現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第51話から第53話

第51話

 

 人気の無い森の中……2人の美少女と1人の竜騎士が、向かい合っていた。美少女達は、大量の男の浪漫本を抱えている。

 

「7号殿、連絡では1人の筈ですが?こちらの女性は?」

 

「ヒャッハーさん。私は北花壇騎士団所属、元素の兄弟の一員ですわ」

 

「……置いて行って良いですか?別の迎えを寄越しますk……そっその手に持っている著書は?」

 

「……ミスタ・ツアイツとは友達。貴方達の事を話したら、遠い異国の兄弟達に、ささやかな贈り物だってコレを……」

 

 竜騎士は、その場で跪くと両手を組んで祈りだした!

 

「オゥ!ゴッド・ツアイツ殿……我々をブラザーと呼んでくれるのか……感激だ、涙で前が見えねぇ」

 

 暫し落涙と共に祈りを捧げた彼は、全身から漲る何かを発散させながら立ち上がった。

 

「2人共、そのブラザーの魂の著書を相棒に乗せな!力の限り飛んでやるぜ!」

 

 主と使い魔は一心同体!

 

 元々がエリート集団の竜騎士の中でも、このお迎え権利を勝ち取った程の力のある彼の気迫に大地は揺れ、風竜はその力を最大限に誇示した。

 見事な風竜は人間3人と、その荷物を載せて尚、余裕の表情だ!

 そこでタバサがドーピングをする。なんと彼の腰を掴んで後ろに座ったのだ!

 恐ろしい程の精神の高ぶりを覚えた彼は、しかし積荷を損なわない様に慎重に風竜を操り天空に飛び立つ!

 

「ヒャッハー!ゴッド・ツアイツ、いやソウルブラザー!貴方の魂の本は必ず我が仲間に届けます!」

 

 雄叫びを上げて羽ばたく風竜……しかし乗り心地は信じられない程、穏やかだった!

 

「ねぇ?彼、ヤバくない?」

 

「……彼はミスタ・ツアイツに洗脳されたの。だから私達にも危害は加えない……気持ち悪いケド」

 

「確かに狂信的な何かを感じるわね……やっぱり諦めるのは惜しいかな?凄く楽しいわね彼!絶対退屈しないわよ」

 

「……命知らず」

 

 そして迷いなく羽ばたく風竜は、予定より少し早く中継地点に到達した。

 

「7号殿とオマケさん。そろそろ乗り継ぎだ!降りるぜ」

 

「なっ!オマケって言うなー」

 

「ヒャッハー!舌咬むぜぇー!大人しくしてなー」

 

 理想的なフォームで着陸体勢に入る風竜!彼は私達で無く、男の浪漫本を丁寧に持つと、レビテーションで降ろし廻りの同僚達に叫んだ!

 

「みんな聞け!我らがゴッド・ツアイツ殿が……我らをブラザーと呼び大量の著書を……くっ感動で声がでねぇ」

 

 我先にと集まりだす竜騎士達……皆の目が期待と希望に満ちている。

 

「どうした?ゴッド・ツアイツが何故、我らをブラザーと?」

 

「7号殿が我らの事をブラザーに話してくれたんだ!見ろ、この最新巻を含む大量の著書を……異国の兄弟の為に贈る……と」

 

「こっこれは「エヴァさんTV版」が全巻、それにはなまる幼稚園だと……」

 

「こっちは「TO HEART」の続編……なんだ、我らが知らないタイトルが……」

 

 その時、最初に送ってくれた竜騎士が叫んだ!

 

「この中継地点に、直ぐ飛び立てる風竜は何騎だ!」

 

 皆の意識は1つとなった!竜騎士達の行動は早い。

 

「3騎だ。警備と偵察で最低、2騎は残さねばならないが……」

 

「俺と俺の風竜が残る。だから2騎で送ってくれ」

 

「護衛はどうする?こんなブツだ!バレれば襲撃が考えられるぞ」

 

「大丈夫だ。俺の使い魔が次の駐屯地に居る。リンクして情報を伝えた。団長自らが応援に来るそうだ」

 

「ナイスだ!しかし独り占めは駄目だぞ。我らが戻る迄は先に読むなよ」

 

「当たり前だ!ソウルブラザーに贈られた本だぜ。皆で読むのが礼儀だろ」

 

