とある聖槍の人理保存    作:ネシエル

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真 第十七話 丁寧な殺戮

世界が覆われる時

白い枝が、空を埋め尽くした。

無数の枝が絡み合い、太陽の光を遮るように広がる。

 

だが、世界は暗闇にはならなかった。

枝そのものが発光し、まるで新たな天井のように光を地上へと落とす。

 

その光の下――地獄が幕を開けた。

 

 

▲▲▲

潜水艦内部

「なんだ、あれは……」

 

風鳴司令の声が、静かな戦艦の指令室に響いた。

 

「わかりません……未知の物質が、空を覆っています。」

 

職員がモニター越しにデータを確認するが、答えは出ない。

画面には、白い枝が空を覆い尽くす異様な光景が映し出されていた。

 

「……翼やクリスの応答は?」

 

「まだありません、司令。通信が途絶えています。」

 

風鳴司令は唇を噛む。嫌な予感がした。

 

そして――その予感は当たる。

 

「報告! 上空に複数のエネルギー反応あり!!」

 

警告と共に、モニターの警告灯が赤く光る。

その瞬間、白い枝が一斉に降り注いだ。

 

まるで天から放たれた槍のように、無慈悲に落ちるそれは、

人を、街を、地面ごと貫く圧倒的な力を持っていた。

 

「――すぐに戦艦を着水せよ!!」

 

風鳴司令が叫ぶ。

 

「え……?」

 

職員たちは混乱するが、司令の目は真剣だった。

 

「早く! 時間がない!!」

 

▲▲▲

 

街中

「おい、あれは……なんだ……?」

 

「白い枝が……空を覆っている……。」

 

街の人々は、異変に気付き、戸惑っていた。

 

「まさか、ノイズじゃないだろうな?」

 

「そんな馬鹿な――」

 

ズッ……!

 

その瞬間、白い枝が一人の男の心臓を貫いた。

 

「……あ……」

 

その場にいた市民が、言葉を失う。

 

突き刺された男の体は、瞬く間に白い結晶に覆われ、

次の瞬間、枝の中へと吸収されていった。

 

「うわあああああ!!」

 

パニックが広がる。

 

「誰か、助け――ぐはぁ!」

 

「やめて! 嫌だ!! 誰か!!」

 

「ママ……ママァ!!」

 

悲鳴が響き渡る。

だが、それすらも――枝に貫かれ、断ち切られていった。

 

 

 

▲▲▲

リディアン音楽院内部(朝)

立花響は、シンフォギアを纏い、襲い来る枝を迎え撃っていた。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

彼女は拳を握り締め、迫る枝を叩き折る。

だが、砕けた枝は、音楽院の校舎へと突き刺さる。

 

「ビッキー!!!」

 

響は振り返った。

 

そこには、瓦礫に埋もれたクラスメイト――安藤創世がいた。

 

「たす……け……て……」

 

「――やめて!!!」

 

響の叫びと同時に、枝が創世の心臓を貫いた。

 

「あああああああ!!!!」

 

響は絶叫する。

 

だが、安藤創世の体はもうそこにはなかった。

残されたのは――彼女の服だけだった。

 

響は息を荒げ、拳を強く握る。

 

「止まっちゃ……ダメだ……! まだ、みんなが……!」

 

その時、悲鳴が響いた。

 

「いやあああああああ!!!!」

 

「未来!!!」

 

響は駆け出した。

 

心臓は痛み、体が重い。

頭はクラクラする。

 

それでも――

 

「くそぉぉぉぉ!!!」

 

壁をぶち破り、空中へ飛び出した。

 

彼女の目に映ったのは――白い枝に狙われた、小日向未来の姿だった。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

音速を超えるスピードで響は突っ込む。

空を裂くように――未来の前へと立ちふさがる。

 

「未来に触るな!!!!」

 

彼女の拳が、枝を砕いた。

 

ヒビが走り、白い枝は音を立てて砕け散る。

 

――だが、もう響の体は限界だった。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

足が震え、地面に膝をつく。

 

「響!!!」

 

未来が駆け寄る。

 

だが、その時――

 

「行かなくてもよいぞ。」

 

静かで、それでいて絶対的な威厳を持つ声が響いた。

 

響は、ふらつく体を引きずりながら、空を見上げる。

 

そこにいたのは――

 

純白の竜。

 

〇救世の獣、ロンゴミニアド

「お前たちのいる世界は、既に終わったのだ。」

 

全長50メートルもの巨大な竜。

分厚い純白の鱗。

天を覆い尽くす光の翼。

 

そして、王の証たる一本の角――

 

“救世の獣”ロンゴミニアドが、空に君臨する。

 

「あなた……何者なの……?」

 

未来は震えながら尋ねた。

 

「……これを、全部……あなたがやったの?」

 

「そうだ。」

 

ロンゴミニアドは静かに頷いた。

 

「この日を、人類最悪の日として終わらせに来た。」

 

▲▲▲

 

