異世界イズク   作:規律式足

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 ステインアンチ、独自解釈あり。閲覧注意。



34話 最速の苦労人。

 

「マジですか?」

 

 その命令は日頃から無理難題ばかりの公安の仕事の中でもより一層困難なものだった。

 

「ステインは放置しておくのが公安の方針だったと聞いてましたが」

 

『状況が変わったということよ』

 

 上司であるヒーロー公安委員長の言葉に、携帯の電波が届くぎりぎりの高度に飛んでいたホークスは頭を抱えた。

 ヒーロー殺しステイン、元スタンダール、本名赤黒血染。実のところヒーロー公安委員会はその存在を正確に認識し、あえて放置していた。

 無論捕らえることに多大なリスクが伴うことも理由の一つだ。レディナガンが居たならばともかく、いかに最高戦力としてホークスを擁していようともステイン相手では分が悪い(痕跡を残さず始末する場合に限るが)。その思想から公安の子飼いにスカウトするという案もあったが、国家の利益のために己の信条を曲げられぬ者など公安には不要なのだ。

 そもそもステインの信条から取引材料が無いという致命的な問題もあるが。

 

「だからサー・ナイトアイの提案にのり、秘密裏の捕縛に踏み切ると」

 

『サー・ナイトアイの見た未来はなんとしても防がねばいけないのよ』

 

 公安の暗躍はそのためにあると言って良い。ヒーローというブランドを守り、強力な個性を持つ者が自分の意思でヒーローを志す社会を維持しなければならないのだ。そういずれくるオールマイトの引退という世界規模の混乱に対処するために。

 ヒーローの権威の失墜はそれを妨げる恐れがあるのだから。

 

「理解も納得もしますが難しいですよ、あのエンデヴァーさんだって保須市に来るというのに」

 

『最悪貴方の存在がサー・ナイトアイに知られても構わないわ。彼はオールマイトのためなら清濁併せ呑むことができるのだから』

 

 それはそれでどうなんだとホークスは思った。自分も似たような感情がエンデヴァーにあるが、サー・ナイトアイのソレは自分以上だ。

 

『重要なことは、ステインを秘密裏に捕縛すること、その思想が蔓延しないこと。それだけに気を配ってちょうだい』

 

「了解しました」

 

 その言葉を最後にヒーロー公安委員長との会話は終わった。

 

「ステインねえ、迷惑な存在だよ全く」

 

 ホークスにとってヒーロー殺しとはそのような存在だった。ヒーロー飽和社会の裏側を知り、汚れ役を担う彼にとってあれほど迷惑な存在はいない。

 別に悪行を働くヒーローを殺すことは納得できる、その悪行が表沙汰にならないよう後処理くらいはしてやろう。だが、

 

「ヒーローに相応しくないとか、単なる好みだろコイツの」

 

 インゲニウムを筆頭とした善良なヒーローの殺傷、これは認められない。というか、そもそもステインにヒーローの悪行を調べる情報源などない。スタンダール時代ですらヒーローが取り逃がしたヴィランや事務所を構えるヤクザを標的にしてきたのだ。その戦闘能力と潜伏能力こそ並外れてはいるが、動画投稿をしているヴィランであるジェントルクリミナルの相方であるラブラバのような神憑り的なハッキング能力を持ち合わせてはいないのだ。

 つまり標的となるヒーローはネットのみの情報で決めて、後は襲った時の印象で生かすか決めているのだろう。それを好みと言わずなんというのか。また戦闘能力をヒーローの基準に定めているが、ステインの襲撃は単独であるタイミングを狙った奇襲、そしてその個性ゆえ初手を許せばまず勝てない。そんな理不尽な判定など他にないだろう。硬化個性とて常時展開している者などいないし(そもそも個性使用違反)、斬鉄すら出来るステインの技量を防げる異形タイプも滅多にいない。

 どう対処すれば良いというのか。さらに最近のヒーローコスチュームは機動性重視で装甲よりも軽さを優先されているというのにだ。

 

「ふう」

 

 ひとしきりステインに対する不満を脳内にぶちまけた所でホークスは息をつく。

 どんなに不満があろうと彼のやるべきことは変わらない。ステインの行動から裏路地に羽を展開し、その場所をサー・ナイトアイに伝えれば良い。

 エンデヴァーを含んだヒーロー達は最悪別件のヴィランへ誘導すればよいだろう。

 ステインの捕縛は公にはできない。

 ステインの凶行で落ち着いた治安はしばらくそのままでいてもらわなければならない。もとより正体不明のヴィラン、突然姿が消えても違和感などないのだから。捕らえられた情報すら無ければ、ステイン本人を恐れて模倣犯も出ないだろう。

 

「はー、ヒーローが暇を持て余す社会。早く実現したいもんだ」

 

 というか切実に休みが欲しい、とホークスは上空でぼやくのだった。

 

 

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