幼馴染である緑谷出久が道路に飛び出した子供を庇いトラックにはねられて意識不明の昏睡状態になって半年がたった。
ヘドロヴィランに遭遇直後に起きたその悲劇に、間違いなくその日運勢最悪だったろコイツと思う。
だが事態はそれだけでは済まなかった。
なんとか罪を軽くしたいトラック運転手の悪あがきが出久を調べることになり、無個性であることまで辿り着いてしまった。
しめたと思ったのは向こうだろう。
今日日無個性の自殺なんて珍しくもない。
自身の過失ではなく出久の自殺に持っていきたい向こうの思惑もあって、その日の出来事、中学校での日常、ヘドロヴィラン騒動が大々的に暴露されてしまった。
結果大惨事。
中学校での俺が主なイジメは事実だったため中学校は世間から大批判、ヘドロヴィランでのヒーロー達の行動は問題ありと大指摘、クラスメートを助けようとした少年をどの面下げて説教してんだと取り上げられた。
これなら自殺してもおかしくないと世間が認識したところで、助けられた少年であるプロヒーローウォーターホースの息子の洸汰君とその場にいたオールマイトが名乗りでて事態は沈静化した。
とはいえ事実は事実なため、教育機関とヒーローには監査が入ることになったが。
学校側から緑谷ご夫妻には謝罪があったが、息子は自殺ではないからとそれを拒否。両親と共に謝罪しに行った俺も同じ理由で断られた。
ただ出久は俺をヒーローとして憧れていてイジメられてるなんて言ってないという言葉は胸に突き刺さった。
だから、
野望は変わらない。
けど襟は正そうと、そう思ったんだ。
もう受験に間に合わねえぞと見舞いついでに文句を言おうと心に決めて、すれ違ったウォーターホース一家にすれ違いざまに会釈してから幼馴染の病室に入った。
そこでは、
幼馴染である緑谷出久が目を覚ましていた。
「イレルラーズ『グランバハマル』トナ
ガルトエバ リレクス」
頭がおかしくなって。
「あ、うんあのさ」
いや俺のせいかこれ、来世にワンチャンダイブとか言っちまったし。
「日本語。
ってこれじゃあ、異世界『グランバハマル』に17年いたがようやく帰って来たぞ。になっちゃうね、おじさんじゃないんだから。やっぱり半年じゃ身につかないよね異世界語」
ハハハハハ!!と笑う幼馴染の姿にナースコールすら忘れて打ちひしがれる。
目を逸らすな、眼の前の人間を壊したのは俺なのだから。自分の罪を受け入れるんだ。
「えっとそれでさ、かっちゃん」
「なんだ?」
どんな罵倒も受け入れよう。
それだけのことを俺はしたんだ。
「僕が助けようとした子供は大丈夫だった?無事助かって家族と過ごせてる?」
その言葉に、変わらぬコイツらしさにどこか救われる自分がいた。
「ついさっきまで見舞いに来てたよ。父親のウォーターホースが連れてな」
「マジでっ!タイミング逃したっ!というかウォーターホースの子供だったんだ!サイン貰えるかな?」
ここも変わらねえのかよ。
まあ安心するがな。
あとトラックにひかれたショックで頭がおかしくなった状態を見られなかったからむしろタイミングはピッタリだよ。
「とりあえずご両親に連絡は病院からいってるだろうから俺は帰るわ。半年ぶりの再会を喜んどけ」
「そうだね、異世界グランバハマルでおじさんに助けてもらえなかったら二度と会えなかったしね」
うん、頭のリハビリには付き合ってやろう。
確かこういった場合は否定が一番やっちゃいけない行為なんだよな。
「ところでかっちゃん?」
「どうした?出久」
「ゲームハード戦争どうなった?」
「何言ってんだお前?そもそもヒーローの追っかけに夢中でろくにゲームなんてしなかったろ」
「いやそんな昔(半年)のことはどうでも良いから教えてよ」
「国内だとソ○ーと任○堂が二強だろ」
「SE○Aは?」
「やっぱり頭おかしくなってないか?半年だぞ」
「SE○Aは?」
「何年前の話だ、とっくに撤退してるだろ」
とそこまで言った所でようやく出久は正気に戻ったのかゲームの話を打ち切る。
「ごめん、半年間一緒にいたおじさんに影響受けてたせいだ。聞くべきは普通ヒーロービルボードチャートの方だよね」
だからその脳内のおじさんは誰なんだ。
「そっちも昏睡状態起きのヤツが聞くことじゃねーよ。そして半年で劇的に変わるか。ウイングヒーローホークスが順位上げたくらいだ」
「やっぱりー、あのヒーロー上がると思ってたんだー」
まあ頭おかしくなって異世界云々言い出すよりはマシだよな。
小走り気味なナースの気配を感じて退室するが、出久は外を見ながらポツリと、
「おじさんも目覚めたかな。きっと家族と感動の再会とかしてるよね。十七年だし」
そう呟いていた。
なお件のおじさんの方であるが、昏睡状態のおじさんの処遇をめぐって家族で言ってはいけないことをボロクソ言い合った挙句一家離散。
さらに伝言を押し付けられた甥っ子からも切り捨てられそうになるも、決死の異世界証明のための魔法によりなんとか首の皮一枚繋がった模様。
現実は非情である。
その異世界生活並に酷い現実を緑谷出久が知るのは、まだ先のことである。