ある日の昼頃、聖園ミカに対する抗議デモを行っていたデモ隊を銃撃し、これを制圧した生徒がいた。その後、鎮圧に来た正義実現委員会にも激しく抵抗。生徒は取り押さえられ、生徒指導室で尋問が行われようとしていた………

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エデン条約編とミカに関するネタバレが含まれているので、閲覧注意。


星見と解放の翼

トリニティ学園 生徒指導室

 

 目を覚ますと、室内にいた。少し息苦しさを感じる程度に暗い。締め切ったカーテンから見える光で舞っているホコリがかすかに見え、本棚はいつ使われているのか分からない資料がぎゅうぎゅう詰めに入っている。壁に掛けられた時計は午後6時過ぎを指していた。

 

???「おはようございます。高等部1年、逆目(さかめ)ツバサですね?」

 

対面に座っていた正義実現委員会の委員が話しかけてきた。今、自分は手錠を掛けられ、椅子に拘束されている。さっきの戦闘の傷がまだ鋭く痛む。

 

ツバサ「………あぁ」

 

正実委員「今年度の4月にトリニティに入学。成績は平均、登録武器はハンドガン。目立った実績、校則違反等は『昨日までは無し』。ふむ………資料を見る限りは、あなたから問題児らしい要素は見当たりませんね」

 

ツバサ「……」

 

正実委員「あなたが拘束され、ここに連れてこられた理由は分かっていますか?」

 

ツバサ「………暴動を起こしたから、じゃないの?」

 

正実委員「はい、本日昼休み中、あなたは生徒18人と銃撃戦を行い、その全てを戦闘不能にしました。その時、介入してきた正義実現委員会たち相手にも激しく抵抗。間違いありませんね?」

 

ツバサ「あぁ」

 

正実委員「ではあなたの話を聞かせてください。なぜあのようなことを?」

 

ツバサ「話って………それを話して、私はどうなる」

 

正実委員「それは私には分かりません。そうですね…しばらく停学になるとは思いますよ」

 

ツバサ「じゃあ、それでいい。別に話したい内容じゃないし」

 

正実委員「うーん、それだと困るんですよね。あなたとそれ以外の生徒に対する処遇を決めなければならないので、詳しく聞きたいんです」

 

ツバサ「ハァ………デモ隊の連中がうるさかったからブチのめした。これでいい?」

 

正実委員「デモ隊というと、【聖園ミカ様】に対する抗議のデモ隊でしょうか」

 

ツバサ「あぁ、止めに入ったなら分かってんでしょ」

 

正実委員「ふむ……ではなぜ今日に限って? デモ隊は連日行動していますよ? やるのは昨日でも一昨日でも良かったでしょう」

 

ツバサ「別にどうでも良くないか? 突発的な感情で暴れた。それだけだ」

 

正実委員「逆目さん……あなたは以前ミカ様に対して『決闘を申し込んだ』と聞きました」

 

ツバサ「………何だって?」

 

正実委員「もしかして、その事が関わっているのですか?」

 

ツバサ「違う、あいつは関係ない! そもそも友達でもなんでもない!!」

 

正実委員「落ち着いてください、今回の事でミカ様を追及することはありません。ただ、あなたの本当の動機が知りたいだけなんです」

 

ツバサ「………」

 

正実委員「うーん、信用してもらいたいところなんですが………」

 

ツバサ「話したくない………お前も、お前以外の奴らも、みんな信用出来ない。何が、正義実現だ………正義ヅラしてる奴らは何言っても許されるのか?」

 

正実委員「あー………えっと………」

 

『コンコンッ』

 

正実委員「…? はーい、どうぞ」

 

 指導室に、スーツ姿の男性が入ってきた……ヘイローも装甲もない、普通の人間のように見える。

 

???「失礼します。その子と話がしたいんだけど、外してもらっていいかな?」

 

正実委員「あ、先生!? あー…うーん。失礼ですが、私では判断できかねます……」

 

???「あ、羽川さんにちゃんと話は通してるから大丈夫だよ」

 

正実委員「はぁ、なるほどそれなら…分かりました。では私は外で待っていますので、終わりましたら私にお声掛けください」

 

???「ありがとう」

 

正実委員「いえいえ、それでは失礼いたします」

 

ツバサ「………」

 

 

〜〜〜

トリニティ学園 生徒指導室

 

 男性はカーテンを開き、窓を開けた。もう日は傾き、夕暮れになっていた。

 

???「えっと、逆目ツバサちゃんだっけ」

 

ツバサ「あんたは……」

 

???「あっごめんね。自己紹介してなかった。私はシャーレで先生をやってます。よろしくね」

 

