前半小話。
後半オリカップリング有り、閲覧注意。
「眼鏡ビームっ!!」
雄英体育祭。
オリンピックに代わると銘打たれるだけあって入手困難なその観戦チケットを緑谷出久によりもらいテレビではなく生で見ることができた。
日本トップエリート達がしのぎを削り、幾多の磨き抜かれた個性がぶつかり合う中で敬文は一人の少年が目についた。
ネビルレーザー 青山優雅。
へそからレーザーを放つその個性はリスクこそあれ自身の上位互換。ゆえに彼の活躍するその姿に敬文はかつて忘れた夢を思い出してしまった。
そう、封印した個性を使用する程に。
屋上の自由スペースに干された布団、それは敬文の個性眼鏡ビームを食らったことで物干し台ごと二十センチほど後ろに動いた。
同時に眼鏡(2万円)はフレームを残して粉砕し、立っていられない程の疲労が全身を襲った。
(ああ)
膝を付き項垂れる敬文。
己の個性の残念ぶりを再確認し、その身を絶望が包みこんだ。
(やっぱり駄目か)
自分の夢、叶わぬ願い。
力を、個性を、己を知るごとに現実に不可能だと突きつけられる。
望みが絶たれる。
ゆえに絶望。
だが、それでも諦めずにはいられない。
何度でも夢を見てしまうのだ。
「ティファニアの使い魔に、成りたいなあ」
天然巨乳ハーフエルフの使い魔に成るという、子供の頃からずっと見続けてきた夢を。
「やっぱり胸か、テメェーッ!!」
そんな敬文の魂からの呟きに反応した恋する乙女である藤宮さんは力尽き項垂れる彼を怒りと嫉妬により蹴り飛ばす。
「敬文ーっ!!」
そんな甥っ子を心配するおじさん。
「ざけんなコラ、そこはヒーロー目指すトコだろうがファンタジーかファンタジーがそんなに良いのか!つーかアレは巨乳どころじゃないだろうが!」
胸ぐら掴んで叫ぶ藤宮さん。
個性の反動でぐったりする彼をぶんぶんと振る。
「私だってきちんとあるんだぞ!あんな化け物乳と比べんな馬鹿ー!!」
「ああ落ち着いて藤宮さん。とにかく落ち着いて。な、なあ、今回は流石に敬文が悪い事くらいは俺にもわかるから。敬文もしっかり謝って」
「エルフに巨乳、エルフはスレンダーという常識をぶち壊した新境地」
反動と振動により、最早ロクに意識の無い敬文はうわ言のように言葉を零すだけだった。
「そんなお前を叩き直してやるっ!!」
涙目となり怒りのまま想い人に拳を振り上げる恋する乙女。
「やめなさい、暴力は駄目だからっ!!暴力系ヒロインの時代は終わってアンチ対象筆頭だと言ったのは藤宮さんでしょうっ!!」
これは緑谷出久がヒーロー殺しを捕縛し、その後始末に追われている間の彼らの日常の一コマである。
場面は変わり雄英高校。
職場体験、ヒーローという夢を抱く彼らが踏み出す第一歩。憧れを地に足つけた職業であると学ぶ機会。一週間のその期間にて彼らは多くのことを学んだのであった。
耳郎は敵退治の現場を体験し、蛙吹は密航者の捕縛、麗日は目的どおり格闘技を体感することができた。だが反面残念な目に合う者も少なからずいる、CMデビューしてしまった八百万と女性の私生活という深淵を覗き込んでしまった峰田などだ。
雑談する彼らだが、それでもあえて目を逸らしていた彼らに触れることにした。
自身の机にて突っ伏しピクリとも動かない二人、緑谷出久と爆豪勝己の両者は顔に生気無く、屍臭すら漂うのか小蝿が上を舞っていた。
「小さき者達よ彼らは死体ではありませんすぐに去るのですっ!!」
小蝿は口田君が自身の個性生き物ボイスで追い払ってくれたようだ。
「一年トップ2がなんで死んでんだ?」
「轟みたいに保須の事件に参加してないよな」
保須ヴィラン暴走事件、轟焦凍は父であるエンデヴァーと共に暴れる脳無達の撃退に貢献していた。
「なんでか警戒されてたヒーロー殺しはでなかったしな」
「インゲニウム襲撃以降はパッタリ出てないらしいぜ。まだ数日だけどよ。って悪い飯田」
軽口を言う上鳴だが、実の兄を襲われた飯田に気付き謝罪する。
