とある聖槍の人理保存 作:ネシエル
爆発の穴
巨大な光が病院全体を飲み込み、
数十メートルにも及ぶ爆発を引き起こした。
瓦礫が散乱し、埃が宙を舞う。
その余韻が収まり始めた頃、濛々とした空気の中に緑が現れ、
状況が徐々に見え始める。
奏はゆっくりと爆発の中心に向かって歩を進めた。
クレーターの中央には、全裸で身を丸める立花響の姿があった。
「う、うう……」
響の微かな声が耳に届く。
寒さに震えるその姿を目にし、奏は駆け寄る。
『威力は順調。目立った外傷はない。
まあ、こんなものだろう。
範囲と攻撃対象の限定とはいえ、
こんなに糸を針に刺すような行為は私には似合わない。』
冷静に状況を分析しつつ、奏は自らの力で服を生み出し、
響の体にそっとかけた。
「さすがに全裸はまずいよな。うん?」
その瞬間、響の体が突然、花に変わり、
花弁と共に消えていった。
『幻術!?いつから。』
驚きと警戒が奏の表情に浮かぶ。
周囲を見渡し、何かを探るようにその場に立ち尽くした。
『私の魔力感知から逃れて、いや違う。
堂々と晒していたのか。私が知る限り、
こんなことができるのはこの世で一人だけ。』
小さく息を吐き、口元に苦笑を浮かべる。
「ふ、フフフ。マーリン。貴様か。」
怒りと屈辱を滲ませた声が響く。
『この屈辱。いつか絶対に倍返して果たす。マーリンがいるということはあの方もいるのだろうか。』
奏は月明かりを浴びる空を見上げ、静かに呟いた。
「アーサー王……」
▲▲▲
潜水艦内
深海を潜航する潜水艦内は慌ただしさに包まれていた。
「バイタル不安定!」
「聖遺物の浸食が止まりません。至急応援をお願いします!」
集中治療室では医師たちが慌ただしく響の治療に追われている。
「響、くそっ!」
クリスはガラス越しに治療を受ける響の姿を見つめ、思わず拳を振り上げた。その拳がガラスに叩きつけられる。
「クリス!?」
その場にいた翼が声を上げた。
「ああ、すまねえ、ちっと頭に血が昇った。」
クリスは怒りを抑えるように深呼吸をした。
その時、自動扉が開き、風鳴司令が現れた。
「翼、クリス。」
「司令。」
「なんだよ、おっさん。こんな所に来て。」
クリスの口調には苛立ちが混じる。
「別にいいだろう。俺は大人だ。大人が子供を見に来て何が悪い。」
「子供扱いするな。」
「俺から見たら、お前たちはまだまだ子供だ。そんな子供をこんな危険な目に合わせる俺たちが言える立場じゃないがな。」
司令の重い声にクリスは何も言えなくなる。
「司令、立花の状況はどうなっているのですか。」
翼が冷静に問いかけた。
「響の体内にある聖遺物が暴走した。」
「暴走!?」
「ああ、しかもただの暴走じゃない。聖遺物が意思を持つかのように響の体を食いつぶしている。その姿はまるで、生物のように。」
ガラス越しに見える響の体には紫色の血管が浮き上がり、今にも破裂しそうな様子を見せている。
「こんなこと、今までないことだ。今は電気治療で聖遺物の浸食を防いでいる。根を張る聖遺物を電流で焼き尽くしている最中だ。」
「それは!?」
「ああ、フィーネが君にしていた治療と同じだ。君と違い、全身麻酔をしているのにも関わらず、この有様だ。」
「う、うわあああああああ!」
響の叫び声が響き渡り、翼は目を手で覆い隠し、クリスは視線をそらした。
「立花は……治るのですか。」
「ああ、俺たちが絶対に直して見せる。だが、例え直したとしても寿命は大きく削られるだろう。」
翼とクリスは、静かに沈黙する。
「さて、報告を聞こうか。二人とも指令室に来い。」
▲▲▲
指令室
風鳴司令の前で、翼とクリスが報告を行った。
「つまり、あの爆発は奏の聖遺物が原因か。」
「はい、そうしか考えられません。あの場に響と対立したのは奏です。あの光の柱。恐らく、奏が持っていた完全聖遺物の能力と推測します。」
「ふむ……風を操り、奏者にも匹敵する分身の創造。さらに、半径数十メートルにも及ぶ爆発を引き起こす破壊力。響が無傷に艦内に発見されている辺り、威力を抑えていると推測するのが妥当だろう。観測されたエネルギー反応と比べればあまりにも弱すぎる。」
「なあ!?あれが、威力を抑えている状態なのか、オッサン!?」
「ああ、観測されたエネルギーは完全聖遺物、いや、完全聖遺物を凌駕する数値だった。測った瞬間に測定不能を引き起こし、計測器が完全に壊れた。再計算した所、最低でもデュランダルのおよそ333倍ものエネルギーが秘められていた。」
「なあ!?」
「嘘だろう……あの馬鹿みたいに強いあの剣よりも、冗談でも面白くないぞ。オッサン、直接デュランダルの力を見たあたしなら言える。あれよりも凄い聖遺物、少なくとも破壊力を上回る聖遺物はないって。」
「ああ、だが事実だ。奏が持っていた聖遺物。我々が想像していたものよりも遥かに上回る存在だ。最早、聖遺物という次元を超えている。街中で使用すれば核兵器を越える威力を発揮するだろう。一発切りじゃなく、何発も打てるのなら我々に勝ち目はない。」
重い空気が指令室を包む。
「そう、落ち込むな。ソロモン杖を取り返した。これで、ノイズの被害を抑えることはできる。お前たちはよくやった。」
「取り返していない。あいつが勝手に返してきやがった。」
「奏がソロモン杖を返した理由は、恐らく、自分が持っている完全聖遺物で事足りると思ったのでしょう。奏者にも匹敵する騎士を生み出す。あの三体だけしか召喚できないとは考え難い。」
「あるいは単に興味を失っただけかもしれんな。」
「そういえば、あいつ、変なことを言っていたぜ。所詮は予備用の宝物庫。お目当ての宝がない以上、もう興味がない。」
「ふむ、それもこちらで調べよう。君たち、二人は早く部屋へ戻り休んで英気を養え。」
「司令。」
「なんだ。」
「そういえば、響はどうやって戻ってきましたが、あの怪我では自力で帰還することは不可能です。私たちは響を捜索しようと見つからず、いつの間に響を回収したのですか。」
「いや、俺たちは何もしていない。」
「な!?」
「言っただろう。さっき、響が無傷に艦内に発見されたこと。響は突如、艦内に現れたのだ。花と共に。」
その謎に、室内はさらに深い沈黙に包まれた。
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