現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第36話から第38話

第36話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 トリステイン王宮から正式名な回答が来ました。

 僕の提案した(事になっている)ゲルマニアとトリステインの競演による演劇について。

 前向きに検討したがトリスタニアの劇場では既得権が複雑でありゲルマニアの劇団を誘致する事は難しい。

 しかし脚本としてアンリエッタ王女に献上した物をトリステインの劇団が上演する事は問題ない、要約するとそういう事だ。

 

 利権が絡むからよその劇団は公演させないが無償で献上した脚本なら此方が好きに公演しても良いよ。

 

 なんとも向うに都合が良い内容だ、やはりアンリエッタ姫にはまだまだ利権の絡む折衝は難しいという事か……

 しかしこれで断るとまた騒ぎ出す連中が居るんだよな……これが。だから無料で1本脚本を書かなければならないだろう。

 

 しかしアンリエッタ姫個人には大きい貸しが出来る、ルイズの豊胸技術指導と会わせて二つの貸しが……ね。

 

 最近エロばかり書いているから真面目な恋愛物でも書くか……

 それに脚本家として名前が出るから僕の名声は上がるので全くの損ではない。

 むしろ脚本を物語として売り出す際の良い宣伝にしかならないだろう、見に来れない平民には本は売れる。

 そして人気の高いアンリエッタ姫が絶賛してくれれば尚更だろう。

 アンリエッタ姫が気に入った脚本を演劇し失敗したり不振だったりしても責任は向うだから安心だ。

 

 作品名は「真夏の夜の夢」シェークスピアの初期の作品でロマンティックで奔放な作風の名作だ。

 

 妖精のオベロン王やティターニア王女が登場し惚れ薬が作品のキーアイテムとなるこの作品はハルケギニアでも受け入れられるだろう。

 勿論、妖精は精霊に惚れ薬も水の精霊の秘薬に替える、内容はとある国の王女と別の国の王子の結婚話が進んでいる。

 

 王女の国の家臣が自分の娘が気に入らぬ若者と恋仲になりそれを引き離なし自分の勧める相手と結婚させたいと王女に相談する。

 王女は悩むが自分の結婚式までに娘に親の言う事を聞くか聞かないかの猶予を与える。

 娘は友人に相談するがその友人は親が勧める娘の相手に片思いをしていた、4人は各々の思惑を秘めて魔法の森に向かう。

 

 その森にリアル夫婦喧嘩をしている精霊王と王女が居た。

 

 精霊魔法を駆使して戦う迷惑夫婦は森の半分を破壊しティターニア王女が留めの一撃をオベロン王に見舞い逃走!

 

 ティターニア王女は泉の辺で不貞寝してしまう、九死に一生を得たオベロン王!

 

 しかしこれでは身が持たぬと部下にティターニア王女に惚れ薬を(この惚れ薬は瞼に塗るタイプ)塗らせ自分に再度惚れさせて有耶無耶にしようと企むが、この部下はおバカで森に侵入した人間達4人共にも塗ってしまう。

 人間の男2人は相談を持ちかけられた娘の方に一目惚れをしてしまう。

 

 しかもティターニア王女は部下の悪戯で顔をロバにされた男を好きになってしまい大混戦、トンでもない三角関係のコメディを演じてしまうのだ!

 この混乱を納める為にオベロン王は奮闘し目出度くティターニア王女と復縁し人間の男女4人は2組のカップルとなり一件落着。この話にシェークスピアが込めたメッセージとは……

 

「真実の恋と言う物はどんなに権力の有る者でも決して好都合にいった試しは無い!」という事だ。

 

 そして僕が込めたメッセージは……散々振り回してくれたアンリエッタ姫の恋愛にチクリと嫌味を込めた作品だ。

 

 この作品は先ずアンリエッタ姫に献上する、その際に物語としての版権は此方に有ると言質を取り書面にて確認・サインしてもらう。

 あとはトリステインの劇団の腕の見せ所と言う事で……

 

 これは300Pを超える大作になってしまった為に2週間を要した、この間にミスタバサは学院に戻って来なかった。

 ガリアは広くここからグランドトロワまでは大体1000km有るんだっけ?風竜を使っても時間が掛かるよね。

 

 ワルド殿にはミスタバサが戻ったら連絡を入れる事になっている。

 それと先のアンリエッタの軽率な行動に便乗しそうな貴族の調査を頼んだがそれらしい動きをする貴族は居なかったらしい。

 行動がいきなりすぎて手を出す事が出来なかったか?

