とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
広々とした海上
広大な海が広がり、
水平線の彼方には島影ひとつ見えない。
上空には、巨大な空中要塞「フロンティア」が
その圧倒的な存在感を放っていた。
穏やかに波が揺れる海面から、一隻の潜水艦が静かに浮上する。
それは、特殊機関SONGが所有する最新鋭の潜水艦。
艦上にはミサイル型のロケットがセットされ、今にも発射の準備が整っていた。
指令室のモニターに映る二人の姿に向けて、風鳴司令が口を開く。
「二人とも、聞こえるか?」
ロケット内部に乗り込んでいるのは、風鳴翼と雪音クリスだった。
「おお、いつでも出発できるぜ。」
クリスの快活な声が返ってくる。
「はい、問題ありません。」
翼も冷静に答える。
風鳴司令は頷き、真剣な口調で告げた。
「よろしい。
作戦通り、これから君たちは太平洋上空に
浮かぶ空中要塞“フロンティア”に突入する。
内部には、奏が使っていた第五聖遺物の反応も確認されている。
気を付けろ。」
第五聖遺物の調査は未だ進んでいなかった。
響が戦闘不能となり、
戦力が大幅に低下している状況での作戦強行は非常に危険だ。
しかし、フロンティア内部に
観測史上最高峰のエネルギー反応が確認されたことが、
出撃を決断させた理由だった。
そのエネルギーは核兵器数百発分に匹敵し、
爆発すれば日本列島に壊滅的な被害をもたらす可能性があった。
「わかってるぜ、オッサン。心配するな。」
クリスは不敵に笑う。
「ええ、私たちを信じてください、司令。必ず奏を連れて戻ります。」
翼の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
風鳴司令は心の中で彼女たちの無事を祈った。
▲▲▲▲▲
フロンティア内部
轟音と共に、ミサイル型ロケットがフロンティア上空に到達し、
翼とクリスは無事に内部へと侵入した。
二人は慎重に周囲を探索しながら進む。
「……おかしいな。あの甲冑の騎士たちがいないじゃないか。」
クリスの疑念をよそに、周囲は不気味な静けさに包まれていた。
『わからん……
道中で君たち以外の生命反応と聖遺物反応は見当たらない。
だが、十分に注意しろ。』
通信越しに風鳴司令の声が響く。
その瞬間――
通路の奥から突如、風が吹き抜けた。
「なっ……!?」
翼とクリスは思わず身構える。
それはただの風ではなかった。
空気に混じる異質な“力”が、二人の本能を激しく刺激する。
「……あたしでも分かるぜ、これはヤバいな。」
殺気や悪意は感じられない。
だが、それでも圧倒的な力の前に、二人の心は無意識に警鐘を鳴らしていた。
「先を急ごう。」
翼は意を決し、前へ進む。
すべては失われた片翼を取り戻すために――
▲▲▲
制御室
フロンティアの中心部へと到達した二人の前に広がるのは、
東京ドームにも匹敵する広大な空間だった。
白を基調とした壁面には、美しい装飾が施され、
中世ヨーロッパの城を思わせる荘厳な雰囲気が漂っていた。
「おい、あそこに人がいるぞ!」
クリスの指差す先には、白い床に横たわる人影。
「マリア!」
翼は駆け寄り、彼女の肩を揺さぶる。
マリア、そして切歌と調――
彼女たちは深刻な負傷を負い、意識を失っていた。
「こいつら……ボロボロじゃねえか……!」
さらに奥には、胸に深い傷を負ったナスターシャ教授の姿もあった。
「……!」
翼が彼女に手を伸ばそうとした、その時。
「やあ、翼。やっと来たね。」
聞き慣れた声が、広間に響く。
「……!?」
翼は息を呑み、声のする方へ振り向いた。
フロンティアの炉心――その中心から声が響いていた。
「奏……そこにいるのか?」
「ああ。確かに“天羽奏”はここにいる。」
炉心に佇む影が、ゆっくりと姿を現す。
「ナスターシャ教授も中々やるようだ。
おかげで、騎士たちが呼び出せず。
君たちは楽々とここに辿り着いた。
歓迎するぞ。
風鳴翼。」
「そうか……」
翼は目を伏せ、深く息を吐く。
もう、動揺はしない。
目の前の人物は、何者だろうと奏を連れ戻す。
「クリス、彼らを基地に連れて行ってくれ。」
「お前、一人で戦う気かよ……!」
クリスは目を見開き、思わず抗議する。
『ここは一旦引くべきだ!』
無線にいる風鳴司令も言う。
だが、翼は静かに首を振る。
「いいえ、私たちが全員でここに残るのは危険すぎる。
敵は私だけを逃がさないつもりだ。それに、彼女たちを守りながら戦うのは無理だ。」
「……ちっ、わかったよ。」
クリスはマリアたちの身体を抱え込む。
「じゃあな、先輩。必ず戻ってこいよ。」
「……所で、聞いていいかな?」
「なんだよ?」
翼は微かに微笑み、刀を抜く。
「別に倒しても構いませんか?」