ツバサ「あんたがシャーレの………」

 

ツバサ(噂で聞いていたよりずっと弱そうな気配がする…顔も体格もヘイローがないだけで普通だ)

 

先生「怪我はどう、大丈夫?」

 

ツバサ「……痛いが、ほっとけば治る。気絶してたときに医療処置はされたみたいだ」

 

先生「そっか、でも後でまた保健室に行くんだよ」

 

ツバサ「………それで、何か用があるのか? さっき問題児になった私に。忙しいんだろう?」

 

先生「うん、ツバサちゃんは聖園ミカって知ってる?」

 

ツバサ「…今は、知らないやつのほうが珍しくないか? 【こないだの紛争の主犯】らしいな、詳しくは知らんけど」

 

先生「実はね、その子から連絡があってきたんだ。君の様子を見てきてほしいって」

 

ツバサ「は?! なんで!!?」

 

先生「んん? 友達……じゃないのかい?」

 

ツバサ「違う!!!」

 

先生「うーむ………」

 

 先生はスマホを取り出し、画面を見つめて唸りだした。

 

先生「これで友達じゃないのか……」

 

 先生のつぶやきから察するに、本当に聖園ミカ本人から連絡があったのだろう。

 

ツバサ「本当に連絡があったみたいだな」

 

先生「うん、そうなんだけど、最近の様子とは明らかに違ったから気になってね……」

 

ツバサ「………」

 

先生「知り合いなのは、確かなんだよね?」

 

ツバサ「………そうだ。でも互いの内面が知れるほど話し合ったこともない。私が無理言って決闘を挑んで、あいつがワザと負けた。だから再戦を要求したが、あいつは断った。それだけの関係だ」

 

先生「うんうん…え、ちょっとまって決闘?!」

 

ツバサ「………勝ったほうが何でも1つ言うことを聞く。だから真剣勝負をしたかったのに、あいつは………!」

 

先生「なんで決闘なんかを……?」

 

ツバサ「………あんたには関係ない」

 

先生「うーん、じゃあ、ちょっと耳貸して」

 

ツバサ「?」

 

先生「ツバサちゃんが話を聞かせてくれたら、私が聖園さんにもう一度決闘を受けてもらう」

 

ツバサ「な………そんな、意味不明だ。聖園ミカが一方的に面倒を受けるだけだろう!」

 

先生「駄目かー……」

 

ツバサ「そんなの、先生がやっていいのかよ」

 

先生「もちろん良くはない、けど君は決闘の内容に納得してない。違うかな?」

 

ツバサ「………」

 

先生「じゃあ聞いてみようか?」

 

ツバサ「聞くって…?」

 

 先生がスマホを見せながら、モモトークを開いた。通知が23件あり、全て聖園ミカからのメッセージだった。

 

ツバサ「うわ通知すご!!?」

 

 さっき確認した時に既読が付いたとして、そこからまたメッセージを送り続けたのか………? グループでもないかぎりこんな通知は見たことがない。

 

先生「これでも友達じゃないって言える?」

 

 メッセージの内容は、私への深い心配、決闘に本気を出さなかったことへの後悔、自分のために怒り戦ってくれたことへの感謝、傷付いていくツバサを助けてあげられなかったことへの悔しさ、自分のせいでまた他人を傷付けてしまった悲しみ………私に関する気持ちの吐露が多く書かれていた。

 

ツバサ「これ………本当に、ほんとに友達じゃないのに、なんで」

 

先生「聖園さんね、今は周りからの誹謗中傷も多いし、風評も酷いけど、ほんとうはすごく優しくて良い子なんだよ。ほとんど関わってなくても、君のことをよく考えてたんだ」

 

ツバサ「………………」

 

先生「今日、君がたった一人でデモ隊と戦ったのは、聖園さんのためなんでしょ?」

 

 もう、違うと誤魔化すのは無理そうだ。無言を、その答えにした。

 

ツバサ「……決闘を受けてくれるかどうかは、まだ分からないはずだ」

 

先生「聞いてみよう」

 

 

〜〜〜

モモトーク 聖園ミカ×先生

 

先生「ミカ」

 

ミカ「先生!!」

 

ミカ「ツバサちゃんは大丈夫!?怪我すごかったし……」

 

ミカ「あ、怒ってた……よね」

 

ミカ「私のせいでこんなことになっちゃったし」

 

ミカ「先生にもまた迷惑かけちゃった…」

 

先生「落ち着いて」

 

ミカ「ごめんなさい」

 

先生「ツバサちゃんが」

 

先生「もう一度決闘がしたいって」

 

