今回視点が変わったりします。
あと心操人使君と峰田実君ファンは閲覧注意。
雄英高校襲撃事件。
オールマイト台頭以降最大規模のヴィラン集団による襲撃事件は、プロヒーローである二人の教師と才気溢れるヒーローの卵達の尽力により幕を下ろした。
生徒に負傷者は無し、重傷であった教師達も緑谷出久の神聖魔法により無事完治。
今回の事件、主なヴィランを単独で撃退した緑谷出久の実力に同級生達は感謝と羨望の目を向けていた。
だが当の本人、緑谷出久は己の至らなさ、油断、慢心を責めていた。
「僕が気を配っていれば取り逃がすことも無かったのに」
実力はあっても警戒が足りない。そんな自分を許せないと緑谷出久は言う。
だが幼馴染である爆豪勝己はその自戒を冷めた目で否定する。
「いや異世界であんだけ夜襲されて磔にされてたのに学ばないお前(とおじさん)が警戒とか無理だろ」
半年間、その僅かな期間で村人に狩られた回数は十を超える。あまりにも懲りない、あまりにも学ばない、おじさんに至っては17年間過ごしたにも関わらずだ。根本的に鈍感なのだろう、この異世界コンビは。
「だったらどうしたらっ!」
切実に緑谷出久は問う。爆豪勝己としては撃退できたんだから良いだろうという本音があるため、知らねえよという本心が顔に出てしまうが一応は答える。
「パーティーでも組めよ(勇者だし)」
勇者とは、力で戦士に及ばず、魔力では魔法使いには及ばない。勇者の武器とは勇気と人の和である。出来ないことは仲間に頼れば良い。
無論爆豪勝己にそんな考えなど毛頭なく適当に答えただけだが、緑谷出久はそう解釈した。
「ありがとう、かっちゃん。流石はウチのパーティーのナンバー2だね」
「勝手に組み込むな、ナンバー1ヒーローに成るのは俺だっつの」
緑谷出久が異世界に行かねばありえなかった今の幼馴染関係。だがそれはお互いにとって良い影響となっていたのだった。
翌日は臨時休校。
事件概要をざっくりと聞いてパニクる母を塩崎さんと宥めるのが大変でした。塩崎さんは心配はしても大丈夫だと信頼しててくれたみたい。
そして、
「お早う」
「相澤先生が無傷で出勤ーっ!!緑谷の魔法とリカバリーガール凄えっ!!」
グランバハマルはアレくらいの傷を治せないと死ぬ世界だったしね。
「俺の安否はどうでも良い、何よりまだ戦いは終わってねえ」
「戦い?」
「中間テスト?」
「またヴィランがー!!?」
「おい今ヤバい単語言ったの誰だ」
「雄英体育祭が迫っている!」
「クソ学校っぽいの来たあああっ!!(ホッ)」
学校なのに学校っぽい行事に過剰反応するウチのクラスって何なんだろ?
けど行事とかは事件後は自粛したりするものだよね、安全面の問題もあるし。
そこら辺の疑問は相澤先生がサクサク答えてくれた、逆に開催することで危機管理体制が盤石だと示すこと、例年の五倍の警備をしくこと。
まあそうでなくとも観客にはスカウト目的のヒーローが大勢きている。仮にヴィラン連合が突貫してきても袋のネズミだろう(脳無が百体あれば別だけど)。さらに雄英高校生の地味な特権である雄英体育祭身内用観戦チケットをおじさんに渡してあるから、グランバハマル歴代ボス軍団が襲来しない限り安全だろう。本当なら母に渡すべきだけど、涙で周りに迷惑かけるからテレビ中継を見ると言ってた。
年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。
実は僕はオールマイト関係からサーナイトアイ事務所に既に内定もらっているんだよね。だからスカウトは正直関係無いというか。
テンション上がる皆に反して凄く気まずいです。
「緑谷君、飯田君、頑張ろうね体育祭」
「顔がアレだよ麗日さん」
真剣というか眉間にシワが寄っている。
周りもいつもと違う様子が気になっているよ。あと峰田君、それはガチで男には分からない苦しみだからネタにしちゃ駄目だって。
「皆!!私!!頑張る!」
気合が入っているというよりかは、気負ってる感じみたい?
