【完結】TS転生から始まる、最強美少女への道!   作:水品 奏多

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後日談① 新たな日常

 春の陽気に包まれた休日。

 とあるアパートの一室に三人の少女たちの姿があった。

 

 緑色の髪をした3歳くらいの幼女が、10歳くらいの白髪赤目の女の子に近づき親愛を感じさせる笑みで話しかける。

 

「ママ―、だっこっ」

 

「はいはい、後にしてくださいね、ミドリ。

 今兄さんはミドリの分のご飯も作ってるんですから」

 

 すかさずもう一人の大和撫子然とした少女が、ミドリと呼ばれた幼女を優しく宥める。それも自分よりは明らかに年下だろう女の子を兄と呼んで。

 

「問題ない。料理しながら子供の世話するなんて私には余裕」

 

「きゃーっ」

 

 女の子の黒い服がぐにゃりと変形して帯を作るとそのまま幼女に巻き付き、高く持ち上げる。きゃっきゃっと歓喜の声を上げる幼女。

 二人の横で少女が優しくため息をついた。

 

「全く、兄さんはミドリに甘いんですから。

 ほらミドリ、それが終わったらあっちに戻るんですよ?」

 

「はーい、ゆーなママ―」

 

 元気に返事を返す幼女。

 

 長閑な昼下がり。

 そんな本当の家族のようなやり取りが台所で繰り広げられていてーー

 

 

「ーーちょっと、待ちなさい」

 

 その光景を居間から見ていた手柴雪乃は、思わず声をかけた。

 少女ーーマコの妹、望月夕菜が自慢げに眉を吊り上げる。

 

「どうしたんですか? 

 私たちはいつも通りのやり取りをしていただけですよ?」

 

「わ、分かってるわよそれくらい。

 ただ何故かツッコまないといけない気がして……」

 

「ゆきのん、気にしたって仕方ないよ。

 あれがマコちゃんの望んだ未来なんだから」

 

「っ、そうなの、よね」

 

 幼馴染の比護紗友里に諭され、何とか心を落ち着ける。

 

 マコが元は男だったことは本人から聞かされていた。自らの妹と一緒に暮らすために色々と頑張る必要があったことも。

 ただ別にそれに怒っているわけじゃない。確かに最初は戸惑ったけれど、それでも暗い過去がなくて本当に嬉しかったのだ。

 ちゃんとお礼も言ってくれたし、今後は良き友人として傍にいようと心に決めたのにーーどうしてだかあの三人の姿を見ていると釈然としない気持ちになってしまう。

 

「何か納得いかないんだよね? ぼくもそうだよ。

 あんなこと言ったくせに、妹ちゃんがいるときはぼくたちの事なんか眼中にないって感じだし」

 

「スノーの言う通り。マコ姉はもっと私たちに感謝すべき」 

 

「さ、さすがにそれは言いすぎじゃないかなー。

 ちゃんと私たちのことも気にかけくれてると思うよー……多分」

 

 と口々に不満を漏らす、マコを助けに行った面々たち。

 やっぱりみんなから見てもあのシスコンぶりは異常に見えるらしい。夕菜の方も明らかにそれが分かった上でこちらを挑発してきているし、似た者同士というやつだろうか。

 

「さうりー、だっこ」

 

「はいっ。おいでー、ミドリちゃん」

 

 と台所から戻ってきたミドリが紗友里に抱きかかえられる。

 ミドリの中では抱っこがマイブームらしい。紗友里の腕の中で安心したようにまどろんでいる。

 

「でも、本当にびっくりだよねー。

 まさかあのスライムがあんな小さい子になっちゃうなんてー……」

 

「本当にそれ」

 

 千絵の言葉に肯定を乗せる風佳。雪乃もまた無言で頷いた。

 

 東京ダンジョンのコアとボスの核を破壊した後、ダンジョンが消失した地上に残されたのは、雪乃たちとあのミドリと呼ばれる幼女だった。

 同時にマコは何かを悟ったらしくて、彼女はさっきのボスの大元で神様みたいな存在だから自分で育てるとか言い出したのだ。しかも目を覚ましたミドリはマコのことをママと言い出したから本当に驚いた。まさか本当に隠し子なのかと思ったくらいだ。年齢的に多分それはないだろうけれど。

 

「でも、モンスターが女の子になるのは前はよくある話だったんだよ?

