もしも五十嵐栗夢がガチの『マリーシア』使いだったら 作:MAX
扉を抜けた先は、ロッカールームだった。
コンクリートの壁と地でできた直方体の空間。
正面には大きなモニターが上の方に設置されていた。
ちょっと分かりにくいが、天井のは1箇所、四角形の枠のようなものがある。天井点検口だろうか。
今、俺の居る方から見て、右の壁には、12人分のロッカーが設置されている。
12人か。サッカーのチームを組むと1人余るなあ。とか考える。
そして、当然というべきか、俺がこの部屋に来た最後の一人だ。
ロッカールームには、既に11人の
その中には、知った顔もあった。
「……
「よ! 國神じゃん。さっきぶり」
俺は、右手を顔の横くらいの高さまであげ、声をかけてきたその人物、國神錬介に返事を返した。
つーか。こいつ。筋肉すげぇな。あと、タッパもあるし、190近くあるんじゃないか?
かー。175cmの俺に、10cmばかりでいいから、その身長を恵んでくれませんかねぇ。
「知ってるやつが居てよかったよ。で、ロッカーってどれを使えばいいんだ?」
「ボディスーツにアルファベットと数字が書かれてあるだろ?」
そう言って、自分のボディスーツの【Z291】を指さす國神。
「ロッカーの札にも同じのが書かれてあるから、自分と同じやつのところを使え」
「おう。教えてくれて、さんきゅー」
「あと、足元に気をつけろ」
「足元? あー。コイツね」
コンクリートの地面の上で、胎児のような格好で、指を加えて、仮眠をとっている髪先が黄色い少年。こいつの数字は【Z 292】か。
「……へい。ゼーコ*1パス……。ちゃんと出せ」
とか寝言を言っているが……ホントに眠ってんのかこいつ?
怪訝に思いながら、避けて通って、自分のロッカーを探しに行く。
國神が言っていたとおり、ロッカーの札にアルファベットと番号が書かれていた。
札に【Z 300】書かれたロッカーを使用して、ボディスーツに着替える。
着替えながら周囲を観察する。
この中で一番能力が高そうなのは……やっぱ──アイツか。
クリーム色の髪の自信に満ちているイケメンに目が行く。
吉良涼介。ボディスーツの数字は【Z 289】
メディアとかでも取り上げられている超有名人。
日本サッカーの宝と言われてるしな。
絵心甚八の意見に、真っ向から反発してたし、カリスマっていうの? そういうのがある気がする。
あと、間違いなく陽キャだ。しかも女子にモテてるタイプ。
まぁ、実力は確かだろうし、媚び売っとくか。
『駆け引き』ってやつは
このメンバーでチームを組むのか、競うのは知らんが、強いやつに気に入られておいて損はないべ。
着替え終えて、すぐ、俺は参加者の一人*2と話している吉良の元に近づいていく。
「潔くん。お互いにベストをつくそう」
「うん!」
「あの〜」
「キミは、ブレイブマンくんじゃないか。僕になにか用かい? って、え……」
俺は、吉良の両手をがっしり掴んでいた。
「キミ吉良涼介だよね!? あの日本サッカーの宝の! すげぇー! 本物じゃん!」
テンション高めのオーバーリアクションで、両手をブンブン上下させる。
「あ……ありがとう」
ちょっと、戸惑ってる感じで言っているが、俺の『目』は誤魔化されないぜ。
満更でもないだろ! いや、喜んでいるよなあ?
「あーごめん。メディアに出ている人と会うのはじめてだったから、ついテンション上がっちゃってさあ……」
野郎の手なんてずっと握っているいられるか!
適当に取り繕った御託を述べて、手を離す。
「あはは。いいよ。普段からこういうことは結構あるし、慣れてるからね」
「俺、五十嵐栗夢といいます。潔って子も友達? よろしくね」
「あ……どうも……」
ペコッと小さく頭を下げる少年、潔。数字は【Z 299】か。
さて、わざわざ目立つようなことをしたかいあって、今、ここに居る奴らの視線のほとんどが俺たちに集まっている。
発声と滑舌を意識して、全員に聞こえるようよく通る声で
「俺さ! 寺の息子なんだよね! 生まれた時から、将来は寺を継ぐ運命なんだけどそんな決められた人生が嫌でさ。プロサッカー選手になれたら継がなくていいって親父と約束したんだ。だからさっき、絵心の話を聴いて震えたね。人生変えるチャンスがキターーって感じ? それに俺には──アンリちゃんとの『約束』もある! 俺は必ず世界一のストライカーになってアンリちゃんと結婚前提にお付き合いするんだ! だから、ハングリーさだけは負けないぜ? さ、あくしゅ! あくしゅ!」
右手を潔に差し出す。
自己開示をすることで、相手に自分の事情を知らせることができる。そうすることで、相手への牽制にもなるって寸法よ!
事情を知ってるやつと、知らない奴なら、良心を持ってるやつなら前者に入れ込んでしまうものさ!
