とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
病院内。
白く、深く、電子機器に囲まれた部屋の中。
天羽奏は目を覚ました。
「ここは……」
酸素マスクを付けられ、体を起こそうとする。
しかし、頭に鈍い痛みが走り、
彼女はうめき声を漏らす。頭を抱えながら、記憶を辿る。
「あたしは確か、死んだはず……」
彼女は思い出す。
絶唱を使い、体がその負荷に耐えきれず、
ボロボロに崩れていったことを。
その瞬間までの記憶は鮮明だった。
だが、その後は……何もない。
いや、何か大切なものを忘れたような気がする。
誰かに呼ばれた気がした。一番大切な人から。
でも、その記憶はぼんやりとしていて、
はっきりと思い出せない。
そして、もう一つ。
死の間際に見た光。黄金の光。
あれに触れた瞬間、体に満ちたのは微かな安らぎと、全能感だった。
自分は何でもできる。この世界を思うがままにできるという絶対的な自信。
それは傲慢ではなく、紛れもない正しい評価だった。
まるで、神になったような感覚。その評価は正しかった。
神霊化――それはまさに、神になる力。
所有者を神へと昇華するロンゴミアンドの能力だ。
「……」
そのとき、病室内に響いたのは歌声ではなかった。
カラスが壊れたような音――比喩ではなく、
文字通り、風鳴翼が持ってきたコップが地面に落ち、割れてしまったのだ。
「奏……」
翼の声が震えていた。
奏はゆっくりと顔を向ける。
「翼……なのか?」
「ッツ!!」
次の瞬間、翼は奏に抱き着いた。
その力は強く、まるで彼女が再び消えてしまわないかと恐れているかのようだった。
「つばさ……?」
「バカ……なんで私を置いていくの……」
翼の声は涙に濡れていた。
奏はその言葉に胸が締めつけられるのを感じた。
「ずっと……一緒に居たかった。
歌を歌いたかった。
奏が死んで……死んだせいで、私がどれだけ泣いたのか……」
「ごめん……」
奏もまた、翼に抱き着いた。
彼女の背中に手を回し、その温もりを確かめる。
「あのときは……あれしか方法はなかったんだ」
「私は望んでいなかった……」
翼の声は悔しさに震えていた。
奏はそれを感じ取り、静かに答える。
「そうだね……あたしもそう思う。あたしは……翼を失いたくなかった。風鳴翼はあたしの羽で、翼だった。だから……もう二度と失いたくなかった。あの日のことを後悔していなかったと言えば嘘になる」
翼はその言葉に驚いたように目を見開いた。奏は続ける。
「でも……もう一度会えて、うれしかった」
「私も……奏にもう一度会えて、うれしかった」
二人は涙を浮かべながら、再会の喜びを分かち合った。
その瞬間、過去の痛みや後悔が少しずつ溶けていくかのようだった。
彼女たちはもう、お互いを失うことはない。
その確信が、静かに心に染み渡っていく。
病室の中は静寂に包まれていたが、
二人の心の中には温かな光が満ちていた。
▲▲▲
病室内。天羽奏は健康診断を受けていない。
医者がモニターを確認しながら、淡々と報告する。
「バイタル異常なし」
「はい」
奏は軽く返事をしたが、医者の言葉に興味を引かれた。
「それにしても凄いね。体には何の異常もない。あの子と同じだね」
「あの子って?」
奏が尋ねると、医者は自然な口調で答えた。
「立花響の事だよ」
「確か、コンサートであたしが助けた少女だね」
「そうだ」
その声に、奏は振り返った。
そこには風鳴司令が立っていた。
「おっさんか」
「奏、ずいぶんと雰囲気が違うようだな」
風鳴司令は少し驚いたように言ったが、奏はそれに軽く応える。
「そういうおっさんだって、あたしと久しぶりに会ったのにリアクションが薄いじゃないか」
「これでもかなり気を使ったつもりだかな」
風鳴司令は肩を落とし、少し落胆した様子だった。そのやり取りに、奏は苦笑いを浮かべた。
そのとき、病室のドアが開き、立花響と雪音クリスが入ってきた。
