「サムさんっ!!」
腹部から血を流し倒れ伏す彼にメリッサさんが慌てて駆け寄る。
「うう、博士を助け」
僕も即座に彼を救うために回復魔法を発動する。血を多量に流してる場合は傷口を塞いでも輸血しなければ失血死する恐れがあるが、治療というより物質の創造に近い神聖魔法ならば問題はない。一応罠かと警戒もしていたが、傷の具合と彼の様子から大丈夫なようだ。
「サム、しっかりしてっ?!」
「お嬢様、ご無事でしたか。私はいいから博士を。デヴィット博士をお助けください」
ヴィランに人質として連れていかれた二人。その知識と技術から博士の方を優先されたのか。
「でも、サムを放ってはおけないわ?!」
「いいのです、この事件は私のせいなのですから。私のようなヴィランはこのまま死なせてください」
タルタロスと同等とされる堅固さを誇るI・アイランドへの侵入。それは内部から手引きした者がいたから可能だったのか。
「なんでそんなことを」
罪の告白にショックを受けるメリッサさん。
「私は、あの偉大な研究が封印されることに耐えられなかったのです。博士との日々が無くなることにたえきれなかったのです」
だから罪人として死なせてくれとサムは告げる。そしてサムのこの発言から僕は、今回の襲撃事件がデヴィット博士も関与しているのだと理解してしまった。だから彼は全ての罪を背負って死のうとしているのだと。
「貴方達に何があったかは分かりません。それでも僕は人として貴方を救います」
それでも僕のやることは変わらない。
「何が真実であろうと、貴方はデヴィット博士ともう一度話さないといけないんだ」
分かり合えないまま終わるということが、どれだけ悲しいのか僕は知っているのだから。
「すいません、すいません、博士、お嬢様、すいません。私は、私は」
「サム」
「行こう、メリッサさん」
傷は完全に治した、もう彼が死ぬことはない。
本当なら拘束しなければならないだろうけど、泣きじゃくりながら謝り続ける彼をどうこうする気にもならず、必要も感じなかった。
「サム、私もパパを支えてくれた貴方を大好きだったよ。パパもきっとそう思っている」
そう告げてすぐそばにある制御ルームに向かった。そこには暴行され傷つき拘束された警備員の方たちが無造作に転がされて、ヴィランは誰もいなかった。
「逃げたか、となると」
メリッサさんが警備システムを再変更している間に警備員さん達の解放と治療を済ませる。
博士達を連れてまで欲した研究、世界を変えるであろう技術を用いられたサポートアイテム、それを得た後の脱出路は空からだろう。
「ヴィラン連合の黒モヤがいなかったのがせめての幸いかな?」
もっともそれがいたらここまで大々的な騒動を起こす必要はないだろうが。
「終わったわイズクっ!!」
「流石っ!!」
何をやっているかチンプンカンプンな操作、僕一人だったら壊すしかなかったけど彼女は無事やりとげてくれたようだ。
「じゃあメリッサさんはここで待っていて」
「行くのね」
「ああ、それに。
下から最高のヒーローが飛んでくるしね」
パーティー会場は拘束の解除されたヒーロー達がいるから平気だ。
ならば僕は博士を助けにいくだけだ。
「フン、まあいくつか手駒を失ったが成果は充分だな」
損得で言えば圧倒的に得だと、アタッシュケースを撫でながらウォルフラムは言う。
「私を、殺せ」
「生きるだ死ぬだは力があるヤツだけが言えんだよ。お前みたいな頭でっかちにそれを決める権利はない」
拘束され転がる博士、世界最高峰の頭脳を持つ商品を値踏みするように見る。
(とはいえ、相手はご都合主義みたいなクソッタレなヒーロー。保険はあるが備えはしておくか)
商品に手を付けるのは彼の流儀に反するが、ヴィランの天敵オールマイトを舐めてかかって全てを台無しにするよりはマシだと判断した。
「博士を返してもらうっ!!」
ホラ来たと、ウォルフラムが外を見ればそこには上空のヘリに飛びつこうとする緑谷出久の姿があった。
(餓鬼?いや雄英生とかいうヒーローの卵か)
プロヒーローすら返り討ちにしてきたウォルフラムにとって子供など相手にならない。だがそれに手間取ってオールマイトが到着されては面倒だと、ヘリのドアを開け座席に控えていた使えない方の部下を掴み上げそこから放り捨てた。
