アサルトリリィ ~月華の乙女たち~   作:鵺夜深

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入学式編 5

 校内に非常ベルの音が鳴り響く少し前。

 

 学院長室に戻っていた学院長。

 

 背もたれのある見た目、高級そうな椅子に踏ん反りかえり、両手を頭の後ろで組んで目を閉じていた。

 

 その時、扉をノックする音がすると、一人の女性が入ってきた。

 

 「学院長、CHARMの配布は無事に終わりました。」

 

 彼女の名前は、高宮城 茜(たかみやぎ あかね)。月華学院学院長の秘書兼教導官として、リリィの指導にもあたっている。

 

 「無事に終わった・・・か。」

 

 姿勢はそのままで、目を開けた学院長は、茜の姿を見て確認するように言った。 

 

 「ええ、何事もなく。」

 

 茜は、ゆっくりと歩きながら学院長の前まで来ると机の上の資料に目を向けた。

 

 その資料には、奏の顔写真と中学時代の成績などが記されているのだが、特記事項として、ー指輪を使用せずにCHARMを使用した可能性ありー と書かれていた。

 

 通常CHARMを使用するにはルーン文字が刻まれた指輪に自分の血を染み込ませ、自分のマギを指輪を通してCHARMに流すことで契約が完了し利用可能となる。契約しなくともCHARMを振り回せば、それなりの攻撃力は武器としては使えはするが、本来のCHARMの使い方ではないことは事実である。

 

 CHARMといっても、様々な種類があり、斬撃モードや射撃モード、狙撃モード、高出力砲、また、防御力特化型等がある。

 

 第一世代のCHARMは基本、単機能で、斬撃であれば、斬撃しか使えないが、第二世代~第三世代のCHARMは、斬撃と射撃のモードを切り替えることによって、戦況に応じてCHARMの形態を変えることが可能。また、リリィ自身が持つレアスキルと呼ばれるスキルを効率よく使うためのCHARMも開発された。

 

 ただし、第二世代は量産型が多いが、第三世代はリリィ固有のレアスキルに依存することが多いため、量産型というより、リリィに合わせて作られるケースやレアスキルに合わせて作られるものが多い。

 

 現在第四世代の開発が進められており、大きな特徴として精神連結による遠隔操作が可能になっている。ただ精神に異常を来すこともあり、まだ実証試験中であり、実用化の目途は立っていない。また、第三世代同様、量産型となる可能性は低い。

 

 開発メーカーも複数あり、国内は天津重工、海外はグランギニョル社、ユグドラシル社等12社。ヒュージ研究機関のG.E.H.E.N.A.。そして、学生でありながら、CHARM開発も手掛ける、百合ヶ丘女学院工廠科の真島百由(ましま もゆ)。柳都女学館の天津 麻嶺(あまつ まれい)も開発者として名を連ねている。

 

 天津 麻嶺は天津重工・総帥の令嬢である。百合ヶ丘女学院に所属している楓・J・ヌーベル(かえで ジョアン ヌーベル)もフランスに拠点を置くグランギニョル社の総帥の令嬢である。

 

 資料を隠す様子も見せず学院長は、

 

 「東奏に会ってみた感じはどうだったか?」

 

 あくまでも特記事項を気にする様子でもなく、その飲み物美味しかったか?みたいな軽い感じで尋ねた。

 

 新入生にCHARMを渡す役目を茜に依頼したのは、東奏の様子を見るというのが一番の目的であった。

 

 「ごく普通の女の子でしたよ。どこにでもいるような。特に資料に記載されているような兆候はありませんでした。それにさりげなく彼女を見ていたでしょう。」

 

 大郷に会うついでに奏の様子をそっと見ていたことを茜は気づいていた。 

 

 茜のその言葉に小さく頷くと、

 

 「ごく普通の女の子か。それが当り前じゃなきゃいかんのだがな。」

 

 「ええ、この学院の子達、みんなそうであってもらいたいものです。」

 

 その茜の言葉を神妙な面持ちで聞くと、ゆっくりと体を起こし奏の資料を閉じ机の引き出しの中に閉まった。

 

 そして、机の上にあるデジタル式の置時計を見た。

 

 「そろそろあの子達が事を起こす時間になるかな。」

 

 「おそらく、そろそろだとは思いますが・・・・・。」

 

 茜は一呼吸おいて、

 

