「ここがI・アイランドですか」
研究者達の楽園。
海上漂う人工島。
科学者達がその研究と技術の研鑽を存分に打ち込むために作られた、研究者達のための都市。
日々更新される警備システム警備ロボットに守られる海上の要塞。
その鉄壁さは、暮らしやすいタルタロスと謳われる程である。
飛行機と船以外に入る手段の無いその場所に僕はオールマイトと共に訪れていた。
I・アイランドの一大イベントであるI・エキスポに参加するため、そしてオールマイトのアメリカ時代のサイドキックにして研究者として名高いデヴィット・シールド博士に会うために。
オールマイトと共にヴィラン犯罪大国であるアメリカに光を照らした彼だが、その本分はサポートアイテム技師。オールマイトのコスチュームを設計し、数多のサポートアイテムを開発した。その発明に用いられた技術による数え切れないほどの特許を得ていた。その功績はノーベル個性賞を受賞する程だ。
そんな現代の偉人である彼と会う。
オールマイトが自身の秘密を打ち明け、僕という後継者を紹介するために。
「いやーデイブに会うのは久しぶりだから楽しみだよ」
一大イベントを前にして人に溢れる空港を抜けて、オールマイトは呑気にそんな事を言っていた。
ちなみに今の格好はヒーローコスチューム。異世界でのおじさんの服を緑に染めて、マフラーはグラントリノと同じ黄色だ。フルフェイスのヘルメットは邪魔だから空間魔法で収納している。
「じゃあちょっと離れますね」
「えっ?」
周囲の、一般人なのにI・エキスポに訪れるほどにヒーローファンな人達にオールマイトが気づかれた。そうなればこれから起こることは明白なため僕はオールマイトを置いてその場から飛び退いた。
取り囲もうとする集団から逃げるのは異世界生活で慣れているのだから。
「いやー、えらい目にあったよ」
有名人だからこそやらざるをえないファンサービス。取り囲まれ抱きつかれ話しかけられサインを強請られほおにキスまでされている。日本でもよく見る光景だがキスマークをつける程の接触はI・アイランドが使用言語は日本語だが価値観はアメリカだからなのかも知れない。その手の接触は個性の発動条件ではないかと内心警戒もしていたが、どうやらその心配は無さそうだ。
「流石はオールマイトですね」
他にも有名ヒーローは居たのだがオールマイトが一番騒がれていた、そのトップヒーロー自身もオールマイトに駆け寄っていたくらいだ。功績もそうだが、ヒーローとしての圧倒的キャリアにより彼を見てヒーローを志しトップヒーローになった者も少なくないのだから。
落ち着いた川辺、約束した人物との待ち合わせの場所で僕はオールマイトと共に一息ついていた。
「なーにヒーローとしての嗜みだよ」
フキフキとキスマークを拭いながら言う。
ヒーローによってファンの反応は異なるが、オールマイトは親しみやすいタイプのおおらかなヒーロー。エンデヴァーではこうはならないだろう。
「それで約束の相手とは?」
「メリッサ・シールド。君より一個上の歳で、我が友デヴィット・シールドの一人娘にしてI・アイランドで研究室を構えている才女だよ。私にとっても姪っ子みたいな存在かな」
「とんでもない人ですね」
この海上都市は研究者達の街。
彼らの家族も住んでいるから全員が才人というわけではないが、その歳で研究室をもてるとは尋常ではない。
「父のようなサポートアイテム技師になると頑張っている娘だよ。うん緑谷少年も作ってもらったら良い」
「サポートアイテ厶ですか」
サポートアイテムの用途は様々だ。
出力増大、反動の軽減、攻撃手段や手数の増加、身を守る防具。例外を除き一つきりの個性しかないヒーローにおいて戦術、活動の幅を広げることのできる物だが。
「必要ですかね?僕に」
死ななければなんとかなる、怪我しても治せば良いのだから。
「そういった所をなんとかして欲しいのだけどね、いや私が言うなって話しだけどさ」
内臓を摘出してなお現役やってますからねオールマイトは。実はサー・ナイトアイからオールマイトの治療のためにもデヴィット博士との繋ぎはとってくれと秘密裏に頼まれている。オールマイトの再生治療には、彼の協力もあれば万全だろうとサー・ナイトアイは言っていたからだ。
(内臓を古傷ごと吹き飛ばして神聖魔法で再創造するだけだから大丈夫だろう)
もの凄く痛いけどそれだけだ。
「なんか寒気するけど、どうしたんだろ?」
嫌な予感にオールマイトが身を震わせていると、ピョーンピョーンと軽妙な音が近づいてきた。
「魔獣かな?」
「とりあえず光剣だすの止めて緑谷少年」
初手必殺な魔獣もいたから違和感には過剰に反応してしまうのです。
音のした方向にはホッピングを巧みに操り乗りこなす金髪の少女がいた。
「おじさまー!」
なるほど彼女が。オールマイトにとって姪っ子のような存在らしいけど、彼女にとってもオールマイトは叔父のような存在なのだろう。
胸に飛び込みハグというアメリカンなコミュニケーションに文化の差を感じる。中世ヨーロッパみたいなグランバハマルもそんな感じだったけど、僕に向けられたのは武器か網か鎖か薬だったなあ。
久しぶりの再会に成長を喜ぶ二人を見ながら、グランバハマルを思い出して鬱な気分へとなる。
「ああ、緑谷少年。彼女がさっき言った、ってまた目が死んでいるよ少年?!」
「いつものことなのでお気になさらず」
「気になるよっ?!」
「メリッサ・シールドですはじめまして」
「はじめまして、雄英高校ヒーロー科一年、緑谷出久といいます」
にこりと人懐っこい笑みを浮かべて手を差し出す彼女に僕も笑顔で返した。
「君があの、」
僕の名前に思い当たるものがあるのか、口に手を当ててメリッサさんは驚いていた。
どんだけ広まってんだあの事件、いや体育祭の方かな?やはりゴールデンアッ○スの下突きは有名だったか。
「さあ、そろそろ行こうじゃないか」
僕を見て固まる彼女を促すようにオールマイトは声をかけた。
「ファンなんです、サイン下さい!!」
硬直からとけた彼女は、どこからか取り出した色紙とペンを突き出してそう叫ぶのだった。
どうやら彼女は、体育祭での活躍から僕に興味を持ち色々と調べたとか。それでヘドロヴィランの件やら無個性のことまで熟知してるそうだ。
さらにオールマイトも僕について彼女に熱く語ったらしく、一度会って見たかったとのこと。
初見ではまさかと思い、名前を聞いて反応してしまったそうだ。
突き刺さるような彼女の熱い視線にさらされながら博士の研究室へと向かった。
「姪っ子を取られた気分だよ」
その後ろでオールマイトが寂しさを滲ませながら呟いていたそうな。