「確かこの三日後くらいだから早送り、早送り」
時間は有限、完全下校時間を考えると急がねば。
記憶再生のモニターに手をのばすと、その手を駆け寄ってきた皆に止められる。
「どうしたの?」
「なんで何事も無く飛ばそうとすんだよっ!!」
「そうだよっ!!どうしてこうなったか知りたいよっ!!」
「この後どうなったかもなっ!!」
「今ご無事だから助かるのは分かりますけど」
「それでも気になるから」
どうやら駆け寄ってきた皆はこの続きと経緯が気になるらしい。けどそうすると時間が、あと相澤先生に僕の記憶は止められているし。ちらりとミッドナイト先生に視線で確認すれば、収まりつかなそうだから流しなさいと言われた。
大丈夫かな?この後酷い事起きるのに。
「分かった分かった、じゃあこうなる前から流すね。この山に来た所から。えっと巻き戻し巻き戻し、じゃなくて早戻し早戻しと、おじさんの移ったな」
モニターを操作して僕がこうなる前へと場面を移動させる。
「どうでも良いが、なんで魔法がBlu-rayプレイヤーやパソコンモニターみたいな操作なんだ?視点も記憶なら緑谷視点の筈だろうに」
記憶の精霊の気遣いにはいつも助かってます。
『よし、じゃあ二手に別れようか』
『ええ、どちらが見つけるか競争ですね』
「えっと、僕とおじさんは元の世界に帰るために神の力が宿る遺跡や祠を破か、調べて回っていてね。この山にもそれ目的できたんだ」
「今破壊って言わなかった?」
「それで危険な魔獣がいないみたいだから、二手に別れたんだよ」
ある程度戦闘能力得て調子に乗ってたしね。
「それで別れて探してたら」
『うわああっ!!』
「魔獣捕獲用罠にあっさり嵌った」
「「駄目じゃねーか」」
「それで目を覚ましたらあんな感じ、どうやらトレントと共生しようとしてるみたいでね」
「共生?」
そう植えられはしたが酷い目にあってない、あくまで村人の目的はトレントと共生だからだ。
「幼生体を上手く手懐ければ、トレントの恵みと村の守護の両方期待できるからね。冒険者の来ない辺鄙な地域だと結構ある風習だよ」
「異世界ファンタジーらしくて面白い話だな、対象が友人でなければ」
「そもそも緑谷ちゃんはトレントじゃないわ」
いや見た目がねえ。
「異世界は美形ばかりだからね。八百万さんレベルが普通なんだよ。だからそうじゃないとゴブリンとオークみたいな魔獣扱いになってね」
「基準が厳し過ぎるわ」
こっちの大半の人間駄目じゃねーか。個性で異形も多いしと誰かが呟く。
「まあ容姿が整っていても、基本余所者は警戒対象だけどね。冒険者にしてもその村出身じゃないと隔離されて監視されるのが普通だよ」
「それだけ危険な世界なのか」
「街道とか整備できないレベルの治安だからね」
魔獣も危ないのばかりだし。
「だから植えられて丁重な扱いなのか、ところでおじさんはどうしたんだ?緑谷ピンチだろ?」
「オイオイ轟、緑谷が尊敬してる人だぞ。これから颯爽と格好良く助けるに決まっているじゃねえか」
「「ネタバレすんなよ切島ー!」」
ああいや、うん。
『村長、供物を捕らえましたっ!!』
『おお良かった、トレントとの付き合いは最初の供物が大事だからな。鹿か?猪か?』
『オークです!!痺れ茸の群生地に顔を突っ込んでノびてましたっ!!』
『ここいらにはあまり居ないのに珍しいな。トレントへの供物には最適だ』
「トレントは雑食なのか?」
「水と日差しだけで生きていけるけど、家庭ゴミやら生物の死骸も食べるね。繁殖期なんか戦争跡地に集団で移動してそこに森ができたりするよ」
『ええ、やや小振りですが身なりは良いから上物ですよ』
質問に答えつつモニターに目を向ければ、そこには口に痺れ茸を咥えて四肢を丸太に縛られて運ばれるおじさんの姿があった。
「陽介さーーんっ?!」
「体育祭にいたセガおじさーーんっ?!」
そしてソレを見たミッドナイトと体育祭で会った芦戸さんの悲鳴が響く。
「どうしたんだあの人?」
「後で聞いた話だけど、苔に足を取られて痺れ茸の群生地に顔面ダイブしたんだって」
「ドジ二人が別行動すんじゃねえよ」
「完っっっ全に裏目にでてるだろ」
「いや今回はイケるかなって」
なんかかっちゃんがお前ら学習能力零だろと言いたげな目をむけている。
『さあトレントよ!!供物を喰らい、これから村の一員として共に過ごそうではないかっ!!』
「どうでも良いがなんであんな邪教徒みたいな格好してんだ村人連中?」
「普通の村人なんだよね?」
