とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
空を覆い尽くす絶望の光が、世界を呑み込もうとしていた。
黄金色の輝きが青空を塗り潰し、太陽すらかき消すその光は、まるで天からの裁きの槍だった。
それは無慈悲に降り注ぎ、ひとつの都市、いや、一つの県を地図上から消し去るほどの破壊力を秘めていた。
だが――
その都市に、もはや生者は存在しない。
既にロンゴミニアドによって住民は吸収され、無人と化していた。
それでも、まだ抗う者がいた。
「……あ、ああ」
立花響は、空を覆う光を見上げ、思わず口を開けた。
けれど、すぐに唇を引き結び、覚悟を決める。
「ひびき……」
隣に立つ小日向未来が、不安げに響を見つめていた。
その目は涙で潤み、今にも崩れそうだった。
響は微笑む。
震える手を未来の頬に添え、優しく囁いた。
「平気、へっちゃら。私が未来を守ってみせるよ。だから、お願い……そんな顔しないで」
――私の太陽。
誰かを暖かく包み込む、穏やかな光。
未来は、響にとっての太陽だった。
それは、今までも、これからも変わらない。
「一緒に歌おう、未来。私の不安を飛ばしてくれる?」
未来は一瞬、言葉を失った。
けれど、次の瞬間には涙を拭い、強く頷いた。
「……うん!」
二人は手を取り合い、心を一つにして声を響かせる。
「「Balwisyall nescell gungnir tron!」」
それは、まるで天使の唄のようだった。
だが――その言葉の意味は「喪失へのカウントダウン」。
▲▲▲
「はあああああああ!!!」
響が叫び、足元から光が吹き上がる。
全身が黄金色に染まり、太陽の化身のように輝きながら、彼女は地を蹴った。
未来は、ただそれを見送るしかなかった。
「……響」
彼女の背中は、あまりにも遠く、まぶしかった。
響は拳に力を込め、光の奔流に包まれながら絶望の光へと突き進んだ。
▲▲▲
――衝突。
轟音と共に、天地が震える。
光と光がぶつかり合い、世界そのものが悲鳴を上げた。
だが――
響は歯を食いしばりながら、拳を押し込む。
「……ッ!!」
焦げる。
装備が焼け焦げ、皮膚が裂け、体中を灼熱の痛みが駆け巡る。
だが、彼女は諦めなかった。
「まだ……まだ、私は――!」
そのとき、頭上から冷徹な声が降り注いだ。
▲▲▲
「無駄だ」
ロンゴミニアドが響を見下ろし、静かに断じた。
「何故、そこまで頑張る? もう無駄だと知っているだろうに。
それとも、そこまで思考が及ばないのか?」
金色の瞳が冷たく光る。
「これを防いだとして、二発目はどうする?
私はその気になれば、連続で宝具を放てる。
例えこの攻撃を凌いでも、次の一撃で確実に死ぬ」
ロンゴミニアドは響を見下ろしながら、淡々と続ける。
「誇りか。それとも、ただの諦めの悪さか……。
どちらでもいい。どうせ無駄だ」
――だが、次の瞬間。
ロンゴミニアドの心に、微かな揺らぎが生じた。
かつての主の声が、脳裏に響いたのだ。
▲▲▲
『そんなことはありません、ロンゴミニアド。
例え、意味は残らなくても――意義は必ず残ります』
▲▲▲
ロンゴミニアドは目を細めた。
「……分かっていますよ」
誰に言うでもなく、彼は呟いた。
「ただ、あなたも憂いていたのではありませんか?
私が王にならなければよかったと。
どんな素晴らしい人間も、必ず後悔する。
こんな世界に、何の意味がある……」
――その間にも、響は抗い続けていた。
「ぐ、あああ……ッ!」
光は苛烈さを増し、響の体は限界を迎えようとしていた。
熱が皮膚を焼き、筋肉を裂き、骨を軋ませる。
そして――ついに。
▲▲▲
「あ、ああ……ッ!」
右腕が、炭のように黒く焦げた。
「ッ……!」
最後の力を振り絞った拳が、絶望の光を捉える。
そして――
彼女の体は、砕け散った。
▲▲▲
――静寂。
光の衝突が収まり、世界は再び静けさを取り戻した。
ロンゴミニアドは、ゆっくりと下界を見下ろす。
「……死んだか」
その声には、哀しみも喜びもなかった。
「それはそうだ。元より限界だっただろう。
むしろ、十秒も持ちこたえたことが、充分な成果だ」
――そして、彼は下を見た。
そこには、泣き崩れる小日向未来の姿があった。
「ひびき……ひびきぃぃぃぃ!!!」
地面に膝をつき、泣き叫ぶ未来の声は、空へと消えていく。
ロンゴミニアドは静かに告げた。
「安心せよ。もうすぐ、お前も立花響と同じ場所へ送ってやる」
裁きの光は終わらない
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