とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
瓦礫の平野は静寂に包まれ、
戦闘の爪痕が刻まれた大地に
無数の建物の残骸が散らばっている。
その中心に立つ天羽奏は、純白の槍を携え、
目の前の存在を冷静に見据えていた。
猛獣のように咆哮を上げる立花響の姿は、
もはや人間と呼べるものではない。
彼女の体は黒く染まり、
理性の欠片は感じられないほどに荒れ狂っていた。
「うがあああああああ!」
響が叫び、力任せに拳を振るう。
その拳は音を裂き、空間を揺るがすほどの力を持つ。
しかし――。
「ふむ」
奏は槍を軽々と動かし、その攻撃を防ぎ続けた。
鋭い目が響の動きを追い、
冷静に状況を見極めていく。
『命を削ることによる出力上昇……素晴らしい強化だ。
しかし、知性と命を代償にしている時点で
等価交換が破綻している。
それに――』
彼女の槍が響の拳を受け止めた瞬間、
周囲の瓦礫が吹き飛ぶほどの衝撃波が発生する。
舞い上がる砂埃の中、奏は目を細め、
響の拳から滴る血を見つめた。
『体の方は強化に追いついていないようだな。
生身の人間の身で、よくここまで耐えたものだ。
だが、あと一時間もすればこいつは死ぬ。
私が攻撃を加えようが加えまいが関係ない。
暴走した聖遺物が頭まで浸食すれば、
人ではなくなり――最後は爆散する』
「はあ!?」
響が咆哮し、奏から距離を取る。
一瞬の静寂の中、二人は互いを見つめ合い、
次の一手を探っている。
『マリアの方は大丈夫だろうか。
風鳴翼と雪音クリスは未だ足止めを受けているはず。
このまま逃げるのが賢明だ。
しかし、天羽奏の意思はそれを許すのか?』
その思考を振り切るかのように、
響が再び突進する。
「うがああああ!」
「――嵐よ、荒れ狂え」
奏の呟きと共に、突如吹き荒れる風が響を包み込み、
彼女の体を遠くの瓦礫の山へと吹き飛ばした。
「ぐはぁっ……」
衝突の衝撃で立ち上がるのもやっとの響を、
奏は冷ややかな視線で見つめる。
『天羽奏は殺生を嫌う。
今はまだ、肉体の主導権を完全に掌握していない。
このまま立花響を見殺しにすれば、
出力の低下、最悪の場合、同調不良を招くだろう。
ならば、答えは一つだ』
響が呻き声を上げる中、
再び瓦礫が響の上に崩れ落ちた。
「う……うう」
「少々の荒療治だ。
許せ――」
その瞬間、奏の髪がふわりと浮かび上がる。
瞳は赤から黄金へと変貌し、
手に持つ槍――星の聖槍
ロンゴミニアドが光を放ち始めた。
「疑似人格停止。天羽奏との同調を確認。
魔力の消費量、測定完了。
宝具使用、限定解除」
▲▲▲
一方、病院外では風鳴翼とマリアが激しく剣戟を交わしていた。
「まだ、合ったね、風鳴翼」
「……!?」
「奏が言った通り、可愛げがないよね。あなた」
槍と剣がぶつかり、再び互いに距離を取る。
「奏とはどういう関係だ」
「な、何言ってるの、あなた!?」
マリアの顔が赤く染まる。
「違う! そういう関係じゃないから!」
「……貴様、何を言っているのだ?」
その時、遠方に光の柱が立ち上る。
「あの光はまさか――!」
マリアは驚愕し、その光の方角――立花響がいる場所を見つめる。
『あの方向、確か、立花の!?』
翼は・・・
▲▲▲
再び瓦礫の平野。
天を貫くような光が響き、奏が槍を高く掲げる。
「聖槍圧縮」
槍は光の帯に包まれ、
スピアータイプからランスタイプへと変貌する。
「十三拘束、限定解除。
攻撃対象限定、レンズ縮小、全工程完了。
カウントダウン開始!」
空は暗雲に包まれ、風が荒れ狂う。
奏の髪は赤から
瞳の色と同じ黄金となる。
響が必死に抗おうとするが、
体は言うことを聞かない。
膨大な風は奏と響を包み込む。
「聖槍抜錨――其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!
最果てより光を放て……!
星の聖槍は光を放ち、遥か彼方の天を貫いた。
天を裂いたその光は一筋の流星のように地上へと落下し、
奏と響を包み込む。
「――!?」
閃光がすべてを覆い尽くし、その後に残されたのは純粋な破壊のみ。
瓦礫の平野に轟く爆発音が、最後の静寂を破った。
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