「「「なっ!!」」」
「助けるよな?ヒーローだもんな?」
咄嗟に抱きかかえて屋上に着地してしまう緑谷出久。ヴィランであれど助けられなければ批難されるのがヒーロー、ヒーロー自身の善性とヒーローとしての社会的立場ゆえの行動を、世界を股にかけるヴィランであるウォルフラムは熟知していた。
「外道が?!」
「不自由なもんだなヒーローは」
馬鹿にするように鼻で笑い、ウォルフラムはヘリのドアを閉めた。
だが、
「大丈夫だ緑谷少年!! 何故って!? 私が来た!!」
世界で一番頼もしい声とすら称されるオールマイトの声が響き渡り、タワーの中から弾丸のように飛び出したヒーローがヘリに向かって突進する。
同時に振りかぶられた右拳がヘリの装甲を貫通し、内部に侵入したオールマイトは親友を抱えて爆発するヘリから無事脱出した。
「親友は返してもらったぞ、ヴィラン!!」
勝利宣言をするオールマイトを見ながらウォルフラムは憎々しげに呟いた。
「ち、大損だ」
そして入手したサポートアイテムを装着するのであった。
「オールマイト!!」
「緑谷少年、そしてメリッサ、二人共良くやってくれた!!」
親友を助けだしたオールマイトに駆け寄り二人の安全を確認する。
「ミドリヤ君、メリッサ、サムを見なかったかい?」
辛そうな表情で博士は聞いてくる。
恐らく博士はサムの遺体を僕達が見たのではないかと思ってしまったのだろう。撃たれたその時に居たのなら彼が助かるとは思えないからだ。
「治療したので無事です。だから安心してください」
だからこそ僕はニッコリと笑う。すこしでも彼の心の暗雲が晴れるようにと。
「そうか、良かった。本当に良かった」
助手が無事だという情報にホッとして力が抜けてしまい博士はその場に座りこんだ。
「パパ!!」
屋上まで上がってきたメリッサさんがそんな博士を支えるように寄り添った。
「これにて解決。だね」
と活動限界の迫るオールマイトが場を収めるような発言をしたが、
ザンッ
「どうやらまだみたいですよ」
突き上がった鉄柱、地面を破るように伸びてきた鉄のコードを顕現した光剣で切り裂きながら僕は言う。
「オールマイトの個性が減退してるから創り上げた研究だとほざいていたが、充分にトップレベルじゃねえか」
周囲の鉄がまるで筋肉組織のように蠢き、ヴィランを中心に一つの形と成していた。
「まあいい、オールマイトをぶち殺せばそれだけで釣りがでる。その功績だけで世界中のヴィランが俺を歓迎するだろうよ!!」
鉄を操る個性、その柔軟さと多様性と殺傷能力はセメントスすら凌駕する。
セントラルタワーを構築するあらゆる鉄がヴィランを中心に集まり巨大な異形の塔へとなっていく。
ヴィランの肉体そのもののように操れる武器であり防具であり砦だ。
「これがデイブの」
「パパの作った装置の力」
絶句するオールマイトに、呆然と呟くメリッサさん。巨大なものの存在感はそれだけで人を圧倒する。
「行きます」
だからこそ僕は足を踏み出した。
「「「?!」」」
いつだってその一歩があるから前を見られるのだと、希望を信じられるのだと知っているから。
闇の帝王が統べるヴィランの繁栄を我が身を削って終わらせた英雄を知っているから。
絶望の世界で歩みを止めなかった人の、その背中を見てきたから。
「緑谷少年、私も」
「オールマイト、見ていてください。貴方の次代、ワンフォーオールの九代目、未来の平和の象徴の姿を」
「光剣顕現ー(キライドルギドリオルラン) 闇剣顕現ー(クローシェルギドリオルラン)」
光と闇の二振りの魔法剣を両手に持ち、
「ワンフォーオール全開」
託された個性をフルに発動し、僕は憧れの英雄達のように光を示す。
「異世界ヒーロー トレンドール。参る!!」
紫電を纏ったヒーローの出撃。
二振りの魔法剣が軌跡を描き襲い来る鉄柱と触手が如き鉄パイプを切り裂く。
山すら断つ光剣、力の流れを切り離す闇剣、それは物量にて押し潰さんとする絶え間ない猛攻を容易く突破する。この状況において緑谷出久の助けとなったのは四代目の危機回避、その個性が魔法剣を振るうべき場所を教えてくれ、七代目の浮遊が足場なき道を踏み出させる。複数の個性の発動による戦闘は雄英高校の期末テストの経験が可能としていた。