 狂信とも思える純粋な目をして話を進める竜騎士達……もう、彼らを止められる者は居ないだろう。

 タバサとジャネットは当然、蚊帳の外……呆然と進められていく話を聞くだけだ。

 

「えーと、ヤバくね?」

 

「……ミスタ・ツアイツは嘘を付いた……彼らは私の力にはなってくれn」

 

「感謝する。7号殿とオマケ殿……我らとゴッド・ツアイツを結びつけてくれた恩は忘れない……

さぁ、乗ってくれ!超特急でプチトロワまで送るぜ!」

 

「オマケって言うなー」

 

 その後、過剰なまでの護衛団を率いてプチトロワまで搬送された「男の浪漫本」とタバサとジャネット……

 タバサは彼らの、竜騎士団の大恩人となり、その後の行動に影ながらの援助を受ける様になる。

 しかしジャネットは、終始オマケ扱いだったが……美少女なのに何故?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だろう……知らない内に同志が増えた気がしたんだが?

 

「どうした?ツアイツ、浮かない顔だな。謁見は大成功だったぞ」

 

「いえ……魂の兄弟が、遠い地で生まれたような?」

 

「……?」

 

 そう、謁見は成功だった。アルブレヒト閣下も僕の男の浪漫本シリーズを読んでくれていたらしく、直ぐに献上する手配をした。

 今はささやか?な、規模でない打ち上げをツェルプストー辺境伯が催してくれたので堪能中です。

 出席者は、ツェルプストー辺境伯と僕、それに送ってくれた女性騎士のヘルミーネさんと同僚のイルマさんとリーケさん。

 燃える赤髪の一族に囲まれての宴会の真っ最中ですね……彼女らの参加の目的は、僕の品定め……だな。

 

「どうだ?我が娘達は……魔法と武芸は一通り仕込んであるぞ」

 

 多分、彼女たちはキュルケの輿入れと共に付いて来る。選りすぐりの家臣団の中核メンバーなんだろうな。

 全員が全員ともトライアングルクラスの腕前で有り、親父さんそっくりの性格を受け継いでいる。

 

「そうですね。皆さん美しく、また力強さを感じます」

 

「そうだろう。キュルケの嫁入りの時には、側近として同行させるよ。存分に使ってやってくれ」

 

 3人共、既に聞いているのだろう……特に反対も意見も無いようだ。

 

「君の試練の手助けもさせたいと思ったが、まだまだ力不足だからね」

 

「ありがとうございます。しかし僕には既に力強い仲間達が居ます。非常に心強い腹心も居ますので……その」

 

「あー彼女か……そうか、そうだな。我が娘達では……まだ危険かな?」

 

「これ以上メンバーが増えると僕の胃が……」

 

 黙り込む2人……黙って聞いていた彼女達だが思う所が有ったのだろう。控え目だが意見をしてきた。

 

「失礼ながら、そのお年でアルブレヒト閣下に謁見出来る貴方ならば、我ら3人位の面倒はみれるのでは?」

 

 ヘルミーネさんです、彼女が3人の中でリーダーなのだろう。挑発的とも思える口調です。

 

「姉さん、ツアイツ様にも事情がお有りなのでしょうから」

 

 彼女はイルマさん。会話からは一番内政と言うか、参謀向きな感じがします。

 

「……無理なら仕方ない」

 

 リーケさんは……タバサ似の不思議ちゃんですかね。

 

「まぁ待て、娘達……彼の元で働くのはまだ時期尚早だよ。もう少しタフネスに成らねば、あの空気には耐えられまい」

 

「「「……?」」」

 

「ツアイツの元で働く事は、色々な面で勉強になるだろう……しかし今は駄目だ。彼女をジョゼフ王に返すまでは……」

 

「すみません。僕の胃の為に配慮して頂いて……」

 

「君を失う訳にはいかないからな……そう言う訳だ娘達。時期を待て」

 

「「「わかりました」」」

 

 良かった。彼女達も渋々だが納得してくれたみたいだ……彼女達は詳細を知らないのだろう。

 これからの一連の事件を……しかし知らない方がお互いの為だ。と、言うか僕の為?

 

 真面目そうだからなぁ……おっぱい戦争なんて知ったら白い眼で見られそうだし。

 

 

第52話

 

 イザベラ執務室にて……

 

 プチトロアの執務室から窓の外を見る、良い天気だね。あれから、元素の兄弟の報告を貰ったが……何をやっているのか、頭が痛いね。

 

 モギレと言った子爵は、童貞だから放置した。次期当主は、ジャネットがナンパされたから任せた。

 

 こんな報告で納得出来るかー!

