とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
廃墟となった広大な病院の外で、
立花響、雪音クリス、風鳴翼の三人は
迫りくる純白の騎士たちと激闘を繰り広げていた。
「くそおおおお!」
クリスが叫ぶ。
「なんでだ、奴……
あたしの攻撃を見切ってやがる!」
同じく弓を手にした騎士が、
クリスのマシンガンの弾丸を軽々とかわし、
建物越しに互いに狙撃し合う。
一方で翼は盾と剣を持つ騎士と交戦し、
その戦いの激しさで地形すら変わっていた。
「奏者に匹敵する力と技量……
この感じ、聖遺物なのか?」
翼は敵の実力に冷静に分析を加える。
「早いっ!」
響は槍を持つ騎士と拳で交戦し、
守勢に回りながらも攻撃をかわすのが精一杯だ。
そんな三人の戦いを、
上空で浮遊する天羽奏が見下ろしていた。
『さて、そろそろナスターシャ教授の
準備も終わった頃合いだろう。
この辺りで切り上げるか。データは十分に集まった。
まあ、目新しいものは無いがな』
奏はそう独りごち、翼たちを一瞥する。
「強化した粛清騎士と互角に戦えるとは。
風鳴翼だけじゃない……
あの二人もなかなか筋がいい。……うん?』
奏の耳にイヤホン越しの着信音が届く。
彼女はボタンを押して通話を始めた。
「どうした、ナスターシャ教授?」
「大変です、ネフィリムが暴走しました」
「何!?」
奏は思わず頭を抱えた。
『なぜだ。このタイミングで……
まさかネガスキルが原因か?
しかし、範囲は限定されていたはず……。
そっか重力波か……。
はあ、手に入れたばかりとはいえ、もう少し実験するべきだったな』
再び通話に戻る。
「それで、どうなった?」
「ネフィリムが檻から脱走し、そちらに向かっています。
すでにマリアと切歌たちが追っています」
『狙いは私か……』
奏が思案する間もなく、
廃病院の壁が轟音と共に崩れ落ちた。
そこには、天の暴君ネフィリムが姿を現す。
「ヘリからここまで自力で来たのか……
流石は自立型聖遺物だな」
電話に切り、
奏は咆哮するネフィリムを冷静に見つめた。
「GUOOOOOOO!」
その恐ろしい咆哮に、
戦っていた騎士たちも奏者たちも一瞬動きを止める。
「何、あれ……?」
響が驚愕の表情を浮かべる。
「なんだ、新手のノイズか?」
クリスが警戒心を強める。
だが翼はそれを否定するように首を振った。
「違う……ノイズじゃない。聖遺物だ」
その場に降り立った奏は、
ネフィリムを挑発するように微笑む。
「生きがいい。やはり、私の目に狂いはなかった」
そして、自分の配下である騎士たちに命じた。
「我が騎士よ、
我が元へ戻れ」
すると、騎士たちは光となり奏の影に吸い込まれていく。
「消えた!?」
クリスが驚きの声を上げた。
ネフィリムは奏をじっと見つめ、
その口から涎を垂らす。
「おお……猛犬の類と思っていたが、
なまじ知性があるか。
だが……あったとしても……」
その言葉に怒ったように、
ネフィリムは咆哮しながら奏へと突進した。
「本能を抑えることができないみたいだな」
奏は冷静に呟く。
「奏!」
翼が声を上げ、響もその身を奏へ向ける。
だが、奏は二人の助けを
拒絶するかのように手を挙げた。
「私を心配するつもりか?笑止。
ネガ・メシア、展開。
出力20パーセント」
その瞬間、ネフィリムの動きが止まった。
まるで見えない重りに押さえつけられたかのように、
足が地面に沈み込む。
「GGGG……!」
「何が起きた……?」
翼はその光景に驚愕し、声を漏らす。
それでもなお、ネフィリムは這いずりながら奏へ向かっていく。
その執念に、奏は冷静に頷いた。
「見事だ。その意志だけは認めよう。
……出力30パーセント」
すると、ネフィリムの外装が剥がれ、
ついに動きが完全に停止した。
遅れて現れたマリアたちは、
その異様な光景に言葉を失う。
「これは……」
マリアが呟く。
「ネフィリム、動き止まってるデスよ?」
切歌が驚きを隠せない。
「あれほど暴れたというのに……」
調もその場の異様さに目を見張る。
その様子を冷静に見つめるクリスと翼。
「新しい奏者か……」
クリスが言葉を漏らし、
翼は冷静に状況を分析した。
『マリアに見知らぬ子供が二人。
……子供とはいえ、奏者だ。
これで、四体三……
いや、あの騎士が無限に湧き出るなら数の問題じゃない。
一時撤退するべきだ』
翼は響とクリスに告げる。
「響、クリス、
ここは危ない。一時撤退を……!」
だが、翼が振り返ると、
そこにいた響の姿が変わり果てていた。
「うわああああああああああ!」
響が黒い漆黒の意志に飲み込まれ、
咆哮を上げる。
「響!?」
翼が声を張り上げ、
クリスも響へ駆け寄る。
「おい、どうしたのよ!?」
だが、響はその拳で二人を薙ぎ払った。
「これはまさか……」
クリスが驚愕し、
翼も同じく驚きを隠せない。
「あの時の……」
そんな混乱をよそに、
奏たちはその様子を冷静に見つめていた。
「仲間割れデスか?」
切歌が首を傾げる。
「そうには見えないのですけど……」
調が鋭く見定めるように言う。
「奏、これはあなたの仕業か?」
マリアが問い詰めた。
「半分正解だ。
まさか、聖遺物との融合事例だと
人間判定されないとはな」
奏は微笑む。
暴走した響は奏へと拳を向け、
その一撃が周囲に衝撃波を放つ。
近くにいたマリアや切歌、調も
その影響を受け、吹き飛ばされそうになる。
『何だ、このスピード……何も見えなかった……!』
マリアが驚愕の声を上げる。
だが、奏はその拳を片手で防ぎ、
もう片方の手では風のバリアを展開しながら告げた。
「スキルで強化されたのか。
マリア、ネフィリムを回収しヘリへ向かえ。
これは私が解決する」
「させるか!」
クリスが銃を向けるも、
奏はさらりと流した。
「ついでに、彼女たちを振り払っておけ。
今の私は騎士を出せん。
調整しなければならない。」
マリアたちはネフィリムを回収し、
その場を後にする。
「さて……相手をしてあげよう」
奏の冷静な声が響き渡る中、
暴走する響との戦いが始まった――。
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