食堂までの移動中、ヒーローを目指す理由を語る麗日さん。究極的に言えばお金のため、本人は立派な理由でないことを恥ずかしがっていた。
ちなみに飯田君は尊敬する兄のようになりたくてヒーローを目指していて(家業だからというのもありそうだけど)、塩崎さんは、力を持って生まれた者の義務だと思ったからだそうだ。
「職業に貴賤の無いように、理由に貴賤も無いよ。まあその先に誰かの笑顔があるなら文句なしに尊いと個人的には思うけどね」
お金かあ、そういえばおじさんが収納魔法にしまっていた指輪とか質屋に持っていって50円だったとかぼやいてたな。向こうなら城が建つくらいの額がついたのに。僕の方にしまってある金貨とか宝石類どうしよ?
つい思考が別方向にいってしまってその時は気づかなかったけど、麗日さんは僕の言葉に凄く喜んでいたと後日飯田君が教えてくれた。
途中オールマイトが乙女チックにお昼を誘ってきたので(麗日さんが吹き出した)、今日はそちらにすることにした。多分ワンフォーオール関係の用事もあるんだろうし。
「ところで緑谷少年、君って雄英体育祭参加に乗り気じゃないだろ?」
オールマイトとの食事は正直辛い。だってこの人って胃を全摘してるせいで食べられる物が限られるので、普通に食事してるこちらが気まずくなるのだ。やはりサー・ナイトアイの提案を近いうちに強行しようと心に誓う。そんな中告げられた言葉もまた、酷く答えにくいものだった。
「はいそうです。異世界の力がズルに感じますし、スカウトも卒業後はサーの元に行くと決めてますから」
元気とユーモアの無い社会に未来はない、という理念以外は相澤先生レベルに合理的なサー・ナイトアイは学ぶべきことが多い。
「いや能力を得られるからといってもあの異世界には私も行きたくないよ」
僕も選択できたなら断ってました。
「君が注目されたら、同級生が評価されないかもという懸念も分かる」
麗日さんの話を聞いたら余計にそう思ってしまった。ワンフォーオールによる身体強化も魔法も人目を引く派手な力だからだ。
「けれど私としては君に活躍して欲しい。
君に力を授けたのは、個性ではなく『私』を継いで欲しいからだ!」
オールマイトの気持ち、願い。
「体育祭、全国が注目しているビッグイベント!
君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!!」
異世界で得た力があっても、ワンフォーオールを引き受けた理由を僕は思いだしていた。
そうだ、助けたいと思ったんだ。
誰かのために頑張りつくすこの人を。
ならその期待に応えよう。
その先で笑って過ごしてくれるなら。
緑谷出久が雄英体育祭への決意を固めた後も時間は流れ、放課後。
廊下側から多数の人の気配がしたため、人混みが苦手な彼は窓から(かなり高い)飛び降りて昇降口へと向かった。ヒーローであれば生身でビルジャンプくらい出来て当たり前だが、その突然の行いに口田君が悲鳴を上げかけた。基本マトモで委員長である緑谷出久の奇行にクラスメート達(爆豪勝己は除く)は未だ慣れない。
「何事だあ!?」
麗日お茶子の戸惑いの声。
廊下を埋め尽くす多数の生徒達、スマホを向けるのは礼儀として如何なものだろうか。明らかに野次馬そのものである。
「敵情視察だろ、ヴィラン襲撃を切り抜けたとか報道もされちまったし」
実態は違うと本人達は思うだろうが、爆豪勝己、切島鋭児郎、轟焦凍、尾白猿夫といった生徒達はヴィラン集団を実際に撃退している。実績とも言える戦果だ。
「いやアレって緑谷が撃退したじゃん」
「んなこと報道できるか、ただでさえ悪目立ちしてんだぞアイツ」
ヘドロヴィラン事件をきっかけとした無個性被害者としての報道、さらにその後の個性発現で緑谷出久は世間から注目されている。
雄英高校襲撃での活躍まで知られたらさらに騒ぎへとなるだろう。
「とりあえず意味ねえからどけモブ共」
いかに襟を正そうと相手は選ぶ。
雄英高校生でありながら野次馬する輩なんぞ、モブ扱いで充分だと爆豪勝己は認識していた。
「知らない人をとりあえずモブって言うのはやめたまえ!!」
飯田天哉の注意もどこ吹く風だ。
「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなあ」
(((お前だって野次馬じゃねーか)))
一部のA組はその物言いに反感を持つ。言動があまりにも礼を欠いて喧嘩を売っているからだ。
普通科生徒 心操人使による丁寧な説明。
