【完結】TS転生から始まる、最強美少女への道!   作:水品 奏多

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第三十四話 存在意義

 ずっと微睡(まどろみ)の中にいるようだった。

 名前も知らない誰かが出てくる夢を見て、目覚めたら味のしないスープを食べ、また眠る。何の意味もない、ただ生き永らえるだけの生活。何の先も見えぬまま、延々と続く焼き直しの日々。

 そんな時間を過ごしていたある日、それ(・・)は出会った。

 ーー白い髪と赤い瞳を持つ少女と。 

 

「……親も自分のことも分からない。

 あなた、何か少しでも覚えていることはないんですか?」

 

 少女に問われ、それ(・・)は気づいた。己の中がからっぽなことに。

 かすかに覚えているのは、此方に何か白い花を見せて「スノー何とか」と言う女の人くらい。そう伝えると、少女は何でもなさそうにこう言った。

 

「まあ、とりあえず今はあなたのことはスノーと呼びましょうか。

 構いませんか? それとも何か名乗りたい名前でもありますか? だったら聞いてあげないこともないですよ」

 

 かくしてそれ(・・)はスノーになった。

 少女ー―マコとの共同生活は本当に楽しかった。

 スキルとかを使ってじゃれあって、一緒に同じご飯を食べて、二人で眠る。それまでの空虚な日々が嘘のように、マコとの日常はきらきらと輝いていた。

 それにいつか終わりが来るのはちょっと寂しかったけど、それでもマコなら信じられた。例え二人きりでなくなっても、マコの傍にいられるならそれでよかった。

 マコの口からその名を聞くまでは、確かにそう思っていたんだ。

 

「ええ。酒徳玲子とかいう訳分からない人につ、いえ会ってやりまして。

 それでーー」

 

 悔しげにマコがそういうのを聞いて、スノーは思い出した、思い出してしまった。

 酒徳玲奈であった過去、そしてーー最期の時、病院を襲ったワニのモンスターに願った事を。

 

 それからはあまり思い出したくない。

 マコの交友関係はどんどんと広がり、それに対してスノーの心の中は暗澹とした思いが積もっていった。

 マコが外のことを話す度、再認識させられた。自分は人間ですらないのだ、と。どうして人間未満のただの残滓に過ぎない自分が、マコの傍にいられようか。

 いや、それどころかここにいることすら本当は罪深い。なにせこの体は酒徳玲奈の願いが叶わなかった、残されてしまった方なのだから。

 

 だからマコに半年も離れると、もう一度あんな空っぽな日常に戻れと言われた時、決めたのだ。

 

「ぼくがぼくでいるために、マコを止めるよ。

 ……マコが悪いんだよ? ずっと二人一緒にここいればよかったのに」

 

 そうだ。マコが外に行きさえしなければ、ぼくはスノーでいられた。

 外の、他の人間の話さえしなければ、ぼくはスノーでいられる。

 

 あいつを呼び込む方法は何となく、分かった。

 

「悪い子のマコ。ぼくがおしおきしてあげるよ」

 

 ぼくの指示通り、あいつが落ちてくる。マコが驚愕に顔を染める。

 

 さあ、一世一代の大勝負だ。

 勿論負けるつもりはない。ただそれでも力及ばなかったら、その時はマコ、君の手でぼくをーー

 

 

 

 

 

「久しぶり、だね」

 

 カロロロロッ

 

 スノーに喉を撫でられ、くすぐったそうに唸り声をあげるクー・アリゲーター。

 

 くそっ、どうなってる? そもそもどうして奴はスノーを攻撃しない? 

 

『モンスターとは本来、神にとって都合の良いようデザインされた生き物なのじゃ。だからこそ姿形に画一性があり、人類敵対、異種敵視の枷が嵌められておる。

 されど自らの意思で魔素の体となったスノーは別。普通のモンスターとはあらゆる意味で外れた存在なのじゃよ。他からは異種だと認識されておらんし、自身もまた地上に出られない以外の枷が機能しておらん』

 

 それじゃあスノーがボスになったわけじゃないんだな? 倒さなくてもいいんだよな?

 

『うむ。ボスはあくまであの(わに)じゃ。

 見たところ此処も上に吸収されて一つのボス部屋になっておるようじゃが、脱出方法は何も変わらん。ボスの撃破、それのみじゃ』

 

 なるほどねとコンカをかざし、奴のステータスを表示させる。

 

 クー・アリゲーター(A)Lv._

 筋力 S         

 物防 S      

 魔防 S         

 知性 A       

 器用 A        

 敏捷 A        

 運  A

 

 <主な使用スキル☆>

 超自己回復

 覇者の波動

 地面渡り

 異空間作成

 牙飛ばし

 痺牙

 毒牙

 眠牙

 爆牙

 

 高い耐久と回復力を誇るクー・アリゲーター。

 倒すのは一撃必殺が理想だ。ただし俺のステータスじゃ足りない、スノーの助けが必要。だったらーー

 

「なに突然訳の分からないことを言ってるんですかっ、スノー。

 言ったじゃないですか、帰ってくると。私を信じられないんですか?」

 

 攻略すべきはスノー。

 俺を閉じ込めるなんて言い出したスノーの目を覚まして、そんで一緒にアリゲーターを倒せばいい。

 

「そうじゃ、ない。ぼくは嫌なんだよっ。

 あんな無意味な日々に戻るのはっ」

 

「それについては安心してください。

 たった今、スノーのおかげでそのワニさんさえ倒せばここを出られるようになりましたよ」

 

 だよな、シル様?