「お、お邪魔します」
響はオドオドしながら部屋に入ってくる。一方、クリスは一切躊躇することなく、堂々と入ってきた。
「邪魔するぜ」
奏は二人の対照的な態度を見て、クリスとは気が合いそうだと感じた。
「あの……」
響が奏に目を向け、緊張した声で話し始めた。
「天羽奏さんでしょうか」
「奏でいいよ」
「では、奏さん。あのとき、助けて頂き、どうもありがとうございました」
「あたしは別に礼を言わなくてもいいよ。当然のことをしたまでだ」
奏は軽く肩をすくめたが、響は真剣なまなざしで続けた。
「では、さ、サインをください」
「サイン?ああ」
響が差し出したサインペンと紙に、奏はサインを書き込んだ。
「まだ、あたしのファンがいたのか。てっきり、もう時代遅れだと思ったぜ」
「そんなことはありません!今でも奏さんの歌は世界中の人々に聞いています」
「そう言われると照れるね」
「嘘じゃあ、ありません。本当です」
奏は響の真っ直ぐな言葉に少し驚き、そして微笑んだ。
「……そうか」
そのとき、医者が再び話し始めた。
「二人共、検査結果が出てきたか、見てみるが」
医者はモニターに検査結果を表示し、風鳴司令に説明を始めた。
「では、先生。二人はどうなったのですか」
「状態ですか。それとも、健康ですか」
「健康からです」
医者は少し考えてから、率直に答えた。
「率直に言わせると、二人共に健康体。
一度死んでから蘇ったとは思えません。
とはいえ、医学界において死者の蘇生は人類の歴史上存在しません。
各地の伝説、神話において死者を復活したストーリーはよくありますが、
実際に目にしたのは私は初めてです」
「それは、医者に限らず、誰でも同じことでは」
奏が冷静に指摘すると、医者は頷いた。
「そうです。死者の蘇生は間違いなく
医学界、否、人類の歴史を書き換える奇跡です。
人類の永遠の夢、不老不死も実現するかもしれない。
ぜひ、研究したいと思います」
「先生……」
風鳴司令が慎重に言葉を選ぶと、医者は続けた。
「もちろん、お二人の協力は必要不可欠です。
奏さんと違い、響さんの蘇生の場面は動画があり、
たいへん貴重なデータサンプルです。
もちろん、プライバシーを守ります」
風鳴司令は深く頷き、次の質問を投げかけた。
「それでは、状態のほうはどうですか」
医者は一瞬沈黙し、そして真剣な表情で答えた。
「……正直に言います。お二人さんは人間ではありません」
「!!」
響と奏は同時に驚きの声を上げた。医者は冷静に資料を提示し、説明を続けた。
「これをご覧ください。これが、お二人さんの遺伝子情報です。響さん、および、奏さんの遺伝子は正直に言ってわかりません」
「わからない……?」
響が不安げに尋ねると、医者は頷いた。
「はい、解析不能という意味は、人類の科学力では解析不可能の領域にあるということです。言うなれば、お二人さんは生きた聖遺物そのものです」
風鳴司令はその言葉を受け止め、次の疑問を口にした。
「響と奏はあの強大な力を発揮できた理由は何だ。
響はフォウくんによって蘇生され、その過程で強大な力を手に入れた。
奏もロンゴミニアドによって蘇生され、強大な力を手に入れた。
ロンゴミアンドから離れているにもかかわらず……」
医者はそれに答えるように、淡々と続けた。
「今の所、健康に悪い部分は見つかりません。
とはいえ、今後共、審査は必要不可欠です。お二人さんはどうか安静にしてください」
病室の中は再び静寂に包まれたが、その静けさの中には、未来への不安と期待が混ざり合っていた。
次回最終話
4/10です。
五月雨五色
阿修羅と化した先輩 設定がめんどくさい 桜女美井奈《再誕》 クリキントンキング 昌輔 金持ちになりたい ケンシン1 ひまじんまるひ
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評価ありがとうございます。