異世界イズク   作:規律式足

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52話 二人の英雄4 とおじさん

 

「「「ミッドナイト先生っ?!」」」

 

 おじさんの活躍に叫ぶヒーローにして教師である彼女に同性である生徒達が驚きの声を上げる。

 その声に気づいた彼女はギギギと錆びたブリキの人形のようにゆっくりと首をこちらに向ける。

 

「ど、どなたのことかしら?そんなヒーロー界一の美女と間違われるのは光栄だけど、私はただの休暇で訪れただけの美人女教師よ」

 

 この人自分を二重で美女って言ってる。

 

「アレ?出久君、こんなトコで奇遇だね」

 

「おじさんっ!!」

 

 生徒達に問い詰められるもしらばっくれるミッドナイト先生。そして僕に気づいて駆け寄るおじさん。

 

「この子達は友達かい?」

 

「はい、塩崎さんはお会いしたことありますが他の皆とははじめてですね(皆は記憶再生でおじさんを見たけど)」

 

(この人が緑谷より強い存在)

 

(緑谷君の命の恩人か)

 

(とてもそうは見えないけど)

 

(やべえどうにかして逃げねえと)

 

 と様々な感想を抱いている中でおじさんは一度ゴホンと息を吐いて、

 

「ドモドモ、チャンネル異世界おじさんのおじさんデース」

 

「初対面の方には毎回やるのですかオジサマ」

 

「何気に動画投稿者であることにプロ意識と誇りを持っているみたいだから」

 

「陽介さん素敵♡」

 

 いつものおじさんの挨拶に、かつて自分もされた塩崎さんが呟き僕もそれに返す。

 

「「「「知らない」」」」

 

 ガガガガンっ!!とそんな効果音がするように皆の素直な反応に衝撃を受けるおじさん。耳郎さんなら音楽関係の動画は見るだろうけど、轟君飯田君麗日さん相手なら仕方ない反応だと思うよ。

 

「あ、私知ってます!!どんな個性ならあの動画を出来るのかって考えながら見てます!!」

 

 されど捨てる神あれば拾う神あり、ここにメリッサ・シールドという神はいたのです。ちなみに僕はエルフさんの姿が出るのでおじさんのチャンネルを見ない。偽物だと分かっていても怖いもんは怖いのだ。

 

「特にパン○ァードラグーンツヴァイ劇中の創作言語を翻訳してみたっ!! なんて他の回と個性がどう関連しているのかまるで分からなくて」

 

 ああ敬文さんから聞いたワイルドトーカーの検証を兼ねた動画だっけ?おじさんが目隠ししてゲームを日本語訳する回。けどさメリッサさん、ソレ個性でも能力でもなくただの暗誦だから。

 いつぞやのように自分のチャンネルを皆に紹介しだすおじさんの姿を見ながら、僕もミッドナイト改め香山睡さんに声をかける(プライベート時のヒーローネーム呼びは失礼)。

 

「それでどうしてI・アイランドに?確かに雄英高校教師ほどのヒーローなら招待されてもおかしくないですが」

 

「流石にプロでもビルボードチャート上位じゃない個人ヒーローにまでは贈られないわよ、陽介さんが商店街の福引の特賞を引き当てたのよ」

 

 なんでも近所の商店街の会長がかつてヒーロー関係者だったため毎年招待状が贈られていたのだが、今年は腰が痛くてこれなかったそうだ。身内も多忙で転売もできないから福引の景品として提供したらしい。

 

「それは大当たりでしたね」

 

 当てようとして当たるものではないでしょうし。

 

「いやー、それがそうでもなくてね」

 

 と香山さんが気まずそうに目元に触れながら言えば。

 

「8等の、8等の、メ○ドライブ周辺機器フルセット(中古品)が欲しかったよ、欲しかったんだ!!」

 

 話を聞いていたおじさんがその時のショックを思い出して地面に右手を叩きつけて叫んでいた。あ、おじさん的にはハズレだったんですね特賞。ちなみにどうでもいい話だがその福引の1等は近海マグロ丸々一匹だったらしい、どんな商店街だ。

 

「ねえ緑谷、これが尊敬する人なの?」

 

「失礼やけど変なおじさんにしか見えんよ」

 

「本当に強いのか?」

 

 皆の疑問は当然だ、おじさんの凄さは実際に見ないと分からないからなあ。

 

「まあおじさんが変なおじさんなのは揺るぎない事実だけど、凄い時は凄いんだ」

 

