少し時間が戻ります。
ミッドナイトです。
独自設定、キャラ改変のため閲覧注意。
「お疲れ様ー」
コスチュームを脱いで雄英高校から出る。
そうすれば私は十八禁ヒーロー ミッドナイトから香山睡に切り替わる。
プライベートもお構いなしの煩わしいマスコミを撒くのもあしらうのもすっかり手慣れたもので、愛車に乗ってから自宅に着くまでの時間こそが真に自由な時間かも知れない。
ヒーローという職。
誰かを救いたい、助けたい、という思いと自分の個性と性格が向いているから成った職業は存外に制約が多く自由がない。趣味のゲームをプレイする時間の確保も大変だし、女としての幸せつまり恋愛なんて夢のまた夢だった。
職場に男はいっぱいいるが、山田はありえないし、相澤はこ汚い、何よりあの二人は手のかかる後輩だ。恋愛対象になんてみることができない。他の教師陣にしても紳士か変わり者かヘタレか鼠。私の好みのタイプではない。
そして一番重要なことであるセガに全員が興味がない。
そんな相手と同じ時間を過ごすなんて考えただけで絶対に無理だった。
年齢的にもそろそろマズイから、見合いの話しでも受けるかと悩んでいたところで、私は運命の人と出会った。私と同じコアなセガユーザーで私よりも強い男性。私の理想を体現したかのような人だ。
その後の行動はまあ、勢いと衝動のまま。
少しでも関わりを持ちたくて無理して引っ越しまでしてしまった。
その運命の人である彼が、異世界おじさんというセガのプレイ動画を投稿していた人物であった事も大きい。動画を見つけてから会ってみたいと思っていた人物だったからだ。
思考しているうちに着いたようだ。
そういえば夕飯を買い忘れたけど冷蔵庫の中にはナニカあっただろうか。家事は得意で苦ではないが、今から作るのはいささか面倒臭い。
そんなことを考えながらエレベーターの無いアパートの最上階である四階まで登り、ドアを開ける。
「ただいまー」
どうせ答えてくれる人なんていないけどね。
雄英高校に進学するため一人暮らしをはじめてからずっと、答える人のいない自室にただいまを言うのは虚しくて仕方ない。それでも言ってしまうのは、これも気分を切り替えるための行動なのか、それともありもしない返事を期待しているのか。
(って今、カギを開けたっけ?)
流れるまま扉を開けてしまったけどカギを取り出して差し込んでいないような?
「おかえりなさい、睡さん」
そんな自分の行動を思い返そうとしていたが、返ってきた言葉と彼の姿に思考そのものが胸から溢れる満足に似た多幸感に押し出されて吹き飛んだ。
自分の理想の男性像の条件を満たしていたから惹かれていた彼。
そんな人物がおかえりと言ってくれた。
ずっと抱えていた一人の虚しさはそれだけで満たされてしまった。
エプロンを着てお玉片手の姿をついガン見してしまう。
漂う香りはカレー、しかもここ数年ご無沙汰でもう懐かしくすらある手作りカレーだった。
ク~。
その匂いに食欲が刺激されたのかお腹が鳴ってしまった。私は思わず恥ずかしくなって顔を俯けててしまう、こんなうぶな反応を人前でするなんて何年ぶりだか。
私はエロくて格好良い十八禁ヒーローミッドナイトだというのに。
クスッと、嘲りではなく微笑ましげに彼は笑い。
「敬文ー!夕飯は睡さんも一緒で平気ー?」
「大丈ー夫だよ。カレーは皆で食べたほうが美味しいしね」
ああ敬文君にまで気を遣わせてしまった。
「というかおじさん作り過ぎだから、藤宮いるからといって」
「えー、だってルウの分量通り作ったら野菜余るじゃない」
「男二人暮らしでカレーを食べきるのがどれだけ大変だと思っているのさ」
そんなやり取りを聞きながらも、色々と熱くなった顔は陽介さんのエプロン姿を記憶に焼き付けようと固定してしまう。
「ホラ、ミッドナイトじゃなくて睡さんも早く早く。私お腹ペコペコですって。今日はおじさん手造りカレーですよ」
藤宮さんのその言葉にハッとして、私は慌てて着替えやらをするために自室へと向かった。
「サラダも無いんですか、これだから男所帯は」
「えー、カレーは野菜たっぷりじゃない」
「そうそう足りなければカレーに追加すれば良いわけだし」
「私が作ってくる?大した手間じゃないし」
「ファン発狂案件じゃないですかソレ。というか家事も万能なのかこの女ヒーロー」
「敬文ー、福神漬けは?」
「使い切れないから買ってない。カレーに小さじ一杯くらいしか使わないのに売ってるの分量多いし、他の料理だと食べないし使わないから」
「でもカレーにはやっぱり福神漬けだよ」
ただの食事風景。
懐かしい家庭の時間。
メニューも男性手造りの具も不揃いなカレーライスが一つだけ。
それでも私は、私の心は。
誘われた高級レストランのフルコースよりもずっと満たされていた。
「そんな風に笑うんですね」
こっそりと藤宮さんが聞いてくる。
「ミッドナイトの時とは違う柔らかくて優しい顔でしたよ」
それだけ素を出せるくらいこの場所だと気が抜けていたのだろう。
ミッドナイトでいる時は武装して戦場にいる時なのだから。
こんな時間をずっと過ごしていたい。
過酷なヒーロー業で忘れそうになる大切な日常を私は改めて見つけたのだった。
なお食事の後に、陽介さんと並んでセガ○ターンをプレイした、まさに最高の時間。また肩が触れただけで気恥ずかしくなるなんて、どこの生娘なんだか。
「なんか思ってたより普通の人だよねミッドナイト」
「女なんてあんなモンだって。特に一人で強がっているような人は」
「そうなの?」
「ま、婚期に焦って形振り構わないのかと思ってたけど、この様子なら大丈夫みたい。というか初心過ぎて見てて恥ずかしい」
「最初はもっとグイグイ来てたのにね」
「気が緩んで素がでたんだよ」
僕とおじさんの日常に十八禁ヒーローミッドナイトが加わった。てっきりエルフさんみたいな行動するかと思ってたら、存外彼女は初心でおじさんの前だと借りてきた猫だ。とはいえあれだけ露骨な好意を向けられても気づかないおじさんには心配になる。藤宮が茨ちゃんも誘って女子会開くかと呟いていたのが少し気になった。
えっと、こんな感じで良いですか?