 

 そして困った事が1つ……学院秘書を電撃退職したロングビルさんだが執筆中は編集者の如く僕の部屋で待機・監視している。

 とても有能で困ります、そして先輩専属メイドのソフィアとは仲良くやっています。

 

 書き上げた原稿をロングビルさんに渡すと手際よくページ数を確認し「では校正に廻します」と出て行った。

 

 ロングビルさんを部屋から送り出してふと思い出す、アカデミーから馬車で学院に戻った時の事を。

 ロングビルさんはキュルケとソフィアを屋敷に送る時に序に辞表をオールドオスマンの机に置いて行ったらしい。

 僕の部屋に辞表を握り締めて怒鳴り込んできた時には何事かと思った……

 

 ジジイの泣き顔など見たくも無かったのにアップで散々愚痴を聞かされ挙げ句の果てに部屋の本棚にあった男の浪漫本を全て没収して行った。

 別に一般閲覧用だからまだストックも有り問題は無かったのだが周りの同級生達はそうではなかったらしく学院長室に直訴に行った。

 

 さて作品を投稿し終わった作家さんの行動とは1つ……呑みに繰り出す事ですよね。

 

 今夜は「魅惑の妖精亭」に繰り出しますか!飲み友達を誘って……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イザベラから下された指令、1つはトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵を調べ不誠実な性格なら……

 

 イザベラ様の言葉をそのまま言えば「モギレ……」だそうだ、何処とは言わなかったけど多分アソコだろう。

 

 もう1つはゲルマニアのハーナウ家の次期当主の身辺調査とその秘密を探る事。

 

「面倒臭ぇよジャネット……人気の無い所で襲っちまおうぜ!」

 

「そうだなドゥドゥーの言う通りにしようぜ、俺は同じ土メイジとして次期当主を襲うぜー」

 

「馬鹿……あんた達は黙ってな。で兄さんどうするの?」

 

「そうだね、ジャックやドゥドゥーの言う通り一回襲ってみるか?」

 

「「そうこなくっちゃ!」」

 

「失敗しても私は知らないよ……」

 

「奴らは「魅惑の妖精亭」に入ってから2時間位経つし、丁度襲撃には良い時間になる。帰り道で襲うぞ」

 

「あんな店に入る時点で不誠実が確認出来たからね、モギろうぜ」

 

「ジャネットとジャックは次期当主を僕とドゥドゥーは子爵を襲おう」

 

 

 

「魅惑の妖精亭」店内

 

 

 

 店内にはツアイツとワルド子爵がジェシカとスレンダー4人娘を囲んで盛り上がっていた。

 

「ツアイツ先生、新作を書き上げたそうですね」

 

「うん、アンリエッタ姫に献上したら暫らくすればトリスタニアの劇場で上演される筈だよ」

 

「すごーい!でも私達平民には見せてもらえないから……」

 

「んー上演したら直ぐ出版されるから平気だよ。一般用だと55スゥで売り出すし貴族用の豪華ハードカバー本で2エキューかな」

 

「ワルドさまー欲しー買ってー」

 

「分かった分かった……任せなさい」

 

「あらあらまぁまぁ、すっかり彼女等と打ち解けてますね」

 

「んーここに原作者が居るんですけどね?」

 

「でも先日もグリフォン隊の隊員達を全員引き連れて来てくれたんです、その時に偶々徴税官のチェレンヌ様がいらして無理を言われたのですがワルド様が解決して下さいました」

 

「あーチェレンヌ子爵もゴロツキを引き連れてるけど現役魔法衛士隊に適う訳ないね……」

 

 んーここでも原作イベントを1つ拾ったんだね。

 

「じゃワルド殿達の人気は凄いんだね」

 

「妬けますか?」

 

「くす……まさか!ジェシカが無事なら文句は無いさ」

 

「まぁお上手ですね」

 

 これから襲撃される2人は何処までも呑気に呑んでいた!しかも完全にキャバクラで女性を口説くオヤジと女性にたかられるオヤジとして……

 しかしジェシカは口説かれ喰われたら最後、黒化シエスタの襲撃を理解していた為に及び腰だ!

 

 誰も夜中に枕元で包丁を研がれたり包丁二刀流で追い回されたくは無いだろう。

 

 

 

第37話

 

 

 「魅惑の妖精亭」でワルド殿と別れ正門脇の乗馬の預かり所までのんびりと歩く、このほろ酔い感はお酒を飲める大人だけの特権だ!