「大丈夫だ、兄は無事復帰したからな。ヒーロー殺しに関してはヒーロー達の中でも気になる話題らしい」
公にされていないヒーロー殺し捕縛。
ゆえに突然姿を消した扱いのヒーロー殺しのことを多くの者達が気にしていたのだった。
「っで何があったよ緑谷?」
とりあえず動かない緑谷に尋ねて見れば、息も絶え絶えに彼は言う。
「睡眠時間ロクにとれないくらいフルで一週間働いて、ついでにおじさんのトコでトドメ食らった」
サー・ナイトアイ事務所フル稼働な一週間。酷使された緑谷は極限疲労にあった。実際三年教室にてタフなミリオもまた突っ伏していた、ねじれちゃんに質問されまくりながら。そんな精神と肉体ともにボロボロだった所に、ミッドナイトのぶっ飛んだ行動を見たのだ、倒れるのも無理はないだろう。
「それ職業体験じゃなくね?」
「緑谷が倒れるってどれくらいだよサー・ナイトアイ事務所」
急を要する事態とはいえあまりに過酷な一週間であった。
「じゃあ爆豪はなんで?」
「コイツならフル稼働で敵退治とかむしろご褒美だろ?」
爆豪勝己がどんな目で見られているのかよくわかるものだが、無論彼が突っ伏しているのは職業体験の活動が理由ではない。
「ミルコが、あの兎女が、家に居着いてやがる(ガクリッ)」
その興味引く言葉に、喋るのも億劫そうな爆豪を強引に問い詰めれば、もの凄く嫌そうに彼は語る。愚痴は言いたかったのかも知れない。
ラビットヒーロー ミルコの超現場主義かつ、彼女の快活豪胆な気性は爆豪勝己にとって不快ではなく、ついて来いと言わんばかりなその姿勢も闘争心を煽られるものだった。ブチのめした敵の後始末を現地のヒーローと警察に押し付けアチラコチラを巡ったのだが、たまたま爆豪自宅付近に辿り着いたため両親の誘いもあって泊まる事となった。だが、問題はそこで起きた。
元より気っ風の良い爆豪母がミルコと意気投合してしまい、爆豪父と爆豪が近所に頭を下げるレベルで大騒ぎしてしまったのだ。ミルコも爆豪母を気に入ったのか、仕事後は爆豪家に必ず寄るようになり爆豪の心労が積み重なるようになったのだ。
力尽くでなんとかしようともしたが、爆豪勝己が才能あれどそこは世界を代表する肉弾戦系女ヒーローミルコ、良いようにあしらわれ返り討ちにあった。
爆豪勝己自身もその負けん気がミルコにすっかり気に入られてしまい、玩具みたく遊ばれるようになったとか。
「朝起きたらミルコが横にいる日々だぞ、死ぬわ」
女嫌いとは言わずともそこまで関心の無い彼は、妙齢肉体派兎美女の色気に惑うことなくひたすら不快に感じストレスを溜めていた。
「まあ人生そんなもんだよ、おじさんもそうだったし」
慰めるように緑谷出久が言う。
彼自身は異世界にてそんな目にあっていないが、おじさんは大体そんな感じだった。
「親父みたいなこと言うな。優しく諦めに満ちた目で諭してくんだぞ」
経験者である爆豪父はそんな息子にかつての自分を重ね合わせて抵抗は無意味だと諭していた。爆豪母はミルコなら良いじゃんと言っているが。
「ところでかっちゃん?」
「どした?」
怒鳴る気力すらない彼に緑谷出久は気になったことを尋ねる。
「首の後ろのミルコって字は自分で書いたの?」
「誰が書くか、つーかなんじゃこりゃああっ!!」
耳郎が渡した手鏡で確認すればそこにはマジックでミルコと書かれていた。当然覚えのない爆豪がミルコに電話で確認すれば、
『? 自分のモノには名前書くだろ』
と小学校で習わなかったのかとミルコは不思議そうに答えた。
「誰がテメェのモノだァ!!俺は頭の先から足の先まで余すことなくオレ自身のモノだコラァっ!!」
『つまり私のモノだな。お、ヴィラン!切るぞ』
「待てやこら、ウサギィーっ!!」
疲労した身体を死力を振り絞って動かし叫ぶも一切の効果なく、一部男子の嫉妬の眼差しにさらされながら爆豪勝己は力尽きた。
彼の苦難はまだ始まったばかりである。
こうして職業体験終了初日の朝は終わった。
彼らの一日はこれから始まる。