クリスは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「ああ、ぶっ倒してこい!」
クリスはマリアたちを抱え、フロンティア内部から脱出していく。
静まり返る制御室に、翼はたった一人残される。
▲▲▲
フロンティアの制御室の中心、炉心を挟んで向かい合う二つの影。
風鳴翼は刀を構え、目の前の存在を鋭く見据えていた。
奏――かつて共に戦った戦友であり、今や未知の存在へと変貌してしまった彼女が、微笑を浮かべて翼を見つめている。
「あなた、一人で私に勝てるというのですか?」
奏の声には確かな余裕があった。翼は表情を崩さず、強く答える。
「ええ、そうです。元より、これは私の戦いです。
私の不甲斐なさ、私の弱さが引き起こしたのだ。」
「強情だね。」
奏は嘲るように微笑むが、翼は続ける。
「そちらこそ、なぜクリスを逃がした?」
「たかが人間が逃げたところで、私の脅威にはならない。
人は脆く、細く、矮小な肉体に縛られた存在。
どうして、私の邪魔になるというのか?」
「……そうか。」
翼は構えを取り、瞬時に地を蹴った。
――音速の壁を越え、炉心へと一直線に迫る。
狙いは中心、神速の刃が貫かんとする瞬間――
「――!」
透明な風の壁が行く手を阻む。
「学習しないね。それでは私の風を突破することは不可能だよ。」
翼は刀を壁から引き抜くと、身を引いた。
『やはり、防がれた……。』
その結果は予想通りだったが、翼はすぐに次の行動へ移った。
「ならば……はあああああああ!!」
背中の装甲が変形し、まるでロケットのように強力なジェット噴射を放つ。
翼は加速し、風の防壁を突破せんと突き進む。
「なんて品のない攻撃だ。」
奏が嘲笑した次の瞬間――
白い地面から無数の槍が飛び出し、翼へと向かってきた。
「!?」
翼は瞬時に刀を引き、槍の嵐を迎え撃つ。
四方八方から迫る刃を、一振りの刀で弾き返す。
ジェット噴射による遠心力を利用し、全方位攻撃を防ぐ。
だが、状況は不利だった。
翼は体勢を整えるため、一時撤退を選ぶ。
「逃がすか。」
奏は出口へと壁を出現させ、逃げ道を封じた。
「君さえ取り込めば、もう二度とこの体は私のものだ。
おとなしく、私の一部となるがいい。」
翼は鋭く睨みつける。
「断る。誰が貴様の言うことを聞くか。
奏の体を好き勝手にした貴様なんかに。」
「……」
その言葉に、奏は何も言わなかった。
しかし――
次の瞬間、全ての攻撃が消えた。
伸縮していた槍も静かに地へと戻り、風の壁も消失する。
翼は困惑する。
『なぜ、攻撃を止めた……?』
沈黙を破る声が、室内に響く。
「少し訂正しよう。」
それは奏のものではない、別の存在の声だった。
「私は別に好きで天羽奏の体を弄ったわけではない。
これは契約だ。幼い頃、あの大樹の下で彼女と出会い、契約したことだ。」
翼の瞳が見開かれる。
「契約、大樹……?」
「私は彼女の身を助け、彼女は私に魔力を与える。
そういう関係だった。微かだが、私は魔力を回復し再起動する寸前に、2年前の事件が起こった。」
翼は驚愕し、問い詰める。
「まさか……貴様は!!」
「そうだ。天羽奏の肉体はすでに朽ち、魂だけが残った。
彼女は死んだ。しかし、私との契約による血の印が働いたのだ。
死後すらも縛り付ける契約
魔術世界において、
翼は唇を噛みしめる。
「そんなはずは……」
「そんなはずはない? お前は夢物語ばかりを信じるのか?
ここに、現実がある。
お前の質問に答えよう。
風鳴翼。
君だからこそ、告げる価値がある。」
その瞬間、世界が震えた。
周囲の壁が動き出し、炉心へと吸収されていく。
「顕現せよ、再臨せよ。
ここに、人類悪の一体を君臨する。」
巨大な形が浮かび上がる。
それは人類の獣性が生み出した七つの大災害のひとつ――
人類と文明を滅ぼす破滅の化身。
「お前は私が何者かと聞いてきたな。
私は、騎士王のものだった。
騎士王と共に戦い、神代の最後の時を見届けた者。」
最果ての塔の影にして、世界の果てまで見据える者。
文明より生まれ、文明を喰らう者――
災厄の獣。
まず、顔が形成される。
次に、巨大な翼。
そして、鋭利な爪を持つ足、最後に胴体。
その姿は、古き時代の象徴――
「騎士王の死と共に、時空を超え、現世に降り立った。」
「天羽奏の名は、もはや不要。
称えるならば、こう呼ぶがいい――」
翼はその圧倒的な威圧感に立ち向かおうと、刀を構えた。
――竜
形取ったものは
それはかつて、世界を支配した生物の姿。
その位は人類の原罪が生んだ自業自得の死の要因。
その名を――
「人類悪【救世】」
ビーストV/L。
ロンゴミアンド――
「真なる救世主、救世の獣、ロンゴミアンドである。」
次回投稿2/2日