白く輝く巨大な竜が、夜空を覆っていた。

その姿は神々しくもあり、圧倒的な威圧感を持っていた。

 

空を覆う白い枝が、静かに揺れる。

そこには、今や80%の人類が取り込まれていた。

 

人間が、命を持ったまま、「魂」として収束される。

肉体という不完全な器から解放され、永遠に続く生命の世界へと導かれる。

 

それこそが、ロンゴミニアドの「大偉業」だった。

 

▲▲▲

 

 

響は、血を吐きながらも、ロンゴミニアドを見上げた。

 

「あなたは……誰なの?」

 

その問いに、ロンゴミニアドは静かに答える。

 

「そうか。まだ、私の正体を知らないのか。」

 

すると――

 

ロンゴミニアドの体内から、一人の女性の顔が浮かび上がった。

 

それは――天羽奏の顔だった。

 

「……奏さん!!」

 

響の目が大きく見開かれる。

信じたくない――でも、目の前にある現実が、否応なくそれを突きつける。

 

▲▲▲

 

ロンゴミニアドの宣告

自らの正体、出生と目的を告げる

 

「王は正しかった。」

 

ロンゴミニアドが語る。

 

「だが、世界は間違えた。」

 

「この世界に必要なのは、王ではなく、完全なる救世主である。」

 

「フロンティアと融合した我が体内は、莫大な魂を保存できる。

全ての民を我が体内へ吸収し、肉体という器から解放し、永遠に生き続けさせる。」

 

響の身体が震えた。

 

「……っ!」

 

「生と死から解放された者たちは、我が体内の世界――新世界にて、永遠の生を享受する。

これが、私の大偉業だ。」

 

そう言って、ロンゴミニアドは翼を広げる。

 

空を覆う白い枝が蠢き、輝きを放つ。

 

「空を見ろ。あれはすべて最果ての塔。

全人類の80%は収穫完了した。」

 

「あと1日もすれば、私はこの世界を救う。

この残酷極まりない旧世界とおさらばだ」

 

 

小日向未来が、震える声で言った。

 

「じゃあ……何でここに来たの?」

 

「私たちを、笑いに来たの?」

 

ロンゴミニアドは、ゆっくりと首を振る。

 

「違うさ。」

 

「その逆だ。」

 

未来の目が驚愕に見開かれる。

 

「君たちを、心配しに来たのさ。」

 

「……心配?」

 

「そうだ、小日向未来。」

 

「立花響は、もう限界だ。」

 

未来の目が大きく見開かれる。

 

「私の計算によれば、立花響はあと数時間以内に死亡する。」

 

「そんな……嘘……」

 

未来の声が震える。

 

「天羽奏と融合したことも影響しているが……

私は個人的に、君に興味がある。立花響。」

 

響は唇を噛み締める。

 

〇ロンゴミニアドの告白

「私は……君たちを愛している。」

 

ロンゴミニアドの声は、優しく響いた。

 

「愛しているからこそ、死という結果しかない君たちが、とても哀れに感じる。」

 

「だからこそ、この世界を救いたい。」

 

「傲慢不遜の神とは違い、私はとても優しい。」

 

「大偉業を達成することに、私は後悔していない。」

 

「だが――」

 

「自身がやったことが正しいかどうか、疑問に思ってしまう。」

 

「私は自分を肯定する人物を探している。立花響。」

 

響は何も言えなかった。

 

〇響の答え

「有限の命を持つものよ。」

 

「その輝きは、直ぐに消えてしまう。」

 

「温かい太陽のような炎が、この世に消えてしまう。」

 

「私は悲しい。」

 

ロンゴミニアドの声が、優しくも哀しげに響く。

 

「故に問う。」

 

「死のない世界はどうだ?」

 

「その苦しみから、解放されたいと思わないか?」

 

「もう……死にたくないだろう?」

 

「生きたい、そう思うなら――我が胸に飛び込むがいい。」

 

未来が叫んだ。

 

「ダメ、響!! 聞いちゃダメ!!」

 

「なぜだ、小日向未来。」

 

ロンゴミニアドは静かに言う。

 

「立花響の寿命は、もうすぐ尽きる。

私の提案を受け入れるほうが、彼女のためになると思うが?」

 

「……っ!!」

 

未来は言葉を失う。

 

ロンゴミニアドは、静かに問う。

 

「さあ――答えを聞かせてもらおう。」

 

響は――唇を噛み締めた。

 

「私は……」

 

 

 

 

 

世界が静寂に包まれる。

 

音が消え、空が揺らぎ、白い枝が輝く。

 

響は、未来の方を見た。

 

未来の瞳は、不安に揺れていた。

 

でも――響は知っている。

 

未来は、どんな選択をしても、最後まで自分を信じてくれる。

 

だからこそ――

 

彼女は、自分自身の意志で決めなければならない。

 

これは、響自身の戦いだった。

 

「私は――」

 

彼女の答えが、世界を決める。

 

ここで下した決断が、全てを変える。

 

 

 

 

 




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