とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
〇 天を覆う黄金の光
世界を覆い尽くすほどの巨大な光が、ゆっくりと地上へ降りてきた。
その質量は無限、破壊力は究極。
一つの国を地図から消し去るどころか、
星の軌道にすら影響を与えるであろう絶望の裁き。
逃げ場はどこにもなかった。
だが、その脅威の中心で戦っていたはずの立花響は、既に存在していない。
――彼女は、灰となって消えたはずだった。
▲▲▲
――意識が浮上する。
どこまでも深い、無音の世界で、
立花響はゆっくりと目を開いた。
「ここは……?」
辺りを見回すが、何もない。
ただ、無限に広がる闇だけが広がっている。
「まだ残っていたのね。立花響。」
その声に、響は振り返った。
そこにいたのは、白い毛並みを持つ小さな獣――フォウだった。
「……フォウくん!?」
驚きと安堵が交じる声を上げる響に、フォウは静かに頷く。
「そうだよ。やっと直接話すことができたね。
僕が成長すれば会話は可能だけど
……その代償は、人類の敵になること。
だから、今まで黙っていたんだ。」
フォウの言葉には、普段の無邪気さとは異なる、
どこか神聖さを帯びた響きがあった。
「でも、そんなことより時間がない。
よく聞いて、響。これから、僕は君を“生き返らせる”。」
「……え?」
目を見開く響に、フォウは首を振る。
「違う。ただの蘇生じゃ意味がない。
今のままの君では、ロンゴミニアドには勝てないからね。」
「勝てないって……」
「そう。生き返った君は、
人であって人ではない状態になる。
それは“必要なこと”なんだ。
あいつを倒すために、マーリンが描いた計画の一環として。」
フォウは小さな身体を響の胸に押し当て、
心臓の鼓動を確かめるように囁いた。
「でも覚えておいて。新しく生まれ変わった君でさえ、
“ネガ・メシア”には抗えない。
でも、それでもいい。
なぜなら、君はカギだ」
響はフォウの瞳を覗き込み、息を呑んだ。
「……鍵……?」
「そう、響。君は“鍵”になるんだ。
歯には歯を、目には目を、神には神をぶつけるしかない。
それが、この戦いに勝つための唯一の方法だ。」
フォウは響に寄り添い、
その額をそっと自分の額に重ねる。
「選んで。立花響。
君がまだ、みんなを守りたいと願うなら
――僕は、命を燃やしてでも、その力を授けるよ。」
響は一瞬、息を詰まらせた。
けれど、次の瞬間には、まっすぐな瞳でフォウを見つめ、力強く頷いた。
「……私は、行くよ。未来を、みんなを守るために。もう一度――戦う!」
フォウは満足そうに微笑んだ。
「いい答えだ。じゃあ、教えるよ――!
ロンゴミニアドに勝つ唯一の方法を」
闇の空間が眩い光に包まれた。
それは、絶望を穿つ希望の光だった。
▲▲▲
〇 現実世界
空を覆っていた絶望の光が、突如として消え去った。
「バカな!!」
ロンゴミニアドが驚愕に目を見開く。
光の流れは完全に停止し、槍の威力は無に帰していた。
「何故だ!? 私の宝具を打ち消した……?
否、魔力はまだ存在する。だが、私の制御下から外れている……!」
その時、空中に魔法陣が浮かび上がり、
眩い光が放たれる。
「これは……英霊召喚!?
だれだ、誰が呼び出した!!」
ロンゴミニアドが魔法陣の中心を注視すると
――そこに立っていたのは、間違いなく立花響だった。
「……立花響……!?」
だが、その姿は以前とは異なっていた。
北欧神話を思わせる礼装に身を包み、
身長を凌駕するほどの長槍を携えている。
その槍は虹色の光を帯び、神聖にして絶対的な力を感じさせた。
響は微笑みながら、まっすぐロンゴミニアドを見据える。
「また会えたね、ロンゴミニアド。」
▲▲▲
〇 空中、対峙する二人
ロンゴミニアドは冷静さを取り戻し、分析を始める。
「死者蘇生……いや、違う。
この魔力量……明らかに神霊クラス……!」
響は槍を構えながら、己の身体を確認する。
「強い……この力。
やっと分かったよ、あなたに抗うには、これしかなかったんだね」
ロンゴミニアドは唇を噛みしめる。
「そうかオーディンの分霊か……
分霊に立花響の魂を宿し、疑似的なハイサーヴァントとして成立させたというのか……! 不可能ではない……そうか、キャスパリーグ……! あいつの魔力なら、この程度の芸当も可能か!」
「はあああああ!!!」
響は咆哮とともに槍を振り下ろす。
槍の穂先が閃光となってロンゴミニアドに迫るが、
次の瞬間、衝撃とともに弾き返された。
「くだらん。“ネガ・メシア”展開。」
ロンゴミニアドの身体を中心に、黄金の光が波紋のように広がる。
それはビーストⅤとしての特異スキル
――人外の力を否定し、神霊の存在をも破却する絶対領域だった。
響は槍を振るい続けるが、その一撃は全て空を切る。
どれほど力を込めても、ロンゴミニアドには傷一つ付けられなかった。
「人を捨てたか……その代償は大きいぞ、立花響。
今やお前は“人”ではない。
“人類の敵対者”である私に抗うことなど、
最初から不可能だったのだ!」
ロンゴミニアドが手を翳し、概念結界を広げる。
それは“人類”だけが存続を許される空間――“
ネガ・メシア”の真の効果だった。
「終わりだ、立花響。
人のままだったら、まだ、ましだったな」
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