書けました。100話目がまさかコレになるとは思ってませんでした。
『私はジェントル・クリミナル、いわゆる犯罪行為と言われる動画をサイトにアップする男』
「何を再生してんだ出久?」
文化祭の出し物も無事に決まりくつろぎだしていたら、飯田君が参考にと流していた動画の中に気になるタイトルがあった。とりあえずパソコンを繋いで一階のモニターで見れるようにしたけど、なんだコレ?
「気になる動画があってね、なんかおじさんが迷惑系動画投稿ヴィランと戦うみたい」
「戦う?処刑だろソレ。つーかなんだその珍妙なヴィラン。それに迷惑系動画投稿者のヴィラン認定は国会で議論中だろうが」
「個性を使用したら一発でヴィランなんだけど、そもそも個性使用規定そのものが緩いとこあるしね。まあ身体能力の一つを完全に使用しないで生活するのは無理あるよね(世代的に現在の国の上層部は割と無個性ばかりなので感覚が実感出来づらくて規定が難しいらしい)」
「くしゃみ感覚で発動するしな個性」
「クシュッ(コロンッ)」
「ヤオモモがくしゃみしたら身体からマトリョーシカが飛び出たぁ?!」
「意識しないでマトリョーシカ生成出来るのか」
「俺もゲーム中に熱くなって個性発動したこととかあるなあ」
「いや上鳴だとゲーム機オシャカになるだろ」
「それ以来そのダチと家で遊んでねえわ」
「ゲーム機本体を殺られたらそうなるわな」
「僕のお父さんも火を吹く個性だからお酒とか駄目だしね」
「発動系個性あるあるだな」
一般的に動物のような特徴持つ異形系や身体の一部が変質し独自の器官を持つ異形系よりも、肉体的な特徴が無く個性を発動できるタイプの個性が一番制御が難しいといわれている。個性暴走事件の大半がこのタイプなことから明らかだろう。
『だが待っていただきたい、何も無作為に罪を犯すわけではない。例えば前のコンビニ強盗Jス「早送り早送りっと」』
動画を再生したけどなんか独白な格好の人が自分語りしてるだけなので、おじさんが出るシーンまで早送りしよう。コンビニ強盗したとか言ってるからヴィランみたいだし。
「動画見てやれよ」
かっちゃんはそう言うけど。
「犯罪者の独白とか興味ないし」
グランバハマルでも襲いかかってくる連中とかと言葉が通じた試しがないしね。敵対者の事情やら心情はスルーが基本だ。
「鬼かテメエ」
自分でもこんな割り切っている所がヒーローらしくないとか思ってたりする。けどね、
「いや皆も興味なさそうじゃん「ウノッ!」ウノしてるし」
最初は見てた皆もおじさんが出ないからか、すぐにモニターから目を離してウノをはじめていた。
「待てやコラ、誘えよオイ」
かっちゃんはきちんと画面を見ていたから誘われなかったね。
『〜ろう。そう私は紳士的ではない者に制裁を与える現代の義賊なのだ』
「いやヴィランだろ」
「ヴィランだよね」
「おじさんまだー?」
義賊とか言われてもなあ、それで誰かが救われたり喜んでるわけじゃないし。こういうのを見てスカッとするとかそういうのかな?
『だが今日もまた紳士的に制裁を与え帰路につこうとした所、その人物は現れたのだ』
犯罪を犯しておいて堂々と歩くジェントル、けれどその前に立ちふさがる一人の男がいた。
『何者かね?』
パーカーを着た男性は眼鏡に光を反射しながら真剣な表情で言う。
『ただのおじさんだよ、動画投稿者のね』
「「「「ソレガチでただのおじさんじゃねーかっ!!」」」」
皆のツッコミが響き渡る。うん、異世界帰りって言わないんだねおじさん。
『同業者かね?なんだいもしやコラボ企画のお誘いかい?』
コラボ企画て。
『そんなんじゃないよ。ただ言いたいことがあるだけさ』
あ、おじさんがシリアス顔だ。
『ほう?』
『犯罪行為の動画投稿なんてやめるんだっ!!そんなことしたら動画投稿そのものが悪く思われちゃうだろっ!!』
普通に注意だ。
実際にそれで規制とか厳しくなってるらしいしね。おじさんはバイトもあるけど収入に響くだろうし。
「言ってることは尤もだが、こんなキャラだったかこの人?」
「注意より先に手が出る人だよな?」
クラスの皆のおじさんの印象が気になるけど確かにらしくないなあ。注意するくらいならヒーロー呼ぶだろうし、知らない人に注意するなら話す時にどもるよね。もしかしてこの動画って編集されてる?
