とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
アメリカ基地の朝
仰々しい雰囲気を醸し出すアメリカの軍事基地。
厳粛な空気の中、友井アオイ、立花響、雪音クリスの三人が立ち並んでいた。
彼女たちを出迎える複数の軍人たち。その中から一人、
仮面を被り白衣を纏った女性が進み出る。
アオイはその女性にソロモンの杖を差し出した。
「これで、輸送任務は終了です。お疲れ様でした。」
女性の抑揚のない声に、アオイは深々と頭を下げた。
「こちらこそ。
どうも、ありがとうございました。」
女性は響とクリスの前に歩み寄ると、
じっと二人を見つめた。
「しかし、驚きました。あのルナアタックから世界を救った英雄がまさか、
こんな可愛い少女たちだったとは。」
響は頬を赤らめながら答える。
「か、かわいい、どうもありがとうございます。」
だが、クリスは顔をしかめた。
「何、感謝してんだ。どう見ても、私たちをバカにしてるだろ!」
女性は口元を微かに緩め、声を低くして笑う。
「ふふ、元気があってよろしい。
若い子は元気があるほど良いものだ。」
しかし、クリスは納得しない。
「謝罪の一言もないのか? その仮面を脱げ!
声が不気味で、夜も眠れやしない!」
「おや、そうでしたか。
まあ、人間には耐え難い声かもしれませんね。」
女性は肩をすくめる。
「この声が一番しっくり来るのです。
何せ、AIが作った自動音声は私に非常に合うものですから。」
「まるで自分が人間じゃないみたいな言い方だな。」
クリスが呆れたように言うと、女性は落ち着いた声で応じた。
「あなたも、その乱暴な口調をやめたらどうです?
せっかく可愛い声をしているのに。」
クリスは赤面し、食ってかかる。
「うるせえ! 私が何を言おうと、あんたに関係ないだろ!」
「そうですね。」
女性は微笑みながら頷いた。
アオイが困ったように口を挟む。
「こら、クリスさん。相手に失礼ですよ。」
「いいの、いいの。私は気にしていません。」
女性は手を軽く振り、響を指差した。
「それより、そちらの子、私とお話がしたいみたいですね。」
響は目を丸くした。
「え、私ですか?」
「ええ、そうです。さっきから私をじっと見つめて、
一体どうしたのですか?」
突然の指摘に、響は慌てて首を振った。
「!? ち、違います。ただ、少し…」
「少し?」
「いいえ、何でもありません。
あの、私たち、どこかで会いましたか?」
女性は一瞬、目を細めたが、すぐに答えた。
「…人違いですね。」
「え?」
「似たような顔を持つ人間は二人以上いるもの。
あなたが懐かしさを感じたのも、
無意識に誰かを求めているからでしょう。
子供が母性を求めるように。」
響は首を横に振る。
「私、お母さんはまだ生きていますよ。」
「必ずしも母親だけには限りません。父親、
親戚のお姉さん、あるいは好きなアイドル。
そういう誰かに似ていたのでしょう。」
響は腑に落ちない様子で黙り込んだ。
女性は不意に響を抱きしめた。
「!? な、何をやってるんですか!」
クリスが慌てて声を上げたが、
女性は構わず響の頭を胸元に押し付けた。
響は柔らかな感触に戸惑う。
『や、やわらかい…』
女性は優しく言った。
「かわいそうに。」
「え!?」
アオイが咳払いをしながら注意する。
「あの、すみませんが、
周りの目もありますので…その…」
女性は響を離し、微笑みながら言った。
「あら、生娘には少々刺激が強すぎましたか。」
アオイは顔を赤らめた。
「き、生娘…」
「これなら、胸のもやもやは消えたでしょう。」
「あ、はい」
「では、これにて失礼。」
響がまだ驚きに呆然としている間に、女性は杖を持ち直し、
軍人たちと共に基地内へ消えていった。
▲▲▲
基地内
基地内は静まり返っていた。軍服を着ていたはずの兵士たちは、
純白の騎士の姿に変わっていた。
「基地制圧完了。粛清騎士、損傷なし。」
「機密情報の入手に成功しました。
いかがいたしますか、奏さま。」
女性は白衣と仮面を脱ぎ捨て、天羽奏が姿を現した。
ワンピース姿の彼女は、荒れ果てた基地を見渡し、静かに呟いた。
「余りにも上手く行きすぎて、
驚愕しているだけだ。」
騎士が訊ねる。
「このままフィーネと合流しますか?」
奏はテーブルに腰を下ろし、疲れた様子で首を振った。
「いや、少し休む。
人間を演じるのは流石に疲れるものだ。」
「わかりました。
では、ベッドを用意するのでどうぞ」
粛清騎士たちは簡易的なベッドを用意する
「大丈夫、5分間休憩するだけだ。
それに、天羽奏の体を休ませたところで
私が回復するわけではない。
神霊化を進ませ、我々の神聖なる計画を進ませるには
一分一秒も無駄にするわけにはいかない」
「わかりました。」
騎士たちは静かに頷き、奏を見守る。
だが、彼女の脳裏には、立花響の顔が浮かんでいた。
「暗示の魔術をあれほどかけてもなお、私に気付くとは…。
立花響、実に面白い。」
▲▲▲
車の中
響、クリス、そして運転席のアオイは、
車の中でライブ会場へ向かっていた。
響は笑顔で口を開いた。
「これで、翼さんのライブに間に合いますね。」
「そうだな。でも、あのソロモンの杖、
あいつらに預けて本当に大丈夫なのか?」
クリスは少し不安げな様子だ。
「大丈夫よ。」
アオイがクリスの言葉を軽く受け流すと、響に視線を移す。
「それより響、早くフォウをしまいなさい。」
アオイが肩を指差すと、
そこには小さな不思議な動物が乗っていた。
「フォウ」
「はい、フォウくん。こっちにおいで。」
響はフォウを膝に乗せ、優しく撫でる。
「よしよし、いい子ね。」
フォウは満足げに鳴いた。
「フォオウ。」
「どうして、さっき降りてこなかっただろう。
いつも、勝手に付いてくるのに。」
「フォウ?」
響たちの車は静かに走り続け、ライブ会場への道を進んでいた。
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