 「この一年、我慢させていた分、相当暴れると思いますけど本当にいいんですよね。」

 

 その言葉に学院長は頭を掻きながら、

 

 「政治的な思惑もあって、リリィ科の生徒達には辛い思いさせていたのは事実だからな。少々は構わんだろう。」

 

 苦笑いしながら茜は、

 

 『いや、少々じゃすまないでしょうけど』

 

 とは言わず、

 

 「学院長にそのご覚悟あれば、私からは何も言いませんけど・・・」

 

 目元だけ意地悪そうな顔で学院長を見つめると、

 

 「お、おい、俺は覚悟しなきゃいけないほど、あれは暴れると言うのか?」

 

 「だから、大郷の資料を見た後に一度確認しましたよね。本当にこのまま彼女に渡していいのかと。」

 

 今更、何を言うんだ。という冷めた目で学院長を見つめた。

 

 ふぅ。と小さくため息をついた学院長ではあるが、わずかだが微笑んでいるようにも茜には見えた。

 

 「ところで。」

 

 改まって茜が学院長に尋ねた。

 

 「名古屋府知事や名古屋府方面軍に喧嘩を吹っ掛ける手筈はどうなってます?。そこを対応していただかないと、彼女達も報われませんよ。」

 

 強い口調で言う茜に対して、学院長は軽く握った右手を左で包むように叩くと、

 

 「あ、それな。そっちは大丈夫。今日に合わせて軍、政府、警察が全て動く。というか、もう動いてんじゃないかな。」

  

 その言葉に、

 

 『動く、動いてるってどっちよ。先に動いててもらわないと困るでしょうが。』

 

 というツッコミは心の中にしまい、

 

 「彼女達はどうでしたか?。」

 

 別の言葉を発していた。

 

 「ああ。さすがに君の教え子だ。予想以上の成果だった。流石といったところだ。エンジェルスピアは。」

 

 エンジェルスピア。月華学院のレギオンで、三年生が4名、二年生1名。

 

 主として、対ヒュージ戦ではなく諜報活動が主な任務。教育・訓練は茜が実質担当。現在は学院長直下のレギオンである。

 

 「ええ、隠密行動に関しては、徹底的に鍛え上げましたからね。その分、戦闘力の強化はできませんでしたけど・・・。」

 

 「それを補填するために、下口明花葉を入れたはずだが・・・。別行動させてる理由は何だね。」

 

 「確かに彼女のレアスキル、ユーバーザインは、諜報活動にはもってこいなんですが、彼女自身の戦闘能力が高いので、それを活かすには、学院で別行動させた方がいいと判断してます。」

 

 さらに茜は付け加えるように、

 

 「いずれ彼女には、別のレギオンを立ち上げさせる予定です。それに、案外、あの子とは、仲いいんですよ。」

 

 一瞬だが、学院長は眉間に皺を寄せたが、表情を元に戻すと、机から茶色の封筒を取り出し茜に渡した。

 

 茜はそれを受け取ると、

 

 『教えた通りに手書きの紙資料。ページを少しづらして割り印もしてる。まずは及第点。あとは内容ね。』

 

 どうやらそれは、エンジェルスピアが調べた資料のようだった。

 

 データで資料を作成すると必ずどこかに痕跡が残る。物理的に完全破壊すれば問題ないが、出来なかった場合そこから情報が漏れないとは言い切れない。

 

 手書きの紙の場合、直接依頼した学院長に手渡せば、それ以外に情報は残らない。コピーやスキャン・カメラで撮影される可能性は考えていない。その場合の前提は、盗まれる、盗み見られる可能性があるということだが、そんなヘマをするようなメンバーを茜が選出するはずはなかった。

 

 割り印については、相手に渡したあとにページ数と並び順を間違えて読まれないようにという配慮である。

 

 茜は資料を見て目をまるめて、

 

 「しかしまぁ、こんなにため込んで。まぁ。」

 

 と驚きの声を上げたと同時に呆れた表情にかわり、

 

 「政府からの名古屋府への対ヒュージ対策費まで過少に報告して横領ですか。」

 

 「まぁ。それについては政府側にも問題があったというか、抜け道を作っていたといった方がいいだろうな。」

 

 学院長はそう言いながら、頭を掻いていた。

 

 政府の対ヒュージ対策費は、全額こそ公開されていたが、各府に配布される金額は非公開となっている。

 

