とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
ドーム会場(夕刻)
太陽が沈み、空の半分が闇に包まれる頃、
響の車がドーム会場の駐車場に到着した。
「着いた!」と響は元気よく車を降りる。
「やっとだぜ。もう、くたくただよ」と、
クリスは肩を回しながら大きく伸びをした。
飛び上がってはしゃぐ響とは対照的に、疲労感を隠さない。
「さあ、二人とも急いで! ステージが始まるわよ」
アオイが促すと、響は元気よく「はい!」と返事をした。
その肩には謎の生物、フォウが乗っている。
フォウも「フォオウ」とアオイに呼応する。
「フォウくんも楽しみだね」
響はフォウの頭を優しく撫でた。
「いつも思うけどさ、本当に何なんだこれ?」
クリスがフォウを指して呆れた様子で言う。
「うん、よくわからない」
響はあっさり返す。
「お前が連れてきたんだろ? なんでお前がわからないんだよ」
クリスはツッコミを入れる。
「だって、ずっと一緒にいたもんね」
響はフォウに微笑みかけた。
「フォウ」と鳴くフォウを一瞥し、
クリスは「くそ、さっさと行くぞ」と小さく呟いた。
▲▲▲
ドーム会場の裏側では、
風鳴翼が電話をしていた。
「そうか、みんなはもう着いたのか」
翼は静かに呟く。
「翼さんのほうはどうですか?」
電話越しの響の声が聞こえる。
「どうって?」翼は首を傾げる。
「マリアさんと謎の歌姫フェイトさんのことです。
デビューしてわずか二ヶ月でトップスターになった、あの超有名な!」
響の興奮が伝わってくる。
「ああ、私もマリアさんには会ったが、
フェイトという人にはまだだな」
翼が答える。その瞬間、視線が何かに奪われた。
赤い長髪の女性がドアを開けて部屋に入っていく。
その姿を目にした翼は急いでその扉へ駆け寄り、開け放つ。
「翼さん?」響が声をかけるが、
翼は「すまない、立花。もう切る」と言ってスマホを切ると、
素早く部屋へと入っていった。
▲▲▲
部屋の中
暗い部屋に入り、電気をつけた翼は周囲を観察する。
『誰もいない……やはり見間違いだったか』
そう思いながら、頭を垂れる。
そのとき、耳元で静かな声が響いた。
「どうかしましたか?」
「!?」翼は驚き、急いで振り返り素早く構える。
『いつの間に!? この私が気配を取られるとは……』
剣こそ持っていないものの、拳を固めて警戒する翼の前に現れたのは、
金髪と仮面が特徴的な女性だった。
その声は機械的でありながら心地よく、少し高めだ。
「フェイトさんですか」
翼が尋ねると、女性は静かに頷いた。
「はい」
短く答えた彼女に、翼はすぐさま構えを解き、頭を下げる。
「すまない、つい癖で……」
「問題ありません。いきなり後ろに立った私が悪いのです。
それにしても翼さん、凄いですね。
あんな動きができるなんて……何かの武術の達人ですか?」
「ああ、幼い頃から父に教えられてな」と翼は答える。
「良い父上ですね」とフェイトは微笑むように言った。
「そうだな……父は素晴らしい人だったよ」と短く応えた後、
翼は尋ねた。「フェイトさん、この辺りで赤髪の長髪の女性を見なかったか?」
「赤髪の女性? いいえ、見ていません」とフェイトは首を振る。
「そうか、済まない」と翼は軽く頭を下げる。
「気にしないでください。それより、今夜のライブ、必ず成功させましょうね」とフェイトは柔らかく言った。
「ああ」と頷く翼。彼女は軽く息をつくと部屋を出て行った。
▲▲▲
ステージ上
風鳴翼、マリア、そしてフェイトの三人がステージ上で歌い始めると、会場の観客は熱狂の渦に包まれた。しかし、その最中にノイズが現れる。
「きゃああああ!」観客の悲鳴が響き渡る。
「何でここにノイズが!」と、周囲が混乱する中で、マリアが声を上げる。
「狼狽えるな!」その一喝で場の空気が少し落ち着く。
翼が状況を把握しようとする中、フェイトが警告した。
「動かないで」
「怖い子ね、この状況でも私に飛び掛かるとは」とマリアが冷静に言う。
「でも、あなたが良くても観客たちはどうなるかしら?」
フェイトは静かに呟きながらソロモンの杖を取り出した。
翼はその姿を見て驚愕する。「なぜ、それを持っている?」
「見てわかるでしょう。奪ってきたのよ。
現代兵器も意外と大したことなかったわ」とフェイトは冷たく言った。
「あなたたちは何者だ?」と翼が問い詰める。
フェイトは仮面に手をかけると、不敵な笑みを浮かべる。「忘れたの? 久しぶりの再会なのに」
仮面が外され、その素顔が明らかになる。観客も、そして世界中がその顔に注目する。その姿を見た翼の瞳は揺れた。
「かなで……」翼は小さく呟いた。
フェイト、否、天羽奏は懐かしむように微笑む。
「やあ、翼。久しいね。元気にしてたか?」
次回投稿12/3