繋ぎ回です。
後に神野決戦と呼ばれる戦いが終わり、治療が終わった僕はマスコミから隠されるようにそっと帰宅した。
事情を説明してある母は優しく僕を迎えてくれて、気が抜けた精神は押し寄せてきた疲労に流されて自室のベッドで眠りについた。
終わったんだ。
眠りにつくまでに思っていたことはそれだけ。
それが先程までこなしていた今回の仕事のことだけでないのは明白だ。
オールマイトが、
平和の象徴が、
今の時代が、
日常にあった当たり前の終わり。
その寂しさとも怖さとも言える感覚が終わったという言葉とともに僕を満たしていた。
翌日、本来なら林間合宿中だった夏休みの朝。僕は母手製の朝食に舌鼓をうちながらテレビを見ていた。
朝一番に流れるのは神野区で行われた事件の(一部ぼかした)全貌とオールマイトの引退会見だ。
雄英高校の林間合宿を襲撃したヴィラン連合の拠点への即座の対応と黒幕の捕縛に、雄英高校とヒーローと警察を批判していた者達は手のひらを返すように褒め称え、続いたオールマイトの引退宣言は世界を揺るがした。
予想されていたことだが悲鳴のような引き止める声が止まない会場。僅かとはいえ放送されてしまったオールフォーワンとの戦いは傍から見たら圧勝であったし、数日前の骸骨のようなトゥルーフォームも世間にさらして無いため年齢や衰えを理由に引退は納得されることではない。実際、このあと僕にワンフォーオールを再譲渡したとしても世界最強(おじさんは除く)であることに揺るぎはないし、リカバリーガールとグラントリノとヨロイムシャという現役ロートルヒーローの存在もあるからだ。
だがオールマイトの続投に危機感を抱く者もいないわけではない。今回は大丈夫だった、しかし決戦の最中でもしオールマイトが崩れていたら社会はどうなっていただろうか?ならば健在のうちに引退し、希望を残しつつ新たなる希望を求めるべきだと政府各機関は決断したのだ。
その決断の末にだされた引退理由だが、長らく秘されていたオールマイトの過去とオールフォーワンの因縁についてだ。
オールフォーワンの個性詳細を伏せて、オールマイトが師を殺害されたこと、オールフォーワン打倒のため渡米し研鑽を積んだこと、平和の象徴へと至った裏にはオールフォーワン配下との戦いがあったことを告げた。
まさに歴史の裏側とも言える事実は世界に知れ渡り、数十年に渡る因縁が決着したことが引退理由だとオールマイトは告げた。
完全無欠のヒーローの悲しき苦難の日々を知った人々は誰もがお疲れ様という思いを抱いた。
そして続けて今後はヒーローは引退し、ヒーロービルボードチャートJPからもその名を外すが雄英高校教師として後進育成に務めると発表。
まだカンペを手放せぬ新米だが精一杯頑張りますという発言には沈んだ会場に笑みを戻していた。
オールマイトの引退、サー・ナイトアイと共に望んでいた願いはこうして達成されたのだった。
「緑谷出久君、学生である君に今回多大な苦労を強いてしまって心から謝罪させて欲しいのさ」
ヒーロー科生徒達が自宅待機している中、僕は雄英高校校長室に呼び出されていた。
ネズミなのか犬なのか熊なのかかくしてその正体は校長な根津校長は、そのプリティーな外見を申し訳なさそうに縮め僕に謝罪していた。
今回の件、特に僕は特例という言い訳あれどかなり法に触れる行いをすることになった。自分から許可を得ずに飛び出していたなら罰則(逮捕レベル)で済むが、ヒーロー公安委員会と雄英高校からの要請であったのでこうして謝罪しているのだろう。
持っている力を理由に無理を強いられる。それは今の社会で希少で有用な個性を持つ者の宿命だが、その特異性ゆえに過酷な日々を生きた根津校長としては納得できないことなんだろう。
「謝罪は受け取ります。ですが僕は大丈夫です、心から身を案じてくれていることは伝わりましたから」
ここには誰かのために力を使って当たり前だと上から目線で強要してくる者はいない。だから納得して力を振るうことができる。
「ありがとう緑谷君」
グランバハマルでの生活で感覚がズレて大概のことに寛容になれている自覚はある。けれどこれこそが僕の歩くべき道なんだ。
