とある聖槍の人理保存    作:ネシエル

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真 第五話 悲しみ

ステージ上

翼と奏はステージの中央で激しく戦っていた。

翼の刀が風を裂くたびに、奏の槍が嵐のような防御でそれを無効化する。

奏が笑みを浮かべながら声を上げた。

 

「ふうっ!」

 

奏の槍が舞う。彼女の周囲には風が渦巻き、

槍の一撃一撃が嵐のように鋭く、重い。

翼は冷静にその攻撃を受け流していた。

 

『はやい……攻撃する隙が無い』

 

翼の刀は水の如くしなやかに動き、奏の槍を受け流し続ける。

しかし、奏の持つ槍には尋常でない力が宿っているようだった。

翼の目がそれを捉える。

 

『あの槍!?

奏が持っていた完全聖遺物!』

 

 

一瞬、翼は距離を取るが、奏はすぐに追い詰めてくる。

翼はその槍の異様さを冷静に分析していた。

 

『風を操る完全聖遺物。

いや、違う。

この異常な身体能力と再生能力も

全部、この槍の力の一端か。』

 

 

奏はにやりと笑う。

 

「うまいね。」

 

「ならば――!」

 

翼が空中に投げた刀は一瞬で巨大化し、奏に迫る。

しかし、その刀は奏に届く直前に粉々に砕け散った。翼は驚きの表情を浮かべる。

 

「今のは……!」

 

ついに、距離を取ることに成功。

翼は刀を構え、奏も槍を持ち、互いを見つめ合う

 

『自身の周りに空気の渦を展開し、

身を守っているのか』

 

『想像以上だ。

記憶を解析して強さを予測をしたのにも関わらず、

この強さ。

遊びとはいえ、ここで潰すか?』

 

 

その時、奏の耳に通信が入る。

 

『奏』

 

『何だ。マリア』

 

『撤退だ。マムからの指示だ。』

 

『了解した。』

 

奏は槍を肩に担ぎ、翼に目を向ける。

 

「すまん、もう君と遊んでいる時間はないみたいだ。」

 

「……私を舐めているのか?」

 

「いや、ただの調整だ。

君を目にしてどんな反応をするのか確かめただけさ」

 

そう言うと、奏は踵を返し、静かにその場を後にした。

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

薄暗い研究室の中、ナスターシャ教授がモニターを見つめている。

その無機質な光が彼女の顔を淡く照らしていた。

 

扉が開き、奏が現れる。

 

「教授、電気をつけなさい。

目に悪いですよ。」

 

ナスターシャは振り返りもせずに答える。

 

「私はこの方が集中できるのです。」

 

奏はモニターに映る映像を一瞥する。

それはクリス、翼、響の戦いの記録だった。

 

「それは・・・」

 

「今日の成果です。」

 

画面には、ノイズを瞬時に粉砕する三人の姿が映っていた。

奏は興味の無さそうな顔でつぶやく。

 

「ふん……」

 

「興味がないのですか?」

 

「ないね。」

 

ナスターシャは視線を奏に向ける。

 

「あの翼という子……

あなたの相棒でしょう?」

 

奏は表情を変えずに返す。

 

「だから何だ。

今の私には関係ない。」

 

ナスターシャの視線が鋭くなる。

 

「君は本当に何者なんだ?」

 

奏は肩をすくめて冷たく言った。

 

「今、その話をしますか?私をここに引き入れたのは教授じゃないか。

それとも、ウェル博士の方が良かった?」

 

「いいえ、あなたを選んだのは正解だったと思っていますよ。

ウェル博士に代わる有能な協力者は、

あなた以外にいませんから。」

 

奏はナスターシャの言葉に反応を見せず、

モニターを見つめる。そこに映る響の肩に乗った小さな生物に目を留めた。

 

「そうか。うん?」

 

奏はモニターを見詰める。

 

「どうした、そんなに見詰めて。」

 

「いいえ、何でもありません。」

 

奏は研究室の扉を開き、廊下を歩く。

 

『あの女。確か、奏の記憶の中で出てきた少女だ。

いや、そんなことはどうでもいい。問題は』

 