『ふ、それに関しては申し訳無いと思うよ。ゴメンナサイ』
「「「普通に謝っとる」」」
しかも九十度で頭下げた。
『謝るくらいなら止めるんだ!!』
だよね。
『だがっ!!それでも退けぬ、止めぬっ!!何故なら私は救世たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル!!』
『俺はウルフガンブラッド!!お前を止める者だ!!』
「「「嘘つけーっ!!」」」
「「「名前負けすげーっ!!」」」
「「「なぜ偽名?」」」
「知らない人に本名を言わないでしょ、普通」
グランバハマルだといつもそうしていたなあ。こっちだと警察やヒーローに聞かれたら健康保険証やら無個性証明カードとか見せてるよ。
『フ、雄々しくも猛々しい良き名だ。だがその名に恥じぬ実力が果たして君にあるかな?』
『確かめてみるか?』
その言葉とともにおじさんは右手に光剣を顕現してから振る。普通に格好良いなアレ。
あ、画面にテロップだ。何々、異世界おじさんは使用許可を得てから個性を使用しています?
やっぱり編集されてるよコレ。
『始めよう戦いを。そう、相反する意思のぶつかり合いっ!!光と闇の決戦をっ!!』
いや注意された迷惑系動画投稿者が逆上して襲いかかってるだけだから。
光、一般の動画投稿者。
闇、迷惑系動画投稿者。
ってことなのかな?
「結果見えてるだろ?」
「たこ焼きの中にたこが入ってるくらい明白だな」
「アップルパイの中にはりんごが入ってるけど、ペチャパイの中には何が入ってんだろうな?」
「可能性という名の獣でしょ」
「ミネタコロス」
「緑谷ちゃんも何を言っているのかしら」
峰田君がとある女子(本人の名誉のため誰かは伏せる)に処されている中、画面は進む。
戦闘ははじまり、光剣を構えて突っ込むおじさんをジェントル・クリミナルは空気に弾性を付与することで迎撃。加速しながら突っ込んだおじさんはグイイと空気の膜を勢いよく押し込み弾性によって逆方向に吹き飛ぶ。
『ジェントリーバウンド。見かけによらず凄まじいスピードだね』
「妙じゃねえか出久?」
「うん、空気の膜くらいなら弾性が付与されても光剣で斬れる筈なんだけど」
あの個性なら何人ものヒーローを返り討ちにしてきたのは納得だけどね。徒手空拳を相手取るには有利な個性だと思う。特にこの国のヒーローは基本武装をしない、それはトップヒーローだったオールマイトが無手だったのもあるけど、刃物類はそういった個性でもない限り装備すら避ける傾向にあるから。
「かなり動けるし、やるねこの人」
「なんでヒーローじゃないんだろ?」
動画の中で繰り広げられる戦い。
空気だけで無く道路や壁にも弾性を付与し、弾んだ勢いで高速機動しステッキにて殴りかかるジェントル・クリミナル。予測困難な機動とそれを活かせる体捌きは大したもの。弾性は付与しても重量が変わらないなら厄介だしね。でも、
『ジェントリートランポリン』
『光剣よ、切り裂け!!』
おじさんは襲いかかるジェントルに対して光剣を振るも空振り続けている。
「おじさんが苦戦するには実力が足りてない、筈なんだけどね」
弱くはないけどアレならウチのクラスメイトでも勝てるくらいだろうに。やっぱりコレって演出かな。おじさんを知らなければ激戦に見えるだろうけど。
『諦めたまえ、その刃が私に届くことはありえないよ』
『諦めない、諦めるものか。それがセガユーザーなんだ!!』
セガユーザー関係無いよね、いやあの難易度のソフトをクリアできるのは諦めないからだろうけど。
『セガユーザーか、フ。よもや過去がこうして追いかけてくるとはね』
『お前、まさか』
『何、昔のことさ。そう、ヒーローになって教科書に載るくらい偉大な人になるという夢と共に捨ててしまったモノだ』
『そんな、なんで』
『抱えていては生きられぬのだよ。挫折し大人になってしまうとね』
『そんなことは無いっ!!いつだって、いくつになっても夢(セガ)は輝いているだろう!!』
『その輝きが己を焼くのだっ!!我が身を打ちのめしてくる現実と共にっ!!』
『お前は人に言われてやるハードを決める一般大衆だというのかっ!!』
「あのさ」
「うん」
「熱い想いをぶつけあってるみたいだけど、セガを挟むからなんか冷静になるんだけど」
「おじさんだからね」
このシュール感こそおじさんだよね。
しかし聞いてるとこのジェントルという人も色々あったんだろうと伝わってくるね。挫折かあ、ヒーローになれなかったのかな?