 このSSを読んでいる二十歳未満の人はお父さんに聞いてみてね。

 ハルケギニアでは明確な飲酒の年齢制限は分からないけど多分自己責任でお願いします!かな?

 

 季節は春の終わり、頬に当る夜風が酔いを醒ましてくれる……

 

「貴族様……貴族様ちょっと待って下さい」

 

 ん?若い女性の声?後ろを振り返る。随分と白黒の派手な衣装の美少女と厳つい男が道の真ん中に突っ立っている……

 

 一気に酔いが醒める、落ち着けよツアイツ。

 

 ビンビンと危険を感じる、美少女はそうでもないが男の方は分かり易い殺気を向けているから友好的じゃないのは分かる。

 

「こんな時間にお供を連れていても外出は危ないですよ、美しいお嬢さん」

 

「お供じゃねぇ!ジャネットやっちまおうぜ?」

 

「待ってジャック黙ってて……嬉しいお言葉ですが女性には全員言っているのでは?」

 

 ジャック?ジャネット?派手な衣装の美少女に筋肉馬鹿……元素の兄弟か!

 

「いえ……僕の選美眼に適った美女・美少女だけですよ、元素のお嬢さん」

 

 はっと息を飲む気配を感じる……

 

「流石は巷で噂のハーナウ家のツアイツ様って事ですか?7号経由で情報を知りました?」

 

「いや……君達を送ったのはイザベラ様かな?エロ本を読ませた報復に君達はやり過ぎだど思うんだけど?」

 

「あのデコ姫そんな事で俺らを呼んだのかよ?」

 

「ガリアに何をしたかってそれ位しか思いつかないんだけどね?」

 

「流石はイザベラ様にトンでもない変態と言われるだけ有りますね?もっと貴方の秘密を伺いたいわ」

 

「嬉しい提案だね?昼間のカフェで差し向かいなら話しても良いけど?君なら廻りも羨ましがるだろうし」

 

「あら?この状況で口説くのですか?」

 

「メンドクセェ!力ずくで話させてやるぜぇ」

 

 ジャネットとの会話に強引に割り込んだジャックが、自分の後ろに土のゴーレムを練成していく……

 30m近く有るんだが……こいつ馬鹿だろ?この狭い通りでそんなモン自分の後ろに作ってどうやってこっちに向かわせるんだよ。

 

 先に似非クレイモアを自分の周りに練成してから自慢のゴーレムを召喚する。

 

「クリエイトゴーレム」

 

 僕もアレな感じのゴーレムをアックス装備で練成する、勿論自分の前に!

 

「ほぅ?おもしれぇ!やるってか?」

 

「鋼鉄製よ……あんたのゴーレムより格好良いわ」

 

 ビコーン!モノアイを光らせて威圧する……

 

「それに不思議な機能も有るみたい……」

 

 こいつ等は見た目はアレだが汚れ役専門の北花壇騎士団……実力は僕よりも上だ、しかも2人、勝てないよな普通なら。

 口上も無くゴーレムのドテッ腹にアックスを二本投擲する。

 

「ウォ?ゴーレムが飛び道具かよ?でも直ぐに直るんだぜ」

 

 当った衝撃と飛び散る土塊を器用に避けながらジャックが嘲る様に挑発してくる……

 

「百も承知!」

 

 そのままゴーレムにタックルさせ相手のゴーレムに抱き付く様に転がり再生の邪魔をする、空洞とは言え鋼鉄製15tは下らない。

 土のゴーレムと言えど起き上がるのには苦労するし諦めて作り直すのにも時間が掛かる。

 ゴーレムの制御を切り自身の周りに黒色火薬で固めたブーメランを練成する。

 

「ひゅーやるねー!ゴーレムで押し負けたのは初めt……」

 

 相手の台詞もお構いなく2人にブーメランを投擲する……2人?ジャネットが居ない?

 取り敢えずジャックに30枚のブーメランを投擲、着弾の衝撃で爆発炎上する。

 

「凄いわね……でも甘いわ」

 

「甘いのはそっちだよ!」

 

 死角から接近するジャネットに向けて360度でクレイモアを爆発散布し直上にフライで上昇!

