異世界イズク   作:規律式足

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 原作と変わらないシーンは省きますので閲覧注意。



76話 開闢行動隊

 

 それに気づけたのは異世界生活のおかげだった。グランバハマルでの生活は都市や村より野宿が中心、そしておじさんが一度寝たら朝まで起きないということを知ってからは寝ながらも周囲を警戒する癖がついてしまっていた。それをすり抜けておじさんの布団に潜り込んでいたあのエルフはなんなんだと思うけど、エルフだから仕方ない(諦め)。

 だから僕は、茂みをかき分けながら振るわれた巨大な筋肉の拳からピクシーボブを庇うことができたんだ。

 

「一応尋ねますけど、この山に在住のオーガの亜種ですか?」

 

 ピクシーボブを抱きしめながら空いた片手に顕現した光剣で巨拳と鍔迫り合う。束ねられた筋肉は硬さこそ切島君や鉄哲君に劣るものの柔軟性を加味したら間違いなく二人よりも厄介。現雄英高校一年の肉体強化、質量変化個性持ち達の上位互換である存在だ。

 

「あらま失礼しちゃうわ、この子。こんな美女を前にしてオーガなんて目が腐ってるんじゃないかしら」

 

「明らかに俺に言っているだろコイツはよぉ」

 

 加えてもう一人、長物を持つ巨漢。

 

「リーダーの命令だから名乗っておくわね!!私達は敵連合開闢行動隊!!そして私は敵連合に咲く麗しき一輪の華、マグネ!!」

 

「あーこのオカマが華かどうか置いとくが、俺はマスキュラー。やりたいことをサポートしてくれるご機嫌な集団に所属するヴィランだ」

 

「マグネにマスキュラーだと、どちらもヒーローを撃退したことすらある凶悪なヴィランか!!」

 

 虎の言葉に緊張が広がる。

 ヒーローから逃げきれるヴィランはいる、だがヒーローを撃退できるヴィランは限られる。だからこそヒーローショー気分で一般民衆は事件現場に集まってしまうのだ。

 ヒーローはヴィランよりも強い。

 それはこのヒーロー飽和社会において、いわば前提に等しい認識なのだから。

 そして、

 

「プッシーキャッツより、このマスキュラーは間違いなく強いか」

 

 マスキュラーを弾き飛ばしピクシーボブをそっと地面に降ろす。筋繊維を増殖させ身体能力を増幅させつつも防具として身に纏う。合宿に参加しているヒーローでもミルコとイレイザーヘッド以外は厳しい難敵。この場においては殺さないというハンデを負った僕しか勝てない存在だ。

 

「皆下がって、僕がやります」

 

 光剣を構えて一歩踏み出す。

 個性使用許可も戦闘許可も出して貰っている余裕はない、このマスキュラーはこの場の全員を殺せる存在だからだ。

 

「くっ」

 

「けどっ」

 

「あらやだ素敵♡」

 

 実力というより相性の悪さを理解したプッシーキャッツは皆の安全を優先せざるを得ない。

 大人としてヒーローとして前にでたくとも経験と理性がそれを押し止める。彼女らの主な活動である災害救助、それに長けるということは優先順位の見極めが的確であるということなのだから。

 

「ハハハ良いねえ、お前良い感じだ!!やりたいことはやらなきゃ駄目だよなあ!!殺したい俺と守りたいお前はお互いやりたいことをやりあって!!」

 

 溢れ出る筋肉繊維がマスキュラーを覆う。

 

「勝ったほうが好きに我を通そうぜ!!」

 

 相手は脳無に匹敵する身体能力の戦闘、殺人狂のI・アイランドの鉄仮面レベルの強敵。最速で決めようにも相手が敵連合である以上は黒モヤに戦力を追加されかねないので反動のあるセカンドは使用できない。

 

(死なないでくれ皆)

 

 僕は襲いかかる暴力を迎え撃ちながら皆の無事を祈るのであった。

 

 

 

「虎!!ラグドールからの応答、襲いかかってきた脳無はミルコが撃退!!山火事だけで無く毒ガスも確認、現在は合流した生徒達とマタタビ荘へ向かっている!!」

 

「脳無までもかっ?!」

 

「ピクシーボブは土魔獣で迎撃!!私達はマグネを押さえる!!」

 

「良い判断ね、けど土魔獣程度で脳無と私達に勝てるかしら?」

 

「飯田君、貴方は引率!イレイザーヘッドとブラドキングとマタタビ荘で合流!!」

 

「緑谷君っ」

 

 緑谷出久とマスキュラーによる激しい激突音が響き渡る中、マンダレイの指示が奔る。

 

「さらにイレイザーヘッドからの指示!!A組B組総員の戦闘を許可する!!」

  

 イレイザーヘッドの決断は早かった。オールマイトによる敵連合の背後に居る存在の説明は自らの処分を躊躇わせない。

 

 

 

「ショットガン!!からの霊丸!!」

 

「肉、グホウ」

 

「魔闘凍霊拳!!」

 

 枝分かれし迫りくるエナメル質の刃を爆破と拳撃の連打で撃ち落とし、中心となる顔面に的確に爆破球を命中させる。顔面にて爆ぜた衝撃と熱に怯みふらついたヴィランに接近した轟による冷気を込めた一撃で肉体内部から凍りつかせる。

 

「雄英お約束のサプライズ、じゃねえよな」

 

「いくら雄英でもヴィランを用いた訓練なんてしないだろ」

 