 

 しかしあいつ等はそれから呼び出しに応じないし……私も少し働き過ぎかね?

 良い天気だね……こんな日は私だって遊びに行きたいんだけどね、空が蒼いのが目に沁みるったらありゃしないよ。

 

 ……ん?なんだい?あの点は……いや違うね。アレは風竜の編隊だよ!

 

 なんて数だい!

 

 10……11……12……15騎は居るね、まさか敵襲?シャルル派が私を倒しに来たか?いや?アレは、竜騎士団長の騎乗竜のブリュンヒルデ……

 演習なんて報告されて無いんだけど……何だろうね?気になるね……ちょっと行ってみるか。

 

 

 

 竜騎士団プチトロワ駐屯地

 

 

 

「団長が戻られたぞー!ヒャッハー!ソウルブラザーの贈り物が届いたぞー!」

 

「ちくしょう!待ちわびたぜ」

 

 騒がしい……しかし整然と迎えの連中が集合している……何時になく竜騎士達の威勢が良いね……

 イザベラは廻りの連中の迫力に押されながらも、近くの竜騎士を捕まえて詰問した。

 

「何なんだい?この騒ぎは?」

 

「はっ!これは、ツンデレさま……いえ、イザベラ様!」

 

 誰がツンデレだい誰が!イラッとしながら聞き返す!

 

「だ・か・ら・何なんだい?この騒ぎは?」

 

「はっ!ゲルマニアのソウルブラザーから希少本が贈られた為に、団長自らが受け取りに向かいました!」

 

「ソウルブラザー?ゲルマニア?……想像がついて聞きたくないけど、誰だい?」

 

「はっ!ゴッド・ツアイツ殿です。我らのソウル・ブラザー!偉大な兄弟です」

 

「何で一面識も無いお前等が兄弟なんだい?可笑しいだろ?」

 

「ゴッド・ツアイツ殿は言われました……遠い異国の兄弟達にこの本を贈る、と……なれば我らも期待に応えねばならないのです!」

 

「お前等が期待に応える相手は私だろーがー!」

 

「…………はっ!団長が戻られました!失礼します!」

 

 そう言うなり奴は私に見惚れるような敬礼をして、団長の元に走り出した……

 

「ヒャッハー!待ってましたゼー!」……と。

 

 目線の先にはガリアの防空の要、エリート集団の筈の竜騎士の連中が、謎の雄叫びを上げながら狂喜乱舞している。

 その中に、困惑気味のシャルロットとジャネットの姿を見付けたが、もう話しかける気力が無い……

 私はとトボトボと自分の執務室に戻ると、待機していた侍従に今日はもう休むから……と、言い残して自室に戻る事にした。

 ガリアは既にゲルマニアから謀略を仕掛けられているのか?それとも本当に趣味友達が共鳴したのか?

 メイドに持って来させたワインをがぶ飲みしながら考える……いや、忘れる為に酒を飲む。

 お父様も彼らと近い目であのエロ本を読んでいた。まさかエロ本だけでこんな状況を作り出すとは……

 これは一度、会って話さないと駄目かもしれないね。彼の真意を確かめる必要が有るから。

 

「イザベラ様。北花壇騎士団7号殿とジャネット殿が報告に来ています」

 

「今日はもう、誰とも会わないよ!明日また来なって伝えとくれ!」

 

 もう、やる気をなくし怒鳴り返す!

 

 すっかりヤサグレたイザベラは、王族故の美貌が損なう位に、ワインを痛飲し翌日も二日酔いで政務を放棄する。

 真面目な彼女には、馬鹿らしくてやってられないのが本音だった!

 キングサイズのベッドに潜り込み、二日酔いの頭痛と戦いながらもイザベラは吼えた!

 

「バカヤロー!覚えてろよツアイツー!何時かギャフンと言わせてやるー」

 

 すっかり敵と認定されていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 はっ?今度は美少女に敵対された気がする……誰だろう?ゲルマニアでの用事は全て済んだ。

 そろそろトリステインに帰ろうと思うのだが……最大の難所を先に済まそうと思う。

 

 キュルケにバレた……

 

 それは、ルイズとモンモンにもバレていると思って間違いは無い。すなわちヴァリエール公爵家にも連絡は行っているのだ!

