おじさんサイドです。
「そういえば出久君の転移ボーナスってなんだったんだろうね」
某市某アパート。
そこには最近警察のアルバイトで事件解決に貢献している異世界帰りのおじさんと、将来のため資格勉強をはじめた青年が生息している。
「出久君の?凍神剣みたいなアイテムは持って無かったけど」
自身のボーナスとて異世界から帰還してはじめて気づいたおじさんに思い当たるモノはない。ならば自分同様に能力かも知れない。
「本人もわかってないなら記憶再生で見るしかないかな?」
「多分それが確実だと思うな。ちょっと呼んでみる?」
「うん、害はないだろうけど把握はしといた方が良いだろうし」
それもそうかとおじさんは頷き、取り出したスマホで連絡する。元々は通話もできないガラケーをデザインが気に入ったから使っていたのだが、アルバイトの関係で必要になったので塚内警部が用意してくれたのだ。電話に出た緑谷出久に休日に来ないかと誘えば即座に了承された、ただ一人同級生を連れて行っても良いかと尋ねられたのでおじさんと敬文は頷いた。異世界の件にしても連れてくる相手なら問題はないと判断したのだ。
数日後、休日。
緑谷出久が塩崎茨を連れて大荷物を抱えながら訪れた。大荷物の中身は緑谷出久の母お手製のお総菜。男性二人暮らしと聞いた彼女は、異世界でのお礼も兼ねて大量に持たせたのだ。
「いやーありがたいね敬文」
「うん、やっぱり男所帯だとレトルトばかりになっちゃうからね」
思わぬ家庭の味到来に男二人は大喜び。
特にこの二人は一家離散(おじさんは忘れているが)しているため、そうそうありつけるものではないのだ。
「私も今度持ってくるわ」
その事情を知る藤宮さんは顔を引き攣らせながらそう言った。普段は気にしてないように見えるが、時折こういった闇の深さを垣間見せるのだ。
「それでおじさん、こちらが雄英高校で同級生の塩崎茨さん」
「はじめまして、勇者様の従者である塩崎茨と申します」
出久が連れてきた茨の髪をした少女を紹介すると、おじさんはしっかりとした態度で名乗る。
「ドモドモ、チャンネル異世界おじさんのおじさんデース」
それが正式な名乗りなのかと横で聞く藤宮さんは呆れ果てる。動画投稿にプロ意識を見せることは多々あったがここまでとは。
「申し訳ありません、存じておりません」
そして塩崎さんは動画サイトを見ないタイプで名乗ってもわからなかったようだ。
♪ ゲームオーバー的な音が流れた時のようにショックを受けるおじさんの姿がそこにはあった。
「(ところで出久君、勇者様って?)」
そしてその裏でこっそりと話す、出久と敬文。
「(入試の時に魔法とか使ったら勇者認定されちゃって、信心深いタイプだから)」
「(ああ稀にいるよね、個性を神の導きって捉える人達)」
「(常に側に控えようとするからもう異世界の事を隠すのも限界なんで、これを期に伝えようかと)」
「(いいの?それがきっかけであんな綺麗な娘と別れることになるかもよ?)」
「(付き合ってるわけじゃないですって。一緒に居て不快じゃないですが、それで離れるなら仕方ないかと)」
おじさんが自身の動画を塩崎さんに見せてる中でヒソヒソと話す二人。
異世界の件を話すにはリスクがある、だがここまで親しくなって隠しておくのも出久の心情的にしんどかったのだ。
「ところでどうして今日は呼ばれたんですか?」
おじさんから電話で言われたのは休日にこれないかどうかだった。どんな誘いでも断る気のない出久はそのまま了承し、その目的を聞いてないのだ。
「ああ、先日おじさんの転移してすぐにあった事を見てね」
「アレかー」
出久も異世界で見せてもらった事のある記憶。オーク扱い、リンチ、タワシ、牢屋、の織り成すエグい出来事だった。それを見たから自分は大分マシだったと思えたのだ。
「その時におじさんの転移ボーナスが判明してね、出久君のはなんだろうって?」
「転移ボーナス?凍神剣みたいなアレですか?確か煉獄の湯の創業者も持ってたヤツ」
そこまで言い、ヒーローオタクで個性分析が趣味の出久は気づく。
「もしかしておじさんの精霊や魔物と会話できたのって個性じゃなかったんですか?」
「出久君は個性認識だったんだ」
「無個性だって言ったでしょ」
「特定条件で発動するタイプだと思ったんだね、こっちには魔獣もいないし精霊は認識できないから」
条件を満たさないと発動しない個性も稀にある。
病院にて正確な診断ができないあの状況では出久がそう思うのは無理がなかった。また年齢の問題もあった、おじさん世代ではまだ細かく診断できないのではという認識もあったのだ。
「けどそんなのありますかね?何か得た感覚とか無いですけど」
「だよねー、俺もセガで培われた応用力が開花したのかと思ってたよ」
「ないから」
「ゲームへの揺るぎない信頼」
「あの、先程からお話がよく」
異世界へ転移した直後の出来事を話すと、まだ説明されていない塩崎さんが疑問の声をあげる。
「そうだね、じゃあ見せようか僕に何があったのか。僕の力は勇者じゃないことをね」
『記憶再生ー(イキュラス エルラン)』
