とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
病院の一室。
静まり返った空気の中、
風鳴司令の発言に驚いた風鳴翼と雪音クリスが
身を乗り出すようにして話を聞いていた。
その沈黙を破るように、
クリスが口を開く。
「どういうことだ、オッサン。
あの槍の正体はわからないって言ってなかったのか?」
風鳴司令は一度深く息を吐き、
真剣な表情で答えた。
「ああ。だが、それは数年前の調査の結果だ。
奏が俺たちの前に姿を現した後、再びあの槍の調査を再開した。
風を操る槍について、日本の神話や伝説には記述がなかった。
あったとしても、目撃情報だけであの槍の正体の確証を得ることはできない。
槍が手元にない以上、直接の調査もできなかったからな。」
クリスは腕を組み、苛立ちを隠さないまま続ける。
「じゃあ、最初からアビスにぶち込んどけばよかったんじゃないか。」
「耳が痛い話だが、確かにそうだ」
と、風鳴司令は少し肩をすくめる。
「クリス、それは奏が駄々をこねて」
翼がフォローしようとしたが、風鳴司令は軽く手を上げて制した。
「いいんだ、翼。最終的に許可を出したのは俺だ。
言い訳をするつもりはない、責任は俺が取る。」
クリスは少し気まずそうに視線を逸らしながら言った。
「オッサン、あたし、別に・・・」
風鳴司令は微かに笑いながら話を続けた。
「空気が重くなったな。
さて、続きを話そう。目撃情報しかなかったが、
過去の第五聖遺物の研究結果や再発見した地域の調査を進めていくうちに、
古い文献に手掛かりらしきものを見つけた。」
翼が眉を寄せて問いかける。
「手掛かりとは?」
「ああ、今からおよそ百年前のことだ。
その付近の森に隕石が落下したという記述があった。
当時の村人がその様子を日記に記していた。」
「最初の調査じゃわからなかったのか」
と、クリスが疑問を投げかける。
「その日記は第二次世界大戦後、
近くの図書館に寄付されていたんだ。
それで俺たちの目に触れなかった。
その情報をもとに、俺たちは現地調査を行い、
土壌を分析した。
その結果、あの槍は誰かが意図的に置いたのではなく、
百年前、突如として空から降ってきたことが判明した。」
クリスは呆れたように言う。
「それじゃあ、
ますます正体不明じゃねえか。」
「その通りだが、少なくとも一歩真実に近づいた。」
風鳴司令の言葉には確信があった。
「これで、あの聖遺物が日本固有のものではないことがわかった。」
翼が不安げに尋ねる。
「それでは行方がわからないのではありませんか?
日本だけでなく、
世界中、さらに空から来たものなら宇宙まで調べないと・・・」
風鳴司令は首を振る。
「それはない。槍の主な成分は未だ不明だが、
宇宙線の影響は受けていなかった。
俺の直感だが、あの槍はこの世界に由来するものだ。
実際にその証拠も見つけた。」
「証拠?」
翼の声には期待が混じっている。
「あの槍の出身地だ。
以前、君たちが戦っていたときに俺たちがひっそりと撮影していた。
騎士たちの鎧に描かれた装飾や文様を考古学者に見せた結果、
5世紀末から6世紀前半のブリテン、
現在のイギリスで使われていた装飾と一致した。
大英博物館に展示されている鎧とも比較したが、
ほぼ同一だった。」
翼は驚きの表情を浮かべる。
「5世紀末から6世紀前半のイギリス頃の聖遺物ですか。」
風鳴司令は頷きながら言った。
「それはアーサー王が支配していた時代だ。
混乱の時代に希望と理想を象徴する伝説の王の物語だ。
ゲームやアニメ、映画などでよく登場しているよ。」
クリスが興味なさそうに肩をすくめた。
「それって実在してるのか?」
「実在すると考える学者もいれば、
そうではないと言う者もいる。
それに、お前たちが使っている聖遺物も、
元は神話や伝説から来た、実在するか怪しい代物だろう。」
風鳴司令の説明に翼も納得せざるを得なかった。
「それは、そうですか。」
風鳴司令は静かに笑みを浮かべた。
「これで第五聖遺物の調査範囲をイギリスに限定した。
現地の聖遺物研究所にも協力を要請し、快く了承を得られた。
イギリス側も自国の聖遺物の可能性を期待しているのだろう。」
「そうなのか」
クリスは声を上げる
「自国の聖遺物かもしれないと思っていたのでしょう。
第五聖遺物はデュランダルの数百倍ものエネルギーを発生させることができます。
次世代エネルギーとして注目されている聖遺物を欲さない国はいないでしょう。」
「そうでなくても、
聖遺物の機密情報は喉から手が出るほどに欲しているのさ。
共同研究をする際に情報を提供もしたし、
向こうにとって悪い条件じゃあないだろう。」
「そんな大事な情報、あげていいかよ。」
クリスは風鳴司令へツッコミをした。
「現地の人の方がこういうのに詳しい。
俺たちだけ調査をするのに些か限界がある。
とはいえ、もし、本当にアーサー王伝説の聖遺物なら所有権を巡って、
国際問題に発展しかねないけど、そこは問題ない」
「大丈夫なのか」
「日本で発見したのなら日本の物。
些か強引だか、外交において手札の一部にはなるだろう。
そう簡単に日本の外交官は外国に屈したりはしないさ。」
風鳴司令は誇りにそう言った。
「さて、イギリスの聖遺物の第一人者。
リチャード教授と協力し、候補を絞った。
リチャード教授はアーサー王伝説が大大大大好きだからな。
彼と協力して第五聖遺物の候補として挙げるのは、
主に二つ。」
風鳴司令は続けて言った。
「一つは【ロンギヌスの槍】
救世主の胸元を刺し、その血を浴びた聖遺物。
円卓の騎士の第二席にして、
聖槍ロンギヌスの使い手の1人、
パーシヴァル・ド・ゲールによって持っていた槍だ。
一応、オリジナルと思われるロンギヌスの槍は
バチカン市国に保存されてはいるが、どっちが本物なのかは微妙な範囲だ。」
風鳴司令は続けて言った。
「そして、もう一つは【ロンゴミニアド】
アーサー王が直々に持っていたとされる槍だ。
ロンギヌスと同一視されることも多いが信憑性は皆無だ。
伝説の聖剣、エクスカリバーと比較して知名度は劣るが一応、
候補として挙げた」
「ロンゴミアンド・・・」
「どうした、翼」
「いえ、妙にその名が響いてきて。
もうすこし、詳しく教えてください。」
「ああ、アーサー王最期の戦いに使用された名槍。
別名を【ロンの槍】といい、アーサー王伝承ではこの名で登場している。
幅広で長い穂先を持ち、一撃で五百人の兵士を吹き飛ばすとされるが、
それ以上のことは分かっていない。
エクスカリバーと並ぶアーサー王の宝物だが、
知名度は他の宝物と比べて余りにも低かった。
主な原因として、エクスカリバーがあまりにも目立つこと、
また、この槍の登場が、あまりにも遅かったことだ。
アーサー王伝説の佳境の【カムランの戦い】のみであることも手伝って、
あまり取り沙汰されない。」
「わかりました。ありがとうございます。」
翼は頷いてその後の話を聞き続けた。
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