 様子を確認する前に路地に飛び込む、煙幕代わりに黒色火薬ブーメランをもう10枚練成し周辺に投擲し序でに眼くらましの濃霧を散布する。

 

「ちっ最初っからマトモに戦う気は無ぇのか……」

 

「凄い逃げっぷりだったね……どうする?追う?」

 

「当たり前だろ?狩は得意なんだぜ」

 

 2人は土埃が収まるのを待たずにツアイツが逃げた方向に正確に追跡を開始する。

 

「きゃ?なにコレ目がシミるんだけど!」

 

「うぉ……目が……目がぁ……」

 

 オリジナル魔法、濃霧には催涙効果が有った!

 

 

 

 同時刻ワルド子爵

 

 

 

 ふぅ、毎回ツアイツ殿の知識には驚かされる。どれだけの煩悩と妄想を修めていらっしゃるのか?

 サムエル殿にも手紙で報告しておこう、きっと有効活用される内容の筈だ。

 しかしこの年で毎回奢られるのはどうかと思うのだが、何時も知らない内に会計が済んでいるし……

 

 ツアイツ殿は誘った方が払うのだ!

 

 とか言われても学生に奢られる魔法衛士隊隊長も情けない……

 

「誰だい?つけてるのは?」

 

「何時から気付いていたの?」

 

 パチパチと拍手をしながら路地の暗闇から子供が2人出て来る。異様な雰囲気だ、まともではないな。

 

「で?何か用かな?」

 

「変態でロリコンな隊長殿に制裁を加える様に頼まれていてね、アソコをモギらせて貰うよ!」

 

「ほぅ未使用美品のマイサンを狙うとは、貴様らは巨乳派か?美乳派か?」

 

「いや何それ?知らないよ?」

 

「何だ。我が教義の敵ではないのか……では尋問の必要も無いな、向かって来るなら……殺すよ」

 

「いやもう少し違う話も有るのでは?誰から頼まれた?とか……」

 

「お前7号を喰っちまったんだろ?」

 

「7号?タバサ殿の事か……貴様らはガリアの手の物か?」

 

「さぁ……ね。しかし命令は命令なんでね……行くよ!」

 

 早い……剣杖で捌くが凄いスピート、だが閃光と言われた僕には……遅いわ!

 

 剣杖で男の足を貫く……何だと!僕の剣杖の突きが通らないだと?

 

「 驚いただろ?一寸特殊な体なんでね」

 

 彼らから少し距離を置く、もう1人は全く手出しはしないつもりなのか?

 

「ふっ、体の硬い相手でも衝撃ならどうかな?エアハンマー!」

 

「ひょー凄い凄い……でも当らないよ……なっ?」

 

 エアハンマーで牽制し一気に距離を詰める!

 

「ライトニングクラウド」

 

 紫電を纏いし一撃が男の左腕を直撃する。

 

「ウギャー……腕がぁ……」

 

 このままトドメを……

 

「待ってくれ。今日は引くよ」

 

「このまま逃がすと思うのかい?」

 

「お友達のほうが気にならないの?こっちは目的を果したよ……童貞さん?」

 

「なっ?」

 

「ドゥドゥー今日は引き上げるよ……彼は7号に手を出していない」

 

「待て貴様ら!ツアイツ殿に何を……爆音?向うは正門の方向」

 

「さぁ?でも向うも交渉決裂かもね?」

 

「くっ……今日は見逃すが次は無いぞ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 薄汚い路地を滅茶苦茶に走ったので方向感覚がもう分からない。

 これだけの爆音を出せば廻りが騒ぎ出すし衛士達が動く筈だ、あとはいかに逃げ切るかだが?

 もう門も非常事態で閉まって外には出れないだろう……

 

 不味いな、トリステイン王宮関係に逃げ込んでも痛くも無い腹を探られそうだ。

 

「貴族様……貴族様……お困りですか?」

 

 なっ?何時の間に背後に……

 

「君は……」

 

 其処には黒ずくめのローブを纏い額にルーンを刻んだ妙齢の美女が佇んでいた…… アレ?見覚えが有るんだけどコノヒト……シェフィールドさんだよね?

 

「さぁ早く此方へ……見付かってしまいますよ」

 

 イザベラからは元素の兄弟、ジョゼフからは神の頭脳ミョズニトニルンを追っ手に差し向けられるってどんだけ恨まれているんだ?

