原作改変ありです。
電車で一時間。
そこがサー・ナイトアイの事務所だ。
「おはようございます、ミリオ先輩。いやルミリオンが正解ですよね」
「コスチュームを着るまでは名前で良いよ。ヒーローは切り替えが大事だからね」
雄英高校から一緒に来ていたミリオ先輩に事務所前で改めて挨拶する。これから仕事前だからか気合を入れるためである。
僕とミリオ先輩の仲は良い。それは彼自身の人柄が良いという理由もあるが、職場体験の時にヒーロー殺し・ステインの殺人記憶を書類に起こすという苦行に等しい仕事を共にやりきった事が大きいと思う。苦楽を分かち合った戦友、一年に満たない付き合いながら彼ミリオ先輩とはそんな間柄だ。
「遅刻しちゃまずいですし、入りましょうか」
「そうだね、サーが待っている」
そうして二人で事務所に入ったらちょうどサー・ナイトアイのサイドキックの一人であるバブルガールと出くわした。
「おはようございます、バブルガール。パトロールですか?」
「お疲れ様です」
まだ早い時間だがヒーローのパトロールの有無は犯罪発生に直結するから大事な仕事だ。
「おはよう、私はこれからセンチピーダーと合流して見張りの継続に、ってイズク君?!」
見張り?張り込みかな。
予定を話してくれたけど、僕の存在に気付いて挙動不審になった。今日からヒーローインターンなのは知っていると思ったけど。
「イ、イズク君」
キョロキョロと落ち着かない様子であちこち見ていたバブルガールだけど、しばらくして何やら覚悟を決めた表情でこちらを向いて、
「き、君の気持ちは嬉しいけどまだ学生なんだからそういった事は雄英高校を卒業してから改めてお願いします!!気持ちは嬉しいけど!!」
「?」
「そんな訳で私これから仕事だからーー!!」
と、叫ぶように一気に言ってから外へ走り出していってしまった。
「何か約束でもしたの?」
「そういえば、友人を紹介しようと電話した覚えがありますね」
「そっか、ならその子は脈があるみたいで良かったね」
「紹介相手の説明する前に電話切れた筈だけど、なんで知っているんだろう?」
「なんでだろうね」
「「?」」
不思議に思ってミリオ先輩と共に首を傾げるが答えがでることは無かった。
「よく来てくれた、異世界ヒーロー トレンドール。君を歓迎しよう」
七三分けのスーツ姿。
まるでサラリーマンのような見た目をしたヒーロー、それがサー・ナイトアイだ。
個性は戦闘向けでこそないものの、経験による予測と鍛え抜いた肉体によりその実力は高い。
オールマイトの元サイドキックということと、その実直な仕事ぶりから他のヒーローからの評価も高い人物だ。
「早速で悪いがあらかじめ言っておく、私は君を学生として見る気はない」
机に座り顔の前で指を組みながらサー・ナイトアイはそう告げる。
「君の実力はプロに劣らない、ゆえに一人のプロヒーローとして今回の件に参加して貰う」
「ハイッ!」
「良い返事だ。では続けよう、今回の件について私が見た未来についてだ」
サー・ナイトアイが自身の個性である予知で知った未来。その中でもこれからの日本に大きな影響を与える存在と出来事についてだ。
一つは、ヒーロー殺しステイン。サー・ナイトアイ事務所総員で捕えたヤツはその思想と狂気によりヴィラン活性化を促す。
一つは、正体不明のヴィラン荼毘。ひょんなことから異世界おじさんが対処してしまった彼は、自身の過去によりエンデヴァー、牽いてはヒーローそのものの信頼を台無しにする。
一つは、神野決戦。雄英高校林間合宿のヴィラン襲撃からヒーロー達による反撃でヴィラン連合拠点にて全ての元凶であるオールフォーワンと平和の象徴オールマイトが激突。勝利を得るも平和の象徴オールマイトの引退は世界を震撼させた。
どれ一つとっても社会を混乱に陥れ人々から平穏を奪い去る出来事であるが、事前に備え対処のために動いた事と完全なイレギュラーな出来事のおかげで事件を未然に防ぐ・被害を軽減することに成功した。
本来ならこんなことは出来はしない。サー・ナイトアイの個性である予知は一度見た未来はどう動こうと足掻こうとも防ぐことも回避すること阻止することも出来ない確定した未来だった。
それはその個性と生まれた時からの付き合いであるサー・ナイトアイ張本人が、敬愛するオールマイトの無残な死を受け入れてしまう程にどうしようもないことだった。
だがここに一つの変化が訪れる。
去年オールマイトが連れてきた少年、異世界帰りという信じがたい経験をした少年との出会いが有益ではあるが絶望をもたらす個性に光を示したのだ。
未来を変えることが出来るという光を。