ミカ「分かった」

 

ミカ「あ、いやちょっとまって」

 

ミカ「えっと」

 

ミカ「えっ!?」

 

先生「…大丈夫?」

 

ミカ「うん………分かった」

 

ミカ「大丈夫」

 

ミカ「場所と時間は前と同じなのかな?」

 

ミカ「決闘受けるよ」

 

ミカ「でも、怪我は治してから来てって伝えて」

 

ミカ「毎日待ってるから、心配しないでって」

 

先生「分かった」

 

先生「でも今日は遅くなる前に真っ直ぐ帰りなさい」

 

ミカ「うん」

 

先生「気をつけて帰るんだよ」

 

ミカ「先生も気をつけてね」

 

〜〜〜

トリニティ学園 生徒指導室

 

先生「ヨシっ、前払いは済んだよ」

 

 受けるかどうかも言ってないのに、先生は約束を取り決めた。それはいい、一番信じられなかったのは、聖園ミカが決闘を受けたことだ。

 

ツバサ「………分かった、降参だ。話すよ……ここまでさせて話さなかったら合わせる顔がない」

 

先生「ありがとう」

 

ツバサ「本人に話すなよ…」

 

先生「約束する」

 

〜〜〜

約2週間前 トリニティ学園

 

 始まりは、昼休みに昼飯買おうと売店に来たときだった。

 

生徒A「聖園ミカにさらなる罰を!」

 

生徒B「聖園ミカを追放しろ!」

 

生徒C「聖園ミカは学園に必要なし!!!」

 

 随分うるさい奴らだな………そう思っていた。聖園ミカ、名前しか知らないが、偉い人らしい。

 

ツバサ「店員さん、パン残ってる?」

 

店員「はいよ、クリームパン140円2つ。ツバサちゃんは運がいいねぇ」

 

ツバサ「そんなことないですよ。いつも買い逃してる方です。アレ、ここの所ずっと騒いでますよね……」

 

店員「そうねぇ。ミカちゃん良い子だったからちょっとかわいそうだわ。でもアレだけのことをしたなら、仕方ないんじゃない?」

 

ツバサ「アレだけのことって……?」

 

店員「知らないの? ほら、エデン条約」

 

ツバサ「あ、あー、はい。ド忘れしてました」

 

 愛想笑いで誤魔化す。実際、この時エデン条約と、それが襲撃された時の話なんてろくに聞いてなかった。当時は理由をつけて学校を休んでいたから。ろくな理由じゃなかったが。

 

生徒A「そこのあなた達、今聖園ミカがかわいそうとか言いましたか?!」

 

店員「えっ」

 

ツバサ「言ってないよ、きのうね、味噌おでん食べられなかったって話してたら、かわいそうにねって慰められたんだ」

 

店員「あ、アハハハ! そうなのよ、まったく仕方ないことだけど、あまりにもかわいそうでね〜」

 

生徒A「あらそうでしたか、失礼しました」

 

店員(ごめーん! 今度おまけ付けとくわー!)

 

ツバサ(いや、別にいいですよ……)

 

生徒B「ところであなた、逆目さんですよね。同じクラスの」

 

ツバサ「あ、え、なに?!」

 

生徒B「暇そうですし、一緒に抗議活動をしませんか? 聖園ミカを排除し、学園に真の平和を取り戻すために!」

 

ツバサ「えっ」

 

生徒B「毎日昼休みと放課後、是非参加して!」

 

ツバサ「えっ、いや、あー、ごめん……放課後はちょっと」

 

生徒B「何故? あなたは帰宅部でしょう、家に帰っても暇なはずです」

 

ツバサ「あー、あと、聖園って確かティーパーティーとしての権限を剥奪されて、実質的に一般の生徒と同じになったんじゃあ………」

 

生徒B「それだけでは足りないのです!! いつまたこの学園に災いを持ち込むのかわからないでしょう!?」

 

ツバサ「それじゃまるで魔女狩りじゃないか、いくらなんでもそんなに言う事……」

 

生徒B「そう、聖園ミカは魔女!! 倒すべき敵!! 刈り取るべき悪!!! 死んでいい存在なんですよ!!! ヘイローを壊されても誰も悲しみません!!!」

 

ツバサ「………きみ本気で言ってるの?」

 

生徒B「本気ですよ? なにか問題でも?」

 

 声が出なかった………今ならハッキリと言い返したい言葉が思いつくが、この時はショックで頭が意味不明だった。

 

「キーンコーンカーンコーン………」

 

生徒C「呼び鈴がなってしまいました、さぁ、各自教室へ」

 

ツバサ「……………………………」

 