激戦は続く、しかし一方的に押されていた筈のおじさんは徐々にジェントルの動きに対応出来るようになっていった。これがおじさんの一番厄介な所なんだよね。駄目だったら次のやり方を試す、ゾンビアタックを躊躇わないその精神性が。勝ち目が無いと思うような存在を前にしても必ず攻略法はあるのだと勝つまで挑み続ける。
『クッ!!』
だからこうして、必ず勝つ。
『光剣よ、今こそ断ち切れ!!』
一閃。
おじさんは届かないと言われたその刃をジェントル・クリミナルへと到達させたのだ。
いや普通に当てられる筈なんだけどなあ。
『負けた、か』
『なんでこんなコトをしていたんだ?』
仰向けに倒れるジェントルと横に立つおじさん。どこか納得したようなジェントルと悲しげなおじさん。
『この世に何も残せずに消えることが堪えられなかった。有象無象として埋もれて死ぬことが嫌だったのだ』
『理解できないよ。好きなコトをやれたらそれだけで幸せだろうに』
『君だって動画投稿をするなら分かるだろう、あの誰かに知られているという喜びは』
『それは、分かるかな』
おじさんてかなりプロ意識ある人だからね。
『しかし強いな君は』
『諦めないで何度も頑張って工夫したからな』
『私に足りなかったものはそれかな?だから最後までエイリアンソルジャーをクリア出来なかったんだろうね』
『6年だ』
『?』
『青春を賭けたから俺はエイリアンソルジャーのスーパーハードをクリア出来たんだよ』
改めて聞くと凄い話だよな。見ている皆もドン引きしてるし。
『それが君の強さか』
ジェントル・クリミナルはそう言って満足そうに笑うのだった。
『この世に何も残せずに、と言ったよな。残ったよ俺の中に、道は間違えたけど足掻いた一人の同胞の存在がいたってさ』
『ありがとう。義賊の紳士ジェントル・クリミナルは今日をもって終わりとしよう、罪を償ってから再び夢を追いかけたくなった。そしてコントローラーを握りたくなったよ』
『帰ってくる日を待っているよ』
『こうして五年という長き時を動画界のヴィランとして活躍してきた私はその活動に幕を閉じるのであった。だがいつの日か私は帰ってくる、かつての夢を果たすために』
夕日を背景に流れる音楽、涙を流して見送るおじさんと手錠をかけられパトカーに乗りこむジェントル・クリミナル(そして連行するのは塚内さん)。
いやこれ動画として流して良いのかな?
「うん」
「いやなんというか」
「なんだったんだろうなコレ」
まあ面白いっちゃ面白いけど。
「ヴィランの引退表明みたいなもんか?」
「そんな感じかな」
相棒であるラブラバという人が居ないのは気になるな、こんな動画を流したから自首してヴィランを辞めたのは間違いないだろうけど。ナニカあるかもね、多分おじさん絡みの。詳しくは後で塚内さんとかに聞いて見ようか。
「じゃあ時間も時間だし、もう解散しよう」
「そうだな」
「意外と面白かったしな」
こうしてその日は終わった、無駄にインパクトを残して。
色々気になることはあったけど、それを楽しめる日常が尊いのだと僕は思う。
だから今は決まった文化祭の出し物をきちんとした完成させることに集中しよう。
しかし、僕達は後日意外な所でおじさんとジェントル・クリミナルが本当はどんな形で関わったのか知ることになる。
補足(ネタバレ)
この動画はかなり編集されていて実際にあったこととは異なります。
ラブラバは諸事情(司法取引)もありカットされました。
おじさんとジェントルとの遭遇はかなり違う形です(大差ないですが)。
ジェントル・クリミナルはセガ挫折ユーザーです。というかゲームってクリア出来るだけで凄いと作者は思ってます(ロープレの周回要素があったからクリア出来るようになりました)。
何があったかは後日明らかにします。とりあえず文化祭ではジェントル・クリミナルが襲撃してこないとだけ。