重めの愛でも支えられれば大丈夫   作:泰然

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髪フェチって言うと変態扱いされる。
おかしくない?


4話 アタシはあの頃から、可笑しくなった

春臣side

 

 氷鞠に喉仏を噛まれてから数日、悶々とした日が俺を襲い続けた。あの衝撃的な出来事を、アイツは覚えていない。何とも都合のいい事で、俺だけが恥ずかしい思いをした上にお店の人にも奇異な目に晒される羽目になった。

 

 そして最近、先輩の視線が怖い時がある。社内時計を見ようとした時、凄い視線を感じる為、辺りを見渡すと先輩が鬼の形相で覗いている事が多々ある。

 

 その為プレゼントも、どのタイミングで渡せばいいのかと考えている。ただ単に機嫌が悪いのか、俺が何かしてしまったのか考えてしまう。

 

 その事を考えながら終業時間が迫り、帰る準備をしていると先輩が話しかけてきた。少し長い金髪で目が隠れている為、暗い表情に見える。

 

 どうしたのかと尋ねると、以前休みの日に行った喫茶店で飲まないかと誘われた為、受けると同時にプレゼントを渡す絶好のチャンスだと捉え、勇み足で茶店へと向かった。

 

 喫茶店へ向かう途中、先輩は常に俺の後ろを歩いている。少し視線を落としている為、元気が無いようにも見える。元気付けようと明るい話題を振ったが……。

 

 

 

「って事があったんですよ」

 

「…………」

 

「あの、先輩?……大丈夫ですか?」

 

「…………」

 

 

 

 何を振っても、何を話しても反応は返ってこない。この反応で相当嫌われていると感じたが、では何故喫茶店に誘ったのかが謎。ますます分からずに歩き、何も喋る事も無く喫茶店に着いてしまった。

 

 今日は窓際のテーブル席に座り、ブレンドコーヒーを二人分注文した。コーヒーを待つ間も、一言も発しない先輩に気まずさを覚える。

 

 いつも明るい先輩しか見た事が無い為、どうしたらいいのかと考えている内にコーヒーが運び込まれ、俺は一口飲んで落ち着かせようとした。

 

 グラスをコースターに戻すと同時に、先輩は口を開き、話し始めた。

 

 

 

「ねぇ、やっぱり思い出さない?……アタシと喫茶店に居て……」

 

「いやぁ……う~ん……。すいません、思い出せません」

 

「やっぱり……アタシはその程度の存在なんだね……」

 

「え、どういう……」

 

 

 

 そう言うと先輩は、数年前の事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茅花side

 

 アタシは数年前、人前に出るのが苦手だった。基本的に家族としか連絡は取らず、いつも家にいる事の方が多く、今のようにギャルでは無く黒髪で眼鏡を付けていた。友達も多い方ではないし、これといった趣味もある訳では無い学生だった。

 

 そんなある日、見兼ねた親が知り合いのお店を紹介し、バイトを勧めてきた。最初のアタシは乗り気ではなかった為、無視し続けていたら親に引き摺られながらお店に連れてこられた。

 

 場所は喫茶店、哀愁漂うレトロな感じ。卑屈になっていたアタシは、こんな場所でと思っていた。店内も想像通りのボロボロで、テーブルシートが捲れ上がっていた。

 

 そして強制的に、親はマスターに紹介を済ませ、帰ってしまった。気まずい雰囲気の中、普段は親や兄弟としか話したことが無い為、早くここから抜け出したかった。

 

 そんな事を知らないマスターは、早くも業務を頼んできた。引き摺られてここにやって来たアタシを見ているはずなのに、よくそんな事言えるなあと思いながら、アタシは従う事しか出来ず、そのまま皿やコップを洗う。

 

 最初の一日は洗い物メインで仕事を熟し、終了。『次の日も頑張って』などと言われ、次も来なければいけないのかと面倒に思っていたが、終わってみれば嫌では無かった。

 

 次の日、開店前からのバイトの為、店内の掃除から外の掃除を任された。箒と塵取を持ち、掃除をしていると近所のおばちゃんに挨拶される。

 

 

 

「おはよう~」

 

「あ、お、おはよう、ございます……」

 

 

 

 人見知りの為、たどたどしい挨拶にしかならなかったが、心がすうっと流されたような感じがした。

 

 そして掃除を済ませ、店内に戻るとマスターはニコニコしながらこちらを見ている。最初は何故笑っているのかと思っていたが、気にする間もなく注文の受け答えの仕方を教えられた。

 

 教えられたは良いものの、上手く出来るか不安だった。そして開店時間となり、暫くすると老夫婦が入店する。

 

 マスター曰くここの常連で、朝早くから来るらしい。夫婦から注文を頼まれ、テーブル席に向かう。

 

 

 

「カフェオレを二つ頼めるかな?」

 

「は、はぃ……カフェ、オレ……二つですね」

 

「新人さんかい?頑張ってね」

 

「はぃ……」

 

 

 