奏は思い出すモニター画面に響の肩には、

うさぎのような、猫のような生命体がいた。

 

『キャスパリーグ。霊長の殺戮者がなぜ、ここに。

並行世界とは言え、こんな馬鹿げた世界にもいるとは。

プラン変更。

計画を直ちに実行する。』

 

 

▲▲▲

 

〇潜水艦内部

 

クリス、翼、響は潜水艦の本部に足を踏み入れた。

冷たい鋼鉄の空気に包まれた司令室で、風鳴司令と向かい合う。

翼が一歩前に出て、真剣な眼差しで司令を見つめた。

 

「本当に、あの場で奏を見たのか。」

司令が低い声で問いかける。

 

翼は迷いなく頷いた。

「はい、間違いありません。あの声、姿、形、すべてが奏そのものでした。

私が奏と間違えるはずがありません。」

 

深刻な沈黙がその場を支配する。

クリスと響は少し離れた場所でその様子を見守りながら、小声で話し合った。

 

「なあ、奏って確か…」

クリスが響に耳打ちする。

 

響は小さく頷き、

「うん、翼さんにとって一番大切な人の…」と言葉を濁した。

 

その間も司令は腕を組み、思案を重ねていた。

「にわかには信じがたい。

DNA判定はできないのか?」

 

近くにいた藤尭が首を振る。

「無理です。現場には何の痕跡も残されていませんでした。」

 

さらに、あおいが続ける。

「奏さんとマリアさんの部屋からも何も検出されていません。」

 

司令は鋭い眼差しを向けた。

「素人の仕業ではないな。奏とマリア、

そして、複数人が関わった犯行か。」

 

藤尭が補足する。

「現場周辺には多くのボディーガードが配置されていましたが、

全員失踪しています。

奏・・・歌姫フェイトが雇ったという情報を考えると」

 

「全員グルか。」

 

 

司令はしばし考え込み、鋭い口調で指示を出した。

「まずは情報を徹底的に捜査する。敵組織の人数も規模も不明な現状での、

軽率な行動はあまりにも危険だ。」

 

翼が食い下がる。

 

「しかし…」

 

「翼、お前の気持ちはわかる。俺たちも奏が心配だ。

しかし、死人が復活するとは俄かに信じられない話だ。

正直、君たちからの証言を聞くまでは、俺たちも半信半疑だった。」

 

司令は一瞬言葉を切り、真摯な眼差しで翼を見つめた。

 

「だがこれは事実だ。全ては俺たちがフィーネ――

了子の正体を見抜けなかったことに原因がある。

俺たち、大人の責任だ。

だから、俺たちに任せてくれ。」

 

翼はしばし沈黙し、そして小さく頷いた。

 

「…わかりました。」

 

翼は司令から離れ、クリスと響の元に歩み寄る。

 

響が翼を見上げた。

 

「翼さん…」

 

「おい、大丈夫かよ。」

 

クリスが少し不安そうに問いかける。

 

翼は二人を見つめ、そして微笑んだ。

 

「私は平気だ。心配するな。」

 

「でも…」響

 

はなおも心配そうだったが、翼は軽く首を振った。

 

「本当に大丈夫だ。ただ、少し休ませてほしい。」

 

そう言い残し、翼は頭を抱えながら指令室を出て行った。

廊下を一人歩きながら、彼女の思考は過去に引き戻される。

 

『……やはり、お前は奏ではない。』

『さあ、どうかな。』

 

思い出が頭を巡る。やがて翼は自室に入り、

ベッドに倒れ込んだ。

 

顔を布団に埋め、小さく呟く。

 

「奏、なんで。どうして…」

 

頭の中に、懐かしい声が蘇る。

 

『知ってるか、翼。』

 

「生きているなら、そう言ってよ。

私が、どれだけ、どれだけ…あなたのことを…」

 

小さな涙が頬を伝う。布団を強く握りしめながら、彼女は心の中で叫ぶ。

 

『思いっきり歌うとな、すっげえ腹減るみたいだ。』

 

ふっと声が途切れた部屋の中に、

静かな悲しみが降り積もっていった。




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