『来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!!』
「あ、戻りすぎた」
再生した光景は少々戻りすぎたようだ。とはいえこの後から緑谷出久の人生は激変したのだと本人は少し懐かしい気分になる。そう、思えば爆豪勝己も別人レベルで変わったものだ。
「今無個性ってこんな事言われんの?」
「これ自殺教唆じゃ」
「酷いって」
「なんたる暴言」
見ていた四人は憤慨する塩崎さんを除き、ドン引きすらしていたが。
「んで、この後ヘドロヴィランに襲われてオールマイトとアレコレあって、かっちゃんが乗っ取られてたのを助けようとしてオールマイトがなんとかしてくれて、ヒーローに説教されてかっちゃんに捨て台詞吐かれて、洸太君を庇ってトラックに轢かれて異世界へと」
「ハードスケジュールな一日だな。俺はお年玉でゲーム買いにいくぞーって最高にハッピーな行きがけだったけど」
「胸焼けしそうな一日だなオイ」
「そしてまだ碌でもない異世界からの出来事が残ってるっていうね」
「なんて酷い」
そして異世界へ、おじさんの時のように深い森の中で神聖魔法の人生蘇生に似た肉体の構築をされ目覚める。焚き火をしていた冒険者達に声をかけるも当然通じずその容姿からトレント扱いされ追い掛け回された。
必死に逃げ惑うも土地勘無き森の中でプロの冒険者から逃げることなど出来ずに散々殴打され、剣を抜かれ始末されそうになる。
「アレは痛かったなあ。かっちゃんの苛めとか所詮子供の遊びだったとよく分かったよ。まあ理解したの死ぬ寸前だけど」
((改めて重い、こっちの生活もだけど))
「えっとおじさんの時はこのタイミングだったけど、神の声」
「リージョンコード間違えてる適当なヤツな」
おじさんの時の再生音声はまだ聞こえない、だがこのままだと始末されそうなのだが。
「ここで颯爽とおじさんが現れてね」
剣が振り下ろされる瞬間、空から赤い布をはためかせ降り立つおじさん。正にその姿はヒーローだった。
「なるほど出久君がおじさんを慕うわけだね」
「普通にヒーローだ」
「天より降り立った神の使者」
光剣にて冒険者を蹴散らしたおじさんは出久へと顔を向け、
『レアなトレントか、狩ればイベント発生するか?』
「「なんでだよっ!!」」
その刃を突き立てた。
「痛かったなあアレも」
「あの時はマジゴメンね」
「おじさんも手がかり探すの必死でしたからね」
緑谷出久の額に残る縦一本傷。
それをつけたのは他ならぬおじさんであった。
「それでこの後荷物から異世界人だと判明して、幸い額を斬った程度だから呪符で慌てて治療して事なきを得たんですよね。ショックで気絶してましたけど」
「いやー本当にパニクったよあの時は」
「こんな事されてよくおじさんについていけたよね」
「なんで今慕えてるんだ」
「「異世界だと比較的マシな出来事だから」」
と異世界コンビは声を揃えていった。
「驚いて流れたけど、このタイミングで流れてたよ神の声」
「内容も一緒だね、リージョンコードも間違えたままだし。出久君何を望んだの?」
「えっと、確かこんな風に力を振るうヒーローに成りたかった。ですかね?」
「あ、翻訳されてる。変身魔法はこの世界にあるので、物事を習得しやすくするから後は自分で頑張んなさい(笑)だって」
翻訳アプリに表示された神の言葉はあんまりな内容だったが。
「だから魔法とかスキル覚えやすいのか(あとワンフォーオールも)」
「異世界語とかも数日で使えてたしね、てっきり純粋な知力のおかげかと」
「いや酷いからコレ」
「本当にやる気ないなー」
緑谷出久の転移ボーナスは物事を習得しやすいこと、おじさんという庇護者が居なければ確実に死んでいただろう。
そんなすっかり慣れた諦感に出久が浸っていると、後ろからギュッと抱きしめられた。
涙を流す塩崎茨が出久を慈しむように抱きしめていたのだ。
「大丈夫だよ、もう。それに辛かったけど得たモノだってココにあるから」
苦しかったし、辛かった。けれど緑谷出久は今ここにあるモノが無くなってまでこの過去を無くしたいとは欠片も思いはしないのだ。
「分かったろ塩崎さん、僕は勇者なんかじゃないんだ」
歪な関係を終わらせようと出久は言う。
だが彼女は首を振り、
「勇者様です。こんな経験をしても誰かを救おうとする貴方は、勇者様なんです」
自分の勇者だとそう言った。
「そっか、なら勇者でいるのも悪くないかもね」
その重なり合う二人の姿を年上三人はこそばゆいような微笑ましいような気分で見ていた。
出久君の転移ボーナスを知りたいという思いつきは、思わぬところで若い二人の絆を深めるきっかけとなったようだ。落ち着いた塩崎さんは出久君から離れると藤宮に連れられて隣室で女性だけの話をしたみたいだ。
おじさんと出久君のファーストコンタクトは、今の関係から信じられないくらい酷かった。これで慕うようになるのだから異世界はどれだけ地獄なのだろう。
皆が帰ったあとおじさんと二人で食べたお総菜は、もう有りはしない家庭の味を思い出してちょっとしょっぱかった。