とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
病院の静かな一室。
いくつもの医療機器が響の周りに設置され、
その機械音だけが規則正しく響いている。
やがて、ベッドに横たわっていた立花響がゆっくりと目を開けた。
周囲の光景はぼんやりとしていたが、
酸素マスク越しに静かに息を吸い込むと、
彼女は目を左右に動かし、周囲を確認しようとした。
かすかに頭を動かしながら、口を開く。
「ここは、いったい…」
その声を聞きつけた看護師が驚き、
目を見開いた。
「!? 患者の意識が回復しました! 至急、応援を!!」
声が病室に響き渡ると同時に、看護師たちが慌ただしく動き始める。
そんな中、響はじっと目の前の状況を見つめ、思考を巡らせていた。
▲▲▲
響の状態が安定した後、
彼女は医療機器を外されて自由になり、
窓付きの病室へと移された。
その部屋の窓から外を眺めていると、
どこか遠い場所を見るような表情を浮かべている。
「あ!」
突然、病室のドアが勢いよく開いた。
驚いて振り向いた響の視界に飛び込んできたのは、
小日向未来だった。未来は息を切らせ、
目には涙を浮かべている。
「未来…」
響はその名前を口にした。
その瞬間、未来は勢いよく響に駆け寄り、
彼女を強く抱きしめた。
「バカ! どうして、無茶ばっかりするのよ!
私がどれだけ心配したか…!」
未来の声は震えており、
彼女がどれほど不安を抱えていたのかが伝わってくる。
「一度、響の様子を見に来たの。
そしたら、響の体が青白くなってて…
まるで、何者かに侵されたみたいで…。
浸食が進むたびに響が悲鳴を上げるのを聞いて、
私…」
未来の声が途切れると、
響は静かに答えた。
「ごめん、未来。」
その謝罪の言葉に未来はさらに涙を流しながら
、響をぎゅっと抱きしめ続けた。
数秒間の沈黙が二人の間に流れる。
そして、未来は声を絞り出すように響に尋ねた。
「もう、二度と無茶をしないって、約束してくれる?」
響は少し俯きながら、
その問いに答えることができなかった。
「それは…その…」
「答えられないの?
それとも、答えてくれないの?」
未来の声には、悲しみと怒りが滲んでいた。
その言葉に響は必死に首を振った。
「違うの、未来…!?」
響が必死に否定するも、
未来はそれ以上言葉を発することなく、
涙を流しながら病室を飛び出していった。
「未来…」
響は伸ばした手を宙で止め、
彼女の名前を呟く。
しかし、未来の背中が戻ってくることはなかった。
やがて、響はその手を静かに膝の上に置き、深く息を吐いた。
その時だった。
「フォウ、フォウウ!」
どこからか小さな鳴き声が聞こえたと思うと、
奇妙な小動物が現れ、軽やかにベッドの上に飛び乗った。
それはそのまま響の肩へよじ登り、
柔らかな体で頬を擦り寄せてきた。
「あはは、フォウくん、ちょっとやめてよ。くすぐったいってば…!」
響は笑いながらフォウを両手で抱き上げた。
その瞳をじっと見つめると、
小動物の目には優しさが宿っているように見えた。
「慰めてくれるの? ありがとう…
もう、大丈夫だから。へいき、へっちゃらッ!!」
響は柔らかな声で語りかけると、
フォウを優しく抱きしめた。
▲▲▲
一方、病室から少し離れた場所。
風鳴翼、雪音クリス、そして風鳴司令の三人が話し合いを続けていた。
「響の容態は?」
翼が司令に尋ねる。
「安定している。バイタルも問題ない。ただし…」
司令は少し言葉を切った。
「ただし?」
クリスが眉を寄せる。
「今回の聖遺物の暴走で響の体は深刻な浸食を受けた。
余命はおそらく一年未満だ。
それに暴走は終わったわけではない。再発する可能性が高い以上、
原因の特定を急がなければならない。」
その言葉にクリスが拳を握り、力強く机に叩きつけた。
「くそっ! 一体なんでこんなことに…!」
翼は冷静に状況を分析しながら言葉を紡いだ。
「原因はやはり、奏が所持していた完全聖遺物だと思われます。
あの槍の能力が響に
何らかの影響を与えた可能性が高いです。」
司令が頷きながら応じる。
「奏が持っていた槍か、
以前、俺たちは調べたことがあったな」
「そうなのか、オッサン」
「ああ、未発見の貴重な完全聖遺物だからな。
俺たちはそれを第五聖遺物と名づけた。」
風鳴司令は淡々と語る。
「国を挙げて、シンフォギアへの加工も
目視に入れた大規模の調査を開始した。
だが、何もわからない。
能力も出生も謎の聖遺物。」
風鳴司令は一つのタブレットを翼たちに見せる。
そこには普通の森が映っていた。
「聖遺物が発見した土地からは何一つ、
文明の跡が見つからなかった。
唯一、わかったことは、
最先端の切断技術をもってしても、傷一つ付けられなかった。
異常なまでの頑丈さ。
大量のフォニックゲインを導入しても反応せず、
加工もできないから、シンフォギアへの軍事転用も不可能だったと判明し、
即座に調査は中断された。」
「だから、何の価値もないと判断したため、
奏が個人で保有することが認められた。」
「正直と言ってあの槍は正体不明だ。
我々の技術をもってしても解析不可能の代物。
風を操り、奏者にも匹敵する自動運行可能の騎士を生み、
半径数十メートルを吹き飛ばす破壊力。
デュランダルの最低でも333倍ものエネルギーを誇り、
聖遺物を意図的に暴走される能力。
もし、聖遺物を意図的に暴走できるなら我々に勝ち目はない。」
「それはないと思います。」
「翼、それはどういうことだ。」
「第五聖遺物に聖遺物を暴走される能力はないと思われます。
もし、それが出来たとしたら、奏が最初からそれを使えば、
私たちを簡単に倒すことができました。
あのとき、奏もかなり動揺していました。
響の暴走は奏にとっても予想外の出来事だったはずです。」
「だとしたら、いったい何が原因だ。
たまたま、暴走したというのか。」
「いえ、それは違います。
あの槍に原因があると思います。
奏も槍の能力を完全に熟知していない。
発動対象は聖遺物ではなく、他にあることです。」
「謎が深まるばかりだな。」
「ち、打つ手なしか。
せめて、名前だけでも分かれば。」
数秒の沈黙
「いや、それは大丈夫だ。」
「「え・・・」」
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