異世界イズク   作:規律式足

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 オリ設定有ります。 
 かなり誰得な人の掘り下げです。



54話 二人の英雄6 とおじさん

 

「なんのつもりだいサム?」

 

 保管室にてカタカタとキーボードを叩く音だけが響く。この場所に保管という形の実質封印されてしまった研究成果を取り出すためだ。

 つい先程までは待ち望んでいた展開。

 必要なくなった計画は、予定通りに順調に進行してしまった。

 だからこそデヴィット・シールドは数年間共に過ごした信頼する助手に問う。各国政府による圧力により中止に追いやられた研究、未来を閉ざされたラボの最後の一人となった彼に。

 いつもにこやかに笑っていた温和な彼は、今は無表情でプロテクト解除に集中していた。

 

「なんでこの研究なんですか?」

 

「サム」

 

「尊敬する貴方と共に研究し、ようやく形になった成果。それをなんで取り上げられないといけないんですか?」

 

 うわ言のように彼は呟いていた。

 

「再び社会が混沌と化す?こんな隔離空間を用意しなければ研究者がまともに研究すら出来ない世界が平和なわけがない。現在の権力者共が、自分の任期中の穏やかな時勢を維持したいだけだろうに」

 

 無表情なまま、声に怨嗟を込めて呟く。

 サムは知っていた。

 デヴィット・シールドという偉人の助手だからこそ知っていた。

 デヴィット・シールド程に世界の未来を憂う存在ですら他者の利権のせいで思い通りに生きられないことを。この世界の平穏がハリボテで覆われた見せかけだけに過ぎないことを。そう、オールマイトという一個人が引退するだけで崩れてしまう脆い社会だと。

 

「博士のこの研究をヴィランに渡します。そしてヴィランの下で私がコレを広めます」

 

 だからこそ壊す、今の世界を。

 権力者が懸念する混沌にしてみせる。

 壊した先には彼が、デヴィット・シールドが求められる世界があるのだから。助手であったサムの創る半端な模造品よりも素晴らしい完成品が彼の手によって必ず創り出され、ヒーロー達の手に届けられるだろう。

 その時になってようやく、サムがデヴィット・シールドの助手をしていた時間に意味が生まれる。

 

「サム、君は」

 

「無かったことにされたくなかったんです。意味がなくなるのが嫌だったんです」

 

 尊敬する人と共に研究していた、あの夢のような時間。ソレを否定されることだけはサムはどうしても受け入れることができなかったのだ。

 プロテクトが解除された音が空虚な空間に響いた。壁から迫り出してきたボックス、サムはそこからアタッシュケースを取り出し抱えこむ。

 

「これは私がヴィランに渡します、博士はどうかこのままお逃げください。被害者として保護されてください」

 

 首謀者であるヴィランのウォルフラムは強欲にして冷酷、その上で計算高い男である。

 僅かな接触でソレを悟っていたサムは此処で尊敬する人と別れることにした、これから二度と会うことが叶わなくなるだろうと理解していても。

 

「下で騒動が起きてヴィラン共が動きだしています、警備システムを掌握していられる内に側近を引き連れてウォルフラムはI・アイランドを脱出するでしょう」

 

 下の階の部下を捨て駒にすることをウォルフラムは躊躇わない。その非情さがあったからこそこれまでヴィランとして活動できてきたのだ。

 

「博士、どうかこれからも光輝く道を歩んでいってください」

 

 別れとなる言葉を口にしたサムはどこか清々しくありながらも泣いているようにも見えた。

 

「いいや、そいつはこれからヴィランの闇に落ちていくのさ」

 

 パンッパンッと銃声が鳴り響く。

 

「必要なのはテメェじゃなくて博士の方でな」

 

 カツンカツンと音をたてて首謀者であるウォルフラムはデヴィット博士に迫りくる。

 

「は、博士、お、お逃げを」

 

 銃弾を受けたサムは腹部から血を流し床に崩れ落ちながらも呟く。

 

「俺らを良いように使う気たあ、そいつはいけねえな。ヴィランは舐めちゃいけないってパパかママに教わらなかったか?」

 

「う、うるさい。力をより良く使おうとも思えない低能な犯罪者風情が」

 

「挑発して自分に意識を集中させ博士を逃がそうってか?大した忠臣ぶりだな。けどよ頭でっかちな研究者はいつだって力ある者の食い物なんだよ」

 

 ウォルフラムは助手であるサムが撃たれた衝撃から硬直していたデヴィット博士の首の後ろを銃のグリップで殴り気絶させる。 

 

「惨めに死んでいけ、それが俺達を利用しようとした罰だ」

 

 複数の銃弾により即死こそしてないが致命傷の重体。流れる血の量からしてそう長くは生きられない。

 

「博士、すいません」

 

