職員棟の2階、CHARMの受渡し場所はすぐに見つかったが、まだ、数名の生徒が残っていたため、奏は少し
待つこととなった。
掲示板の前で少し昨日の出来事を思い出していた時間から考えると、自分しか残っていないかと思った奏は、
『案外とCHARMを受け取る子って多いのかな?』
と、心の中で感じていた。待つこと10分弱で自分の番が来る。
受け渡し場所には、一人の女生徒と事務職員らしき女性が座っていたが、その女生徒に、
「東 奏(あずま かなで)さんね。」
と、声をかけられた。奏は、
『なんで、この人、私の名前を知ってるんだろう』
不思議に感じたが、その思いは座っている女生徒の言葉ですぐに分かった。
「あなたが、最後だからね。」
笑顔で奏を見ながら言う女生徒。
そう言われて、納得がいったと同時に、自分が不思議そうな顔をしていたので教えてくれたのだろうと思うと、恥ずかしくて思わず顔が熱くなるのを感じていた。
そして、慌てて視線を動かしたときに、その女生徒のスカーフに目が留まった。
月華学院高等部では、セーラー服のスカーフの色で学年が区別されおり、一年生は桜色(薄いピンク)、二年生は紺碧(濃いが明るめの青)、三年生が赤紫(紫より明るめ)となっている。
声をかけてきた女生徒は青っぽいスカーフを付けていたため、二年生だと奏は知った。
「はい、この受け取り証明書にサインをしてね。」
優しい声で微笑みながら、証明書のサインする場所を指で示して教えてくれる先輩に優しさを感じながら、奏は、言われるままに、サインをすると、
「その紙を持って、部屋の中に入って。教導官から、CHARMを受け取ってね。それと注意事項はしっかりと聞いてね。」
「はい。ありがとうございます。」
奏は一礼すると、部屋の中に入っていった。
奏が部屋の中に入ったことを確認したかのうように、入れ違いに一人の男性が、受付にいた女生徒に近づいて来た。
恰幅が良く歩き方もビシッと、まるで軍隊にでもいたかのうような歩き方である。事務職員の女性は男性に向かって一礼するとその場から立ち去ったが、男性は、残って片付けをしている女生徒の傍に来ると、
「今のが、東奏(あずま かなで)君かね。」
確認するかのうように尋ねた。
「はい、おそらくそうですね。本人から名乗ったわけではありませんし、私は、東さんと面識があるわけではありませんから。」
いたずらっぽい笑顔でその男性に顔を一度だけ向けてから、再び机の上の資料やペンを片づけ始めた。
それほど多くないので、すぐに片づけが終わると、突然立ち上がり、姿勢を正すと、
「学院長、この一年本当にお世話になりました。そして、私の身勝手な我儘を聞いてくださり、誠にありがとうございます。」
深々と頭を下げた。そして、ゆっくりと頭を上げると、目には光るものが流れていた。
「大郷君、もう一度考え直していいんだよ。まだ取り消しは出来るからね。」
学院長も女生徒をみながら、優しい口調で意思を確認していたが、
「いいえ、もう決めたことです。それに、彼女が倒れるところを見たくないんです。」
流れる涙を拭おうともせず、笑顔を必死に作って学院長を見つめている。
「そうか。」
学院長は残念そうな顔で言ってから、続けて、
「次の学校はいつからだ。」
「明日が、一年生の入学式なので、明後日から向こうの高校に通うことになります。」
流れる涙をハンカチで拭きながら、学院長に伝えた。
「それと、例のものは彼女に渡していただけましたか?」
「直接ではないが、自然と彼女の目に留まるようにした。恐らく、この後だろうな。」
「フフフッ。そうですね。もうじき、彼女のショーが始まるでしょう。」
笑顔でそう言う女生徒に対して、学院長は感心した表情で、
「しかし、あれだけの事、よく調べたな。」
「いえ、時間がかかってしまって、なんとか間に合ったって感じなので、もしかすると詰め手にかけてるかもしれません。巧妙にしかも陰湿で調べれば調べるほど吐き気がしました。」
嫌そうに顔をしかめながら言う女生徒に、学院長は頭を下げながら、
「いや、あれだけの物的証拠と状況証拠、それに証言まであるんだ。あれで追い詰められなければ、それは私の力不足だ。君には本当に最後まで苦労を掛けてしまった。すまなかったな。しかし、生徒会のマル秘資料まで、どうやって・・・。」
不思議そうな顔の学院長に対して、どこから出したのか分からないが、二本の細長い金属を見せて、
「これで、ひっそりと。」
