「うえーん、怖かったよーイズク兄ちゃん」
「もう、だからお姉さんと一緒に来なさいと言ったでしょ」
(見た目がアレ過ぎて異様な光景や)
(緑谷ちゃんがDQNに絡まれているようにしか見えないわ)
以前藤宮さんから頼まれた弟である千秋君の雄英高校の見学と動画撮影。待ちあわせの場所に来ないなと心配していたら駅から一人で飛び出したと藤宮さんから連絡がきた。彼の外見からトラブルに巻き込まれる心配があったので慌てて探していたら、自主練のために校舎に向かっていた梅雨ちゃんと麗日さんと一緒に居たのだ。
正直この二人で良かったと心から思う。
千秋君は精神年齢は年相応だけど見た目のせいで誤解されやすい子で、僕が知る中でも面倒見の良いこの二人ですらタチの悪いナンパだと思ってしまったようだ。
だがもしこれが別の雄英高校生だったら下手したら暴力沙汰になっていた可能性もある。というかさっきの状況にしても正義感の強い雄英高校生なら二人を助けようと割って入りかねない。それぐらい千秋君の外見と狙ったかのような発言は誤解されやすいのだ。
「ほら男の子だから泣き止むの、お姉ちゃん達にもお礼と自己紹介をするんだよ」
「うん!!はじめまして藤宮千秋、小学四年生です。迷子の僕の話を聞いてくれてありがとうございました」
「え、ええよ何もしてへんし(見た目の印象と違って良い子やん)」
「そうよ、ちゃんと自己紹介できて偉いわね(弟の五月雨と同い年なのね)」
誤解がとけて良かった。
「じゃああと少しだから行こうか。
ところで千秋君、梅雨ちゃんも麗日さんも雄英体育祭で活躍してたんだけど覚えているかな?」
大した距離じゃないから手を引いてあげながら歩く。傍から見たら連行してるように見えるかもと不安になるが、それ以上に千秋君が心細いだろうし。
「ごめんなさい、体育祭は見てないの」
「そうなの?アニメとかと時間がかぶってたのかな」
「そうじゃなくて、殴るとか壊すのを見るの怖くて。血も流れてて、お兄ちゃんお姉ちゃん達も痛そうだし」
(優しい子や、でも見た目)
(ギャップが凄いわ、本当に)
「そっか、それは見るの怖いよね」
実際こういった考えの人は少なくない。この国でヒーロー達の武装が控え目なのも武器が暴力の象徴であるからだ。ベストジーニストを筆頭とした拘束タイプ個性のヒーローが支持されているのもこれが理由の一つかもしれない。
「そういった理由なら緑谷ちゃんはアウトね」
「怪我に関しては自分だろうとヴィランだろうとお構い無しやもんね」
「生きてさえいれば治せるんだからよくない?」
死ななきゃいいじゃんという考えが刻みつけられているのは否定できないけど。
「ケロ、だったらどうして雄英高校の見学をしたいの?」
梅雨ちゃんがそう尋ねると、
「皆が知りたがっている雄英高校の事を僕が教えて上げるんだ!!まだ50人だけど登録してくれてる人もいるんだよ」
「(学校から許可は得ているの緑谷ちゃん?)」
「(通路は侵入に利用される恐れがあるから駄目だけど施設は大丈夫だって。チェックは必要だけど)」
「それは凄いなー」
「おじさんに比べたら全然だよ。ホラこのメスなんて良くない?」
「(この顔でメスとか誤解されるわあ)ええカブトムシやね」
そんな雑談をしながら校門を通る。
雄英バリア、校門の封鎖を試しに起動させてみると千秋君は男の子らしく目をキラキラさせていた。
予め用意してある許可証を千秋君の首にかけてやり、施設見学は始まった。
「ここはグラウンドβだよ」
「うわあ、街だ!!学校の中に街があるよ!!」
「ビルの中に潜入したり、中にいるヴィランを対処する訓練をするね」
「スッゲー!!」
「そういえば雄英高校は凄いんやね」
「ケロ、私達はすっかり慣れてもう驚けないわね。初日のインパクトも強過ぎだったもの」
千秋君の素直な反応に自分もそうだったという懐かしさと慣れてしまったんだなと自分が変わったことを自覚した。あと雄英高校がぶっ飛んでいることも。
「そしてここが、ウソの災害や事故ルーム。略称は色々怖いから言わないよ」
(ネットはまずいよね)
(来るわね権利団体)
「うわあー、(ピーピーピー)みたい!!」
だから略称はまずいって。
「プロヒーローの13号が考案した場所で、あらゆる事故や災害が想定されて体感できるよ。僕達はここでヒーローにおいて大切な救助訓練を学ぶんだ」
「得手不得手は人によってあるけど、皆真剣にやっているのよ」
「専門のヒーローもおるけど、ヴィラン退治よりこっちが重要っていう人もいるんや」
「スッゲー!!ヒーローって戦士でありながら救助隊なんだ!!」
まあ本職が到着するまでの繋ぎだと割り切っているヒーローも少なからずいるけどね。
他の施設にはバスで移動するが、敷地内にバスだとこれまた千秋君ははしゃいでいた。こういうのを見ると改めて雄英高校の異常さが分かるよね。