 

「さぁさぁ此方です、急いで下さい」

 

 僕は彼女に手を引かれるまま暗がりに連れ込まれた、罠かもしれないがどの道彼女からは逃げ切れないと本能が警鐘を鳴らしていたから……

 

 

 

第38話

 

 

 ワルドは爆発音の聞こえた付近へと急いで向かった、そして正門近くの市街地の一角で戦闘が有ったであろう場所を見つけた。

 2体のゴーレムが絡み合って倒れているがどちらも制御を失いグズグズになっている。

 

 特徴的なフォルム……確かツアイツ殿のゴーレムか。

 

 王宮貴族にバレると面倒なので破壊しておく、既に崩壊が始まっているので簡単だった。

 これはゴーレム戦に持ち込み例の爆発ブーメランで煙幕をはり逃走したか?

 

 周辺の破壊状況から推測し遍在を3体出して捜索させる、死体は無い。血痕なども見当たらない、上手く逃げていると良いが……

 衛士にはツアイツ殿の話は伏せて僕が襲われたという内容の方が問題を起こしたくない彼に配慮出来るか……

 

 しかしこの騒ぎだ。

 

 グリフォン隊にも要請が有るかも知れないので王宮に向かわねば……ツアイツ殿、ご無事で!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 深夜の薄暗い路地を美女に手を引かれて走っている、妙齢の美女では有るが相手が大問題だと思う。

 

 しかしどうする?

 

 厩舎には僕の使った馬が僕の名前で預けられている、このままでは僕が戻らないと連絡が行ってしまう……不味いな。

 

「お姉さん、正門近くの厩舎まで向かいたいんだけど……何処に向かってるの?」

 

「シェフィールドで良いわ、そうね馬を何とかしないと駄目ね……ちょっとこっちにきて」

 

 そう言うとシェフィールドさんは路地脇の窪地の様な空間に僕を引っ張りこむとニッコリと笑った。

 

「これは短距離だけど転移出来るマジックアイテムよ、使うには貴方のイメージが必要だけど平気?」

 

「いやいきなりそんな高価なマジックアイテムを出されても……」

 

「ほら追っ手が近付いているわ……急いで!イメージして」

 

 僕は小さい木箱を握らされ厩舎の近くをイメージする、突然の浮遊感の後、周りを見渡せば見慣れた厩舎が有る。

 見渡すと彼女は居ない、イザベラの手下が僕を襲いジョゼフ王の腹心が僕を助ける?

 ガリアの内部で僕の評価は如何なっているんだ?

 

 取り敢えず厩舎に馬を取りに行く……

 

 顔見知りの為か貴族だからかチップの額の所為か特に疑われずに馬を受け取り正門から出られた、急いで学院に戻ろうと馬を走らせる。

 すると並走するもう一匹の馬が……シェフィールドさんが見事な手綱捌きで馬を寄せてくる。

 

「有難う御座います。何かお礼と先程のマジックアイテムの代金を払いたいのですが」

 

 取り敢えず友好的に話しかける。

 

「良いのです。主から貴方を手伝う様に言われてますから」

 

 え?ジョゼフ王が僕の手助け?なんの冗談だろう?

 

「貴方の主は何を考えているのですか?」

 

 思わず馬の足を緩めて聞き返してしまった、シェフィールドさんは嫣然と微笑むと「知りたいですか?」と聞いてきた。

 

「ジョゼフ王にそこまでして貰う理由が分かりませんから?」

 

 僕は直球で聞いてみた、彼女は少しだけ眼を見開いて驚いた。少し可愛く思えた。

 

「噂通りの有能さね、何時から気付いていたの?」

 

「黒髪・美女・額のルーン・ローブを着用・名前・マジックアイテムの扱い。そして北花壇騎士団に襲われた事を総合的に考えて……」

 

「私の情報ってそこまで流れているの?」

 

「まぁ色々と僕にも伝手が有りますから……」

 

「ふふふっ楽しいわね貴方……また会いましょう」

 

 そう言うとシェフィールドさんは馬首を廻らせ別の方向にと走っていった…… 

 娘に命を狙われ父親からは助けられる?本当にどういう状況なんだコレ?この時期にあんな大物が出て来るなんて想像すらしてないぞ。

 

 部屋に戻り梟便にてワルド殿に今夜の詳細を送る。

 

 北花壇騎士団に襲われたが本気で殺しにきた訳でも無い事、それとジョゼフ王の手と思われる者に助けられた事。

 タバサは未だ学院には戻ってない事と、僕が無事に学院まで帰り着いた事等だ。

 