「ども……こちらこそ……」
潔が俺と握手を交わしてすぐ──それは突然、点灯した。
モニターに映し出されたのは、絵心甚八その人だ。手をわきわきさせている。
『着替えは終わりましたか才能の原石共よ』
『今、同じ部屋にいるメンバーはルームメイトであり高め合うライバルだ。お前らの能力は俺の独断と偏見で数値化されランキングされている。ユニフォームに示されている数字がそれだ。300人中何位かが人目でわかるようになっている』
オッフゥ……俺最下位じゃん。
周囲の俺のことを見る目が明らかに変わったな。
特に金髪の目つき鋭い、ギザ歯野郎。ありゃ明らかにこっちを見下す目をしてやがる。
まぁ、約一名『何の変化もない』やつもいるけど。
『そのランキングは日々変動し、トレーニングや試合の結果でアップダウンする。そして、ランキング上位5名は無条件で6ヶ月後に行われる大会──
「「「……!」」」
すげぇ、それがマジなら5位以内に入れれば、世代別とはいえ代表入りか。
うおおおお!
『ちなみに、
うまい話にはなんとやらってやつかい。
けど、それがどうした? こちとら本来、元々代表入りなんて縁がなかった雑草だ。
代表になれる
『ここで勝ち上がるために必要なのはエゴだ。『今』からその素質を測るためのテストを行う。──さぁ、鬼ごっこの時間だ』
ぼとり。と天井の四角い枠が割れ、ボールが落ちてきた。
寝ているやつを覗いて、全員の視線が一度ボールへと集まる。
鬼ごっこ。その単語を耳にして『閃いた』俺はすぐにボールをとれるポジションへと少しずつ、できるだけ気配を消しながら、ゆっくりと近づいていく 。
少しずつ、少しずつ。虎視眈々と獲物を狙う虎のように。
来るであろう『その瞬間』を逃さないために。
『制限時間は136秒。ボールに当たったやつがオニとなり、タイムアップの瞬間、オニだった1人が
鬼ごっこ。というからには『鬼役』の存在は必須だ。
ボールは一つ、だから鬼も一人。そこまでは鬼ごっこってサッカー関係ねぇじゃんとか思考停止させしていなければ、誰だってわかる。
じゃあ、12人の中の誰が鬼になるか? それは『今』はまだ誰もわからない。
きっと、このあとモニターに表示されるであろう『鬼』の姿を見るまでは、鬼自身すらも……。
俺が狙っていたのは、鬼の姿を確認するために、この場にいる全員の視線がボールから、モニターに行くまさにその『瞬間』だった。
『これは俺がストライカーの【本質】を見極めるために俺が用意した「エゴイズムテスト」。覚悟して戦え。これはただの鬼ごっこではない』
モニターが切り替わり鬼役が表示され【ゲーム開始】共にカウントが動きだしたのとほぼ同時。
──俺は全速力でボールに肉薄し、左足でボール横のコンクリートの地面を踏みこみ、全身のバネのパワーが乗った右足で、ボールを『ソイツ』のある部位を目掛けて、撃ち込んでいた。
鬼役が俺だったのはただの
俺は、誰が鬼であろうと、自分が一番最初にボールをその人物へ目掛けて撃ち抜くと
バチンッ!!! とボールが狙い通り『ソイツ』のある部位に当たり、快音を鳴らす。
続いて、ぽんっ、ぽんっ、とボールが何度か跳ねたあと、コロコロとゆっくり地面を転がっていき、勢いが死んでいって、ついに、止まる。
ひと時の静寂が訪れる。
呆然としている競争相手たち。
きっと、今の光景を見ていたコイツらはこう思っているだろう。
は? こいつなのやってんだ。……と。
ここで負けた人間はこの先一生、日本代表になれないと聞いて、相手の人生を躊躇無く終わらせに行くか普通?……と。
特に、俺にボールを【右手】にブチ当てられた──
「……五十嵐くん。なに……やっての?」
吉良涼介は。
『ピーーーーーーーー!!!』
モニターから長い笛の音が鳴る。
モニター画面に吉良涼介デフォルトキャラがLossという表記と共に映し出される。
おれは右手を横にして上げ、決め台詞を放った。
「南無三!!!」
「は? は? まだ、時間は残ってただろ! なのに、なんで!!」
吉良の問いに呼応するように、モニターが切り替わり、絵心甚八の姿が映し出される。パチパチと乾いた拍手をする。
『おつかれ。才能の原石共よ。ここでは結果が全てだ。敗れたものは出ていけ! 吉良涼介失格!!!』
「……おかしいだろ。まだ時間は残っていただろ! 説明しろよ!!! おい!!!」
『ハンドは禁止。そう最初に説明した筈だが?』
「は?」
額に血管を浮き上がらせるほど、ブチギレながら、自分の晴れている右手を見る吉良。
「……ふざけんなよ。禁止言ってたけど、失格とはいってなかっただろ
『試合ではルール上の
「……なっ!そんなのは屁理屈だ!! そもそも! こんな、おにごっこになんの意味がある! こんなもんサッカーじゃない! サッカーと関係ないだろうが!」