 マンダレイによるテレパスによって事態は把握したがその時はもう戦闘は開始していた。道に転がされていた切り離された腕に一瞬動揺したが、生きているならイズクが治せる。だから襲いかかるヴィランを撃退したのだが。

 

「常闇にこんな欠点があるとはな」

 

「そういや寝る時に布団の中にライトを点けてたなアイツ」

 

 イズクの記憶にある竜のような巨体と化した黒影。闇が深いなら制御効かないと肝試し前に伝えとけよ。

 

「とりあえず俺の爆破とお前の火で鎮めてから回収すんぞ」

 

「皆が心配だ、道なりに居れば良いけどな」

 

 イズクは何してやがる。

 いやアイツの手が空かねえ強敵がいるってことか?B組はミルコとラグドールがなんとかするだろう。

 

「なあ爆豪」

 

「どうした?」

 

「今回の一件だがもしかして」

 

「ああ、プッシーキャッツと教師だけならともかくミルコまで居る状況で襲撃なんて普通はしねえ。あの兎女なら感知しながら撃退くらいできるからな」

 

 既に脳無数体に毒ガスヴィランは蹴り飛ばしたと連絡が来ている。

 襲撃された時点で雄英高校は負けたが、敵連合とて完勝にはならない。

 秘匿された合宿地は知られていたが、戦力は正確ではないという、あまりにも不自然な情報の流出。

 

「まだ誰にも言うな、クラスメイトに敵連合の内通者が居るなんてよ」

 

 誰かは想像がつく。

 ソイツはイズクや俺達の実力すら正確には把握できないくらいクラスメイトから距離をおいている人物だからだ。

 

「ソイツは、俺達の事が嫌いなのかな?」

 

 黒影を鎮めた常闇に手を貸し、B組生徒達を背負う障子と合流しながら寂しそうに轟は呟く。

 

「さあな、事情はそれぞれだろ」

 

 この場には居ない、イマイチ感情の読みきれないクラスメイトの顔を思い浮かべながら俺はそう返した。悪人ではない、だが人質でも取られたら善人とて悪行をやるものだ。

 

 

 

(まいったね。余裕あったら生徒を拉致れって命令だったけど無理だこりゃ)

 

 木の上にて状況を把握していた敵連合開闢行動隊の一人コンプレスはそっとため息をついた。

 襲撃成功の時点で勝ちは勝ちだが、追加ボーナスは見込めないと判断を下す。

 そもそも戦力的には脳無とマスキュラーにムーンフィッシュだけで皆殺しは可能な見立てだった。だが初手による厄介なピクシーボブの無力化とラグドールの拉致が失敗した以上、後は後手後手だ。

 知能の無い脳無達は土魔獣に足止めをくらい、毒ガスで動けない生徒達はラグドールに回収された。マタタビ荘に増やした脳無をけしかけることでイレイザーヘッドの足止めは成功しているがそれも時間の問題だろう。

 

(たく、内通者君にはペナルティかな?)

 

 ミルコというこの状況で最悪なヒーローの存在と、緑谷出久、爆豪勝己、轟焦凍、というマスキュラーとムーンフィッシュを撃退できる金の卵の実力を報告していないという利敵行為。ケジメが必要なレベルだ。

 

「さーてミルコに見つからない内に帰るとしますか」

 

 最悪、渡我ちゃんとトゥワイスの回収さえできれば良い。そこはマーキングしてる黒霧の仕事だしな。本音を言えば何もしないのはエンターテイナーとしては業腹だが無様な姿を晒すのもよろしくない。

 

「またなヒーロー諸君、良い夜を」

 

 ゲートに入りながらコンプレスは負け惜しみ気分で手を振った。

 

 

 

 雄英高校林間合宿襲撃事件。

 林間合宿三日目の晩の敵連合による襲撃。

 その事件による被害は無し。

 事件において被害を受けた重・軽傷者は緑谷出久による神聖魔法により全員完治。念の為病院にて検査は行う予定。

 一方敵側は、3名の現行犯逮捕と複数の脳無の確保。プッシーキャッツと交戦していたマグネは黒霧によって回収された。

 少年少女が楽しみにしていた林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。

 

 だが、

 

「緑谷少年、やって欲しいことがある」

 

 それは最強のヒーローに覚悟を決めさせるきっかけとなった。

 

「良いですよ、けど言っておきます。

 内臓が吹き飛ぶくらい痛いですからね」

 

 決戦の時は迫る。

 

 





 すいません期待されていた敵連合の追加戦力はありませんでした(土下座)
 なお描写を省いたシーンですが、
 マスキュラー、緑谷君と激戦の上敗北。
 マスタード、ミルコにより蹴り飛ばされる。
 トガちゃん、梅雨ちゃん、お茶子ちゃんとナイフを混じえた女子話。
 トゥワイス、脳無を消されるたびに複製。
 ヤオモモ、泡瀬君に頼んで発信機溶接。
 ミルコ無双。
 となります。
 コンプレスはミルコを確認次第ずっと気配を消してました。
 なお洸汰君はマタタビ荘にいたので無事です。
 正直、原作でもマスキュラーの早期撃退が無ければ全滅もあり得たと思うのでこんな感じです。
 オールフォーワンにしても事前情報では追加戦力を出す必要がなかったので(なお緑谷君達学生の実力を正確に把握してたらギガントマキアをけしかけてました)、内通者君のお手柄ですね。
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