とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
「花の魔術師。アーサー王の──」
翼が言葉を紡ぐ。
アーサー王伝説に登場する花の魔術師にして、キングメイカー。
「マーリン」
ブリテンの騎士王・アーサー王の誕生を予言し、王を導いた存在。
人間と夢魔の間に生まれた混血児。
「そう、それがボクさ。」
白いフード付きローブを纏った、銀色の長髪の青年。
伝承では、年老いた老人として描かれることが多い。
「随分とお若いように見えるが」
翼は目の前の存在を見て、思わず呟いた。
「まあ、夢魔だからね。人間と比べて年を取らないのさ。」
「伝承では老人として描かれていますが」
「後世の創作さ。まあ、ボクがその気になれば、姿を変えることくらい簡単だけどね。」
マーリンは苦笑する。
「さて、そんなことを話している場合じゃない。風鳴翼、ボクは君に協力を求めたい。」
「私に、ですか。」
「そうだ。ロンゴミニアドを止めるために。」
「!!」
「今の状態は非常に悪い。でも、同時に好機でもある。ロンゴミニアドが君を取り込んだことで、聖抜の執行に成功したからな。」
「あなたが直接、ロンゴミニアドを止めることはできないのか。」
翼は感じ取っていた。
マーリンのただならぬ気配を。
この存在は人の身ではない。
それどころか、その力は完全に自分を上回っている。
──すでに敗れた自分に、何ができる?
シンフォギアを起動することすらできず、何の力もない自分に。
「それは無理だ。」
マーリンの声が静かに響く。
「天羽奏がロンゴミニアドと融合した瞬間から、
ボクたちは彼女を傷つけることが不可能になった。
今の彼女は、人類外からの如何なる攻撃も破却する力を持つ。
同類のビーストであっても例外ではない。」
「ビースト?」
「人間の獣性から生まれた大災害。
人類とその文明を滅ぼす破滅の化身。
文明より生まれ、文明を喰らう者。
その名は──人類悪。
人類を滅ぼす悪ではなく、『人類が滅ぼす悪』。」
マーリンは一瞬、言葉を切る。
「まあ、今はそれを説明している場合じゃないね。」
「私にできることは?」
「簡単さ。話しかければいい。」
「誰に?」
「天羽奏だ。」
「!!」
「救世の獣ロンゴミニアドは確かにビーストになった。
他の神話体系の最高神すら凌駕する力を持つ。
だけど、その本質は変わらず宝具のまま。
力こそ神を越えているが、本質は変われない。
思考できる宝具でも、マスターがいなければ扱えないんだ。」
「じゃあ、奏を切り離せればロンゴミニアドは──」
「止まる。」
マーリンは頷く。
「ビーストとして絶大な魔力を生み出しているのは天羽奏その人だ。
奏を強力な魔力炉心として利用することで、
ロンゴミニアドは絶大な力を得ている。
逆に言えば、奏を切り離せば、ロンゴミニアドは自壊する。」
「だが、そんなわかりやすい弱点を放置するとは思えませんが。」
「もちろん、対策済みだろう。
たとえ奏の意識を取り戻しても、融合は解けない。
せいぜい数分の猶予しかないだろうね。ネガスキルも発動できなくなるけど。」
「それじゃあ──」
「大丈夫。その数分だけあれば、決着をつけられる。」
▲▲▲
空──
ロンゴミニアドは呆れ顔で、地面にひれ伏す者たちを見下ろしていた。
マリア、切歌、調。
「はあ……随分とあっけないものだったな。」
その言葉と共に、槍がマリアの胸を貫き、吸収する。
切歌も調も同じ運命。
ロンゴミニアドの体内で、データとして保管される。
神の内側で、永遠に生き続けることになるのだ。
「永遠に生きよう、マリア。私の中で──」
その時、異変が起きた。
「!!」
純白の竜が飛来する。
ロンゴミニアドの動きが一瞬止まった。
羽ばたきが乱れ、体勢が崩れる。
『まさか……そういうことか。マーリンめ。
意識空間で天羽奏の意思を、風鳴翼を使って呼び起こしたのか。』
苦しむロンゴミニアドへ、一本の槍が飛来する。
『!!』
槍は胸を穿ち、白き鱗に傷を刻む。
「ネガメシアが機能しない?」
槍を引き抜こうとするが──抜けない。
「抜けられない!!」
「はああああああ!」
立花響の拳が、その槍へ叩き込まれる。
「
神の槍は聖なる槍の心臓を貫く。
ガングニール。
それは自動戦闘可能な兵器であり、欧州における神殺しの槍。
ロンギヌスの槍と同一視されることで、神殺しの属性を持つ。
『だとしても、本物の神殺しにはなれない。
オーディンと融合した以上、ガングニールはロンギヌスとは別物だ。
なぜ、属性を持ったまま……』
傷の修復が遅い。
神霊化。
ロンゴミアンドが持つ能力であり。
所有者を神霊の域に到達させ、神の権能を得る力──
だが今、その力は裏目に出ていた。
ロンゴミニアドはブレスを吐き、響を吹き飛ばす。
その隙に、空へ逃れる。
『そうか……オーディンだけではない。
ルキウス・ロンギヌスも入っているのか。
神の槍と神殺しの槍、相反する属性を共に抱えているとはな。』
それでも構わない。
『あと3分でネガメシアは再発動できる。
そうすれば傷も破却できる。
それまで空に待機すればいい。』
真名開放した響は、魔力が尽き、落下していく。
ロンゴミニアドはそれを見下ろし──
『残念だったな、マーリン。貴様は後で最もおぞましい方法で──は?』
その時、水平線の彼方に見えたもの。
一人の──否、王が現れる。
「アーサー王……」
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