それが異世界帰りだからというイレギュラーな要素のせいなのか、彼に宿る神から与えられた転移ボーナスのおかげなのかは定かではない。
だが未来は、予知は変えられる。
より良い未来へと到れる。
それがどれほどのことであるのか、変えられぬ予知に膝をつき続けてきたサー・ナイトアイにしか分からないだろう。
そして今回の件、指定敵団体『死穢八斎會』についてだ。この件もまた世界において大きな意味を持つ。
まず死穢八斎會だが、かつては個性の発現と闇の帝王により荒れる社会の中で近隣住民を守る仁義を重んじる侠客集団だった。
だがオールマイトがアメリカから帰国し、闇の帝王の配下共を日本から駆逐しその影響力を低下させ治安を改善した辺りから侠客集団から変化が始まった。
いや、力を取り戻した警察機関、ヒーロー公安委員会から取り締まられることにより変化が必要となってしまったのだ。ミカジメ料が主な収入だった彼らは生活のため非合法な商売に手を染め、しかし規模を小さくしていったのだ。
それが現状だったのだが、当代組長が伏せることにより組に変化が訪れた。
若頭・治崎廻、ヴィラン名オーバーホールが組の実権を握り、自身の実力と集めた戦力、そして切り札をもって極道の復権を企んだのだ。
「その結果が」
「ああ、私は命を落とし、ミリオ、ルミリオンは個性を失う事態となる」
死穢八斎會、既にその戦力はトップヒーローが複数名で当たらぬば勝てぬ程に強大だ。
そしてその決戦の果てに失うモノが余りに多く、そしてそれ以上に散逸して広まってしまう死穢八斎會の切り札『個性破壊弾』が未来に大きな、致命的な影響を与えるのだ。
「ゆえに阻止せねばならない。変えねばならない。予知を変え、より良い未来を私は見なければならないのだ」
予知を見たその日からサー・ナイトアイは多忙な中で既に動いていた。
近隣のヒーロー達にも呼びかけ死穢八斎會を警戒することにより連中の動きを抑制し続けた。
結果、死穢八斎會は動きが取れず本来ならチンピラレベルのヴィランにすら入手できた個性破壊弾は広まらず、未だに敵連合との協定関係にすら到れていない。
「だからこそここで一気に叩く。事件が起きていないためヒーロー達に呼びかけることは出来ないが、代わる戦力として君、異世界ヒーロー・トレンドールと譲渡による残り火となったがワンフォーオールを使えるオールマイトが協力を申し出てくれた」
公的には引退したオールマイトまでも参加してくれるとは。しかしオールマイトの引退を誰よりも喜んでいたサー・ナイトアイが伝えるとは思えないのだが。
「グラントリノ経由だ、彼が敵連合の黒霧を塚内さんと追っているため参加出来ないからと呼びかけてくれたそうだ」
ならば、
「そうだ、本当ならすぐに動いて個性破壊弾の材料とされている少女『エリちゃん』を救いたかった。だが大局のため彼女の犠牲を私は許容した。だがもうそれも終わりだ、死穢八斎會本部を強襲し、彼女を救いだすぞ」
冷静な判断を下せるサー・ナイトアイは断じて冷酷ではない。少女に襲いかかる理不尽を大局がために呑み込んでも腹にグツグツと激情を滾らせている。
「「ハイッ!!」」
だから僕とミリオ先輩はそんな彼の想いに応えようと全力で戦うことを誓うのだ。
敵が強大な戦力を誇る極道集団であろうとも。
『サー・ナイトアイ、死穢八斎會に動きがありましたっ!!』
そして監視をしていたサイドキックであるセンチピーダーからの急報。
『何やら玄関口で怪しげな風体の男と物品の取引をしています』
「舐められたものだな!」
ギリと歯を噛み締めるサー・ナイトアイ。その気持ちはよく分かる。
まさか監視されておいて堂々とそんなやり取りをするとはこちらを舐めているとしか思えない。
『今、映像を送ります』
さてどんな相手だとその姿を確認したらそこには、そこに映っていたのは、
『へへへ』
ヤクザもドン引くニヤケな表情をして紙袋の中身を確認する、異世界おじさん・嶋㟢陽介さんがいた。
「なんでだよおっ?!」
敬文さんみたいな顔で叫んだ僕の声はサー・ナイトアイ事務所を揺らすのであった。
バブルガールの件に関しては67話。
予知改変のため動きだした原作より死穢八斎會は動きが取れません。コンビニ強盗ズは結局ヒーローに捕まり持病のリウマチ、虫歯はそのままです。
エリちゃんも機材の関係から原作よりはマシです、マシなだけですが。
次回、おじさん降臨。
なにを死穢八斎會とトリヒキシタンダローナ(目逸らし)。
すいません残業が増えてるので、明日の投稿は出来ないかもしれないです。書き溜めとか一切無くて。