 

 そう……カリーヌ様の耳にも入っている……唯で済むとは思わない。普通に考えれば、まだ婚約しかしてない他国の貴族の問題だ。

 しかし、そんな事は通用しないのが彼女だ。何故か、先に学院に戻ると危険な感じがする……最早、ヴァリエール家を訪問するしか無いだろう。

 それも連絡もせず突然行く事にする。

 

「と、いう訳で、ヴァリエール公爵家に向かいます」

 

 僕はすっかり我が家の如く寛いでいるワルド殿、シェフィールドさん、そしてロングビルさんに言った。

 皆、ゴロゴロと人の部屋でだらけ切っている……これは和室の癒し効果!畳マジックの所為だ!

 

「そろそろ動き出しましょうか……ではアルビオンに潜入しに言ってきます。ほら行くよ!遍在出しな」

 

「これだからデカチチは……ユビキダス・デル・ウィンデ!風は遍在する」

 

 ワルド殿は遍在を1体出して、ロングビルさんの言う事を聞くように指示する。

 ツアイツは知らないが、この遍在はヤンデレ化したシェフィールドさんと一緒に監視していた!お疲れ様な遍在だ!

 遍在使いが悪い本体に一言、物申したい感じだ。

 

「では、トリステインに帰りましょう。ツアイツ様」

 

 今日は穏やかな微笑のシェフィールドさんが最後の言葉で締めて、皆が散って行った……

 両親とテファに別れを言い、彼女の水の指輪を預かり帰路に着く。

 行きと同じ様に、レンタルグリフォンに乗り込みヴァリエール公爵領に向かう。

 アンドバリの指輪と水の指輪は、シェフィールドさんに預けている。多分、世界で一番安全な場所だ。

 彼女もジョゼフ王治療の切り札だから丁重に扱ってくれるし、僕では守りきれないだろうし……

 

「ツアイツ様……そろそろヴァリエール公爵邸に着きますわ」

 

「シェフィールドさん、打合せ通りにお願いします。無用な争いは避ける方向で」

 

「貴方に危害が加えられなければ、大人しくしていますわ」

 

「……いや、多分危害が加わるけど、大人しくして下さい。お願いします」

 

「程度によります。我慢が出来なければ手を出します」

 

 神の頭脳ミョズニトニルンVS烈風のカリン!こんなヤバい対戦カードだけは避けたい。

 

 嗚呼……また胃が痛くなってきた。

 

 無常にもグリフォンはヴァリエール公爵邸の屋敷前に降り立った……しかし内緒の訪問だったが、バレて居たのだろう。

 正門前にヴァリエール公爵とカリーヌ様が既に立っていた。カリーヌさまは凄い笑顔だ……

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ殿、本日はどの様なご用件での来訪でしょうか?」

 

 慇懃無礼に、しかし完璧な礼で言われた言葉の迫力は、基本的にヘタレの僕にはキツかった。

 

「とっ突然の来訪の無礼を許して下さい。今日訪ねたのは、大切な話が有るからです」

 

 殺気に反応し、既にヤンデレ化しつつあるシェフィールドさんの前に出てカリーヌ様を見詰めてそう言った。

 

「娘から聞いてる事ですか?それなら弁明は不要です。私に内緒でガリアと事を構えると言う事ですね」

 

 本能が彼女が怒っている事が分かる……その怒りは僕の為でも有る筈だが、僕へのダメージがキツい。

 

 ヴァリエール公爵も廻りの家臣達も一歩も動けないプレッシャー!

 

「聞いて下さい。その件について報告が遅れた事は謝ります。しかし、これでカトレア様の治療に目処がつきました」

 

 ヴァリエール公爵夫妻は信じられないのか、素っ頓狂な声でハモった!

 

「「何だって(ですって)?」」

 

 

第53話

 

 先程の衝撃の告白から皆が固まり少したった、もう諦めていた愛娘の治療に希望が持てたからか?

