異世界イズク   作:規律式足

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 もう少し引っ張ろうかなと思ってたネタです。



59話 緑谷出久の絶望

 

 藤宮千秋君(信じがたいが小四)を雄英高校案内してから数日。千秋君の動画は登録者数を数万倍に跳ね上げ日本というか世界規模で空前絶後のお子様ランチブームが到来してしまった。

 今まで子供に大人気ヒーローといえば洗濯ヒーロー ウォッシュであったが、それに匹敵するレベルでクックヒーロー ランチラッシュの名前が上がりつつある。お腹を減らした誰かに食べ物をあげる、その生物として根源的でわかり易い善意は誰の心にも響くのだろう。

 ちなみにお子様ランチにロマンと憧れを抱くのは中高年の方達もらしく、闇の帝王全盛ヴィラン最盛期ゆえに憧れても手を伸ばせなかったお子様ランチを誰もがこぞって注文しているらしい。

 中にはお子様ランチをツマミにして郷愁に浸りながらお酒を楽しむ猛者もいるとか。 

 ともあれ、発案者である千秋君、軽い気持ちで引き受けた僕、子供のやることだしと許可した雄英高校の三者の予想してなかった大反響が起こったのであった。

 

 そんな日々の夏休み、ヒーローイベントに参加したらむしろお客が僕に群がってしまうのでそれとなく雄英高校経由で出禁をくらった僕は設備の揃っている学校の訓練場で鍛錬に励んでいた。

 週の半分はおじさんの所でゲーム、それ以外は雄英高校で自主練、中々充実した夏休みだ。

 そんな中、なんか避けられ気味な青山君を除いて一年A組プラス塩崎さんとメリッサが教室に集まっていた。自主練参加者は自主練後にこうやって集まるのは珍しくない。けどそれぞれ予定のある身でこんなに揃うのは結構珍しかった。

 持ち寄ったお菓子やジュースを摘みながら自主練の疲労を癒やしていると峰田君がせっかくだからとある提案をしてきた。

 

「僕の記憶上映?」

 

「おう、異世界ライフはハードでデンジャラスでバイオレンスでスプラッタでスプラッタなスプラッタだけどなんだかんだで面白いからな」

 

 スプラッタを3回繰り返した、確かに否定できないけどね。

 

「あー、じゃあおじさんのマイルドなヤツから逝っとく?」

 

 おじさんのグランバハマルに転移してから一週間の記憶とか。

 

「いや、ここはあえて一番ハードなヤツを頼む。緑谷の一番辛い記憶を見ておけばあとはそれ以下。そうすればじっくりと異世界美女美少女の容姿と抜群なスタイルを楽しめるってもんだ」

 

「理屈はわかるけど、後半のセリフはキメ顔で言うことじゃないよね」

 

 キランって感じで言われても。

 

「まあいいじゃねえか、皆異世界には興味津々なんだぜ?青山は拒否ったけど」

 

 後ろでウンウンと皆が頷いている。

 

「まあ僕もおじさんの記憶を楽しんでいたから気持ちは分かるけど、一番ハード、辛い記憶かあ」

 

 色々心当たりはあるけど、神聖魔法覚えてから肉体の負傷は気にならなくなったんだよね。

 

「えっと、砂漠の地下迷宮で遭難した時かな、ジャングルの部族全てと敵対した時かな、トレントクイーンに求婚された時か、どれだろ?」

 

「そのうち全部見せてくれよ」

 

 一番の恐怖体験(おじさんに指輪をはめられた記憶)の記憶を消したみたいだけど、辛いとなるとどうなるやら。うーん、記憶の精霊に任せた方が良いか。

 

「記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 

『その日は月の綺麗な夜でした』

 

「なんかナレーションはじまってんぞ、どうした緑谷?って立ったまま白目剥いて吐血っ!!」

 

『今日は珍しく穏やかな一日。勇者パーティーであるエドガーさんライガさんそして憧れのアリシアさんにアーツや呪符作成を習い、奇跡的に命の危険も負傷もなく一日を過ごせたのです』

 

「半年間でどんだけ命の危険にさらされてたんだコイツ」

 

『そんな良い気分で眠りにつける幸せに浸っていると、コンコンと宿屋のドアを叩かれたのです。既に一度制圧したこの村で夜襲は無い筈ですが一体誰でしょうか』

 