 凄い時は大抵ピンチの時だからあんまり凄くなって欲しくないけどね。

 すっかり皆のおじさんの印象が変なおじさんで固定しそうなのは複雑な気分になるけど、それは今度記憶再生してなんとかしよう。

 ひととおり話が終わったら、女性陣が香山さんとおじさんの関係を聞きたくて仕方ないとばかりにウズウズしていたのでそちらには興味が無い男子勢と一旦別れることとなった。

 

「関係って、お隣さんのセガ友達だよ?」

 

 とおじさんが不思議そうに真顔で言ったのだけど、緑谷のお世話になった人だから鈍感だよねと失礼な反応をされた。グランバハマルであの三人の気持ちにまるで気づかないおじさんと一緒にしないで欲しいものだ。

 

 

 

「それで何が聞きたいのよアンタ達」

 

 あーあこんなタイミングで会うなんてとガックリとした気分になる。敬文君達が気を利かせてくれた二人きりの旅行、別に他の男と経験がないわけではないがここまで胸が高鳴るのははじめてのことだった。そのせいで手すら握れないくらい緊張してたので、一旦離れられてホッとしている自分も居るが。

 

「ズバリあの方との関係は?」

 

 芦戸ちゃんと葉隠ちゃんが居ないのが幸いね。事情を知っている塩崎ちゃんに、スタイルに反して経験の無い八百万ちゃん、照れ屋な耳郎ちゃんと初心な麗日ちゃんならそこまで追求されないでしょ(メリッサちゃんは向こう)。

 

「片思いの相手」

 

「「「キャー!!」」」

 

 ふん、この程度陽介さんさえいなければいくらでも言えるわ。

 

「どんな所がお好きに?」

 

「二人の出会いは?」

 

「ぶっちゃけ趣味悪いですね」

 

「今度パンケーキの作り方を教えて下さい」

 

「理想の相手の条件を満たしていて関わりをもったら夢中になってたわ、強いて言うなら包容力ね。体育祭で見つけたわ、動画でも知ってはいたけど。おだまり、アンタも恋すれば分かるわ。良いわ今度藤宮さん誘って一緒に作りましょう」

 

 追求といってもマスコミに比べたらかわいいもの、特に不快にもならずに答えることができる。まあこの娘達の行動が生の恋愛に憧れを抱いているからってのもあるのよね。

 

「しかし意外でしたミッドナイト先生ならもっとこう積極的なものとばかり」

 

「どちらかといえば一歩引いとったね」

 

「おじさんの一挙一動に注目してたみたいだけど」

 

「普段からこんな感じですよ睡さんは」

 

 好き放題吐かす小娘共に私はアドバイスするように告げる。

 

「本当に好きになると嫌われたくないという気持ちが前面にでて過激なことなんてできなくなるわよ。特に三十路を超えるとね」

 

 陽介さんの異世界での生活を知れば知るほどそう思ってしまう。あんなに奇麗な人達に好かれても相手にしてなかったのに自分で大丈夫なのかと不安になるのだ。

 

「「「ミッドナイト先生が駄目とかどんだけなんだろう」」」

 

 今の立ち位置でも良い関係なのよね。

 

「ところで気になっていたのですが」

 

「どうしたの塩崎ちゃん?」

 

「泊まるホテルは同じ部屋ですか?」

 

「そ、それはまだ早いかなーって」

 

 私は人差し指どうしツンツンと合わせながら頬を赤らめて顔を逸らすのだった。

 

「「「せっかくのチャンスだというのに途端にヘタレたあっ!!」」」

 

 うっさいわね、心の準備ってのがあるのよ。

 

 

 

 ミッドナイトの追求を終えた女性陣とも合流して閉園時間までI・エキスポを堪能した。

 レセプションパーティーにも参加するため一旦ホテルで正装に着替える必要があるのだがその前に労働に勤しんでいた上鳴君と峰田君にメリッサさんが用意してくれた招待状を渡す。I・エキスポでのバイト期間は多忙になること間違いなしなのでその前にせめて今日くらいはということだ。

 

「「俺達の労働は報われたあ!!」」

 

 と抱き合う二人だが、まだまだこれからだということは忘れないでほしい。

 飯田君がテキパキと委員長らしく仕切り、その場は解散された。

 

「イズク、ちょっと私につき合ってもらえないかな?」

 

 

 

「ここが私の通うアカデミーの校舎。そしてここが私が使っている研究室。散らかっててごめんね」

 

 たくさんの資料と本格的な実験機械、テーブルの上には実験器具やノートが散乱している。それだけではなく資料棚には彼女の功績を示すたくさんのトロフィーや盾まで置かれていた。彼女がガサゴソと何かを探す間に僕はそれらを眺めていた。