店員「つ、ツバサちゃん……?」

 

ツバサ「あっ…あ、あぁ、パン、ぱん…食い損ねた……『最悪だ』」

 

 目の前で、不愉快な何かに脳が麻痺して、言葉を失った。午後の授業は、文字が読めなかった。帰りに食ったクリームパンは、人生で一番まずかった気がする。

 

 なぁ、先生。私の知ってる中では、キヴォトスで殺人事件が起こった話は聞いたことがなかった。もちろんニュースなんて時事ネタ問題を解く時しか見ないから、ハッキリ言えないけど。

 

 だって、世の中テロが横行してるけどさ、どんなにムカつくやつでも、そいつを銃でブっ倒したら、スッキリしてそれ以上攻撃はしないだろ?

 

 なのに………奴らは、いち個人に向かって、あんなにデカい声で「死んでいいやつだ」と言ったんだ………そんなの、そんなのって…………聖園ミカは一体何をしたんだよ………

 

〜〜〜

約一週間前

 

 アレから一週間ほど、聖園ミカについて可能な限り調べていた。放課後に「マトモそうな人間」に聞き込みを続けていた。派閥争いしてるお嬢様たちは以前の出来事もあってトラウマになりかけていたから、会話の盗み聞きで済ませていた。捕まるとデモ隊に取り込まれそうだったし。

 

 エデン条約、トリニティとゲヘナ、ティーパーティー、シスターフッド、補習授業部の白洲アズサ、そしてアリウス分校とアリウススクワッド………初めて勉強以外でノートを使ったよ。勢力と関係図を書いて、集めた情報とにらめっこしていた。

 

 アリウス関連の話は、それが存在し事件に深く関わっていそうな事以外分からなかった。どうやら聖園ミカは主犯と言っても差し支えないが、真犯人はもっと違うナニカだと分かった。

 

 一番驚いたのは聖園ミカ関連で、テロを起こすような危険思想の話は全く出てこなかった。それはつまり、未だに聖園ミカが悪人と認めきれていない………そういう人が思っていた以上に多かったんだ。わがままだったり自由すぎたり、等身大の17歳の女の子らしい話は聞いても、憎悪と破壊衝動に満ちた怪物のような噂と噛み合わないと思えた。ほとんど当てずっぽうだが、聖園ミカは騙されたか脅迫されていたんじゃないか?

 

 …………だからこそ、今の自分の立ち位置を受け入れ、真相をみんなに打ち明けることなく、罪を背負い続けている事が理解しきれなかった。あれだけ言われ放題の今、一言「やめて」とも言わずに我慢しているなんて、私なら無理だ。

 

罪を償わせるのは良い、当然のことだから。でもこんな罰は、理不尽だ………

 

〜〜〜

トリニティ学園 生徒指導室

 

ツバサ「先生は……どこまで知ってる?」

 

先生「………」

 

ツバサ「先生が無関係じゃないのはもう調べてわかっている。先生………あなたは、今の学園を………聖園ミカを、どう思っている?」

 

先生「………正直、この学園は歪んでいると思う。他所と比べても深刻だと思う。そして、君が調べた聖園さんの人物像は間違ってない。あの子は、悪い子ではなかった。今だってそうだ」

 

 先生は、聖園ミカが陰湿なイジメを受けている事を話してくれた。陰口、窃盗、器物損壊…………冤罪の告発もあったそうだ。

 

ツバサ「………大体知ってる。イジメを見たと言う人は何人かいた」

 

先生「そっか……」

 

ツバサ「なぁ先生、あなたは、こんなんでいいのか? 聖園ミカは…………あの人は、こんなんで、ほんとにいいのか………? 私は、人間が嫌いになりそうだ……………先生、先生?」

 

先生「逆目、ツバサさん」

 

ツバサ「………」

 

先生「私も、現状が正しいとはまったく思ってない。だからといって、私が割り込んで全て解決してしまったら………聖園さんは、罪を償う時間も、更生の機会も失ってしまうよ………」

 

ツバサ「でも、このままじゃ………いっぱい、いっぱい悲しいだけじゃないか…………許されない罪なら、殺すか追放すればいいじゃないか。どうして」

 

 目が熱くて前が見えなくなってきた。

 

先生「気持ちは、痛いほど分かるよ……追放にならなかったのは、本来の聖園さんを知っている人が沢山いたからだ。みんな、いつかあの人を『赦したい』んだ」

 

ツバサ「いつか、『赦したい』……………?」

 

先生「うん、君も、そうだったんでしょ? まだ、話には続きがあるよね、聞かせてくれる?」

 

 

