へ捲き込まれていく話 作:るてにうむ
「……いや、なにがおかしいってんだよ」
「ふむ、そうだな……」
十間は眼鏡をクイ、と上げるいかにもな動作を挟むと、ゆっくりと口を開いた。
「まず第一に話の流れがおかしい。その女の目的がなにかは分からんが、最初からお前が目的だとすれば扉が開いた段階で何かしらのアクションを取るはずだ」
「そりゃ、アレだ……あー、俺のことを見てあまりのイケメンさについ……とか?」
……数秒間の空白が出来る。いたたまれなくなったあたりで、十間は咳払いを挟んだ。
「……まあ、仮にそうだったとしよう。それなら、というかこれまでの実際の事例的に、そういう動機なら大体がその場で異常行動を起こすなんてことはしないだろう。
継続的にその家に尋ねる、待ち伏せ、後を追い個人情報を集める……いくらでも堅実──いや、堅実というのもアレだが……堅実な方法があるはずだ」
「……それは、あまりのイケメンさに我を失って、とか?」
……再び沈黙。いや、言い訳がこれくらいしかないんだ……仕方ないだろ……。
「……聞いた話だと恫喝というよりも、『脅迫』が正しいという認識だが……そのような精神状態のヤツがある意味冷静でないと出来ないであろう『脅迫』という行動を取れると?」
「……うん、まあ……まあ?」
そろそろどうしようもなくなってきた俺を捨て置いて、十間は続ける。
「そして、以上の話を総括して最も不可解なのが恐らく荷物を届ける前には恐らく女にはその
ぴしりと空気が凍った音がした。なんとなく十間が言おうとしていることが理解した故の錯覚。
「……つまり僕が何を言いたいかというだ、当夜。お前が荷物を受け取る、長くても数十秒といった時間で行った行動が相手の気に障った、もしくは看過できないなにかであった可能性が高いということだ」
「いや、まあ……そう、なのか……?」
冷や汗がダラダラと流れているのをひしひしと感じていた。理由は心当たりしかない。それもそうだ、なにせ、今見えている十間の顔に映る数字──82というそれが、今回の宅急便の女の暴走の理由であろうことは明白だったからだ。
そんな俺を一瞥すると、十間はふむ、と呟き、そうして席を立った。
「すまんな、お前を問い詰めるつもりはなかった。気分が許すようだったらまた話そう」
パソコンを片手に、そう言うと十間は踵を返した。カツカツと言う音が騒音の中に消え行く中、俺はやっと意識を取り戻し口を動かす。
「……あ、ああ」
それを耳にした瞬間、十間はゆっくりと一度こちらを振り返り、嫌な優しさを含んだ声でこちらへ声をかけた。
「…………まあ、なんだ、もし出頭するなら早いほうがいいぞ」
そう言い残し、十間は人混みの中へ消えていった。
残された俺は、今度こそ完全に停止した頭で数十秒後に理解した。落ち着こうと息を吸い込む、そして、諦観と共にポツリと呟いた。
「とんでもねえ、勘違い、されてるじゃねえかよ……」