 

「実はね、私、そんなに成績良くなかったの。だから一生懸命勉強したわ。どうしてもヒーローになりたかったから」

 

 彼女の語る自身の過去。それはどこかかつての自分に似ていた。

 

「プロヒーローに?」

 

「ううん、それはすぐにあきらめた。だって私、無個性だし」

 

「そっか」

 

 彼女は僕と同じだった。

 だが違うのは彼女は別の目標を見つけることができ、たった一年しか違わないのにここまで出来た。それに比べて僕はほんの一年前、命が関わる事態になってはじめて本気で力を求めたのだ。

 

「凄いなあ」

 

 父という目標があったとしても、オールマイトというヒーローが伯父のように親しくともここまで至れた彼女には感嘆しかない。

 

「そうでもないよ、パパみたくヒーローを助ける存在になって平和のために何かしたいと思っただけだから。けどね」

 

 彼女は見つけてきた箱をテーブルの上に置き、蓋を開ける。そこに入っていたのは、上部にボタンのついた細いベルトのようなものだった。

 

「同じ無個性なのに、誰よりもヒーローだった貴方がいた。ニュースで取り上げられて知ったわ、盛り上がってたのは差別とかそっちの方だったけど無個性の話だから無関心ではいられなかった」

 

 I・アイランドに知られるくらいの大騒動だったのか、あの事件。

 

「オジサマなら何か知っているのではないかと連絡したら貴方がどれくらいヒーローだったのか教えてくれた。だから私は貴方のファンなの」

 

 そんな経緯が。

 

「そんな貴方だからこそ使ってほしい、光の剣を振るう貴方には必要のない物かも知れないけど。今の私の技術の結晶であるフルガントレットを」

 

 伝えられる性能、それは奥の手であるセカンドの個性である変速を活かすにはピッタリであった。

 

「あの日のように、困っている人達を助けられる素敵なヒーローになってね」

 

 笑みとともに伝わってくる彼女のエール。

 その思いに応えなければと身が引き締まる気持ちとなった。

 

 

 

「サム、例の計画は中止にしてくれ。もう必要なくなった」

 

 オールマイトと二人になった時に語られた個性の真実。なるほどそれなら個性数値が急激に下がるわけだ。今まで秘密にされていたことはショックではあるが、オールマイトやサー・ナイトアイとは違い家族のいる私を巻き込みたくないと思われても仕方のないことだった。

 

「後継者、新たな光か」

 

 親友の見出した次代。

 その実力は体育祭で知ってはいる。だけどオールマイトの代わりになるとは正直思えない。

 ましてや全盛期の頃よりも強いかもしれないと、笑いながら言われてもあの黄金期を駆け抜けた私が信じられるわけがなかった。

 さらに日本にはそれ以上の存在が一般人に居るだなんて。

 緑谷出久の経歴は知っていた、愛娘がファンになったから調べたのだ。だが彼が受け継ぐくらいならメリッサか、それこそスターアンドストライプでいいじゃないかと正直思うのだ。彼の強さが半年間での異世界生活という眉唾な話だから余計に。

 

「けど君が決めたことだしね」

 

 不満はある。

 けど否定するような浅い付き合いではない。

 緑谷出久についてはこれから知っていけば良い、なにせ彼はオールマイトと出会った時よりも若いのだから。

 それに異世界については信じ難いが証明してくれる手段はあるらしいし、そちらを見てから判断しよう。

 個性増幅装置、オールマイトの光を取り戻すための発明。だがオールマイトが使わないのであれば画期的であっても危険な発明だ。

 立案に準備までさせてしまったサムには申し訳ないがなんとか償わないといけないな。

 まあ色々とやることは出来たが親友と腹を割って話せたのは良かった、これもサプライズでトシを呼んでくれたメリッサの優しさのおかげだなと思う。

 

「さてレセプションパーティーの準備と、礼服は何処だったか」

 

 研究者である自分には何度着ても着慣れないが、美しく着飾る愛娘に恥ずかしくない格好でいないとね。

 

 

 デヴィット・シールドは親友との語り合いにより企んでいた計画を中止にした。

 あくまで親友のための装置だからこそ、親友が必要ないのなら止めることが出来たのだ。

 だが彼は知らない。

 それで止まれない程に助手は追い詰められていたことと、最初から利用する気でしかなかったヴィランの思惑を。

 

 尤もそんな彼らも知ることはない。

 そんな理不尽な欲望を容易く跳ね除ける最強のイレギュラーがこの島に降臨しているその不条理な事実を。

 

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