学院長は一瞬だけ、見てはいけないものを見たような顔をした。それは、正規のカギを使わずに開ける道具。
だが、当たり前だというような顔で、
「リリィとしては、必要ですよ。鍵のかかった部屋に閉じ込められた人たちを救出するには、必須です。」
そう言いながら、一人で長机を片づけようとする女生徒に学院長は、手を貸した。
学院長と女生徒の二人で長机を予備教室に運びながら、
「ま、確かにそれはそうだが、今のは見てないことにしよう。しかし、惜しいな。君を手放すのは・・・。」
本当に悔しそうな表情の学院長を見てから、
「私は道具を使いますが、彼女なら、どんな扉も蹴破るでしょうから、心配いらないと思いますよ。」
その言葉に対して、学院長はさらに苦虫を潰したような顔をして、
「いや、どんな扉も蹴破られたら、困るんだがな。」
ふぅ。とひとつため息を吐き、
「あれは、先日も教導官室の扉を蹴破ってから、扉は蹴破るためのにある。と、ドヤ顔で言い切ってたからなぁ。とうとう学院長室以外の扉にも足を出しよった。」
「あははははっ、ありましたね。私もその場にいて、肝が冷えました。」
長机を倉庫用の教室に片づけると、その教室に置いていたカバンを持ち、そしてそのカバンの中から、一通の手紙を取り出し、
「学院長、私の最後のお願い聞いてくれますか。この手紙をあの子に渡してください。」
学院長は、手紙を受け取り、
「手紙か・・・・・。直接会って話さないのか?。きっと、恨まれるぞ。俺も君も。」
少しおどけた感じで話す学院長に、
「ええ、でも、恨まれるのは、きっと学院長だけでしょうね。あ、でも、慣れっこですか。いつもの事ですから。」
学院長に対して、失礼な言い方かとも思ったが、そもそも、根はやさしく、一人ひとりに気兼ねなく声をかける学院長で、生徒達からも親しみやすいと評判は高い。容姿からは想像しにくい話ではあるが。
「うむ。違いないな。だが、本当にいいのか、何も言わなくて。思うところもあるだろう。」
学院長が女生徒に視線を向けると、女生徒も、学院長に渡した手紙を見つめていた。
「なるほどな。思いは、全て手紙にか・・・。」
その時不意に、
「学院長、もう一つだけ、我儘聞いてもらってもいいですか?」
女生徒が顔の前で手を合わせてお願いするポーズをとっていた。
「なんだ。」
学院長の持っている手紙を見ながら、
「もうちょっとだけ、この学校を見ておきたくなりました。」
そして、顔を上げて、今できる精一杯の笑顔を見せて、
「校内を自由に歩いてもいいですか。」
その笑顔を見た学院長は、
『そうか。手紙では書ききれなかった想いもあったか。』
女生徒の表情からそう読み取った学院長は、
「よかろう。悔いの残さぬよう、しっかりと見て回ると言い。だが、そうなると、出会うかもしれんがそれでもいいのか?」
少しだけ意地悪そうな表情で女生徒をみたが、
「はい、それも含めて賭けです。あの子と私の運命が絡み合ってるのか、平行線なのか。あの子がわたしを見つけることが出来るのか、賭けてみたいと思いました。」
遠くを見つめながら、はっきりとした口調で伝えると、再度、一礼をして、向きを変えると歩き始めた。
女生徒の後ろ姿を見ながら、
「大郷君、この手紙、私が彼女に渡すのが遅れたら、会うこともできないがそれも賭けなのか?」
学院長の言葉に、顔だけ振り向けて、
「それも賭けです。学院長がとのタイミングでその手紙を渡すのか。最後まで、御面倒おかけして申し訳ありません。」
そういい、再び、前を向いて歩き始めた。
学院長は、再び、手に持っている手紙を見て、
「その賭け、俺の勝ちじゃな。」
視線を去っていく彼女に向けて、小さく一人呟いた。
「全く、去年の1年生は、最初から最後まで、俺を巻き込みおってからに・・・。」
小さく迷惑そうに呟いたものの、顔は嬉しそうな顔で、彼女の背中を見続けていた。
お越しくださり、ありがとうございます。鵺夜深(やよみ)です。
奏ちゃんが第一の主人公ですが、次話に第二の主人公が登場してきます。
ちょっと荒れます。荒れてます。奏ちゃん、まさかの巻き込まれです。
ヒュージはまだまだ出てきません。ただ、色々と癖のある人達が登場してきます。
人物絵についても、知人に描いてもらってますが、先ほど、DISCODE時代のものから書き換えたいと連絡がありましたので、人物絵については先送りとなりそうです。
では、また入学式編 4 も今週中にはアップします。
月華学院をよろしくお願いいたします。