〜〜〜

5日前

 

 ………この頃になると、おかしな存在が誰なのか、認識が壊れ始めていた。寝不足だったし、冷静さを欠き始めていた。すごく疲れていた。

 

 そんな時、聖園ミカを見かけたんだ。放課後だったし、私は駆け出していった。そして、決闘を申し込んだ。今思えば、ごちゃごちゃ感情に決着をつけたかったのかもしれない。

 

ツバサ「おい聖園ミカ!!! お前に決闘を申し込む!!!!」

 

ミカ「…………はい?」

 

ツバサ「今日の午後5時、学園近くの大通り先、橋の下で待っている」

 

ミカ「ちょ、ちょっとまって? え?」

 

ツバサ「負けた方は何でも一つ命令を聞く、待っているからな!!」

 

 言うだけ言って、私は走り去っていった。

 

ミカ「あっ待って!! 話が急すぎるー! ていうか君だれーー!?? おおーーーーーい!!!! …………行っちゃった」

 

 了承したかどうか分かってないのに、一方的で、関係もない人間の決闘なんて普通は受けない。常識的に考えて。本当に、バカで迷惑なことをしたと思う。愚かしくて死にたくなるレベルだ。

 

 だが、聖園ミカは本当にやって来た。西日を背負っていてシルエットしかわからないが確かに聖園ミカだ。誰かに報告すればいいのに、複数人で来てもおかしくなかったのに、たった一人でやって来た。

 

ミカ「…………」

 

ツバサ「なぜ逃げなかった」

 

ミカ「んー…………わかんない☆ なんとなく、嫌な人じゃなさそうだなーって」

 

 笑っていた。実際は西日の眩しさで見えなかったが、声の気配でそう感じた。

 

ミカ「あなたなんでしょ? 最近私のこと調べてる人って」

 

ツバサ「………」

 

ミカ「あなたが何のために調べているのか知らないし、何を求めて決闘を申し込んだかも分からない」

 

ツバサ「怖くないのか?」

 

ミカ「それは………うん、ちょっと怖い。ホントのこと言うと、さっきまで悩んでた」

 

ツバサ「じゃあ、逃げれば良かったのに」

 

ミカ「いやぁ、せっかく正面から『決闘するぞー!』って言ってきたから、なんか悪いなーって。実はね、ちょっと嬉しかったんだ」

 

ツバサ「嬉しかったぁ??」

 

ミカ「最近学園が騒がしいでしょ? 怖がって私に近寄ろうとしないくせに、わたしから遠いところだけずーっとうるさくて。そんなにイヤなら、イヤだと直接言えばいいのにね」

 

ツバサ「………私もそう思う」

 

ミカ「だから、せめて直接言いにきたあなたの事は、ちゃんと受け止めてあげたかったんだ」

 

 表情が見えなかったが、どんな表情をしていたのか、それがわかったのは決闘の後になってからだった。

 

 決闘は、多分4分くらいで終わった。全く歯が立たなかったのに、私は勝利した。私は満身創痍、聖園ミカはほとんど傷ついていなかった。ほぼ負けと言っても過言じゃない。聖園ミカはわざと負けたんだ。

 

ミカ「あー…負けちゃった☆」

 

ツバサ「ハァ……ハァ……………おい、まて……まだやれるだろ!! あんなカスヒットで倒れるような奴じゃないだろ!!」

 

ミカ「本当だって〜! わたしの完敗だよ!!」

 

ツバサ「なっ、弾薬だってまだあるだろう! 降参なんて認めないぞ!」

 

ミカ「だって…あれだけ痛めつけたのに、あなたピンピンしてるんだもん。私はあなたを倒せない。だからわたしの負け!!」

 

ツバサ「ふざけんな!!」

 

ミカ「ごめんね……私の勇気が足りなかった。あなたを撃っている時、急に怖くなっちゃって……間違って、『殺してしまったらどうしよう』って、そう考えちゃって」

 

ツバサ「………え?」

 

ミカ「だから、ほら。早く命令して☆」

 

ツバサ「なんだよそれ……こんな決闘は無効だ! 納得できない!! もう一回やらせろ!!」

 

 思わず放った言葉は、我儘でしかなかった。自分の気持ちで手一杯だった。

 

ミカ「…………あ、ごめんね、門限あるから、帰らないと」

 

ツバサ「あっ逃げるな!! 待て!!!」

 

ミカ「じゃ! 決闘以外ならなんでも言うこと聞くからー!! またねーーー☆☆☆」

 

 …………先生はともかく、私達は頑丈だ。銃で撃たれたぐらいで、車に轢かれたくらいで死ぬことはない。なのに、聖園ミカは人を撃つことによる死の危険を恐れていた。あんなのが、エデン条約襲撃の主犯なのか………? 私は誰と戦っていたんだ………?