  少しプレッシャーを抑えたカリーヌ様が再起動した。

 

「この場逃れの嘘ではないのでしょう。 貴方ならば……中でゆっくり説明して下さい」

 

 カリーヌ様は少しお怒りが緩まったみたいで、屋敷内に招いてくれた。

 しかし……正面のプレッシャーは弱まったが、背後のプレッシャーは上昇中だ! 僕は、恐る恐る振り返る。

 

 良かった。シェフィールドさんは穏やかな笑みを浮かべt……

 

「ツアイツ様が、わざわざ治療法を見つけ出してくれたのに……くすくす。この無礼な年増は何なんでしょう?」

 

 うわっ!僕の為に怒ってくれてるのに、全然嬉しくない。

 

「シェフィールドさん、落ち着いて。これは何時ものコミュニケーションみたいな物だから……ね?」

 

「ツアイツ殿?こちらの黒ずくめは誰でしょう?」

 

 あらゆる意味で規格外な美女2人……ルイズとアンリエッタの喧嘩なんかじゃ済まないレベルの睨み合いだ!

 

「シェフィールドさん、落ち着いて下さい。カリーヌ様……彼女がカトレア様の治療の可能性を見出してくれた……ガリアのジョゼフ王の寵妃です」

 

 驚いた顔で、しかし僕が嘘を言ってるとは思わなかったのだろう。

 

「……分かりました。 無礼をお許し下さい。では此方に……」

 

 カリーヌ様が能面の様な表情で、しかし素直に謝罪してくれた……くっ!胃が、胃が凄く痛い。アレ?何だろう?

 

  目の前が真っ暗に……

 

 僕はそのまま、シェフィールドさんに寄り掛かる様に倒れ込んだ。

 

 

「「ツアイツ様(殿)?」」

 

 

 ヴァリエール公爵邸内、客室にて

 

 

 あれから、あの女との睨み合いを止めて直ぐにツアイツ様を客室に運ばせ、治療させた。

 治療を行った水のメイジによれば、胃に多大なダメージを負っていたそうだ。私は魔法は使えない。

 水の指輪もアンドバリの指輪もツアイツ様から、他人に見せないで!と、頼まれていたので治療は任せてしまったが……

 治療後に又、あの女と睨み合っていたらツアイツ殿が魘されだした。

 その時、あの女の旦那があの女を叱りつけ部屋から連れ出していった……出る時に、此方に頭を下げて。

 つまり、ツアイツ様が倒れたのは私達の所為だ、この年若い協力者を見る。

 

 この一回りも年下の彼に、甘え過ぎていたのか……

 

 最初は、我が野望の為に必要な男と思っていた。彼も私が試練を越える為に必要だったし、ギブアンドテイクな関係だと。

 元々、我が主に使い魔として召喚されてから、周りは私を得体の知れない女。貴族でもない、平民の妾程度の扱いをされた。

 

 我が主を慕う者は私だけ……

 

 しかし、主は私を必要としてくれているのか?愛していてくれているのかも分からない。周りから孤立していた2人の主従。

 そんな私に、彼は仲間として接してくれた。

 そして彼の周りに集まる変態達やその他の連中も、基本的にいがみ合っても、仲間として受け入れてくれた。

 

 此処には私の居場所が有った。

 

 私は主の事を考えると、思考がグルグル回ってしまい、主を侮辱する者は殺してしまう。

 今迄は止められなかった感情も、彼だけは止めてくれる。やはり私達に、ツアイツ様は必要だ!

 あの女の娘など治さずに、ツアイツ様を治した方が有効なのだが、それだと確実に悲しまれてしまう。

 人間ならもっと、自分の欲望に忠実に行動する筈なのに、彼は人の為ばかりに……

 

 まぁ良いわ。

 

 私が主の寵愛を受けて王妃になったら、彼をガリアに呼んで礼を尽くせば良いでしょう。私達と彼に逆らう者は、始末すれば良いのだから……

 

 くすくすくす。楽しみだわ。主と私、それと彼で新しい国を興すのね。

 

 あら?また苦しそうに、魘されだしたわ。

 

「誰か?水メイジを呼んで!また魘されだしたわ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夢を見た……ジョゼフ王とシェフィールドさんが玉座に座り、僕が横に控えている。宰相の様な感じだ……

 ジョゼフ王はゲッソリと痩せている。対してシェフィールドさんはツヤツヤだ……何なんだろう?

 この回避しなければならない、新たな試練の様な情景は……地位や名誉は有りそうだけど、こんな未来を僕は望んでいない。

 

「いっいやだー!」

 

 あれ?

