異世界イズク   作:規律式足

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 独自設定ありです。



56話 二人の英雄 その後。

 

 嫉妬。

 他人を羨ましく思い妬むこと。

 他人が自らより優れ、自分より良い状況にあることを許容できない、そんな気持ち。

 それは時にひどく攻撃的になり、的外れな行動をとる場合がある。

 それは、自分は門前払いされたのに別の女の子は自室に招いた男を氷結封印させたり、自分は借金してまで買い戻した指輪を別の男性にあっさりと渡されて自らの魔力で大地を砕いたり、或いは別の女性と混浴露天風呂に入っているからと結界を打ち抜く遠距離狙撃をくり返したり、など多岐に渡る。

 そしてそんな感情とは無縁でいられない一人の女性がいた。

 彼女の名は十八禁ヒーロー ミッドナイト。本名 香山 睡。

 ヒーローにして教師である彼女とて意中の相手、想い人の前では一人の女であり恋する乙女、ゆえに嫉妬という感情とは無縁ではいられなかった。

 いつも想い人の心を占有する女性を許せない程に羨ましくて妬んでしまう、その感情がやがて憎悪から殺意に至ってしまうほどに。結果溢れんばかりの思いが実際の行動に移るまでそう時間はかからず、想いが深いがゆえに遂には殺害まで決意させてしまった。

 そう、だからこそ彼女は、香山睡は今日もまた激情のままコントローラーを握りしめ、

 

「七瀬楓ーっ!!」

 

 憎き恋敵を討ち滅ぼす、愛のエイリアンソルジャーとなるのだ。

 

「うん、何をやってるの睡さん」

 

「間違ってはいませんよね、ゲームのキャラクターではありますが」

 

「しかも殺意は歴戦の戦士レベルで本物だよ」

 

 それを呆れながらも見守る三人。

 だがそのゲームのキャラクターが、彼女の想い人が涙を流しながら語る最愛の存在であることも揺るぎない事実なのである。

 

「昔の女がいつまでも、いつまでも、いつまでも陽介さんの心に居座ってーっ!!」

 

「昔の女って、いや確かに色々な意味で事実その通りですけど」

 

「グラフィックがでしょうか?」

 

「ハードじゃない?」

 

 どちらにせよ想い人である男性にとっては現役の好きな人である。

 

「今日こそは貴女を最短記録で打ち倒してみせるわっ!!」

 

「「「普通にゲームしてるだけだこの人」」」

 

 

 I・アイランドの騒動が終わってから数日。

 一人の恋する乙女の殺意と嫉妬のたっぷり籠もった叫びが蝉の鳴き声を掻き消す程に夏の日差しの下で響き渡る。今日もニホンバハマルは平和です。

 

 

 

「「「楓ーっ!!」」」

 

 場所は移って隣室。

 僕、緑谷出久は藤宮さんと塩崎さんをミッドナイトこと香山睡さんの部屋に置いたままおじさん宅、正確には敬文さんの家に移動していた。

 そこには知り合いが一人加わっているからだ。いや知り合いと言ってもつい先日知り合ったばかりの人物であるのだが。

 彼の名はデヴィット・シールド。

 ノーベル個性賞を受賞し、個性研究のトップランナーであり、先日の騒動でI・アイランドから追放されてしまった天才発明家だ。

 先日のI・アイランドの騒動による追放に当たりちょうど取り組んでいた研究が各国政府により禁じられ、ラボを封鎖されていた彼は引っ越し準備にそれほど手間取りはしなかった。しかし娘であるメリッサ・シールドは研究室の片付けと転入手続きに大忙しとなったので、手の空いた彼は一足早くこれから住む場所の下見に来たのだ。無論I・アイランドに残っている娘の警備は万全だ、追放を決定したとはいえ上層部とて苦渋の末であり、これ以上のヴィランの狼藉など許せないのだから。

 そんなデヴィット博士(お義父さんでも良いよと何故か言われた)を護衛を兼ねて僕が案内することになり、本人の希望もありI・アイランドで助けてくれたおじさんに会いに来たのだ。

 最初は丁寧な挨拶から異世界についての話しと珍しく真面目モードで接していたのだが、博士がおじさんの部屋にあるメガドライブを見て目の色を変えてしまったのだ。どうやら博士も重度のセガユーザーであったようで、おじさんと二人で異世界話そっちのけでメガドライブの電源をいれてしまったのだ。

 

「ヒーローに興味のない僕も知っている人なんだけどねデヴィット博士」

 

「ここ数年は特に忙しくてゲームとか出来なかったようですから。オールマイトは日本だしゲームしない人ですから」

 

 どちらかというと外で体を動かそうってタイプだからなあオールマイト。

 異世界の方が好きな敬文さんとしては不満気味だが、新しいセガ友に喜ぶおじさんの姿に何も言わない。

 しばらくしてから疲れ切った顔でコーヒーを飲みにきた塚内さんも加わり、オッサン三人並んでメガドライブをプレイしていた。

 

「ああ楓、せめて俺の手で」

 

「今日もまた僕は最愛の人を手に掛けるのか」

 

「その哀しみが僕らの糧なのさ」

 

 ガチ泣きしながら哀のエイリアンソルジャーと化すオッサン達。

 異世界おじさん、エリート警官、天才発明家の心は今一つになっていた。

 

「というか博士の場合は平気なの?奥さん亡くなっているよね」

 

「メリッサ(呼び捨てにしてと頼まれた)に見せて貰った写真だと亡くなった奥さん、七瀬楓にそっくりでしたよ」

 

「うん、業が深いなあ」

 

 流石にゲームのキャラと重ねて接していたわけでは無いようですけどね。

 博士は今後、根津校長と同様に雄英高校に自宅を用意して住むらしい、一度突破されたがアレは例外中の例外で雄英高校が日本最高峰の警備であることは事実だからだ。あと此処に来たければプロヒーローである香山さんが送り迎えしてくれるようだし。

 

 夏休みの一日はこうして過ぎていった。

 デヴィット博士の新しい日常はそう悪くない形でスタートした。 

 ちなみに僕も敬文さんと一緒におじさんにエイリアンソルジャーをプレイさせてもらったけど、えんえんと大ムカデに殺されて辛かったです。

 というか武器選びからクリアできる可能性がゼロになるとかエグ過ぎです。

 もうしばらくしたらメリッサも此処に加わることになると思うと今から楽しみになってきます。

 あと、おじさんがクーラー代わりの冷気魔法で世界を滅ぼしかけたのでしっかり叱っておきました。

 

 窓の外で泣きながらハンカチを食いちぎっているオールマイトも中に入ったら良いのにと思いました、暑いでしょベランダ。

 

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