雄英高校から帰宅したらオールマイトが相澤先生と共に全寮制の説明を兼ねた家庭訪問に来た。
僕はすっかり馴れたけど、母は誰もが知る世界的有名人の来訪にドキドキとしていた。
(反対なんだろうな)
先生方とテーブルを挟んで向かい合う母を見ながらそう思う。
僕は母と全寮制についての話し合いはしていない。グランバハマルに居た半年間、こちらでは病院で意識不明の状態だった半年間を過ごした。
実の息子のそんな体験を見る羽目になった母に、どの面下げて家から出ることを相談できるのか。また傷跡こそ一部を除いて残してないが、それが魔法により治しているからであることは母も知っている。
そんな状況で母に何を言えるのか。
一連の騒乱は雄英高校の責によるものではない、今まで積もり積もった個性社会の歪みと淀みによるものだ。けどそんな風に言うことは出来ない。
子供の将来を心配して守ろうとしてくれる母の想いを無下には出来ない。
おじさんとは違って、僕は目覚めたあの日に抱きしめてもらえたのだから。
「よろしくお願いします」
予想に反して母はそう言って頭を下げた。
「この子の事情はあまりにも特殊です。誰にも、ヒーローにだってなんとか出来ない経験をしてしまいました。そんなこの子の事情を理解して支えてくれようとするのも、出来るのも雄英高校だけなんです」
それはあるんだよね。
個性を誤魔化してヒーロー活動するには政府に顔の利く雄英高校でないと出来ないし、僕の能力を私欲のために利用しないモラルを持つ人物達なんてそうそう居るものではない。
預けるに値する存在であること。
それを雄英高校は示していたんだ。
まあ僕のグランバハマル生活全てを見てしまった母はこれくらいの出来事ならまだ平気だと認識があるかもしれないけど、いや心配してくれてるけど。
「その信頼に応えられるよう全力を尽くします」
「この命に代えましても」
先生方もまた頭を下げて予想外な形で家庭訪問は終わった。
「オールマイト先生」
「はい?」
家を出るオールマイトを母は呼び止めて言う。
「命になんて代えないでください。師を失う辛さを知る貴方は生きて子供達を育てあげてください」
「お約束します」
強いなあ、お母さんは。
本当に強くて優しい人なのだと、僕はあらためて知るのだった。
「ここに来るのも随分と久しぶりだね緑谷少年」
夜、オールマイトに呼びだされた僕はあの浜辺へと足を運んでいた。
「ええ魔法で焼き払って以来ですからね」
まあそれほど頻繁になんて来てはいないのだけど、予定していた修行は浜辺に溢れていたゴミと共に焼却してしまったのだから。
けど、此処は思い入れのある場所だ。
ヒーローに成ることを止めようとしていた僕が再起した場所で、オールマイトからワンフォーオールを託された場所だから。
「緑谷少年ありがとう。君の決断で私はまた師匠と話が出来た。そしてまだ終わってはいないけど、私の中で一応の区切りはついたんだ」
ワンフォーオールの再譲渡、戦闘のため以上に先代達と対話して欲しいという意図が実はあった。
さらにそれだけでなく二代目からの提案で次代の継承者をオールフォーワンから隠蔽するという狙いもあったのだ。ラグドールの個性を得てない以上、オールマイトからどこにいったのか探すのは困難だろう。
ワンフォーオールを付け狙うオールフォーワン、その意を汲むヴィラン連合残党が残っている以上、主犯たるオールフォーワンがタルタロスに収監されようと油断は出来ない。
「私は走り抜けた、だから君にバトンを託すよ」
プチリと髪を抜きながら拳を突きだす。
「食え」
「せめて血にしてくださいよ」
いつかと同じ行動、いつかと同じやり取り、それになぜかホッとして胸がわきたって心から込み上げるモノがあって、僕とオールマイトは泣きながら笑った。
優しく月の光照らすこの場所で。
シリアス続きでギャグが書きたいです。
けどここにギャグはぶち込めませんでした。
書いてない原作シーン(家庭訪問)は大体原作どおりです。まあ被害が少ないので原作よりマシですが。