 それ以外にも日本人は何でもかんでも擬人化させるって有名だったし」

 

「興味深い。例えば?」

 

「軍艦を擬人化させたのが有名かな。あとはーー」

 

 と、スノーの昔話を聞いていると夕菜がお盆を持って入ってくる。

 机の上に五人分の勉強道具が広げられているのを見て、顔をしかめた。

 

「ほら、さっさとどかしてください。

 どうせ勉強なんてロクにしていないんですから」

 

「夕菜ちゃん、酷いっ。

 事実でも言っていいことと悪いことがあるんだよ?」

 

「残念。紗友里以外はみんな終わってる」

 

「えっ? 嘘だよね!? 私だけ仲間外れっ!?」

 

「あははー。その、私たちの宿題は簡単だから」

 

「なに年下に慰められてるのよ。

 ほらそんな顔しないで、後で私が教えてあげるわよ」

 

「ゆきのんっ、私の女神様っ」

 

「あー、めかみさまっ」

 

「はいはい」

 

 大袈裟に手を合わせる紗友里とその腕の中ではしゃぐミドリ。

 冒険者としては優秀な紗友里も、普通の勉強相手には形無しらしい。

 

 世界各地のオリジナルダンジョンが雪乃たちや各国の冒険者に攻略され、直近の危機がなくなった人類。義務教育が短縮されていた日本では、冒険者学校卒業生・在校生が集められ、大規模な学び直しが実施されていた。

 去年の途中からそれどころではなかった雪乃たち中等部三年は、災害前の中学二年から、それより下の千絵たちは中学一年、卒業生たちは中学三年からのカリキュラムをそれぞれ進めている。

 また希望者はもっと前から学びなおせるとのことで、夕菜の強い希望もあり卒業生のマコは雪乃たちと同じ組で勉強に励んでいた。

 

 因みに混乱を避けるため、マコの正体は公には秘密にされている。

 今や国民的ヒロインとなったマコが元は男だったなんて知られたら、きっと暴動すら起きかねないだろう、多分。

 

 そんなことを考えている間にも準備は進み、テーブルには8人分の食事が並ぶ。

 さあ食べようかという時、居間につながる扉が光り輝いた。ミドリの存在で異界と繋がるようになったのだ。

 

「全く、あいつは本当に分かっておらんっ」

 

 入ってきたのは、10歳くらいの可愛らしい少女。鮮やかな頭飾りをつけ、褐色の肌をした顔を膨らませている。

 それを見て、マコの顔がぱあっと輝く。

 

「シル様っ、またあのモラハラクソ男から尻尾丸めて逃げてきた?」

 

「そうなんじゃよ。きいてくれ、お主らっ。

 あやつ、親友アノスの方が攻めだと申したのじゃ。絶対におかしいじゃろっ!?

 一見クールに見えるアノスがその裏ではずっと主人公ユーリのことを考えているのにそれを表に出せなくて悩んでいて、そこをユーリに看過されて攻められる展開がいいんじゃろ!!」

 

 国民的少年漫画を片手に熱弁するシル様。

 受け? 攻め? 二人で戦いあうみたいな展開あったっけ?

 

 シル様以外のみんながポカンとする中、スノーが訳知り顔で頷いた。

 

「シル様の気持ちは分かるよ。確かにそれは看過できない。

 でもぼくはもう一つの可能性も追うべきだと思うな」

 

「まさかスノーっ、お主ーー」

 

 何かを通じ合って、口早によく分からないことを話し始める二人。

 雪乃はその光景を、シル様の主人の方に同情しながら見ていた。ここまでこだわりの強い相手をするのは大変そうだ。

 ……でも、何かダンジョン災害の片棒を担いだとか絶縁状態だったとかいうし、本当によく分からないのよね。

 

 と、マコの肩がピクリと震える。

 もしかして、とマコの耳に口を近づける。

 

「誰か危険な人が出た?」

 

「そう。ちょっと大馬鹿者を笑いにいってくる」

 

「いってらっしゃい。ほどほどに頑張りなさいよ」

 

「りょ」

 

 即座にマコの姿が掻き消える。

 日本全土をその索敵範囲と移動範囲に収められるようになったマコは、度々こうしてどこかの誰かのためにその力を使うのだった。

 

『えー速報、速報です。

 土砂崩れ警報が出されていた○○県××町の山間で土砂崩れが発生しました。今現在そこに住むーー』

 

 遅れて、テレビから緊迫した状況を知らせる情報が入ってくる。

 多分マコはこれに反応したのね。だとしたらーー

 

『ーー追加情報です。

 マコちゃんですっ。日本が誇るメスガキ、マコちゃんがまたやってくれましたっ。

 連絡が取れなくなっていた住人全員、マコちゃんの手で救出されたようですっ』

 

 テンションの上がった女性アナウンサーの歓声が響く。

 

「流石、マコ姉」

 

「だねー。……でも、すごく大変そう」

 

 千絵の言葉にみんなで頷く。

 間近な危険は去ったけれど、それですべて解決するわけではない。今やマコの両肩にかかる期待は相当なものとなっているだろう。

 助けようにも、大抵の場合はマコ一人の方が都合がよいのだからどうしようもなかった。だからーー

 

「ただいま」

 

 一仕事を終え帰宅する日本の英雄さん。

 そんな彼女に夕菜たちは優しく笑いかける。

 

「「おかえりなさい」」

 

 ーーどうか今だけでも安らげますように。

 そんな思いをもって。

 

 

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