その背中は果てしなく遠かった。
中肉中背、ヒーロー溢れる個性社会には目立つことのない普通の体型。
赤いマフラーをはためかせた彼は空の遥か向こう夜空の先を見据えていた。
求めているのは何か。
帰りたい場所はどこか。
十七年、漢字では三文字のその年月があまりにも重い。
この残酷な異世界で、この世界なりの幸せを追い求めることを一切せず、ぶれることなく故郷を思う。
それが一体どれだけ大変なことなのだろう。
あれだけ、おっかなくて恐ろしく怖くてヤバいエルフさんにストーカーされ、優しくて美しくて尊くて素晴らしいアリシアさんと親しく、ダメ人間なメイベルとの関わりがあっても、おじさんは揺るがない。
おじさん、貴方は今何を思ってますか。
(セ○サターンしてえめっちゃしてえ早く帰りたいゲームハード戦争どうなったかなド○ームキャスト買いたいなマジメ○ドライブやりてえエ○リアンソルジャーゴール○ンアックスぷよ○よガーディ○ンヒーローズ)
これは異世界での夜の一幕。
草陰に潜んでおじさんを見つめるエルフさんの瞳が光ってて超怖かった。
3月。
僕はなんか色々あった折寺中学校を無事卒業し、雄英高校入学までの準備期間をのんびりと過ごしていた。
地方や遠方、留学生の人はこの期間に一人暮らしの準備や引っ越しで大忙しなんだけど、通学圏内に住む僕はそれほど忙しくはない。
オールマイトとの訓練も、雄英高校新任教師としての準備があるため休止中。
グラントリノは通うには遠いし、サー・ナイトアイも3月は忙しいらしい。
なので暇潰しに手書きで呪符を作成していたら、おじさんの捜索を頼んでいた塚内さんから連絡が来た。無事おじさんが見つかり接触に成功したとのことだった。
おじさんの予定に合わせて会う日取りを決めて、その日は電話を切った。
後日某所にて塚内さんに連れられたおじさんと無事に会うことができた。
現在、おじさんは病院に来てくれた甥っ子さんと暮らしているらしい。
その甥っ子である敬文さんに提案された動画投稿で異世界魔法をネタに広告収入を得ているそうだ。
この個性社会、公共の場にて無許可での個性使用は許されていない(とはいえ人に害が無ければ基本スルーされているが)。つまり私有地、自宅では問題無く使用できるのだ。
そしてネット内で個性を使用する演出や発表は大人気な動画なのだ。
無論、物を壊すなど過激なモノは眉をしかめられ、批判されヴィラン扱いされてしまう。
だがそうで無ければヒーロー活動の野次馬よりお手軽な娯楽として楽しまれている。
国の調査でも、この動画投稿が流行ってからヴィラン発生件数はやや減少したそうだ。個性を使えない不満が解消され、お気に入り数で顕示欲が満たされ、広告料で収入を得ることができるからだとか。
広告収入でセガサターンやメガドライブも買えて満足だよ、と本当に幸せそうだ。
そういえば異世界でおじさんが言っていた、どうしても知りたいセ○サターンソフト読者レースの結果はどうだったんだろうか?尋ねようかと思ったが嫌な予感がしたから止めた。異世界の教訓の一つ、嫌な予感は素直に従え、だ。
また収入はそれだけでは無く、塚内さんの提案で警察の捜査協力のアルバイトをしているとのこと。確かに記憶再生の魔法は真実究明にはうってつけだ(僕に提案しなかったのは未成年だからと配慮してくれたからだろう)。塚内さんもおじさんとの友人関係を楽しんでいるらしく、オールマイトの後始末の疲れが吹っ飛ぶよと嬉しそうに言っていた。うん、書類仕事苦手とか言ってましたからね本人。ならサー・ナイトアイとのサイドキック関係を解消するなよと言いたいが。
そんなおじさんの現状を聞いた所で僕の現状を説明した。僕の事故により起きたこと、オールマイトとの関係、個性を受け継いだこと、オールマイトが戦い続けた巨悪の存在。
正直巻き込みたくは無いのだが、異世界でのおじさんのトラブルホイホイな体質を考えたら事前に話すべきだと判断した。でなければ下手したら都市ごとヴィランを殲滅しかねないのがおじさんだからだ。
ある程度説明しておけばこちらに連絡してくれて、トラブルがあっても建物一つの被害に落ち着くとは思う。これは僕の記憶を見せた大人達も納得してくれて、今回の情報開示が許されたのだ。
けどおじさん、なら倒しに行く?とナイフを構えないで。異世界からの帰還という不可能を成し遂げたおじさんなら、いるか分からないオールフォーワンの残党を突き止めて殲滅くらい普通にできそうで怖い。
こんな感じでおじさんとの再会は終わった。
別れ際におじさんの住所を教えてくれた。
敬文さんが僕に会いたがっているらしいし、約束のセ○を一緒にプレイすることもしたいからだそうだ。
僕としても是非行ってみたい。
雄英高校に入学してからは忙しくなるのでその前に一度行こうと心に決めた。
おじさん、貴方は望み続けた場所に辿り着くことができましたか?
あの日見た遠かった背中は、今は追いつけそうなくらい身近に感じることができていた。