 よくこんな使えないアタシに対して、頑張ってねなんて言えると思った。正直、使えないとか、もっと声出せとか言ってくれた方がやりやすい。その方が適当に業務を熟して、適当に終わらせる事が出来る。

 

 なのにここの人達は、頑張ってなどと応援するような言葉しか投げかけてこない。最初から上手く出来た方が、人間関係なんか拗れなくて済むのに。

 

 卑屈に考えながら業務を熟し続け、数か月が経つ頃にはそんな思考をする事は無くなった。今は楽しい、人と触れ合う事がこんな気持ちにさせてくれるんだと感じ、自然に笑う事が多くなっていった。

 

 その為、色んな人に美味しいものを提供してあげたい、奉仕したいという気持ちに変わっていった。コーヒーの淹れ方も教わり、自分が淹れた物が喜びへと昇華していく瞬間が、何よりも嬉しかった。

 

 そんな場所をアタシは徐々に好きになり、お店に愛着が湧いてくる。このお店を好きな人と、その周りの人達を守りたいという気持ちに変わっていった。

 

 そんなある日、一人横暴な客がやってくる。男はコーヒーが不味い、店は汚い、接客態度は悪いと難癖をつけてきた。店内にいる常連さんも困っていた為、アタシは穏便に済ませ、その人には立ち退いてもらう事にした。

 

 

 

「あのお客様。他の方のご迷惑になるので、日を改められては如何ですか?」

 

「今度は帰らせるつもりかよ。冗談じゃねぇ!」

 

「お店だからと言って、好き勝手していい決まりなどありません。店内にいるワンちゃんでさえ、お座りして待っているのに。アナタはその程度も守れないんですか?」

 

「このアマッ!調子に乗りやがってッ!!」

 

 

 

 男は自分の飲み干したティーカップを手に取り、アタシの頭を目掛けて振り下ろそうとしてきた。アタシは思わず叫びをあげ、目を瞑る。

 

 カップが割れる音はしたが、痛くなかった。恐る恐る目を開けると、見知らぬ男性が頭から血を流しながら立っていた。アタシもその光景にびっくりしながらも、庇ってくれた男性に飛び掛かるように容態を聞いた。

 

 

 

「あ、あの、大丈夫ですか!?」

 

「えぇ、大丈夫です。破片で少し切れただけなので……。それに俺もここ好きなので、好き勝手暴れられるの、嫌なんですよね」

 

 

 

 この場所が好きと言ってくれた時、アタシに言われているような気がして胸が高鳴った。この庇ってくれた人こそが、アタシの初恋で一目惚れした唯一の存在、それが春だった。

 

 アタシが惚けていると、殴り掛かってきた男性は追い打ちをかけるように春を押し倒し、顔面を殴りつける。

 

 アタシはその光景を暫く傍観していた。何が起こっているのか分からないのと、コイツは何をしているのかという感情がグルグルとかき回し、アタシは男の頭を床に叩きつけた。

 

 自分でも信じられない力が出た事に驚いたが、無我夢中だった。

 

 

 

「退けろッ!!」

 

 

 

 男性はその一発で気を失い、アタシは倒れた春の頭を優しく自分のお腹に抱き寄せた、人の目など気にする事無く、アタシは自分の我が子のように春の髪を撫でた。

 

 その後はマスターが警察を呼び、その場は収まった。事情聴衆の際も、アタシは春の事ばかり考えていた。

 

 会って話がしたい、一緒の時間を過ごしたい、誰にも邪魔されずに眺めていたい、肌を重ねたいと考えながら次の日の喫茶店に来るだろうと待っていた。

 

 だが、一向に来る気配が無い。そんな思いを募らせ、何年も過ぎていく。遂には学生生活が終わり、社会に出る年齢へとなっていった。

 

 今の会社に就職してアタシの初恋も終わりかと思い始め、その思い出と決別する為に、アタシは髪を金髪に染める。

 

 そしてその数か月後、春がこの会社に入ってきた。ただただ運命を感じた、こんな確率、普通なら有り得ない程。

 

 アタシは直ぐに彼に駆け寄った。覚えているかどうか、ドキドキしながら挨拶を交わす。

 

 

 

「これからよろしくお願いします」

 

「あ……よろ~」

 

 

 

 その時の春は覚えてはいなかった。ショックは大きかったが、これから仲良くなれば、それでいいと思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時は、楽観的に捉えていた。それでデパートで、あんなの目撃したら四の五の言ってられない。

 

 アタシの初恋、アタシの初めてのキス、アタシの大切な場所を守ってくれて好きって言ってくれたあの言葉……。絶対逃がさない……。

 

 

 

「じゃあ、あの時の眼鏡の店員さんは先輩だったんですね」

 

「…………責任、取ってあげる」

 

「へ?」

 

「春が殴られたのは、アタシのせいだから」

 

「いや、そこまでしなくても―――」

 

「ダメッ!」

 

 

 