(この一歩に、僕の歩んできた全てがある)
二代目の個性、変速。
反動のあるその個性を発動し、雨のように降り注ぐ鉄の槍の中をまるで時間が止まったかのような加速で走り抜け、中央の舞台が如き足場に君臨するヴィランを斬り伏せた。
「終わった、かな?」
すっかり白みだす空を見上げ、緑谷出久は一拍遅れてやってきた個性の反動である激痛を感じていた。
だが、
「保険をかけといて正解だったなあ」
地獄の底から湧き出るような声が倒した筈のヴィランから聞こえてきた。
「?!」
「あの御方にすら教えてない俺の切り札。『肩代わり』の個性を持つマゾ豚野郎。はじめてだぜえ、ダメージを押し付けてもこれだけ衝撃がきたのはよお!!」
叫びながら首筋に注射を刺し自身に薬品を注入する。
「あの御方から譲り受けた個性、デヴィット博士から奪ったサポートアイテム、最高品質の個性ブースト薬、これだけやって負けるわけがあるかあ!!」
蒸気すら吹き出し膨れ上がるヴィランの肉体。その性能は脳無にすら劣らないだろう。
(不味い、反動で身体が)
決着を急いでしまったがゆえの失策。神聖魔法を発動する時間は迫りくる拳の前に残っていなかった。
(即死でさえなければっ!!)
たとえ半身が千切れても命が一滴でもあればそこから治療し戦える。鉄を巨大なスパイクと化して纏った異形の巨拳を、緑谷出久は意識を途切れさせずに受ける覚悟を決めた。
「ピンチはチャンス」
その声は当たる筈だった一撃より緑谷出久に衝撃を与えた。
「最後の最後まで諦めない、悪足掻きをやめないその姿勢は嫌いじゃないよ」
顕現した光剣を精霊魔法で加速した身体で振るってヴィランを吹き飛ばす。地面を何度もバウンドして転がるヴィラン。
「でもまあ、それは正道を歩んでこそであって」
警備システムの解放により繋がるようになった電話。それによりパーティー会場で待機していたクラスメイトが呼んだ最強の切り札。
「お前はひたすらに見苦しい」
異世界おじさんは其処にいた。
「何だ、何者だ貴様嗚呼ああ!!」
叩きつけるように触れた屋上から先程より速度と量が増大した鉄柱群が押し寄せてくる。それを更に顕現した闇剣を光剣と交差させ、発生した対消滅のエネルギーにより打ち砕く。
「ただのおじさんだよ。異世界帰りのな」
その信じがたい光景にその場の全員が呑まれる中、異世界おじさんは動けるまで回復した緑谷出久に目配せする。
「これで」
「終わりだあっ!!」
二人の異世界帰りの魔法剣がウォルフラムを同時に切り裂き、この騒動は長い夜はようやく明けたのだった。
オールマイトは頼りになる後継者のその輝ける可能性に微笑み。
デヴィット・シールドはオールマイト以来のヒーローの輝きを見つけたのだった。
世界に希望は、闇を切り裂く光はあったのだと。
そんな騒動を終えて翌日。
I・アイランドのなかにある湖のそばのテラスで、美味しそうな肉や野菜が鉄板グリルの上でジュージューと良い音を上げて焼かれていた。
「さぁ食べなさい!」
「いっただきま~す!!」
オールマイトの奢りでバーベキュー。サー・ナイトアイが知ったら嫉妬で狂いそうである。
集まったA組の食いしん坊達が競うように飛びかかる中で、緑谷出久は一歩離れて見守っていた。
昨夜の騒動、雄英生達ととある一般人により解決した事件は様々な要因の結果、真実を隠して発表されることになった。
そして、彼らの活躍を労うためと延期したI・エキスポの代わりにI・アイランドに滞在している雄英高校生達のためオールマイトがバーベキューをご馳走することにしたのだ。
「私も出しましょうか?」
焼けるそばから消えていく肉に、大人である異世界おじさんが費用について申し出る。流石に一人で出すにはあまりにも高額だ。
「いや、貴方にはお世話になったからね今回は私に出させてください。何せ私は、ナンバー1ヒーローで!! 緑谷少年の師匠で!! 塚内君の一番の親友!! ですから!!」
もっともオールマイトは事実上初対面(ストーキングはノーカン)のおじさんにやたらと張り合っているようだが。