 

『うむ。ボスさえ倒せば、スノーも解放されるじゃろう』

 

 よし、それならスノーは千絵とかに任せられるな。変な制約もないわけだし。

 

「違う、それだけじゃないっ。その後の話なんだよ。

 ぼくはマコ以外の人と一緒にいたくないんだっ」

 

 スノーが叫ぶように魔弾を放つと同時、アリゲーターが大きく口を開け、無数の牙を射出する。黄色、紫色、青色、赤色とカラフルな牙がこちらに飛んでくる。直後、アリゲーターはその巨体で地面に潜った。

 自分は地面渡りで地中に潜みながら、顔だけ出して様々な効果を持った牙を飛ばして得物を追い詰め、弱ったところを地下の異空間(キルゾーン)に引きづりこむ。それがアリゲーターの基本戦術だ。

 

 全力で走り回り、マントやステップを使ってそれら回避する。

 ついでスノーの言葉を意味を考えてーー

 

「意味が、分かりませんっ。スノーでいられるか不安とかそういうことですか? 

 酒徳玲子や007小隊の人たちなら、勿論私含めですが、きっとスノーの境遇を理解してくれると思いますよ?」

 

「っ、マコの馬鹿っ。分からず屋っ」

 

「くっ」

 

 スノーが放った魔弾の一つがとうとう俺を捉え、衝撃に吹き飛ばされる。

 遠のく意識。地面から巨大な口が現れ俺の体をぱっくりとーー

 

「だめっ」

 

 再びの衝撃。横からの力に押されてアリゲーターの嚙みつきが空振り、何とか受け身を取って地面に着地する。体を見れば、青色に輝いていた。スノーが使う、対象の耐久を上げるスキル、プロテクションだ。

 

「敵を助けるとは随分と余裕ですね、スノー?

 忘れたんですか、最近は私がずっと勝ち越しているんですよ?」

 

「マコこそ忘れたの? 

 ぼくの職業は補助士。誰かと一緒に戦ってこそ真価を発揮するんだよ?」

 

「その補助が私に掛けられたから不思議に思ってるんですが?」

 

「き、気のせい、じゃないかな?」

 

 一貫性のない言動を見せるスノー。

 

 大体この戦いは一体何のためにやってるんだ?

 俺を力づくで閉じ込めたいっていう目的もまあわからんでもない。ただ俺を倒したとしても、このままじゃあ俺はアリゲーターに殺されて終わりだろう。それがスノーの望むことだと思えない。

 

『支配もできておらぬものを使うとは、流石に過激がすぎるの。

 あなたを殺して私も死ぬわって感じでもなさそうじゃし』

 

 シル様の言葉に脳内で頷く。

 

 スノーは一体何を考えてるんだ?

 必死に魔弾や牙を回避しながら、思考を巡らせる。

 

 思い出せ、スノーは何を言っていた?

 ……そうだ、スノーの本音が垣間見えたのは、多分あの時だ。

 

「何をそんなに不安になってるんですかっ?

 私以外の人がそんなに怖いんですかっ?」

 

「煩いっ。駄目なんだよ、ぼくは許されないんだっ。

 ぼくのことを何も知らないくせに、分かった口を利かないでよっ」

 

「知らないから聞いてるんじゃないですかっ、馬鹿スノーっ。

 勝手に周りに期待して、勝手に絶望してってほんとに馬鹿ですか?

 知ってほしいなら、信じてほしいなら自分の口から話してくださいよっ。分からず屋はそっちですよ、このあんぽんたんっ」

 

 俺の言葉に、スノーの両眼から透明な雫が零れる。

 そうして、震える声でぽつりぽつりと話し始めた

 

「っ、じゃあ話してあげる。ぼくはね、ずっとここの病院に入院していたんだ。

 それがどんな辛い日々だったのかはよく分かんない。でもね、あの時ぼくは確かにこいつに願ったんだーー死にたいって。殺してくれって」

 

 スノー口から語られる暗い過去。

 それが、ずっとスノーを縛り付けていた呪いか。

 

「でも、ぼくは死ななかった。何でか生き残っちゃった。

 周りには、生きたいと必死に願っていた人が沢山いたのに、その逆のことを願ったぼくだけがこうして生きている。

 ぼくは怖いんだ。玲奈(ぼく)を知っている誰かがいる外に行くのが。

 玲奈(ぼく)のお母さんに会いたく、ないんだよ……」

 

「っ。だったら、酒徳玲奈のことを誰も知らない場所でーー」

 

「もういいよ、マコ。

 マコにまで知られちゃったから、ぼくはもうスノーじゃいられない。

 だからさ、マコ。マコにしか頼めないお願いがあるんだ」

 