 

 彼女の影が見えなくなる頃、もう日は暮れて、西日の眩しさも建物に隠れていた。自分の心に残ったのは、自分に対する怒りと後悔と、赤の他人だった自分を受け止めてくれたことへの感謝だった。どれだけ泣いたんだろう……死にたくて仕方なかったけど、生かされた。生きていて欲しいと思われたから、死ぬ気にはなれなかった。

 

 

〜〜〜

約6時間前 トリニティ学園 トリニティ・スクエア

 

 それからはずっと頭が冴えていた。やらなければならない事、やりたい事が一致していたような気がしていた。

 

 今朝、デモ活動をしている生徒たちが、聖園ミカを襲撃するという情報が入ってきた。何日か前からそれらしい情報は手に入れていたが………本気でやるみたいだった。襲撃する人間は深夜に聖園ミカの寮室にC4を設置し、そのまま爆殺するつもりらしい。

 

 聖園ミカが友人を傷付けた罪を、今償っているのに。周りの奴らが、自分本意な理由で怨念返しをするのか…? よりによって同じやり方で………奴らは、それで聖園ミカが死んだら……どうやって責任を取るんだ。

 

「許せない」

 

 運が良かったのか、デモ活動に参加しているメンバーに首謀者がいることが分かった。それでデモ活動に参加するフリをした。思ってもいない言葉を放って誤魔化したら、あっさり信用された。共通の敵を持つものは味方であると信じていたなら、おめでたい奴らだ。

 

生徒B「逆目さん、よく来てくれました。ともに戦いましょう」

 

ツバサ「………あぁ、そうだね。私の心は決まったよ」

 

 ここで正義実現委員会に連絡しても良かった……というか、そうするべきだったとは思う。でも、今更奴らにそれを伝えて、信じてもらえる自信も、信じて任せられる保証もない。じゃあ……………私がやるしかない。

 

生徒B「逆目さんが居てくれれば百人力です! 頼りにしていますよ!!」

 

ツバサ「………それは、『聖園ミカを倒す』ためか?」

 

生徒B「? ……なんのことでしょう?」

 

ツバサ「いや、気にしなくて良いよ」

 

 自然な仕草で、リボルバーを取り出し、

 

生徒B「では、参りましょう!」

 

「パン、パン! ………パンパンパン、パン!」

 

 乾いた銃声が6回。デモ用のプラカードを持ち上げた生徒を、私は背後から撃った。頭に2発、倒れた背中に4発。気絶させるには十分な数を撃った。今思えばちょっと弾がもったいなかった。そうしなければ冷静になれなかった。

 

生徒A「!?! 逆目さん、どうしたんですか?!」

 

ツバサ「どうしたって、何が」

 

生徒A「気でも狂ったのですか?!」

 

ツバサ「全然そんなことはない。撃ちたいと思った。撃つには十分な理由もあった」

 

生徒C「せっかく同志になれたのに!! あなたまさか、聖園ミカに……魔女に言われて?」

 

ツバサ「あいつは関係ねえよ………私は、分かったんだ。お前たちの言う聖園ミカが妄想の産物だと。あと、お前達が心底嫌い。許せない。許さない。一方的に正義ヅラしているやつらは、絶対に」

 

生徒A「そうですか、あなたも魔女に感化され、魔女になったんですね………残念です。みなさん!! 逆目ツバサは裏切り者です!! 私達で倒さなければ、学園に平穏は訪れません!!!」

 

 化け物たちが私を取り囲む。

 

ツバサ「………一つ、良いことを教えてやる。私は、魔女じゃない…………『俺は悪魔だ』」

 

 私は正義の味方じゃなかったし、なれると思っていない。悪の敵くらいなら、私でもやれそうだ。奴らの言う聖園ミカは、妄想だ。人間撃つのが怖いという女の子が、魔女であるはずがない。今なら分かる。私と戦ったあの人が、あの時どんな表情をしていたのか。ならば、私はそれに報いたい。あの優しさを侮辱した化け物を、ここで倒すんだ。それができなければ、生かしてもらった意味がない。

 

 

〜〜〜

トリニティ学園 取調室

 

ツバサ「あとは、多分先生も知っている通りだと思う。実は此処から先の記憶があまり無くて………無我夢中で、デモ隊の連中を倒し続けていたら、いつの間にか正義実現委員会と戦ってたらしい」

 

先生「よく話してくれたね………本当にありがとう」

 

