独自設定ありです。
「ケロ、お茶子ちゃんも学校で自主練かしら?」
夏休み中、雄英高校へと向かう道の途中で蛙吹梅雨は同じクラスの麗日お茶子と遭遇した。
「うん、梅雨ちゃんも?」
雄英高校は夏休み中でも基本的に開放されている。自主練に施設を使用する生徒、部活動に参加する生徒、早くも文化祭に備えて発明品を作成する生徒など多くの者が利用するからだ。また三年のインターンなどもある、急なトラブルがあっても対応できるよう、プロヒーローにして教員である彼ら彼女らは学校に待機しているのだ。
「ケロ、水中の訓練は学校の施設でしなさいと連絡されてるの」
蛙吹梅雨のような水辺での活動を得手とする者は自主練としてプールや川や沼で行う者が居る。だがいかにヒーロー科生徒とはいえ危険であるため、学校の施設を使用するよう通達されているのだ。
「うちはそれだけじゃないかな。夏はアパートにいてもクーラーで電気代かかるから学校に居た方がお得やねん」
そして夏場は彼女のような理由で雄英高校に集まる生徒も少なくない。遠方からの入学で実家を離れ一人暮らしする生徒は多い。彼ら彼女らにおいて長期休みとは楽しみであると同時に苦労が増える期間なのだ。特にまだ一年目である者は実家ほど快適ではない借家で一人過ごすのは苦痛にも感じてしまうのだ。
「バイトでもしたらええけど、ヒーロー科で普段は出来んし親のサインもいるからね」
濃密なスケジュールを組まれている雄英高校ヒーロー科生にバイトをする余裕のある者はいない。例外としてI・アイランドの件があるがアレとて数日足らずだ。勉学面の予習復習に個性を伸ばすための自主練で平日は不可能であるし、土日とてそれは同じである。
「憧れもするけど大変ね一人暮らしも」
「いや梅雨ちゃんは弟妹の面倒を見とるやん」
とはいえ蛙吹梅雨のように実家暮らしで多忙な者も居る。事情は人それぞれなのだろう。
「そういえば緑谷ちゃんが今日学校案内をするとか言っていたわね」
「ああ、最近こっちに引っ越してきたメリッサさんに腕を組まれて鼻の下を伸ばしているイズク君」
「ケロ、私思ったことなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃんの鼻の下は一ミリも伸びて無いし反応もまるで無いからむしろメリッサさんがかわいそうになっているわ」
「はは、なんやろなあの十六歳らしからぬ悟り開いたような人間性」
「間違いなく異世界おじさんの影響ね」
緑谷出久の女性に対する無反応ぶりには、他者の心情を察することに長けているお姉ちゃん気質の蛙吹梅雨にはなんだかなーと言う気分になる。
まるでラブコメのような騒動は見ていて愉しいが、知り合いの娘達が振り回されているのはよろしくない。
(そろそろガツンと言うべきかしら)
素行を注意しようかと思う蛙吹梅雨だが、それをしたらそれをしたで明後日の方向にやらかすのではないかという危惧と心配もあるのだ。
「塩崎さんなんか近所やし、メリッサさんも頻繁に会っとるし、夏を満喫しすぎやん。ウチもなんかしたらええけど思いつかんねんどないしよ」
(でもこのままだとお茶子ちゃんが病みそうなのよね)
二人とは異世界おじさんの自宅に行っているという明確な差が出来てしまい麗日お茶子は焦り気味なのだ。だがクラスメイトの知り合いである(変な)おじさん宅に一緒に行くのは割と普通な日本人である麗日お茶子にはあまりにもハードルが高いのだ。
(どうしたらいいものかしら?)
塩崎茨ともメリッサ・シールドとも良き友人であると思っているので麗日お茶子に過度に肩入れをしたくない蛙吹梅雨だが、周回遅れ気味で病みそうな友人を放っておくのも抵抗があるというものだ。
「ねぇねぇお姉ちゃん達、雄英高校の人?ちょっとそこまで案内してよ」
そんな(ヤバめな)ラブコメに思考を割かれていた二人に話しかけてきた人物がいた。
どこぞの対化物対吸血鬼機関本部を襲撃した片割れのような声をした柄の悪い風貌の赤毛の男。彼はズケズケと二人に近付き、逃さないとばかりに進行方向を塞ぎながら馴れ馴れしく話しかけてきた。
「え?」
「ケロ?」
悪質なナンパにしか見えないこの状況。本物のヴィランとも遭遇、戦闘を経験したことのあるヒーロー科生の二人であるが、未だに十六歳の少女でしかないがゆえに微かな怯えを抱いて硬直してしまうのであった。
実際は約束した待ち合わせの場所まで一人で大丈夫だと一緒に行こうとする姉の手を振り払った小学四年生の男の子が道に迷ってしまい、泣きそうなのを堪えていた所なんとか見つけた雄英高校の制服を着た知らないお姉さん達に勇気を振り絞って声をかけた状況なのだが。それを藤宮千秋君の外見から察するのはあまりに困難なのであった。
心配した姉から連絡を受けた待ちあわせ相手である緑谷出久が見つけて駆けつけるまでこの噛み合わない状況は続くことになる。
今話このオチがやりたかっただけかも。