原作改変あり、閲覧注意。
「クハハハ」
裏路地にある看板すら出さぬバー。
そこに在ると知らなければ誰も立ち寄らないそんな場所に一人の青年がいた。
彼の名は死柄木弔。
世界を牛耳った闇の帝王が見出し育てた、とある計画の最重要存在。
世界のためにその命散らしたとあるヒーローの切ない願いの悲しき結末。
自身を救わなかった世界を、平和の象徴オールマイトを心の底より嫌悪し、台無しにしてやりたいと誓う破綻者。
計画、戦力、切り札、内通者、の揃った万全の計画である雄英高校襲撃にしてオールマイト抹殺計画が失敗に終わって以来、不機嫌な日々を過ごしていた彼は現在上機嫌で笑っていた。
先日勧誘し、その際自身を傷付け御高説たれた悪党の先輩であるヒーロー殺しステイン。その本当は逮捕されたのに行方不明扱いな末路が腹の底から愉快な気持ちをこみ上げさせてとまらない。さらに保須に嫌がらせ目的でばら撒いた脳無の活躍もある。雄英高校襲撃時の対オールマイト用の特別製ではないにも関わらずその性能は破格。最強火力を誇るNO2ヒーローエンデヴァーと闇の帝王と交戦経験すらある伝説級古豪のグラントリノの二人が対処するまでは、たった三体でヒーロー集団を造作もなく撃退していたのだ。
アレが作り物でいくらでも増やせるという事実、ヒーローと同数用意できればこちらの勝利は確定だ。テレビや新聞メディアで流れる被害状況という活躍ぶりが彼の罅割れた心を満たすのであった。
「それで、さっき大物ブローカーに紹介されたヤツはなんだったか」
「渡我被身子ですね。連続失血死事件の容疑者にして女子高生、ウチに入りたい理由はお友達が欲しいからだとか」
死柄木弔がバーテンダーのように控えるモヤ顔の存在に尋ねれば、即座に返事が返ってきた。
「意味がわからん。お友達ならネットで募集すれば良いだろうに」
「雄英高校襲撃が魅力的なんでしょうね、襲撃の時にヒーロー科の子達と友達になるつもりなんでしょう」
「可哀想にな雄英生、だがコイツの個性は有用だ。生きやすい世の中になってほしいのは俺も同感だしな」
餓鬼は大嫌いだ、特に頭のおかしい餓鬼は。だが組織拡大は必須だし今は気分が良いから受け入れてやろうと死柄木弔は思うのであった。
「他には殺人犯であるマグネ、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚のムーンフィッシュ、強盗犯のトゥワイスと怪盗のコンプレス、あとはガス使いのマスタードですね」
「宣伝効果は抜群だな。雄英高校襲撃のチンピラとは違う選りすぐり共だ」
「彼らと脳無による林間合宿襲撃。用心のため今までの合宿場所は使われないようですが内通者のおかげで筒抜けですね」
「雄英高校の敷地内ですらお前はゲートを開けるんだ、御用達の合宿所なんか使用できねえよ」
転移個性は基本的に使用者の知らない場所には使用できない。ゆえに合宿所はヴィランが訪れない場所、即ちヒーローの私有地は最適解である。だがそれもあらかじめ場所を知っていれば話は別、行動や活躍が広く拡散されるヒーローの不在時を狙い事前に下準備するなど容易いことだった。
「ま、林間合宿を襲撃しただけで雄英高校の信頼は失墜するからこちらの勝ち。おまけに犠牲者を出せばそれで大勝利だ」
「確か先生からはラグドールのサーチが欲しいと言われてますね」
「ソレと生徒も適当なのを拉致るか。というかUSJの勇者気取りはいらねえのか、魔王が勇者の力を振るうとか良い感じだろ?」
USJ襲撃時での活躍はムカつくものがあるが、それがきっかけで闇の帝王に目をつけられたなら溜飲も下がるというものだ。興味はあった筈だがどうしたのかと死柄木弔は疑問に思った。
「ソチラはやめておくそうですよ」
「なんでだ?便利な個性だろ」
すると黒霧は、件の勇者個性を持つ学生緑谷出久の情報をまとめた調査結果を死柄木弔に差し出す。
「へー、無個性だったヒーロー志望のいじめられっ子か愉快な人生歩んでいたんだな」
その愉快は当人ではなく見ている側の感想であるが、人の不幸は蜜の味を地で行くヴィランならば当然の感想である。愉しげに緑谷出久の来歴を読んでいると、中学三年になってからの例の日の辺りで目が止まった。
「この日のコイツ、運勢最悪だろ」
登校前に巨大ヴィランを目撃、進路の件でクラス内での苛めで机の上爆破。ヘドロヴィランとの遭遇、幼馴染を助けようとして失敗、ヒーローから説教、子供を助けてトラックに轢かれて意識不明の重体。所々抜けてはいるがイベント盛りだくさんな一日だ。
「ええ、さらに苛めは当たり前に行われており実家以外に居場所は無かったとか」
「悲惨だなあ無個性は。つーか先生のいつもの悪趣味じゃねえのかコレ?」
ヴィランにとって無個性に差別意識はない、単にやりやすい獲物というだけだ。
だが闇の帝王なら特に意味も無く遊びで他者の不幸を演出したりするだろう。そんな性格だと彼は認識されていた。
「個性のストックに余裕ないのでいくら先生でもそこまでしませんよ、手駒は足りてますしね」
件の内通者がまさにそれである。
「それで半年後に起きたら個性が生えてたんだろ?発現条件が珍しかっただけじゃねえか」
収奪しない理由にはなると思えないのが正直な感想であった。
「先生のお言葉ですが、こんな境遇でヒーローを目指すなんてありえないそうです。力を得たならまずは報復するものだろうと。ましてや世間に苛めが発覚して公的に復讐が可能でしたしね」
「トラック運ちゃんの悪足掻きだっけか、あったなそんなこと」
差別問題撲滅まで及んだ騒動。緑谷出久がクラスメートに報復したとしても大衆は当然の権利だと咎めることはないだろう。
「そうしなかった理由が勇者という個性になるのだと推測しているのです」
「勇者という個性が人格に影響与えている、ってことか?」
「ええ、でなくば得た力で報復しないわけがないですからね。恐らく緑谷出久は勇者らしい性格に個性発現後に個性によって元の性格を塗りつぶされたのでしょう」
個性が本人の人格に影響を与えることは証明されている。それこそ趣味や嗜好は個性に関連することばかりになるのが普通だ。
「奪ってそうなったら終わりだし、与えても敵が増えるだけ。いらねえな確かに」
無論その推測は彼らの完全な誤解であるが、起こり得る致命的な被害予測にオールフォーワンは勇者という個性を標的から外したのだ。
「まあいいさ、異世界帰りとか名乗ったイカレ野郎もお友達に被害がでたら悔しがるだろうしな」
林間合宿イベントの肝試し、そこにマスタードの毒ガスと精鋭ヴィランに脳無。
とても愉快なことになるだろう。
「ああ愉しみだなあ」
死柄木弔は遠足前のようなウキウキ気分を存分に味わっていた。
これは学生達がショッピングモールにて年相応の楽しい一時を過ごしていた日の出来事である。
木椰区ショッピングモールではA組の子達は楽しい時間を過ごしました。
弔君はステインに話題を独占されないので愉快に引き篭もりです。
ヴィラン連合未加入者達は追々触れます。