「さり気ない一言が酷いから、制圧とか夜襲って」

 

『ちなみに昼間アリシアさんとToLOVEるで抱き合ったアンチクショウもといおじさんは現在ナマハゲより怖いエルフとそのまんま鬼ごっこのまっ最中です、ザマア』

 

「実はおじさんのこと嫌いだろ」

 

『ドアの向こうにいたのはアリシアさん、内密な話があるから外にでないかと言われました。その言葉にオールマイトにサインを貰った時以上の多幸感に僕は包まれたのです』

 

「緑谷少年んんんん!!」

 

「「「しゃーない」」」

 

『母とかっちゃんのお母さん以外人生で初めて優しくしてくれた美人のお姉さんであるアリシアさん。そんな彼女に僕は心奪われていたのですから』

 

(バキリ)

 

「机を壊さないのアンタら、つーかマジなの爆豪?」

 

「無個性差し置いてもガキの頃から気持ち悪めなヒーローオタクだったしな、目ン玉おっ開いて血走らせてブツブツ語り出すしよ。いじめられっ子だったのもあって女子は敬遠してたよ」

 

『月の輝く夜空の下で、照れくさそうに頬を染めるアリシアさん。つい視線のいってしまう整った唇からどんな言葉が紡がれるのか、僕の心臓は期待で張り裂けそうでした』

 

「わからんでもないな」

 

「男の子だもんなあ」

 

『豊かな胸に手を当てて深呼吸してから彼女はその言葉を言うのです、僕にとって絶望の一言を』

 

「?」

 

『ねえイズク君、君にお願いしたいことがあるの?クロキが私をどう思っているのか聞いてくれないかな?』

 

「ガハっ」

 

「懐かしいな、中学時代のラブレター」

 

「つーか誰だよクロキ?新キャラ?」

 

「おじさんの偽名らしいぞ、初対面の時は偽名しか名乗らんかったらしい」

 

『もうね十年以上の付き合いでね、確かに私の方が少しだけ年上だけど尊敬してるとかそんな感じだったけど、大分前から恋愛対象とかそんな感じに思ってて、そうそう初めて会った時もクロキったら凄くてね』

 

「エグい」

 

「鬼か」

 

「よかった(ホッ)」

 

『憧れの初恋の人が宝物のようにおじさんとの思い出を語るのです。両手のひらで慈しむように自ら想いを口にするのです。思い出はギロチンとなって首をはね、恋心は破城鎚となって体を穿ちます。彼女の語るおじさんとの日々は僕へと響くレクイエムでした。

 アリシアさん幸せそうで綺麗だな。

 血涙流しながら僕は叶わず終わった初恋に弔いの鐘を鳴らしその光景を見続けるのでした』

 

 沈黙。

 その場を支配したのはあまりにも重いそれだった。ブツんと切れた記憶再生の画面、立ったまま意識の無い緑谷出久を見てその場の者たちは微動だに出来ずにいた。一呼吸して比較的冷静な障子目蔵がポツリと呟く。

 

「確かに辛い記憶だが、求めたジャンルとは違うな」

 

「「「ほんそれ」」」

 

 やらかし気味な記憶の精霊の蛮行の被害にあった緑谷出久にA組のクラスメイト達と塩崎、メリッサ、あと途中参加のオールマイトはひたすら同情するのであった。そして同時に納得した、異世界に欠片も未練が無い訳だと。

 メリッサ・シールドなどはI・アイランドの時から気になっていた記憶なので、緑谷出久の初恋にして失恋を知れたことを前向きに考えようとしていた。過去の想いを癒やして支えてあげようと。

 そして、その場全員が緑谷出久の女性からのアプローチへのスルー具合にも納得した。

 そらこんな目にあったら異性からの好意を期待しなくなるわと。

 かくして雄英高校一年目の夏休みに新たな思い出がまた1ページ刻まれたのであった。

 

 後に轟焦凍がネタで始めた絵日記を見てお姉さんがドン引くのはまだ先の話である。

 

 





 緑谷君の初恋ネタはこんな感じです。
 ご期待に沿えたか不安ですが。
 ちなみに記憶を消さないのは、この時のアリシアさんが一番綺麗だったからです。
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