昨夜ヴィランと戦い無事撃退した爆豪と轟と飯田は消耗もあってか肉にがっつき、それをみて男子達は負けるかと肉に食い付く。
ひとしきり食べた女子達は食い気よりも興味が勝り同席したミッドナイトを囲みしきりとおじさんとの関係を尋ねたりしていた。
「緑谷は食わねえの?」
あまり食が進んでいない緑谷に上鳴が聞けば。
「生肉は苦手だから、火が完全に通るのを待っているだけだよ」
「あー、牛肉とか皆赤くても食うからな」
ならペースがゆっくりでも仕方ないかと納得する。
「つーかなんで駄目なんだ?珍しい」
と続けて砂藤も聞く。
緑谷はトラウマの一つを思い出して暗い笑みを浮かべながら答える。
「グランバハマルでおじさんがさ、食べ物にいた寄生魔獣に体内から食い破られたことあってね。以来生肉というか完全に火が通ってない食べ物は無理なんだ」
お刺身も食べられないよと煤けた表情で言う。
「「異世界ネタの逆飯テロ止めろお前、聞いたこっちが悪いけど」」
なお複数経験している当の本人は欠片も気にしないでまだ赤い牛肉をぱくついてたりする。
ただでさえA組生徒達から興味深そうに見られておじさんはさらに注目を集めるのであった。
宴もたけなわ、盛り上がるバーベキュー会場から離れ、昨夜の激戦地であるセントラルタワーを見る。青空の下、崩れた上部が目立っていた。
「イズク」
そしてそんな緑谷出久にデヴィット博士とメリッサが声をかけた。回復魔法で彼らにできた傷は全て治してある。
「サムが全ての罪を背負ったよ」
デヴィット博士が告げたのは事の顛末。昨夜の個性増幅装置の奪取を目的としたI・アイランド襲撃事件は彼を主犯として決着してしまったのだ。あまりにも早いその決定には他にも理由があった。
「そして私もI・アイランドから追放だ」
ヴィランのリーダーであったウォルフラム。ヤツは闇の帝王と繋がりがあり、闇の帝王はデヴィット・シールド博士の個性増幅装置の存在を知っている。
その事実はI・アイランドを治める上層部を怯えさせ、狙われる要因である博士の追放に踏み切ったのだ。
「まあ多少の猶予はあるから近いうちにだね」
だがサムの叫びを聞いた博士はどこか納得したような気分で受け入れていた。
「そうだね、せっかくだし日本の雄英高校で働くのも悪くないな、彼処なら警備も万全だしね」
ハハハと笑う博士。
その知能故に狙われることに彼は慣れているのかも知れない。
「ありがとうミドリヤ君、僕は新しい輝きを見つけたよ」
そう言ってデヴィット博士はオールマイトの方に向かっていった。
そんな彼に僕はなんと言ったら良いのかまるで分からなかった。
「ねえイズク、気にしているの?」
「結局おじさんに助けられてしまったし。サムさんのこともあるからね」
サムは悪人では無かった。
ただままならない現実に出来ることをしようともがいていたのだ。
「マイトおじさまもそうだった。いつも哀しみを抱えて前へと進んでいた」
「だから眩しくて憧れるんだよね」
遠いその背中を。
「イズクはマイトおじさまの後継者なんだよね?」
「うん、あの人から個性と平和の象徴を託されたんだ」
「だったら私も、私もね」
メリッサ・シールドはここに来るまで何度も頭の中で練習していたその言葉を口にする。
「いつかパパとマイトおじさまの関係のように貴方を支えるパートナーになってみせるから」
決意を込めてそう宣言した。
「うん、期待している」
儘ならぬ現実が人を闇に落とす。
だが歩き続ける限り、足を踏み出し続ける限り、人は何度でも光を見つけることができるのだろう。
オリヴィラン紹介及び補足。
ヴィラン名『マゾヒス豚』
個性『肩代わり』
一日一回一人を対象に、その対象の細胞を食べることで対象者のダメージを自身に移すことができる。
外見は全身ラバースーツを着用した太った男性。
極めて本人にメリットの無い個性を本人の性癖のおかげで強力なサポート能力と化していた。
オールフォーワンに奪われて複製されたら厄介な個性だったが、当人が気持ち悪いから触れないかもしれない。
なお距離が関係無い個性のため作品内ではウォルフラムのアジトにて痛みに悶えていた。
元ネタはリモンスターという小説にいたりする。