異世界イズク   作:規律式足

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50話 二人の英雄2

 

 僕のファンだというメリッサさんに腕を引かれながら目的地であるデヴィット博士の研究室へと向かう。

 その反対の手には宝物のように僕の拙いサインの書かれた色紙が握られていた。

 ゴールデンアッ○スのファンではなく、ヒーローを目指す僕のファンだと言う彼女。

 オールマイトから聞いたヘドロヴィランの時の行動と体育祭での活躍からファンになったのだとか。

 移動中に、でっち上げである勇者という個性は他に何ができるのかとキラキラした眼差しで尋ねてきたりしたのでボロが出ないよう適当に誤魔化す必要があった。

 そして到着した研究室。

 どこか憂いのある表情で携帯を眺めるデヴィット博士の姿、そんな彼を驚かせるようにオールマイトを招待したのだとメリッサさんは告げた。

 前々から話しはしたがっていたようだが今日招かれたのはデヴィット博士の研究が一段落したお祝いだったようだ。

 友人との再会にテンション高く接するオールマイト。エンデヴァーなどの同郷のヒーローとはどこか壁というか距離があることを気にして寂しそうにしていたから余計に嬉しいのだろう(エンデヴァーは敵愾心、他のヒーローは基本的に偉人扱いのため、例外として相澤先生は自分を棚に上げてダメ人間扱いしている)。

 

「緑谷少年、紹介しよう。私の親友、デヴィット・シールドだ」

 

「はじめまして緑谷出久です。オールマイトを支えた稀代の発明家にお会いできて光栄です」

 

 オールマイトのファンとして基本的な知識は身につけている。平和の象徴と謳われる以前、若きオールマイトの活躍に彼のサポートは欠かせないものだった。

 

「紹介の必要はないようだね」

 

 好意的に笑ってくれる彼は流石オールマイトの相棒なのだろう。

 

「コホ、コホ」  

 

 些かわざとらしいオールマイトの咳。回復の呪符により根本的ではなくとも負担は軽減されているが、デヴィット博士と内密な話しをするための人払いの意図があるのだろう。

 

「オールマイトとは久しぶりの再会だ。すまないが積もる話をさせてくれないか」

 

 回復の呪符の存在を知らなくとも流石は元相棒なのかデヴィット博士はオールマイトの意図を正確に察したようだ。

 

「メリッサ、ミドリヤ君にI・エキスポを案内してあげなさい。憧れの彼とデートできる機会だしね」

 

「もうパパったら」

 

 うん、アメリカン(偏見)なやり取りだね。

 

「サム、君ももう休んでくれ」

 

 人払いが済んだ後に彼らは話すのだろう、オールマイトの秘密とこれからの事を。できれば僕も同席したかったが親友同士だけの方が伝えやすいか。

 ふとサー・ナイトアイがこの場にいたらどんな反応するか気になった。自分こそがオールマイトの相棒であるといって憚らない彼はかつての相棒と接するオールマイトを見てどんな風になるのかを。

 軽く想像してみたら大○越前裁きのようにオッサン二人に両手を引っ張られて泣き叫ぶオールマイトの姿が目に浮かんだ。うん、修羅場だ。

 脳内でオールマイトが真っ二つになったところで、エキスポ会場に辿り着いた。

 とても人工の島とは思えない光景。

 おじさんとグランバハマルで巨大亀の甲羅を冒険したことを思い出す。

 

「凄いね」

 

 自然に出来たものは凄い、けど自ら作り上げる技術と熱意もそれに劣らないくらい凄い。

 

「大都市にある施設はひととおり揃ってるわ。できないのは旅行くらいね」

 

 情報漏洩を防ぐため家族ごと囲い込む。莫大な利益と危険を生む最新技術とそれを生み出す科学者の身を守るためにはこれ程の対応が必要なのだろう。ましてや優れたサポートアイテムは凡百の個性を超える攻撃力があるのだから。

 周囲を見渡せば普段お目にかかれない各国のヒーロー達がいる。中には熱心にファンサービスをする人物もいるほどだ。

 

「最新アイテムの実演会とか、サイン会、いろいろ催しがあるみたい」

 

「ヒーロー科学生は一度は参加すべきと言われるだけあるね。体育祭優勝者にチケットが贈られるわけだよ」

 