 

「知らない天井だ……」

 

 取り敢えず、お約束の台詞を言おう。

 

「目が覚めましたか? 魘されていましたよ。 今、水メイジを呼びましたから……」

 

 シェフィールドさんが、慈母の様な微笑みで僕を見ている。

 

「看病してくれてたんですか?」

 

「いきなりお腹を押さえて倒れたので驚きました。水メイジの言うには重度のストレスが原因だと……」

 

「僕も、まだまだですね」

 

 自虐的に笑ってしまう。

 

「ツアイツ様のストレスの原因は私ですか?」

 

 えっ?と、彼女を見る。確かにその通りなんだが、自覚が有るのか?シェフィールドさんは申し訳なさそうにしている。

 

「いえ……違います。やはり一介の学生が、国家間紛争に関わるのですから。自分では分からない内に、ストレスが凄かったんですね」

 

 彼女の所為だが、男として彼女の所為とは言わない。

 

「良いのです。自分でも理解しています。今は……もう少し、お休みなさい」

 

 彼女は、そのヒンヤリとした手のひらを僕の額に当てて寝かしつける。

 

「冷たくて気持ち良いです……」

 

 言ってしまった後、彼女は一度ビクッとしたけど、そのまま頭を撫でてくれた……ヤンデレさんに撫でられて落ち着くとはね。

 今はもう少し寝よう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ツアイツ達の様子をそっと伺う。また魘されたと聞かされ様子を見に来れば、何やら良い雰囲気だし……

 

「貴方が私を連れ出すから……見なさい!妖しい雰囲気です」

 

「いや、愛情よりも友愛な雰囲気ではないのか?」

 

「しかし……あんなに安心して寝てしまうとはツアイツ殿は年上狙い?」

 

「落ち着けカリーヌよ。大国の寵妃と姉弟の様に仲良くなるとは……俄には信じられないが」

 

「仕方が有りません。暫くは、休ませてあげましょう」

 

「そうだな。話を聞くのは、明日でも良いだろう」

 

 

 ヴァリエール公爵邸内食堂にて……

 

 

 ヴァリエール公爵夫妻とシェフィールドさんと4人で食卓を囲む。

 何故か昨日とは変わり、カリーヌ様もシェフィールドさんも表面上は穏やかだ。

 食事も終わり、食後の紅茶を飲み終わってから話を切り出す。

 

「では、昨日の話の続きをして宜しいですか?」

 

 ヴァリエール公爵夫妻が頷いたのを確認して、話し出す……此までの経緯、此からの対策、そして協力して欲しい事。

 2人は黙って聞いていた……

 

「つまり、ジョゼフ王の試練を越えれば、カトレアの治療は可能だと言うのね?」

 

「そして、その試練を越える為には、トリステインを戦禍に巻き込むのか……」

 

 2人共、自国を巻き込んでの作戦に難しい顔をしている。

 

「お二人が悩まれるのも当然です。しかし……自らの手を汚さず、アルビオンを見殺しにしても次のターゲットは、トリステインです。ならば……」

 

「他人の庭で火遊びをしている内に終わらせろ、と?」

 

「言い辛いですが、この末期の国は荒療治をしないと崩壊します」

 

「ああ……それは我々の責任でも有る」

 

「言い難いのですが、既にこの国にもレコンキスタの魔の手が伸びています。それは……」

 

「まさか、彼が?」

 

「そうです、彼はトリステインの参戦を拒否し続けるでしょう」

 

 ヴァリエール公爵は押し黙ってしまった、カリーヌ様は一点を見詰めたまま動かない。やがて、覚悟を決めたのか答えてくれた。

 

「この国を巻き込もうとも、君の話に乗ろう」

 

「ええ、この国と私達の娘の為に……」

 

「有難う御座います」

 

 これで、残すはド・モンモランシ家の再生のみだ……よし、勝機が見えてきた。しかし、今回はシリアスだったな。

 オッパイ話をすると、カリーヌ様が怒り出すから。

 

「「そうだ(でした)!ツアイツ殿?」」

 

「はい?」

 

「そのジョゼフ王が、君に求めた事とは何なのだ?」

 

「それは……僕にしか出来ない治療法で治したい事が有るのです」

 

「そうか……彼も、色者関係者なんだな」

 

「三度目なので、詳しくは……」

 

「……………」

 

「それとツアイツ殿。大切な話が有るのだが……」

 

 あれ?何だろう?ヴァリエール公爵夫妻が満面の笑みで近づいてくるんだけど……?


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