 ーーぼくを殺してよ。

 

 まるで罪深い罪人が罰を待つ時のような穏やかな笑みで、スノーはそういってーー 

 

 

そんなこと(・・・・・)、とっくに答えは出てるんですよ、スノーっ」

 

 スノー言葉を一笑に付す。

 俺の心にあるのは、あの時励ましてくれた二人の言葉だった。

 

「例えどんな経緯で生まれたって関係ない、幸せになる権利はあるんですよっ。

 それも13年前に生まれて、ずっとこんな場所で一人で生きてきたスノーには誰よりも幸せになる義務があります。それは私が保証してあげますよ」

 

「でも、あの時いた皆が―ー」

 

「一人だけ生き残ったあなたを恨んでいると? そりゃあ中にはそういう人もいるかもしれませんが、大抵の人は自分のことを語り継げる人が誰かが生き残ったことを喜んでくれると思いますよ?

 大体、死ぬことを望んだのなら何であなたはここにいるんですか?

 何で最初に私と会った時、お母さん、なんて言ったんですか?」

 

「それは、私が失敗作で……」

 

「違いますよ。

 死にたいと口ではそう言っておきながら、本当は生きたかったんでしょう?

 スノーはずっと待っていたんですよ、この優しい部屋の中で、自分を救ってくれる誰かが訪れるのを。

 だから私がここにいる。あの時ここに呼んだのは、スノー、あなたなんですよ」

 

 根拠も何もない暴論だ。

 ただ、それでも構わなかった。例え誰かの思いを曲げようと、目の前でなく少女の心を救えるのならそれでよかった。

 

 クルルルルッ

 

 口だけ地面出したアリゲーターより発射された無数の牙を躱しながら、スノーの答えを待ってーー。

 

「ぼくは……」

 

「あああ、もう面倒くさいですねっ。

 ーー私を信じろっ、スノーっ。

 もし誰かがあなたを責めるなら、私が守ってあげる。生きるのが辛いなら、私があなたの生きる意味になってあげる。

 だから私のために生きてよ、スノー」

 

「っ……マコのばかっ。

 そんなこと言われたら、断れるわけ、ないじゃん」

 

 うわああんと子供のように泣き崩れるスノー。

 刹那、俺の体が再び青色に包まれる。これは「アタックライズ」と「リミットオーバー」か。俺のちょっとオーバー気味な言葉は届いてくれたらしい。

 これからすることを思えば胸が痛むけれど、それでも俺は何も諦めたつもりはないのだから。夕菜とスノーと一緒にいる未来をつかみ取って見せる。

 

 マントを大きく膨らませた状態で、ぴたりと足を止める。

 即座に真下の地面より現れ、嚙みつかんとするアリゲーター。

 それを横によけて躱しながら、マントの先だけをその牙に引っ掛けてーー直後、凄まじい力で地面の中に引きづりこまれる。

 

「マコっ」

 

「っ、うっぷ」

 

 下の異空間は、巨大な貯水タンクのようになっていた。

 四方を壁に囲まれ、暗く淀んだ水が中を満たしている。

 

 その瞬間、引っかかった服の端を解き、水中で自由になる。

 水の底、アリゲーターがこちらに近づくのを、「冥王の寵愛」により強化された視界で見てーー

 

 その後ろに転移する。

 この戦いで初めて見せたそれにアリゲーターが完全に俺を見失い、間抜けに晒されたその首に向け、俺は「絶命の一撃」を放った。

 

 ずぶりという重い音共にその体が消失し、俺は地上へと放り出される。 

 

 空中を飛ぶ俺を見て、スノーがその涙で濡れた瞳を見開かせ、そうして楽々と俺をキャッチしたーーそれもお姫様抱っこで。

 

「マコっ、っと。

 大丈夫なの。怪我はない?」

 

「平気。それより早く降ろしてくれる?」

 

「あ、そうだよね。何かご、ごめんね……」

 

 何故か顔を赤くしながら腕を解くスノー。

 地面に降りた後、俺はその手を握って安心させるような笑みを見せた。

 

「それじゃあ外に行こうか、スノー」

 

「……うん」

 

 俺らを中心に白い部屋が崩れ、解けていく。

 近づいてくるボス部屋の天井。見れば、地面がゆっくりと上がっていっているようだった。このままなら直にボス部屋と統合されるだろう。

 役目を終えたから消えていくとかそんな感じだろうか?

 

 ほんとこの部屋は何だったんだよ、とさっきからずっと黙っているシル様に問いかける。小さく聞こえる、すんすんと鼻を鳴らす声。

 暫くした後、シル様は本当に嬉しそうな声で言った。

 

『良い百合を見たっ。

 それだけでお主をTSさせた甲斐があったというものじゃなっ。

 ……されど、お主もなかなかに酷なことをするの』

 

 声音を一転させて、最後に心苦しいことを言ってくるシル様。

 ああ、分かってる。殴られるでも何でもするさ。全てを終わらせたら、な。

 

 決意新たに、俺はスノーの手をぎゅっと握りしめた。

 

 

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