 咄嗟に出た言葉。彼を逃したくない、誰にも渡したくない、どんな時でも側に居たい。アタシは彼の制止を振り切って、顔を近づけた。春は恥ずかしそうに顔を背けるが、アタシは目を逸らさず見つめた。

 

 やっぱり近くで見てもカッコいい……。このまま、キスしたい……。早くアタシのモノになって、楽になりな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春臣side

 

 落ち込んでると思っていた先輩が、突然昔の話をし出して今詰め寄られてる状況だけど、全然付いて来られない。顔近いから恥ずかしいし、何か目のハイライト消えてて怖いし……。こんなに接近される事が無い為、視線を逸らしながら外の方を見ながら考える。

 

 外に目を向けていると、ふと何か木の陰で何かが揺れている事に気付き、凝視してみる。

 

 よく見るとそこには、瞳孔が開きっぱなしの氷鞠と目が合った。その場で微動だにしない事にも驚きだが、一切瞬きをしない為、怖くて仕方ない。

 

 暫く俺自身も固まっていると、氷鞠がカバンからカメラを取り出し、無表情でシャッターを下ろし始めた。俺は変な汗が吹き出し始め、思わず立ち上がってしまった。

 

 そして連写を続ける氷鞠はカメラをしまい、喫茶店に近付いてくる。無表情のまま入店し、俺達の前に佇んだ。

 

 

 

「何でお前、こんな所に……」

 

「様子が可笑しかったから、後を付けてた」

 

 

 

 俺が驚いていると、先輩は凄まじい形相で氷鞠を睨み付けていた。先輩は立ち上がり、氷鞠に近付きメンチを切り始める。いつもの明るい顔の先輩が、今まで見た事の無い顔で捲し立てる。

 

 

 

「何か用?今アタシ達……大事なお話し中なんだけど……?」

 

「後輩に迫って、何しようとしてたんですか?この写真で、色んな解釈が出来ますけど。無理矢理に迫ったり、パワハラ紛いの事をしてるようにも見えます。こんな写真、社内にばら撒かれたくないですよね?」

 

「別にいいよ、ばら撒いても。ちゃんと説明すれば、誤解なんて解けるし。寧ろ好都合でしょ、実はアタシ達付き合ってましたって説明すれば済む話だし」

 

「そう上手く済めばいいですけどね……」

 

 

 

 二人が正直、何で喧嘩しているのか分からないが、店内で暴れられてもマスターに迷惑をかける為、取り敢えず座ってもらう事にした。

 

 座ったは良いのだが、何で二人共対面で座るの……。圧迫面接みたいで嫌なんだけど……。今渡すべきか分からないけど、取り敢えず忘れる前に渡して置こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷鞠side

 

 あの時、プレゼントの助言をしたのは僕だけど、やっぱりこんな女に渡したくない。喫茶店で、二人が会話してる時に気付いた。こんなに僕、嫉妬深いんだなって。

 

 二人が顔を近づけたくらいで、僕の心臓は痛いくらい跳ねたから。諦めきれないんだ、男だとしても……。

 

 だから、男をやめたんだ。そうしないと彼と繋がれないから、満たされないから、彼への愛を表現したいから。

 

 昔の言葉が僕の人生を変えたんだ。

 

 そして考えていると、春臣がおもむろにプレゼントを取り出し、僕がチョイスしたダイヤモンド型のジュースグラスとお酒。それを先輩に手渡すと、彼女の表情はみるみる柔らかくなっていった。

 

 

 

「これ……貰っていいの?」

 

「はい、そのつもりで選んだので。気に入るといいんですけど……」

 

「ううん、大事にする。ありがと……」

 

 

 

 あぁ……何でプレゼントなんて考えたんだろう。春臣とデート出来ると思って舞い上がった結果、こんな結末……。何で真剣にプレゼントなんか選んだんだろう……メリットなんて無いのに。

 

 何か、どうでもよくなってきたなぁ……。あぁ……壊したいなぁ、あのグラス。でも壊したら、嫌われるだろうなぁ……。

 

 自暴自棄に陥っていた僕は、遠目で外を眺めていると春臣からお礼を言われた。

 

 

 

「ありがとう、氷鞠。お陰で助かったよ」

 

「あ……うん……///」

 

 

 

 春臣の言葉で救われたように感じた僕の心は、少し温かさを取り戻した。そしてその後は、喧嘩する事も無く別れ、各々家へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茅花side

 

 春からプレゼント渡されたアタシは、早速グラスに日本酒を注ぎ、飲み始める。感想はのど越しがスッキリで柔らかい味わいの為、あっと言う間に無くなりそうな感じ。

 

 そしてこの夜は喜びの余り、酔いが早く回ってきてしまい、泥酔状態にまでなった。その状態でアタシは、延々と春への愛情が溢れて止まらなかった。

 

 

 

「あぁ……マジで春、最高じゃん。可愛すぎでしょ、これ~。あぁ……マジで酔い回ってきた……。マジで春しゅきピ、マジ尊い~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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