「ここは、トレーニングの台所ランド。略称は雄英高校が潰れかねないからマジで止めてね」
「そうだね、(ピーピーピー)ランドと略称が同じだもんね」
(狙ってるとしか思えへんけど)
(私達の方が心配になるわ)
「雄英高校の教師であるプロヒーローのセメントスが考案した施設で、彼の個性であるセメントをフルに使えるんだ。それで生徒一人一人に合わせた地形や物を用意してくれるよ」
「必殺技の訓練とかは皆ここを利用しとるよね」
「うちのクラスの男子達は最近入り浸っているわね」
「魔闘凍霊拳!!」
「霊丸!!」
「「百パーセントだあ!!」」
声の方を向けば、轟君、かっちゃん、切島君、砂藤君が必殺技練習に励んでいた。
「打撃と同時に冷気を打ち込むのは悪くないと思うけどどうだ爆豪?」
「ああ氷塊を叩き込むより回避しにくいから悪くねえ。テメェの身体能力は高いから格闘技術の伸びしろはまだまだあるしな。周囲に被害が出ねえのも良い」
「くっそー、戸愚呂弟の見た目しか再現できねえ!!」
「俺は反動あってサイズぐらいだ、やっぱり下地の格闘術を学ぶべきか」
「スッゲー!!お兄ちゃん達が必殺技を生み出しているんだね」
(いや生み出すというか、パクリだけど)
(嵌っている漫画の必殺技を再現しているだけなんよ)
(強力かつ実用性もあるからタチが悪いわ)
何してんだろうね彼らは。
いや普通の学生もリスペクトするヒーローの技を参考にする場合が多いけどね。
凄い凄いとはしゃぐ千秋君に水を差すわけにはいかず練習に励む彼らからソッと目をそらして、トレーニングの台所ランドを後にした。
「ねえ、イズク兄ちゃん僕お腹空いたあ」
「そろそろお昼時だし、ご飯にしようか。ランチラッシュの料理はなんでも美味しいよ」
「塩崎さんの手作り弁当ばかりのイズク君が言うてもなあ⤴」
「お茶子ちゃん、千秋君が怯えるから瘴気を放つのは駄目よ」
学校見学の楽しみである学食体験。
確かに僕はあんまり利用してなかったね。
「お茶子お姉ちゃんどうしたの?」
「さ、さあね?」
まるで嫉妬してるみたいだけど僕が対象なんてありえないからね。黒い波動みたいなオーラが吹き出ているけど気の所為だよね。
ちなみに夏休み中も利用者は多い、長期休みを利用した施設修繕の業者の方も来るので問題なく空いている。だが食券を買う段階で問題が起きてしまった。
「ねぇねぇイズク兄ちゃん。僕ね、お子様ランチ食べたい」
食券を買う段階で千秋君が駄々をこねてしまったのだ。小学四年生でお子様ランチはどうだろうと思うが、まあ気持ちはわかるけど。
「ワガママは駄目よ。ここにあるメニューで我慢なさい」
「せやで、せっかくだから雄英高校のものを食べよう」
「でもお子様ランチ」
二人が宥めてくれようとするけど、それでも納得してくれないようだ。
藤宮さんからワガママ言ったらガツンと叱ってくれと言われているけど、楽しい思い出に叱られた記憶を残すのはなあ。
「はい、ランチラッシュ特製お子様ランチだよ」
と右往左往していたら、ランチラッシュ直々に料理を運んできてくれた。
「「「ランチラッシュ!!」」」
「お客様の要望に応えるのは料理人の矜持、子供の笑顔を守るのはヒーローの誇りだよ」
グッと親指を立てる料理人にしてヒーローの姿を見て僕達は、
(((ランチラッシュ、カッケー)))
と感動してしまった。
近くの席にお子様ランチを置くと千秋君は飛びつくように席についた。
「おっと、これは忘れちゃ駄目だよね」
するとランチラッシュは懐から雄英高校のマークの入った旗をプスリとプリン型に盛られたチキンライスに突き立てた。
確かに旗があってのお子様ランチだよね。
なおこの一連の流れをネットに投稿したところ、ランチラッシュのお子様ランチは全世界の子供達の憧れとなり、さらにランチラッシュのビルボードチャートの順位もグンと上がるのだが、それはまだ先の話。
僕達三人もランチラッシュが用意してくれたお子様ランチを堪能して、お昼ごはんは終わるのだった。
「今日はありがとうね。お兄ちゃんお姉ちゃん」
「本当にありがとうね。ウチの弟の面倒みてくれて」
雄英高校見学も終わり、駅まで迎えにきた藤宮さんと合流する。
(似てない姉弟や)
(ウチはそっくりだから余計に違和感あるわ)
(藤宮さんの小学生時代を思い出せば違和感ないけどね)
表情から伝わる二人の本心。けど流石に藤宮さんの昔の姿を見せる訳にはいかないからな。
「お兄ちゃんお姉ちゃん、立派なヒーローになってね!!」
大きく手を振る千秋君の応援の言葉に僕達はさらにやる気が増すように感じたのだった。
「いやでも見た目が」
「ケロ、駅で目立っていたわ私達」
「きっと中学生になったら美少年に進化するから、お姉さんみたいに」
ちなみにこの日は、塩崎さんとメリッサさんはミッドナイトのところで男心を知るためサ○ラ大戦をプレイしてました。