ツバサ「あっ一応……戦う前に、C4の起爆装置は全て破壊しておいた。しばらくは自力で襲撃なんて出来ないはず」

 

先生「お、おお………すごいね……」

 

ツバサ「授業サボって学校中走り回ってた。C4が隠されている場所探すために………」

 

先生「じゃあ、ほぼ1日中動き回ってたんだ……」

 

ツバサ「私のことはもういい。念のため、聖園ミカの様子を見てきてくれないか? 心配なんだ…」

 

先生「うん、分かった。あとは先生に任せて。じゃあ、もう行くね。本当にありがとう。あなたは、よく頑張りました。ゆっくり休んで」

 

 先生は、生徒指導室から出ていった………先生が信じられるかは、正直微妙だ。まだ、内面を知らないから。いやいや、信じないとな、『任せて』と言ってくれたんだから。ホっとしよう。

 

 あれ………頭がぐわんぐわんしてきた…………あれ、そうか、わたし、ちょっとまえまでたたかいつづけてたから……………あぁそうだ、あたまをうたれ、て、、、、、せかいが、くら、、、、、い、、、、、、、、

 

 

〜〜〜

深夜 ???

 

 風の音がかすかに聞こえる……目が開かない。

 

ツバサ「ん………んん」

 

 消毒液と薬品の匂い…………病院? どこだここは、深く眠っていたのか瞼が重い。

 

ツバサ「……痛っ」

 

 頭がすごく痛い。なにかに強くぶつけられたような………そういえば最後に頭を撃たれてたような。スナイパーにやられたんだろうか。思い出せない……

 

ツバサ「……………生きてた」

 

 なんで生きてるんだろう。死ぬほど弾食らってたような気がするのに。腕は……………うごく、みたいだな。腕を上げて、目を擦る。

 

ツバサ「あー、ここか…………」

 

 今、私はベッドの上にいる。近くにナース帽を被った生徒が座って居眠りしているから、ここは救護騎士団が管理する医療施設だ。周りにベッドのようなものは見えない。個室みたいだ。風の音は、空いた窓からか。

 

ツバサ「……………よく死ななかったな」

 

 かなりの量の銃弾だけじゃない。デカめの爆発も何発か食らった気がする。全身の痛みを思い出してきた。今にも唸り声が出そうだ。

 

『ブブッ!』

 

ツバサ「……?」

 

 バイブレーションの音。机なんかに置いているとかなり響くやつ。結構デカかったのに居眠り救護騎士は起きなかった。音の発生源は、すぐ側のテーブルの上。私のスマホが置かれていた。

 

ツバサ「ふっ…! (いってぇ…………!)」

 

 スマホを取るために身体を大きく動かした。手に取ることはできたが、文字通り血が滲んできそうな痛みが全身を襲う。

 

ツバサ「ぁ"ーー……まったくだれだよ……………」

 

 これで通販とかの広告ならスマホぶん投げてやる…………

 

【新着メッセージがあります:聖園ミカ】

 

ツバサ「!」

 

 モモトークにメッセージ、聖園ミカから。なんで? どうして………開いてみると

 

ミカ「夜遅くにごめんね、どうしても心配で……大丈夫?」(3:19)

 

 

〜〜〜

モモトーク ミカ×ツバサ

 

ツバサ「なんで私のアカウントを知っている」

 

ツバサ「あと今何時だと思って」

 

ミカ「あっ!!」

 

ミカ「よかった………! 夜だし、さすがに返信はこないかと思ってた!!!」

 

ツバサ「じゃあなんで送ったんだよ……あと私のアカウントをどうやって見つけた?」

 

ミカ「えっと、その、それは………スマホロックしてなかったから……」

 

ツバサ「あ」

 

ツバサ「いやまて、私のスマホ勝手に……というか、どうやって私のスマホを」

 

ミカ「お見舞いに来た時に……ちょちょいのちょいっと」

 

ツバサ「お前さ、真っ直ぐ帰れって言われただろ」

 

ミカ「いや、別にそんな事言われてないよ?」

 

ツバサ「モモトークで先生と会話しているところ、リアルタイムで見てたんだが」

 

ミカ「え」

 

ツバサ「約束破ったのか?」

 

ミカ「だって!! 心配だったんだもん!!!!」

 

ミカ「全然落ち着く気分になれなくて、心配で………」

 

ミカ「部屋飛び出して、貴方のところまで来たけど、眠ったまま起きなくて……」

 

ミカ「あと救護騎士に見つかりそうだったから、スマホ借りてフレンド登録だけして逃げちゃった」

 

ミカ「いいじゃん、今日くらい、悪い子で許してよ…」

 