 ヒーロー社会の最先端に触れる良い機会なのは間違いないからだろう。

 ちなみに僕の招待チケットは巡り巡って体育祭ベスト8に残った塩崎さんに渡り、仲の良い麗日さんとともに来るそうだ。A組の皆もそれぞれの手段で参加するのだとか。なおB組の生徒達は体育祭上位がほぼA組に占められたため林間合宿とは別にブラドキングによる特別訓練をしているらしい。

 

「あ、イズク。あそこのパビリオンもおすすめよ」

 

 当たり前のように腕を絡ませ、いつの間にか名前呼び。これが外国の人との文化の差か。

 ガラス張りのサッカーのスタジアムのようなパビリオンに入ると、広い建物内にさまざまなヒーローアイテムが展示されている。

 

「最新のヒーローアイテムがこんなに」

 

「イズク見て見て!この多目的ゴーグル、飛行能力はもとより、水中行動も可能なの!」

 

 高速移動が基本な僕にとってゴーグルは必須アイテム。ヘルメットに同様な機能がついてはいるが勉強になるな。

 流石はI・アイランドのアカデミーに通う才女。自分の父であるデヴィット博士の特許が元で作られているからという理由もあるだろうが、わかりやすく詳しく解説してくれる。

 

「本当に技術を生み出す人は凄い。目の前の敵を斬り伏せることしかできない僕と違って、生み出した物で世界中の人々を助けられる」

 

 役割が違うのは理解できる。

 だが、こうも輝かしい成果を見てしまうと自らの小ささを思い知らされてしまうものだ。

 

「確かにそうかも知れないけど、それだって立ち向かってくれるヒーローがいてくれるからこそだよ」

 

 歩む道は違うが自分の夢にまっすぐ進んでいることに変わりない、だからこそお互いを尊重しあえるのだろう。

 

「楽しそうやね、イズク君」

 

「ええ普段とは違う勇者様です」

 

 そんな風に話していると横から聞き慣れた声がした。

 そこにいたのは麗日さんと塩崎さんだった。

 なぜか麗日さんは笑顔でありつつもどこか平坦な様子で、塩崎さんは彫像のような無表情だった。

 

「楽しそうやね」

 

「ええ私と話す時より会話が弾んでいました」

 

 なんだろう、この気まずさ。別に何も悪いことをしていない筈なのに、今すぐ二人に土下座して詫びろと僕に刻まれた日本人の大和魂が叫んでいるっ!!

 理解不能な衝動に固まっていると「コホン」と咳払いが聞こえた。振り返った先には、どこか悲しげな八百万さんがいた。

 

「とっても楽しそうでしたわ」

 

(僕が悪いの!? 教えておじさん!!)

 

 一番頼りにならない人物に助けを求めた気がするが、この状況はひどく落ち着かない。こんな時こそシリアスブレイカーな我が幼馴染かっちゃんの出番なのだが、肝心な時には決まって不在なのだあのボンバーマンは。

 

「緑谷、聞いちゃった」

 

 八百万さんの横でただ一人面白そうにニヤニヤしている耳郎さんが個性であるイヤホンジャックをユラユラと操りながら言う。

 

「お友達?」

 

「学校のクラスメイトと」

 

「従者です」

 

 メリッサさんに説明しようとすればすかさず塩崎さんが答えた。

 

「あー、僕はメリッサさんに会場の案内をしてもらっているだけで」

 

「オールマイトのお供だったのでは?」

 

 ズイと塩崎さんが身を乗り出して聞いてくる。

 

「いや、だからね」

 

「なぜオールマイトとこのような奇麗な方が入れ替わるのですか?」

 

 いつも以上に押しが強いよお。

 泣きそうになりながら彼女達の威圧感に何も言えなくなっていると、

 

「よかったらカフェでお茶しません?」

 

 メリッサさんの取りなしでその場は仕切りなおしとなった。

 誰か助けてー、敬文さーん。

 

「(緑谷君、リアルは、現実はバッドで陰鬱なものだよ)」

 

 助けを求めるように見上げた人工島の空に、爽やかに闇深いことを言う敬文さんの姿が見えた気がしたのだった。

 

 


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