とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
会場の空気は異様な緊張感に包まれていた。
「バカな。そんなはずは……」
翼は驚愕に満ちた表情で天羽奏を見つめていた。
口を開けたまま、瞳孔を見開き、
瞬き一つせずにその場に立ち尽くしている。
観客たちは動揺を隠せない。
「おい、どうなっている?」
「天羽奏が生きている? やらせか?」
「やらせにしては規模が大きすぎるだろう……」
「まさか、世論の非難を避けるためのカモフラージュか?」
ざわめく観客の視線がステージ上の
奏と翼に集まる中、奏が口を開いた。
「翼、どうしたのよ。
せっかくの再会なのに、そんな顔をされたら悲しいじゃないか。」
翼は震える声で答えた。
「そんなはずはない。
私は、確かにあの日、この目で……」
奏は笑みを浮かべて、
軽い口調で言葉を継いだ。
「生き返ったのさ。」
その瞬間、翼の目がさらに大きく見開かれる。
「!?」
奏は淡々と語る。
「この世にノイズという不思議な現象がある。
ならば、死者が復活してもおかしくはないはずだ。」
翼は動揺を隠しきれないまま叫んだ。
「それとこれとは別の話だ!」
奏は肩をすくめる。
「うん、そうかもね。
でも、説明するのも面倒だ。だから……」
次の瞬間、奏は右手を左腕の関節に置き、
その腕を力強く引き抜いた。
「なあっ!?」
観客の悲鳴が響く。
「きゃあああああ!」
飛び散る血しぶき、露わになる筋繊維、
そして骨――奏の抜き取られた腕は、
衝撃的な光景そのものだった。
翼は思わず右腕を押さえ、震える声で言葉を紡ぐ。
「あ、ああ……」
だが次の瞬間、抜き取られたはずの
左腕は時間を巻き戻すかのように元通りになった。
奏は軽く笑いながら言った。
「初めにしてはいい方だ。
でも、やっぱり直接再生したほうがコスパがいいな。」
翼は叫ぶ。
「お前は誰だ!」
奏は微笑みを崩さずに答えた。
「誰って……奏だよ。お前の相棒の。」
翼は否定の言葉をぶつける。
「奏はそんなことはしない!
自分の腕を引きちぎったり、ノイズを操ったりするような人間じゃない!
奏は決してノイズを許さない。」
奏はまるで冗談を言うように返す。
「奇跡を得たのさ。第二の命をね。
死んでみると、色々変わるものだよ。」
翼の目は鋭く細められた。
「変わった、頭のねじが緩んだことか。」
奏はその言葉に軽く肩をすくめた。
「辛辣だね、翼。まあいいけど。
あんまり乱暴な言葉を使わない方がいいよ。
この中継、今は全世界に放送されてるからね。
マリア、早くして」
すると、ステージに立つマリアが声を上げた。
「ええ、そうね。」
マリアの身体は黒い甲冑に包まれ、その姿に翼は呟いた。
「シンフォギア……」
▲▲▲
会場・無人
観客が退場し、静まり返る会場には翼、奏、そしてマリアだけが残されていた。
奏は静かに言った。
「宣言布告はこれで終わった。」
同時に、響とクリスが現れ、マリアが応戦に向かう。
一方、ステージ上では翼と奏が向き合っていた。
翼は鋭い視線を向けながら言った。
「お前は奏ではない。」
奏は薄く笑う。
「なぜそう思う? 音声も、髪も、爪も、全て天羽奏そのものだろう?」
翼は深く息を吸い、確信を持って答えた。
「ああ、間違いなくお前は奏だ……
だが、私の魂が叫んでいる。お前は誰だ。」
その言葉と共に翼はシンフォギアを纏い、刀を構えた。
鋭い刃の内側、刃の無い反りが奏に向かい振り下ろされる。しかし――
奏は片手でそれを受け止めた。真剣白刃取りである。
翼は驚愕の声を上げた。
「なに……!」
奏は静かに答える。
「やはり、人間の感覚というのは侮れないものだ。」
その手が刀を握り締め、粉々に砕いてしまう。
そして、次の瞬間、翼の腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。
翼は大きく吹き飛ばされ、上空のスクリーンに激突する。
翼は喘ぎながら思う。
『シンフォギアを纏わず、生身の状態で私を圧倒……どうなっている。』
奏は冷たく告げる。
「他人の心配をする前に、自分の心配をしたらどうだ。」
翼はなおも言い放つ。
「その口調……やはりお前は奏ではないな。」
奏は再び笑みを浮かべた。
「さあ、どうかな。」
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