ツバサ「うん……? お前今どこにいる?」

 

ミカ「えーっと、秘密」

 

ツバサ「いま命狙われてんだぞ?!」

 

ミカ「狙われてるなら、なおさら寮に居ないほうが安全だと思うよ?」

 

ツバサ「あー…それもそう、か」

 

ミカ「大丈夫、寮長さんには先生が話を通してくれたらしいし、心配ないよ!」

 

ツバサ「自分で言いに行ったわけじゃないんだな?」

 

ミカ「そ、そんなわけ」

 

ツバサ「本当のこと言えよ、【命令】」

 

ミカ「あっ!!」

 

ミカ「卑怯!!!」

 

ミカ「ズルじゃん!!!!!!!!!」

 

ツバサ「負けたお前が悪い」

 

ミカ「う〜…………はい、勝手に脱走してきました…………寮長さんには黙ってました」

 

ツバサ「ハァ〜〜〜〜〜〜おまえさ〜〜〜〜〜立場考えろよ〜〜〜〜〜〜〜」

 

ミカ「いや、もうしょーがなくない!!!??」

 

ミカ「だってだってほんとにしんぱいで」

 

ミカ「あんな血流してあたまうたれてさ」

 

ミカ「わたしのせいであんなことになってさ」

 

ミカ「しぬとこだったかもしれないんだよ???」

 

ツバサ「いやもういいよ怒んなよ分かったから」

 

ミカ「あなた弱いくせに意地になって戦いつづけるから」

 

ツバサ「うるせえ!!!!」

 

ミカ「なんで逆ギレするの!!?」

 

ミカ「あーーーー!!」

 

ミカ「もう怒ったもんねーーーー!!」

 

ミカ「せっかく心配してあげてるのに」

 

ミカ「怪我が治ったら今と同じぐらいボコボコにしてやる!! 逃げるなよ!!」

 

ミカ「ふーんだ!!」

 

ミカ「おやすみ!!!!」

 

ツバサ「おい待て!!」

 

ツバサ「おい!!」

 

ツバサ「既読スルーかよ!!!」

 

ツバサ「どこにいるか教えろ!」

 

ツバサ「せめて安全なところで寝てろ!」

 

 

〜〜〜

二週間後 退院日

 

 あれから、私が破壊したC4と起爆装置が見つかって、テロ防止の功績により私に罰則はなかった。表向きには暴動に巻き込まれた生徒として扱われ、正当防衛…情状酌量の余地ありと2週間の謹慎と発表されていたらしい。要は2週間ベッドでおねんねしてろ、とのことだ。進路に影響もないと言われた。

 

 昼休みに聖園ミカが毎日お見舞いに来る。学校の事を話してくれるのはありがたいが、話が長い………話すだけ話したら飛んで帰っていく。飯食っててもお構い無しだ。でも、帰る時は必ず「まってるからね」と一言残していく。約束を守ってくれているのに、メンヘラみたいで怖…………ってなる。

 

 先生も忙しい合間を縫ってお見舞いに来ることもあった。顔が疲れたと書いてあって「ベッド代わってやろうか?」と言いたくなる。先生によると………今もデモ活動は行われているらしい。まぁ、あれだけやって奴らがいなくなると思うほど自惚れちゃいない。がんばったんだけどなーって溜息は出るが。再び奴らが暴走するなら、背後からまた撃てばいい。覚悟はできてる。

 

 さて、傷は塞がった、頭も冴えてる。行こう。あいつが待ってる。

 

 

〜〜〜

決闘の地

 

ミカ「へぇ、よく逃げなかったと褒めてやろう!」

 

 腕を組み仁王立ちしている………西日が彼女の顔を照らして、表情がハッキリ見える。頬を膨らませて、ハムスターみたいだ。ちょっとかわいい………バカっぽい。

 

ツバサ「まぁ、こっちから頼んだしな……逃げるわけ無いだろ?」

 

ミカ「また病院で寝る準備はできたよね? じゃあ、やろっか☆」

 

 互いに武器を構え、見つめ合う。

 

ミカ「ふふ………精一杯の感謝と共に、あなたを、『ころしてあげる』」

 

ツバサ「私は『死なない』」

 

 その笑顔と殺意が、嬉しかった。今はそれに報いたい。

 

 決闘の結果は、秘密………語るまでもないだろう?




一人くらい……こういうやつがいてもおかしくないだろう、そう思っていたら、手が止まりませんでした。本当は本編でこういう存在が現れるんだろうけど、待てませんでした………

聖園ミカの力になってくれる人が、一人でも多く増えていきますように。


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