『……
「あ?」
『その部屋の広さは16.5×40.32m。P・A《ペナルティエリア》と同じサイズだ』
へぇ、そうだったのか〜。まったく気づかんかったわ〜。
『全てのゴールの約75%はこの中から生まれる。謂わば、ストライカーの仕事場だ。つまり、そこでの身体捌きがストライカーの価値を決める。そんなストライカーの戦場で、吉良涼介、お前は何をした?』
「っ!!!」
顔を歪める吉良。
『ハンドだ。敵陣地のP・Aでハンドをしてゴールの可能性を0にするなんて唾棄すべき行為だ。戦場で自チームの
「……で、でもあれは! あんな不意打ちシュート、どうしようもないだろ!」
『お前は試合でも同じことを言うのか?』
「は?」
『思い出せ。ゲームが始まった瞬間お前は何をしていた? 答えは
「……!」
『言わば、試合終了間際のワンプレー。ひしめき合うP・A内で、普段シュートなんて撃たない味方が放ったシュートの射線上に、お前の『手が』あった。だが、お前はまさかその味方が撃つなんてまったく考えていなくて、ボールの行方もおわず、アホみたいに棒立ちしてハンドをしてゴールの可能性を0にした。もしお前が、状況の把握を怠っていなければ、そのシュートに、手以外で触れてさえいれば、
吉良は反論できないようで、悔しそうに唇を噛むだけだった。
『ストライカーとは、その責任を全て背負い、最後の瞬間まで戦う人間のことですよ? 戦うことすらしなかった人間にストライカーたる資格は無い』
「……俺は日本サッカーの宝だぞ! 俺より、ブレイブマンとか潔くんの方が才能あるって言うのかよ!!!! あんなの俺以外でも避けられないだろ! おかしいだろ! こんなの間違ってるだろ!」
『五十嵐栗夢は、俺が、鬼ごっこというワードを口にした時からスグに動き出していた。潔 世一、いや、お前以外の他10人はゲームが始まった時点で、鬼とボールのどちらかを補足していた。お前だけだ吉良涼介。お前だけが五十嵐栗夢の
吉良だけが俺が最下位だとわかっても態度を変えなかった。なぜならやつには絶対の
分かりやすく見下してくるあの金髪ギザ歯よりも、そもそも敵とすら思ってないお前への方が不意打ちの成功は高いと思っていた。
「絵心の言うとおりだぜ吉良。お前だけが俺の不意打ちに気づいていなかった【自分はこの場にいる誰よりも優れている】その驕りこそがお前の敗因だ! お前は、下に見ていた相手にまんまと
日本の至宝を破って、敗因を指摘する俺かっこよくね?
アンリちゃん。これがキミとの結婚前提にしたお付き合いへの道の一歩!*3
日本サッカー界の宝を出し抜いた! これは実質もう俺が日本サッカー界の宝でいいよな!*4
アンリちゃんにふさわしい男へと一気に近づいた気がするぜ!*5
「……」
意気消沈となる吉良。そこに絵心がトドメを刺しに行く。
『お前の負けだ。吉良涼介。
「だって、あいつが、ブレイブマンが……いきなり……
「……吉良くん」
潔が何かを言うおうと声をかけたがやめたみたいだ。
懸命な判断だべ。なにを言っても、勝者からの哀れみの言葉にしかならないしな。
あ、吉良めっちゃ歯ぎしりしてこっち睨んできてるやん。やだ、怖ーいぃ。いちおう釘刺しとくか。
「吉良、憎しみからはなにも生まれないぜ」
「……僕は普段、人に対して、怒りを覚えることはめったにないんだが……。五十嵐栗夢! お前だけは、絶対に許さない!」
吉良が拳を振り上げ、凄まじいスピードで肉薄して来る。
は、ちょ、まっ。
顔面に凄まじい衝撃。
バキッ!
あ、これやばいやつ。鼻折れたかも。
意識が遠のいていく。
意識を失う寸前、なぜだか
天狗になってるやつの鼻はへし折らなければ(物理で)!
絵心なら吉良くんを無能扱いはしないかな? ……実名選手のことはカス扱いしてたけど……んーどうなんだろ。
ちょっと、今回吉良くんというキャラへのリスペクトが足りてない気もしてて、後ろめたかったりもするんですよね。結構、迷ってます。
ソレガシは、原作の吉良くんの秀才感すごく気に入っているので……。
みなさんはどう思います?
やっぱり今回の無能扱いはやりすぎでしょうか?
それとも、絵心ならそれくらい言うやろ!でいいんでしょうか?
次回 アンリちゃん視点のZチーム鬼ごっこ
吉良涼介くんの今回の扱いについて
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無能扱いはやりすぎ
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絵心ならこれくらい言うやろ
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その他(感想欄でどうぞ)