だがそれはヒーロー科生徒は運が良かっただけで、自分の実力は劣っていないと宣言するに等しい。
「そういえば噂の強個性の首席様はどうした?ヴィラン襲撃で活躍したらしいけど、どうせデタラメだろ?図に乗っているだろうから宣戦布告しておきたいんだけど」
自身の個性の発動のためもあって、心操人使は本心とは別に挑発を繰り返す。反感を買えば反応も過剰となり個性の発動条件も満たしやすくなるからだ。
けれど、
「貴様、勇者様を愚弄したな?」
廊下に展開された膨大な茨、それが心操人使に巻き付く。沸点が極めて低い者には命取りになり得ることを彼はまだ知らなかった。
「その罪万死に値する」
自らの個性を忌避する彼は、実のところ個性発動の経験が不足していた。
怒りに震える塩崎茨は心操人使を含めた野次馬連中を粛清しようとして、
「お前の勇者様なら窓から帰ったぞ」
「この場は任せました、戦士 爆豪」
爆豪勝己の言葉で主の後を追って窓(かなり高い)から飛び降りた。彼女に対抗して麗日お茶子も。
「ヒイっ!!」
流石に今度は口田君も悲鳴を上げた。
「勝手にパーティーに組み込むなよ全く」
ガリガリと頭を掻きながら、爆豪勝己は自分が煽った野次馬共の反発をどうしたものかと思い悩む。正答は教師に連絡だが体育祭前で多忙だろうし、それはあまりにも情けない。
「ふざけやがってあの女子共っ!!」
すると怒声を上げる峰田実が目についた。
「いやアレがデフォだからアイツら。つか怒鳴ることか?」
共と言ったから麗日お茶子もだろう。窓から飛び降りたのは怒ることか?と疑問に思い首を傾げる。
「アイツラ、スカートの下にスパッツ履いてやがったっ!!スカートの中のパンツ見えなかったじゃねえかっ!!」
「お前も落とすぞ?」
ヒーロー科から除籍どころか退学で良いだろこのエロ葡萄と思い、窓から投げ落とすかと峰田実の首ねっこを掴んだ所で爆豪勝己は妙案を思いつく。
「オイお前ら、見てのとおりヒーロー科なら誰でもこの高さを難なく飛び降りれる」
地力の差を示す発言に、まあいけるか、一緒にすんなと反応が別れはするが大半のヒーロー科ならなんとかなるだろう。
「そして足を掬うとか全国に見せつけるとか抜かしているが、お前ら逆に理解しているのか?」
「「「「???」」」」
「結果ださねえとお前ら、全国中継でこのエロ葡萄以下認定だぞ?」
「「「!!!!」」」
爆豪勝己が指さすのは片手にぶら下げる峰田実。多くの生徒達が行為そのものに度肝を抜かれた飛び降りに対し、スパッツを履いていたことでキレて叫んだド助平。
爆豪勝己の発言を理解した瞬間、その場の生徒達は衝撃を受けて立ってもいられなくなる。
多くの普通科生徒にとって、正直オマケや引き立て役扱いされる体育祭にやる気はなかった、いくらチャンスがあっても専用のカリキュラムで地力を伸ばすヒーロー科を追い越せるとは思っていなかった。
だが、コレ以下?このエロ葡萄以下の認識を全国規模でされるのか?
気がつけば一歩踏み出していた、二歩目には早足になり、三歩目にはもう駆け足だ。
訓練場、サポート実習室へと全力で走り出した野次馬達には、やる気の無かった生徒達の心には火がついていた。
『打倒 峰田実』という紅蓮の業火が。
「なんとかなったな」
これでヒーロー科とA組、ついでに緑谷出久へのヘイトは収まったろうと爆豪勝己は息をつく。
「だな」
砂藤力道もお疲れ様と肩を叩く。
連中の態度は不快だったが、雄英高校に合格した時から周囲にああいった視線を向ける者は多々いた。ヒーローになることは周囲の反応を飲み込む度量も必須なのだろう。
「ささやかな犠牲で解決して良かったですわ」
ささやかな犠牲(峰田実)だが問題はない、日頃の行いからしてどうせ元からあんな認識だろう。
「ふざけんなよっ!オイラが普通科と経営科とサポート科から集中狙いされんだぞっ!」
「ケロ、元から蹴落とす相手として狙われていると思うわ」
USJでの痴漢被害者である蛙吹梅雨の発言に容赦はない。
「まあまあ第一種目が生き残りバトルロイヤルとかじゃない限り、死にはしないって」
「第一種目が生き残りバトルロイヤルだったら集団リンチで死ぬじゃねえかっ!!」
そんな峰田実の絶叫をよそに放課後の騒動は幕を下ろした。
騒ぎがおさまった頃、B組の鉄哲徹鐵が襲撃事件の話を聞きにきたので、同じヒーロー科で彼らも襲撃された可能性があったため説明した。
体育祭までの二週間、それぞれの思いを抱き、自己鍛錬に励みながら、あっという間に時間は過ぎた。