 多分残りの2人にワルド殿も襲われたと思う……元素の兄弟は作中では4人。

 

 しかし彼なら襲われても撃退又は逃走に成功したと考えるのが普通だな。僕と違い荒事の本職だし、最初から逃げを打っていた僕とは全然違うだろう。

 これは少し鍛え直して貰わないと不味いかもしれない……即死亡フラグだったな今夜の襲撃は。

 

 シェフィールドさん……

 

 原作では敵方で厳しい相手だったが最後はジョゼフ王を殺し無理心中を謀ったヤンデレさんだ。

 

 ヤンデレ……今までに居なかったジャンルだな。ヤンデレで作品を書いてみようかな、でも受け入れられるかな?

 普通に考えれば病的に押しかける頭のネジが緩んだ女性だしなぁ、まだハルケギニアでは受け入れられる土壌は無いな、無理かヤンデレは?

 

「何なんですかそのヤンデレって?」

 

 え?振り返ると僕のベッドに嫣然と座るシェフィールドさんがいた……

 

「……えっと夜這い?」

 

「違います」

 

 ちょっと怒らせたかもしれません。

 

「取り敢えず何故ここに居るのか聞いて良いでしょうか?」

 

「して欲しいお礼を考え付いたから……かしら」

 

 悪戯の方法を見つけた子供のような目で楽しそうに此方を見るシェフィールドさん。

 えーと童女のように愛らしいのですがコレがヤンデレの素養ですか?

 

「伺いましょう、最大限努力します」

 

「あら?聞き分けが良いのですね……簡単ですよ。貴方の秘書になりたいのです」

 

「えーと貴方の忠誠度を考えると二君に仕える訳がないので理由を聞いて良いでしょうか?」

 

「どこまで情報を握っているのかしら?まだ学生なのに他国の情報を正確に把握しているなんて異常よ」

 

 病んでる貴女に異常扱いはされたくないんですが……

 

「それなりに有能だとは思ってます、それで先程の質問に答えてもらえますか?」

 

「そうね……我が主がこれから大変になる貴方の力になる様に私を遣わせた、が最も正しいかしら」

 

「僕がこれから大変になる?」

 

「そうよ、このハルケギニア全土を巻き込む騒乱の渦の中心は貴方と主だわ」

 

 騒乱?レコンギスタの件か?アルビオンでの内乱は未だだがもう準備期間に入ってる筈だ……

 でもゲルマニアの僕がアルビオンとトリステインの問題に係る意味が分からない。

 

「もう少しヒントが欲しいな」

 

「あら?ではもう1つ……オリヴァークロムウェル」

 

「なっ?レコンキスタか!」

 

「貴方って本当に有能ね、それだけでまだ暗躍中の組織まで辿り着くなんて……流石は我が主が認めた方ね」

 

「しかし、ゲルマニア貴族の僕がアルビオンの内乱に巻き込まれる意味が……」

 

「もう驚かないけど、仕込んでいる最中の場所まで特定出来るのね」

 

「最初の質問に戻るけど、僕に何を望むのかな?」

 

「貴方には巨乳派の教祖として美乳派のクロムウェルと戦って欲しいの。そして全ての敵に打ち勝って我が主の元に……」

 

「オッパイでクーデターが出来るかー!乳とは争いを唆す物では無い!」

 

「でもあの変態坊主はそれで既に幾つかの貴族を取り込みつつ有るわよ」

 

「因みにジョゼフ王は巨乳派なんですね?」

 

「そうかもね?でも我が主は色事には興味が薄いの、だから争い最後に残った勇者との対面を望んでるわ」

 

「何故?」

 

「己が春を取り戻す為に……」

 

「ジョゼフ王ってEDなの?」

 

「EDとは?」

 

「いや男性としての機能が弱いとか淡白とか男女の秘め事に興味が薄いとか?」

 

「ええ。その……私にもまだ手を出してないわ」

 

「それは……勿体無い。色々と有るんだけど良いのが」

 

「えっ……どんなの?」

 

「例えばマイサンの基本サイズを大きく成長させたり……」

 

「まぁ!」

 

「これは局部の感度を高める物です」

 

「えっと……どっちの?」

 

「男女共です」

 

「他には?」

 

「そうですね。コレなんかは……」

 

 シェフィールドは大人の玩具に興味津々ノリノリだった!


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