 当初は公開されていたが、ヒュージの出現頻度、人口密度等から各府での配分に差があるのは仕方がないが、その比率において、関東と関西で問題となったことから、各府への配分金額は非公開となった。

 

 非公開となったからといって不満が消えたわけではないが、京都南部に強力なヒュージが出現したことで、関西府の増額が決定し一時的に不満は解消されていた。

 

 ヒュージの脅威を考えれば、悪用はされないだろうという甘い考えが政府にあり、それを利用したのが今回の事件となっていた。

 

 「これって学院への支援金も含まれてますよね。」

 

 資料を指さしながら、呆れた表情で話す茜に、

 

 「学院への支援金は、名古屋府に渡される対ヒュージ対策費の30%と決っていたはずなんだがな。」

 

 「実際に支給された金額と比較すると15%前後しか支給されていないことになりますね。」

 

 「まぁ。よくもやってくれたなって感じだが、政府からの対ヒュージ対策費の約20%と、さらに学院への支給金額の15%を横領。その上」

 

 学院長は次のページをめくるように目で指示を出すと、

 

 「討伐したヒュージの数も、学院側が提出した数値にかなり水増しして政府に出してますよね。月平均で4桁近い差異って。」

 

 呆れてものも言えないという表情で言う茜に対して、

 

 「ああ、ま、そっちは国防軍にも討伐数は報告してたから差異があることは知ってたが、総司令は時が来るまで待てとしか言わなえし。何かあるとは思ったんだが。」

 

 「まさか、総司令も?」

 

 茜がポツリと呟く。

 

 「おいおい、茜、お前と俺の元上官だぞ。人となりは十分知ってるだろうが。それはねえよ。現にエンジェルスピアの調査資料も白と明確に記載してる。」

 

 「いえ、そういう人柄ではないことは十分承知してますが、なにかと発言には問題があるお方でしたので。」

 

 その茜の言葉に、苦笑いしながら学院長は、

 

 「まぁな。だが、それも一般向けではなく、国防軍内部への発言だったしなぁ。」

 

 その発言内容とは。

 

 「一般人が守れないようなら、軍なんかやめちまえ。」とか、

 

 「リリィのお嬢ちゃんだってやってんだ。ギガント級の一体ぐらい倒して来い。」

 

 そして極めつけが、

 

 「ヒュージの進軍がとまれねぇ?だったら、橋に護衛艦ぶつけて少しでも進軍速度落とせ!」

 

 等である。

 

 茜も思い出しながら、

 

 「護衛艦霜月でしたよね。川を逆上して橋をいくつか真っ二つにして座礁したの。しかもその時、総司令自ら霜月に乗艦してましたよね。」

 

 学院長は笑いながら、

 

 「で、ぶつけた後、艦長の伊達さんに向かって、お前。何、ぶつけてんだ。砲使えよ。砲。何のためについてんだよ。あ~あ。霜月をこんなにしちまいやがってこの馬鹿がって、この話聞いた時は、爆笑したよ。俺は。」

 

 笑いながら言う学院長を見た茜は怒った口調で、

 

 「笑い事じゃないでしょ。その伊達艦長、空軍に移動。事実上の左遷でしょ。」

 

 その茜の言葉に、ん?という表情で、

 

 「事実上の栄転だぞ。伊達さん。今は、護衛空母信濃の艦長で、第7護衛団の師団長になってるぞ。空母ということで、空軍の状況も知らないとまずいから、一旦空軍に移動しただけだが、あれ?言ってなかったっけ?」

 

 「聞いてません。」

 

 あれ?という顔で頭を掻いている学院長に

 

 「報連相はきちんとしてください。」

 

 と強く言う茜であった。

 




お読みいただきありがとうございます。

入学式編 第5話です。

ちょっと時間がかかってしまったのは、DISCODEに載せていた第5話を大幅に変更して、色々と追加したので、時間がかかってしまいました。

しかも、DISCODEの第5話が、こちらでは、6話まで続くこととなります。

誤字脱字、文章の流れがおかしい部分はあると思ってますが、まずは掲載したいと思いましたので、アップしました。

アップ後に訂正しますので入学式編6 は、また少しお時間を頂くこととなります。

誤字脱字の訂正で最新表示の日時はズレると思いますが、大幅な流れは変えない予定です。

変ってしまった場合は、6を上げる前にお伝えしたいと思います。

これからも、よろしくお願いいたします。  鵺夜深。
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