とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
フロンティア内部
洞窟のような薄暗い空間に響くのは、
押し殺された息遣いと、わずかな足音のみ。
天羽奏は地面に押さえつけられ、動けなくなっていた。
その体は、まるで電気が切れた機械のようにピクリとも動かない。
奏のその様子を見つめる一人の女性――ナスターシャ教授は、
マリアの手に握られた聖槍ロンゴミニアドへと鋭い視線を向けた。
「さて、いい加減話してくれたらどうだ」
ナスターシャの声は冷静だが、
その眼差しには厳しさが宿っていた。
マリアの手にある聖槍ロンゴミニアドは、
彼女の意思とは無関係に動き、やがて静止する。
だが、その直後、
洞窟内の空間に別の声が響いた。
「まさか、君がここまでやるとは驚いたぞ、
ナスターシャ……」
低く響いたその声に、ナスターシャは眉をひそめ、
マリアは驚きの表情を浮かべる。
「その様子だと、
意思を持つ聖遺物に会うのは初めてか?」
声の主はロンゴミニアド自身だった。
聖槍の言葉に、ナスターシャは目を細める。
「……」
一瞬の静寂の後、ロンゴミニアドが言葉を続ける。
「私はあなたのことを親友だと思っていたのに」
「私たちは確かに利用し、
利用し合う関係だった。
己の正体も明かさず、お互いの目的のために動いた。
そして、あなたのおかげで私たちは無事にフロンティアにたどり着いた。
それには感謝している」
ナスターシャは淡々と言葉を紡ぐ。
「だが、あなたの目的――人理保存は容認できない」
ロンゴミニアドの声に、わずかな怒気が混じる。
「そこまでわかっているのなら、この手を離しなさい。
我々の目的は一致している。
共に人類を救おうではないか」
ナスターシャは冷ややかに首を振る。
「目的は同じでも、我々の行動理念は大きく異なる。
私たちは人の世を救おうとしているのに対し、
あなたが行っていることは、ただの剝製だ」
ロンゴミニアドは嘲笑するように言い返す。
「まるで、自分たちのことを正義
だとでも思っているのか?」
ナスターシャの瞳に、一瞬だけ哀愁が漂う。
「いや、違う。私は一度たりとも正義のためにこんなことをしているわけではない。
ただ、子供たちに未来を与えたいだけなのだ」
ロンゴミニアドは短く息を吐く。
「そうか。私の負けだ。だが、最後に一つだけ質問させてほしい」
「何だ?」
ナスターシャが応じると、ロンゴミニアドはマリアの手袋に目を向けるような仕草をした。
「このトールの手袋……神造兵器を操り、
あらゆる武器からの攻撃を防ぐ概念兵装。
どこでこのような代物を手に入れたのかしら?」
ナスターシャは短く答えた。
「……フィーネ。それで十分だろう」
ロンゴミニアドは意味深に頷いた。
「そうか、わかった」
その瞬間、ロンゴミニアドが突如として動き、ナスターシャの胸を貫いた。
胸を貫かれたナスターシャ
「ぐ、ふぁ……」
ナスターシャの口から血が飛び出し、
その体は力を失い、崩れ落ちる。
自分の胸を恐る恐る見下ろすと、
そこには聖槍によって穿たれた穴が広がっていた。
「マム!?」
マリアが叫び、ナスターシャのもとへ駆け寄る。それを見て、切歌と調も動きを止めた。
「どうしてデスか。マリアが聖槍を掴んでいたんじゃなかったのデスか?」
切歌が困惑した声を上げる。マリアも動揺を隠せない。
「さっきの感触は……空間移動?ロンゴミニアドにそんな力が……」
マリアの手を離れたロンゴミニアドは、ナスターシャの体から引き抜かれると、宙に浮かんだ。そして、ナスターシャの懐にあるネフィリムの心臓を取り出した。
「人間はやはり愚かな生物だな。そんなボロ雑巾で我が単独顕現を防げると思ったのか」
冷たい声が響く。
「はああああああ!」
調がシンフォギアを纏い、ロンゴミニアドへと攻撃を仕掛ける。だが、その刃が触れる寸前、ロンゴミニアドを覆う風の渦に弾き飛ばされ、調は壁に叩きつけられた。
「調!」
切歌が駆け寄る中、マリアはナスターシャを抱え込む。
「マム、マム、返事をして!」
だが、ロンゴミニアドは冷たく告げる。
「無駄だ。彼女はもう息をしていない。そんなことをしても無意味だ」
フロンティアの中心部
ロンゴミニアドは言葉を続けた。
「そんな目で見ないでくれ。先に裏切ったのは君たちだ。とはいえ、私も反省している。すべての人類を救おうと決意したのに、大義のために人を殺すとは、何とも滑稽だな」
その言葉を最後に、ロンゴミニアドは地面に横たわる奏の体を貫き、フロンティアの中心部へと向かう。奏の体を固定すると、中心部にネフィリムの心臓を埋め込んだ。
赤く輝く心臓が脈打ち始める中、戦いの幕開けが告げられようとしていた。
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