とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
空を覆う白い枝が、世界の天井となり、地上から青空を奪っていた。
かつて街だった場所には、何の音もない。人々の気配も、影も、そこにはもう存在しなかった。
ただ――
ただ一人、彼女だけがそこにいた。
立花響。
彼女は朽ち果てた世界に立ち、荒い息を吐きながら、それでも前を向く。
「私は戦う」
ロンゴミニアドは正しい。
あらゆるものに死があると間違っている。
立花響はそう思った。
2年前。
あのライブで死にかけたとき、
生きたいと思った。
死にたくない、生きたい、
生きて伸びてごめんなさい。
死ななくてごめんなさい。
死はあらゆる人の人生に大きな影響を及ぼした。
幼い頃、何故死があるのか
疑問に思ったこともあった。
死がない世界についてロンゴミニアドに同意できる
だが、しかし・・・
それは、人々の尊厳を踏みにじることに値するだろうか。
震える足を抱え、立ち上がる。
目の前にそびえ立つ、純白の獣――ロンゴミニアドを見据えた。
その視線は決して折れることはない。
体は既に限界を超えている。砕けた左腕からは血が滴り、身体の奥深くから湧き上がる痛みは麻痺すら感じさせた。
それでも、彼女はただその場に立つ。
「……響」
傍らにいた小日向未来が、震える声で彼女の名前を呼んだ。
「やめて……もういいよ……もう、戦わなくていい……お願い、響……!」
未来の目には涙が滲んでいた。
それでも、響は微笑み、そっと首を振る。
「ごめん、未来……でも、行かなきゃ……!」
「!!」
未来の悲痛な叫びが響く中、白き竜は静かにその巨大な瞳を響へと向けた。
――ロンゴミニアド。
最果ての塔の化身にして、世界を超越した存在。
その圧倒的な存在感は、ただそこにいるだけで、響の心臓を締めつけるほどだった。
「まさか、その身で私と戦うというのか」
厳かに、そして慈悲深く、ロンゴミニアドは言った。
「貴公の命は、あと数分も持たぬ」
響の体を見つめるロンゴミニアドの声には、どこか悲しみが混ざっていた。
「その病弱な肉体で何ができる? 体は限界を迎え、命すら消えようとしているのに……なぜ、戦う? 小さき命よ。短命な命を持つ身よ」
巨大な白き翼がゆっくりと広がる。
「私は、主が愛した国が滅ぶのを見て耐えられない」
「・・・」
「どれだけ素晴らしい英雄が守っても、君たちの命は、いつか失われる。
ならば……我がもとへ来るがいい。
神の名の下に、完全なる世界を実現しよう」
その声は優しく、誘うように響いた。
だが――
「……わからない」
響は、静かに呟いた。
「あなたは何を思って、これをやったのか、私はわからない 」
言葉を吐きながら、彼女は地面を踏みしめる。
血に濡れた拳を握り締め、胸を押さえながら、震える声で続けた。
「確かに……人は苦しむ。絶望する。だけど、それだけじゃない!
奏さんも、翼さんも、クリスちゃんも、みんな明日のために戦っている。
希望のために戦っている!」
死が怖い
そんなものは当たり前だ。
だが、ロンゴミニアドの計画は明日を生き延びたいという人の思いを踏みにじられてしまう。
金色の瞳が、まっすぐにロンゴミニアドを射抜く。
ロンゴミニアドの巨大な瞳が揺らいだ。
「それが何だ」
その声には、わずかな苛立ちが滲んでいた。
「貴様は恵まれているからそう言えるのだ。
どうしようもない絶望の中で、名もなく、歴史にも残らないまま悲劇を迎えた者は、星の数ほどいる」
ロンゴミニアドの声が世界に響き渡る。
「私しかできない。ならば、やるしかない。
そうだろう、小日向未来。お前もそう思うだろう」
「……」
「立花響の命はあと残り僅かしかない。
私なら立花響を助けることができる。
立花響のことを思うなら、同意するべきだ」
「わ、私は……」
未来は響を見詰める。
生きてほしい。
幸せになってほしい。
それは、間違っているだろうか。
大切な人に生きてほしいと思うことは罪なのか。
生きてほしいと思うのはそんなに間違っているだろうか。
立花響は死ぬ。
それは、変えない運命である。
はい、と言いたい。
どんな形であれ、どんな姿であれ、
小日向未来は立花響に生きてほしいと願う。
いうべきだ、今だ――
でも・・・
その最中、響はかすかに微笑んだ。
「私は最後まで響の隣にいたい。」
しかし、小日向未来は立花響の親友である。
故に最後は響の思いに寄り添うことにした。
この可能性は僅か1パーセントにも満たなかった
▲▲▲
空に光が集まり、白き塔が降り注ぐ。
「そうか……では――始めよう」
ロンゴミニアドの槍が天を裂いた。
その刹那、響の全身が爆発するような痛みに襲われた。
空が砕け、大地が裂ける。
金と白の光が交差し、世界を焼き尽くすような衝撃が走る。
「……私は……未来と、みんなと……一緒にいたい……」
彼女の思いに
立花響はの拳が、最後の力を振り絞って振るわれる。
「例え死ぬとしても、みんなと一緒に明日を生きたいんだ!!」
――歌って、明日を迎えるために。
▲▲▲
ロンゴミニアドの瞳が冷たく光る。
「そうか。では、死ね。
君の死が、新世界の礎となろう。」
ロンゴミニアドは空へ飛び上がる。
天高く伸びた角が、白い輝きを放つ。
「聖槍圧縮、十三拘束、完全解除。カウントダウン開始。
では見せてやろう、世界の皮を剥がした新たな姿を。」
地表は剥がれ、世界は神代へと逆行する。
「聖槍抜錨――其は空を裂き、地を繋ぐ!
嵐の錨!
最果てより光を放て!!
白き光が天地を覆い、世界を塗り替える――
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