とある聖槍の人理保存    作:ネシエル

20 / 40


空を覆い尽くす絶望の光が、世界を呑み込もうとしていた。

黄金色の輝きが青空を塗り潰し、太陽すらかき消すその光は、まるで天からの裁きの槍だった。

それは無慈悲に降り注ぎ、ひとつの都市、いや、一つの県を地図上から消し去るほどの破壊力を秘めていた。

 

だが――

 

その都市に、もはや生者は存在しない。

既にロンゴミニアドによって住民は吸収され、無人と化していた。

 

それでも、まだ抗う者がいた。

 

「……あ、ああ」

 

立花響は、空を覆う光を見上げ、思わず口を開けた。

けれど、すぐに唇を引き結び、覚悟を決める。

 

「ひびき……」

 

隣に立つ小日向未来が、不安げに響を見つめていた。

その目は涙で潤み、今にも崩れそうだった。

 

響は微笑む。

震える手を未来の頬に添え、優しく囁いた。

 

「平気、へっちゃら。私が未来を守ってみせるよ。だから、お願い……そんな顔しないで」

 

――私の太陽。

 

誰かを暖かく包み込む、穏やかな光。

未来は、響にとっての太陽だった。

 

それは、今までも、これからも変わらない。

 

「一緒に歌おう、未来。私の不安を飛ばしてくれる?」

 

未来は一瞬、言葉を失った。

 

けれど、次の瞬間には涙を拭い、強く頷いた。

 

「……うん!」

 

二人は手を取り合い、心を一つにして声を響かせる。

 

「「Balwisyall nescell gungnir tron!」」

 

それは、まるで天使の唄のようだった。

だが――その言葉の意味は「喪失へのカウントダウン」。

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

「はあああああああ!!!」

 

響が叫び、足元から光が吹き上がる。

 

全身が黄金色に染まり、太陽の化身のように輝きながら、彼女は地を蹴った。

 

未来は、ただそれを見送るしかなかった。

 

「……響」

 

彼女の背中は、あまりにも遠く、まぶしかった。

 

響は拳に力を込め、光の奔流に包まれながら絶望の光へと突き進んだ。

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

――衝突。

 

轟音と共に、天地が震える。

 

光と光がぶつかり合い、世界そのものが悲鳴を上げた。

 

だが――

 

響は歯を食いしばりながら、拳を押し込む。

 

「……ッ!!」

 

焦げる。

 

装備が焼け焦げ、皮膚が裂け、体中を灼熱の痛みが駆け巡る。

 

だが、彼女は諦めなかった。

 

「まだ……まだ、私は――!」

 

そのとき、頭上から冷徹な声が降り注いだ。

 

▲▲▲

 

「無駄だ」

 

ロンゴミニアドが響を見下ろし、静かに断じた。

 

「何故、そこまで頑張る? もう無駄だと知っているだろうに。

それとも、そこまで思考が及ばないのか?」

 

金色の瞳が冷たく光る。

 

「これを防いだとして、二発目はどうする?

私はその気になれば、連続で宝具を放てる。

例えこの攻撃を凌いでも、次の一撃で確実に死ぬ」

 

ロンゴミニアドは響を見下ろしながら、淡々と続ける。

 

「誇りか。それとも、ただの諦めの悪さか……。

どちらでもいい。どうせ無駄だ」

 

――だが、次の瞬間。

 

ロンゴミニアドの心に、微かな揺らぎが生じた。

 

かつての主の声が、脳裏に響いたのだ。

 

 

▲▲▲

 

『そんなことはありません、ロンゴミニアド。

例え、意味は残らなくても――意義は必ず残ります』

 

 

▲▲▲

 

ロンゴミニアドは目を細めた。

 

「……分かっていますよ」

 

誰に言うでもなく、彼は呟いた。

 

「ただ、あなたも憂いていたのではありませんか?

私が王にならなければよかったと。

どんな素晴らしい人間も、必ず後悔する。

こんな世界に、何の意味がある……」

 

 ――その間にも、響は抗い続けていた。

 

「ぐ、あああ……ッ!」

 

光は苛烈さを増し、響の体は限界を迎えようとしていた。

 

熱が皮膚を焼き、筋肉を裂き、骨を軋ませる。

 

そして――ついに。

 

▲▲▲

 

「あ、ああ……ッ!」

 

右腕が、炭のように黒く焦げた。

 

「ッ……!」

 

最後の力を振り絞った拳が、絶望の光を捉える。

 

 

そして――

 

彼女の体は、砕け散った。

 

 

 

▲▲▲

 

――静寂。

 

光の衝突が収まり、世界は再び静けさを取り戻した。

 

ロンゴミニアドは、ゆっくりと下界を見下ろす。

 

「……死んだか」

 

その声には、哀しみも喜びもなかった。

 

「それはそうだ。元より限界だっただろう。

むしろ、十秒も持ちこたえたことが、充分な成果だ」

 

――そして、彼は下を見た。

 

そこには、泣き崩れる小日向未来の姿があった。

 

「ひびき……ひびきぃぃぃぃ!!!」

 

地面に膝をつき、泣き叫ぶ未来の声は、空へと消えていく。

 

ロンゴミニアドは静かに告げた。

 

「安心せよ。もうすぐ、お前も立花響と同じ場所へ送ってやる」

 

裁きの光は終わらない




次回投稿2/22
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。