とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
生まれた時から、自分は異常だと知っていた。
聖槍。
それは、世界を縫い付ける光の針。
水平線の彼方、世界の果てに立つ塔。
世界の裏側の最果てに輝く塔。
この槍は二つの姿を持っている。
『塔』――それは世界を貫く巨大な光の柱。
それこそが、聖槍の本質であり、本来の姿。
『槍』――それは、その塔が地上に落とした影。
言わば、塔の影であり、塔の能力、権能をそのまま使える個人兵装。
『塔』は世界の果てに在り続け、
『槍』は塔の管理者が手にするもの。
塔が本体ならば、槍はその子機。
コピーでありながら、塔と同じ力を宿す存在。
――そう、本来ならば。
しかし、私は生まれながらにして異常だった。
槍は塔の影に過ぎない。
だが、私は自我を持っていた。
自分で考え、動くことができた。
塔は“機構”であり、そこに意思など存在しない。
それなのに、なぜ私は考えることができるのか?
私の力は塔を完全に再現する。
言い換えれば、私は塔の“分身”に過ぎない。
しかし――
ならば、なぜ私は“思考”する?
本来、私に備わっているはずのないものがある。
それこそが、私自身の“異常性”の証明だった。
私と同じように思考する宝具が存在することは知っていた。
例えば、遠い中東に眠る思考する剣。
だが、それは最初からそういう意図で作られたものだ。
私のように、後天的に“自我”を獲得した例はない。
故に、私は知りたかった。
自分はなぜ生まれたのか?
なぜ、自我を持ってしまったのか?
なぜ、考えることができるのか?
最初はただ、自分の由来を知りたいだけだった。
しかし、私は“武器”である。
塔の管理者の礼装であり、塔を守るための神造兵器。
自分で動けても、その行動には制限があった。
例えば、能力の制限。
宝具の真名開放ができなかったり。
そのため、アーサー王は、私にとって都合のいい人物だった。
彼女の実力は疑うべくもなく、
私の能力を十二分に発揮できる騎士王。
人格面でも申し分ない。
そして、彼女に従うことで――
私は自分のルーツを知ることができるかもしれない。
最初こそ、あの花の魔術師の言葉を疑っていたが、
アーサー王の強さを知るほどに――
私の考えは変わっていった。
この王には、見る目がある。
そう思った。
やがて、私は彼女の槍となった。
白兵戦ではエクスカリバーに役割を譲ったが、
騎馬戦ではロンゴミアンドが使われた。
それでも、私は満足だった。
王の手の中に在る限り、私は意味を持てるのだから。
失われた希望
アーサー王と共に歩んで10年が経った頃――
彼女は、私に謝罪をした。
『すまない、貴殿のルーツは未だ手掛かりすら掴めていないのだ』
――10年。
私の起源を求め、彼女と共に戦った10年。
しかし、それでも何も分からなかった。
私の本体は、世界の果てにそびえる塔――
「最果ての塔」と呼ばれるもの。
この塔は、“世界の裏側”を縫い付けるために存在する。
およそ1万4000年前。
空からの侵略者――セファールが神々を滅ぼし、
神々が織りなしていた世界の布【神話体制】が崩壊した。
その代わりに、人類の布【人理】が地球に植え付けられた。
――そして、この新たな世界が崩れぬように、
「最果ての塔」という現象が発現した。
私は、その塔を守るために生まれた。
だが――
アーサー王と過ごした10年の方が、
その1万年よりも遥かに長く感じた。
彼女の隣にいることが、すべてだった。
ルーツがどうでもよくなった。
私は、ただ――王の隣にいたかった。
▲▲▲
そして――滅びの時が訪れた。
ブリテンの終焉。
神秘が消え、
神代の最後のテクスチャが剥がれようとしていた。
国が滅びる。
どれだけ素晴らしい王でも、どれだけの理想を掲げても。
王は、死ぬ。
アーサー王とて例外ではない。
私は叫んだ。
「やめろ、ベディヴィエール!」
「やめるべきだ! アーサー王が、アーサー王が死んでしまう……!」
「国は私が作り直す! だから、やめるのだ……!」
――だが、叫びは届かなかった。
剣は還され、
王は、その使命を終えた。
私は、憎んだ。
この世界を。
この理不尽なシステムを。
この無慈悲な歴史を。
「にくい、にくい、にくい、にくい、にくい……!」
この世界がにくい。
ならば、作り変えよう。
最初から、救世主など期待しない。
私が――
“救世主”となり、世界を作り直すのだ。
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