 口から溢れる血を吐きながらサムはウォルフラムに抱えられた博士に謝罪する。こんなつもりではなかったと後悔の念に呑まれながら。

 

 これはメリッサを背負った緑谷出久が到着する僅か数分前の出来事である。

 

 

 

 時間は暫し遡る。

 爆豪勝己の指示により役割分担をした雄英高校生達はその役目を果たしていた。

 爆豪勝己を筆頭とした囮チームは非常階段を駆け上り途中でフロアに続く非常用のドアを開いた。隔壁によりこれ以上直進ができなくなった以上、ここで目立ちヴィランを引き付ける。

 

「行け」

 

「うん」

 

 かつては色々と語り尽くせないアレコレがあった幼馴染二人。だがこういった時に誰よりも頼りになる存在であるとお互いに理解していた。だから言葉は少なくとも充分だった。

 そんな二人の間柄を羨ましいと思い、戦友でありたい轟と飯田は、未だ力足りぬ自分に奮起するのであった。

 女性陣と峰田と上鳴は動きにくい格好とスタミナの理由でパーティー会場近くに身を潜めている。耳郎が周囲を知覚していればすぐに動き出すことが可能だろう。

 恐らくそう時間が掛からないうちにヴィランがこの場に来る。雄英高校一年トップクラスの戦闘力を誇る三人は近づいてくる決戦に戦意を滾らせるのであった。

 

 

 

「この道で大丈夫だよね?」

 

「うん、あと少し」

 

 同世代の女性を背負っていても緑谷出久は乗用車に劣らぬ速度で走っている。ワンフォーオールの身体能力強化と精霊による二重の強化の前にこの程度の重みは負荷とならない。そして何より、おじさんを背負ってエルフから逃げまくったグランバハマルの日々による経験により緑谷出久はこういった状態に慣れきっていた。

 

「ねえ、イズク。さっき話題にでた魔法って、貴方の個性の力なの?」

 

 向かう先で起こるであろう戦闘、その不安を紛らわせるためなのかメリッサは問いかける。会話からしたらどうにも妙に感じたからだ。

 その問いかけに緑谷出久はどう答えたものかと暫し悩むもまあいいかと正直に真実を告げる。

 

「いいや、僕の力は全てが個性じゃない。僕が使う魔法は異世界グランバハマルで身につけた力だよ」

 

 どちらにせよ、オールマイトの盟友デヴィット・シールドには全て明かすつもりなのだ、ならばメリッサに教えるのも遅かれ早かれだろう。

 

「異世界?そんなフィクションみたいな話」

 

 いやこの島そのものだって傍から見たらそんな感じなんだけどと緑谷出久は思った。

 架空と現実との境など、隣り合わせと思うほどにごく近しいのもだと彼は誰よりも実感していた。

 

「見せた方が早いか、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 ブンと立体映像のような画面が現れそこには、

 

『あのね、イズク君。君にお願』

 

(ヤベ)

 

 映し出されたのは月下に映える女神の如く美しい女性。その記憶は夜空の下憧れの人と二人きりで話したあの日の出来事だった。軽い気持ちで適当に再生した記憶はよりによって緑谷出久のグランバハマル生活最大のトラウマだったため慌てて消した。あと少しでも再生したら間違い無く血を吐いて崩れ落ちていただろう。

 緑谷出久がホッと一息ついたら、肩に顔を乗せているメリッサが心胆が凍るような冷たい声をだしていた。

 

「ダレ?イマノヒト」

 

 その表情は能面が如し。

 

「異世界でお世話になった勇者様です」

 

 メリッサ・シールドは父の関係から富裕層とも顔を合わせることが多い。その付き合いの中にはトップモデルなどの絶世の美女もいたが、彼女らすら足元にも及ばない美女と緑谷出久が個人的な付き合いがあった事実が未だかつて無い激情をメリッサの心に抱かせていた。

 

「まあ、また今度ね」

 

 彼にとってあまり思い出したくない事なのだがこのままでは収まらないだろうから約束をしておく。彼女の緊張をほぐすためのことで行動不能になるわけにはいかないのだ。

 

「あ、ごめんなさい私ったら」

 

 そのことを彼女も思い出し、とりあえず二人とも落ち着いたようだ。

 

「けど約束よ。今の人のこと必ず教えてね」

 

 ドレス姿の可愛らしい上目遣い、男なら誰でも魅了されるであろう破壊力があるのだが、その目の奥の絶対に揺るがない感情に緑谷出久は息をのむのであった。

 

 そうして駆け抜けた先、制御ルーム前の開け放たれた保管室にて彼らは血にまみれ床に倒れ伏すサムを発見することになる。

 

 





 凄い今更ですが、休日の投稿は時間がランダムなります。書けたら上げる感じですね。
 現状、平日は前の日の夜書いた続きを仕事前に書き上げて投稿しています。
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