老若男女とわず村人総出で怪しげ黒いローブに骨やら羽やらでゴテゴテしく装飾して身に纏っているからね。さらに埋められた僕を円陣組んで取り囲んでいるし。
「ぶっちゃけ邪教徒だし。正式な教会がなくて駐在司祭いないと大体こんな感じになるよ」
神聖魔法ないと病気一つで苦労するからか、力を求めて魔獣信仰やら邪神信仰やらに走るんだよね。信仰心強い流れ司祭や冒険者を引退した司祭が運良く居着けば別だけど、そんな幸運滅多にないし。
「というか、緑谷君はこのまま美味しく陽介さんを頂いてしまったの?!」
「鼻息荒いですよ、先生。地面に体温取られて意識朦朧としてたから、なんとか気力で神聖魔法を発動しようとしてましたよ」
地面て冷たいんだよね、キャンプでも山に直寝は凍死(場所にもよるが)するからしないようにね。
「けど酷いことってこれか?」
「ああ、もっとエグいのかと」
何人かは肩透かしみたいだよね。
「いや酷いだろ」
「大真面目にやってる分だけ救えませんわ」
「緑谷もおじさんも大変じゃん」
「大丈夫なん?助かったん?」
正直心配の声が嬉しいかな。
「これくらいならいつものことだから平気だよ。問題はこの後でね」
いつものこと発言に突っ込みたそうだけど必死に我慢してるよね。
『オーク顔が供物?オーク顔を食らう?』
ガサガサと森を掻き分けて現れる存在。
その膨大な魔力と溢れる殺意は画面越しにも伝わってくる。
『ト レ ン ト も ど き ー!!』
人型なのが信じられない気配、輝く眼はドラゴンの心臓とて止めるだろう。
「「「ナニアレ?」」」
「ストーカー、あとエルフもやってる」
「「エルフがオマケかよっ?!」」
「なんやかんやでおじさんのストーカーしてるナマモノで大変危険。実力は控え目にいっても化け物で収集した古代兵器を使いこなす。人刈りの習慣があり、寒い時は動物の内臓に身を包んで暖を取る」
「悪意溢れる紹介だな、恨み骨髄か」
「あと一ヶ月風呂に入らなくて平気」
「それはもののたとえだろ」
「僕を邪魔な存在認識しててことあるごとに狩ろうとするからね」
ま、それも大好きなおじさんに帰って欲しくなくて必死だったと思えば、仕方ないなと許せは、許せは、
許せねえよ、トラウマじゃい。
『エルフがトレントを狩ろうとしているぞやらせるな!!村の衆、トレントを、村の財産を、守れえー!!』
『『『うおおおっ!!』』』
「村の財産て」
「鋤とか鍬を持って集団で女の人一人に襲いかかっているよ!!」
「あー平気平気」
見た感じ誤解するけど、逆だから。
『邪魔』
『『『ぎゃあああ!!』』』
「「「そして返り討ちっ?!」」」
エルフ(ストーカー)だしなあ。
『やはりトレントの本性を出したわね、オーク顔を食らわせたりはしないわ!!オーク顔を食うのは、食うのは私よっ!!』
『ィズク君、助けぇてぇ、食ぅわれるぅ』
おじさんガッツリ痺れてたからなあ。
「ね?ヤバいストーカーでしょ?」
「照れ隠しなのは表情で分かるが、言葉のチョイス最悪かよ」
僕は同情しないけど。
「それでこの後村人が撃退されてる間に神聖魔法で回復しておじさんを丸太ごと担いで脱出。まる二日間必死に逃げ回ったの(祠はエルフの巨大剣で破壊された)、いやー怖かったすげー怖かった」
と、ここまででモニターを消す。
そろそろ完全下校時刻だしね。
クラスの皆を見たら、うんとても辛そうな表情だ。
「緑谷、辛かったんだな」
絞り出すような言葉がきっと皆の本音だ。
辛いことを辛いと認識できない僕の姿が皆の目に痛ましく映るのは理解している。
「ま、でもより辛かったおじさんが横に居て助けてくれたから平気だったよ。僕は半年間で済んだからね」
それもおじさんの頑張りのおかげだ。
「それにあの半年間があったから皆の友人に成れたと思えば、ならいいかなって思えるから」
強がりもあるけど、それは緑谷出久の紛うことなき本音であり、だからこそニカリと笑えた。
「「「緑谷ーっ!!」」」
直情的な子達に抱きつかれて揉みくちゃにされる。こんな感じに関わりを持てたのもあの期間のおかげなんだ。
無論、二度とごめんだが。
こうして一回目の記憶再生は終わった。
見るのがしんどい内容だけど、やっぱり異世界ファンタジーを生で見るのは楽しいみたい。
敬文さんや藤宮さんもそんな理由から見ているのだろう。普通に面白いしね。
後日の約束をして、今日は解散したのだった。
思ったよりしんみり書けなくてすいません。
けど皆心から心配はしていますので。